僕たちのいる場所とグラディウス国と
僕とジャンさんは割り当てられた部屋を見た後、荒れ地に戻りたいと告げた。侯爵はボブゴブリンを知っているようで、屋敷の敷地内には入れられないけど、近くに雑木林があるのでそこを使ってもいいと言われた。
「では私がご案内致します」
僕を起こしてくれたメイドさん、アステスさんが僕たちの荒れ地まで案内してくれた。黒のドレスにエプロンでは歩きづらいのではないかと思ったが、ヒールではなく普通の黒い靴を履き早歩きでサクサク進むので追いつくのにやっとだった。
歩くこと一時間。やっと荒れ地についた。そこには親方たちの姿があり、さっそく事情を説明。親方たちは他のボブゴブリンにも声を掛けたいと言い、アステスさんの了承を得て一両日後に荒れ地で落ち合うことにした。僕たちはそのまままた直ぐに侯爵の屋敷に戻る。
「改めて説明すると、ここはシルヴァ大陸の南側に位置するダガー国。ダガーは武器の名前で、この国を建国した王であるアダガ王が好んで使っていた武器から付けられた」
「自分の名前じゃなく武器の名前ですか……」
「そうだ。ナイフとは違いダガーは明確な武器だ。重厚な鎧を纏った相手に大きな剣などで叩きつけ、地面に倒した後で鎧の継ぎ目からダガーを差し込んで確実にしとめる。スティレットの方がより確実ではあるものの、アダガ王はダガーを好んでいた」
「嫌な感じの奴だな」
「そうだね。スティレットであれば一刺しすればいいんだが、ダガーではそうはいかない。確実に抉らなければならない」
「……命を取る感触を得たいってか」
「どうやらジャン君はこの手の人間を知っているようだね」
「……まぁな」
ジャンさんはそういって目を閉じて腕を組み少し俯いた。
「まぁそんな感じなんで王は陣頭に立ち相手を屠る事を使命、というか喜びとも感じていたようだね。平時はとても穏やかで出しゃばらず、部下に仕事を任せつつもその内容を精査して判断できる名君に近い王だと私は見ていた」
「その王がなくなった……病気ですか? 統一まで生きていたってことは強かったんでしょうし」
「その通り。強くたくましい王も病気には勝てなかった。だが家臣も優秀な人材が多く、今日まで国民の支持を王妃は集めながら支えてきた。総人口は三万人。海産物を主に他国と取引している。この大陸の多くを領地としているグラディウス国は北に位置している。正直相手になるとは思えない」
「人口は四倍くらいですか?」
「四倍くらいだろうといわれているね。人口も多いし文明も発達し、武道会なども行われていて更に冒険者を支える方針を打ち出している事から、戦争になれば戦力となる人数は歴然とした差が出る」
「この国でも行われているんじゃないですか?」
「確かに行われてはいる。だが王が亡くなって日が浅いし援助も手厚くはない。更に忠誠心や恩義というものが国に対して薄い。何よりこんな状況になればグラディウス国へ冒険者は行くだろう」
「そうなるとこの国が戦争を仕掛けても勝てるはずがない……。だのに戦争を仕掛けようとしている」
「一部噂では少し離れたところにあるブロウド大陸へ、偵察を送り込んだと聞いている。そして彼らにはどうやら隠し玉があるようで、派兵へ向け準備をするとも言われている」
「離れたところにある大陸……。手薄なところを突けば勝てる、と」
「そういう事だな。打って出るなら確実勝つ為に動員するだろうし、その後の統治にも人は必要だ。グラディウス国の王が出張れば国の足元も緩む」
「その王様も凄そうですね」
「ああ。建国の雄であり、冒険者の英雄でもある男だ。陣頭に立てばその軍の力は二倍にも三倍にもなるという近代稀にみる英雄」
「……よくそれに挑もうとしましたね……」
「だろう? 正気を疑わざるを得ない。向こうが積極的にこっちに手を出してきているなら致し方ないが、向こうはこちらを敵視してはいない。それどころか王が亡くなった時にいち早く使者を遣わし哀悼の意を表したのと同時に不戦の申し出もしている。関係は悪くない」
これはいよいよもって謎だ。はっきりいって自滅に近い行為であることは僕にだってわかる。そういう意味ではレイアさんを誘拐した意図は分かった。と言う事は、上の方に今の王妃やその子供たちを亡き者にしたい、グラディウス国に与したい者がいるのかもしれない。
「地位に満足して懸命に働く者もいれば、そうでない者もいる。今回はそれが身近で悪さをしたと言う事かな」
「で、どうします? レイアさんを助け出す前に戦争が始まると、僕たちも巻き込まれることになる」
「正直戦争が起こってからの方がレイアを助けるだけなら正しいだろう。だがやはり妙な事が多すぎる。私としてはその前に探りを入れて件の正体を探りたいと思っている」
「わかりました。そうだとして、僕たちは侯爵が前に言ったように逃げ道がないと自滅する以外ありません」
「それについては私も考えている。正直グラディウス国と戦っても絶対に勝てないと断言していい。そしてブロウド大陸へと偵察、のような事をクロウディス王がしたとは思えない。協力はしただろうが」
「それ自体が罠である、と」
「全方向への罠と考えていいだろう。あそこの国の宰相も食わせ物だ。この大陸の統一を狙うならどんな機会でも良いはず」
「思惑が交錯してますね」
「そう、だからこそ我々もチャンスなんだ。我々は今回の国の動きに関して否定的だし、準備が出来次第表だって意見を表明するつもりだ」




