同盟関係
レイアさんが凄い人物だった事に驚きを隠せない。最初に出逢った時のあの残虐な感じは父親の方の血なのだろうか……。
「康紀の考えは的を得ている。レイアの父親はこの世界に生まれたにしては能力が高かった。突然変異みたいなもんだね。で、その力を遺憾無く発揮し小さな領土から一国の王にまでのし上がった」
「……侯爵はゴブリンとの戦いの中で、国の話をする時に彼女って言っていましたが、今はもう」
「勘が良いね。そう、今はその王の奥さんがこの国を切り盛りしている。良いところのお嬢様だが、周りは優秀な人が多かったと記憶している。それがこのような事態になったのは、誰かが入れ知恵したんだろうね」
「てことはボブゴブリンたちを助けるには外に移動しないといけないし、レイアを助けるには国と闘わないといけないってことか」
ジャンさんの言葉を聞いて侯爵は目を丸くした後
口を大きく開けて笑った。
「アンタにウケて良かったが、実際そう言う話なんだろ? 俺は元兵隊。戦争がどういうものか分っているつもりだ」
「なら軽々しく国と戦うなんて言わない事だ」
「それ以外に言いようがないだろう?」
「だとしても、だ。私の横に居る彼がその気になってしまうだろ?」
侯爵は顎で僕を指した。……正直ぐうの音も出無い。レイアさんを救いだすなら正面切って闘わず、忍びこめば良いと思った。だけどそれでレイアさんを救いだしたら国の方針に逆らう事になるので、結果として闘うのと同じかと思ってしまい両指を組んでは開きを繰り返してしまった。
「冷静に考えたまえ康紀。国のトップの総意として彼女を王族の端っことして迎え入れる事にし、部下もそれに従った。これに逆らう事は国そのものに対する反逆として捕まれば死罪だ。昨日今日出会った人間の為に死ぬ気かい?」
「逃げ切れませんか?」
僕の言葉に三人は溜息を吐く。
「流石日本人。平和ボケしてるな」
「確かに君の言う通りだジャン君といったか。逃げ切れるわけがない。相手は我々の数千倍いる国だよ?」
「ならどうするんですか? このまま黙っていろと言うんですか?」
僕は自分でも驚くくらいいらだった声を上げていた。こんな感じになるのはどれくらい振りだろう。はっとなりやってしまったという感情で俯いた。
「その意気や良し。だが最後まで突っ張りたまえ」
「で、ですが」
「君は正義感があってしかも凄い能力を得て気が大きくなっているようだ。だがそれは間違いではないけど、冷静に把握しなくてはせっかくの能力も水の泡となってしまう」
「そ、そうですね。頭はクール体はホット」
「そうだ康紀。わざわざ戦うことを公言しなくてもいい。問われた時は否定しても、実際行動を起こしてしまう例は少なくない」
「そういう事だね。馬鹿正直にやりますなんてのはただのゴブリンだ。我々知能と知性がある人型種は如何に相手の上を行くかに掛かっている。とはいえ宣言してから引っ込めてでは警戒を招く。それを逆手にとっても良いけどあまり策に溺れると死ぬのことになる。覚えておきたまえ」
確かにそうだ。忍び込んで助けるなんて言ってはダメだし、言ったなら突っ張る。そうでないと混乱を招いただけだ。国を作ることを目標としているなら、口に出した決定は変えないほうがいい。
それまでに熟慮することが必要だ。
「で、問題点は分かったかな?」
侯爵に問われて頭を捻る。そして逃げる、という言葉から僕は
「レイアさんを助け出しても生き延びる方法ですかね」
と答えた。この場合の選択肢が僕には今はない訳で、それを得るためには情報が必要だ。僕があの荒れ地にボブゴブリンたちと国を作るとしたら、ここを攻めさせるわけにはいかない。レイアさんを救い且つボブゴブリンたちを国に加えるにはどうすればいい……。
「まぁ一朝一夕で成るものではないさ。だが運がいいよ君たちは。何せこのファウストとグルヴェイグが君たちにはついている」
「え」
「え、じゃないよ。私は私の領域に土足で踏み込まれるのは絶対に嫌だし、グルヴェイグは娘を取り戻さないといけない。となれば国に服従するという選択肢はない」
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとうではない。私たちは互いの目的のために手を組む、ただそれだけのことだ。ジャン君はどうかね?」
「こっちは知識がないんでね。俺としては利害関係の一致っていう方が、主義主張が同じよりよほど信用できる。康紀はどうだ?」
僕はその問いに即答したかったが、侯爵と支度している時点で決まっていたし、年長者でありこの世界で最初に助けてくれたジャンさんを差し置いて決めていたというのはあまり良くないと考えて答える。
「ジャンさんの言う通り、僕たちは知識がありません。僕たちの目的もありますから、レイアさんを助ける代わり、そして国を退けるのを手助けする代わりに知識や知恵、それに力をお借りします」
「よし、そうと決まれば君たちに部屋を割り当てる。早急に事に当たるからこれから暫く起きて寝るまで作戦会議の連続だ。我々に猶予はない」




