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ゴブリン討伐戦その⑤

「なんだぁ? お前ら」


 僕達、というか侯爵とフェンヴィトはゴブリンを片付けながら砦の中央まで進んでいく。僕は一人と二匹に比べたらほんの少しだけ闘った程度。


「なんだぁ? ってまさか君に挨拶に来た訳じゃない事くらいわかるだろう野蛮人」

「そりゃそうだ。で、どうする気だ? まさか俺様をやろうってんじゃないだろうな」


「……まぁ野蛮人としては正解だ。上には上が居ると知らないように野生の勘で弱い者のみを狩って来たんだろうからね。康紀良く見ておきたまえ。これが井の中の蛙という生き物だよ」


 侯爵は実に楽しそうに僕に語りかけた。侯爵が会話していたのは身の丈三メートルはありそうな筋骨隆々で肩と胸に鉄の鎧を着て、右手には血が付いたままの大きな剣を持ったゴブリンが立っている。


顔は傷だらけで犬歯も顎まで届くんじゃないかっていうくらい長く、髪の毛は頭頂部のみ。角が一本、額から空に向かって伸びていた。


「もしかして人間を取り戻しに来たのかぁ?」

「余裕じゃないか。この隙に一太刀振るえば私を倒せたかもしれないのに」


「枝を折るのに不意打ちなんてしねぇよ。で、どうなんだ?」

「んー、ハズレだねぇ。私はお前たちを皆殺しに来たんだよ。限度を超えた利息と元本を取りに」


「なんて?」

「やり過ぎたと言っている。目に余った堪忍袋の緒が切れた」


「おめぇになんでそんな事を言われなきゃならねぇ。俺たちは俺たちの思うようにやりたいようにいきていくまでよ」

「その通りだ。君が正しい」


「そうだろう? 人間の女は掻っ攫って次の兵隊の餌。男はバラして他へ売る。何も間違っちゃいない」


 それを聞いて侯爵は目を丸くして口を開いて僕を見た。恐らくだけど、どうやら取引をしている連中が居るらしい。となるとこいつを殺すのは……。


「で、誰と取引してるんだい?」

「教える訳ねぇだろターコ!」


「……タコねぇ……康紀、これは少しばかり面倒な事になったよ」

「そうなんですか?」


「そうだとも。こいつらはここを通る商人団を襲ったりしている。村を襲撃しないのは纏まった数の人間を相手にすると損害も大きいし、人間の女性を傷つけると繁殖に影響するからだ。で、タコというのは人間が相手を挑発したり嘲笑したりする時に使う言葉なんだけど、それはあの海で取れる蛸という軟体動物から来ている、馬鹿の更に上の罵倒する言葉なんだ」


「こ、侯爵危ない!」

「死ね!」


「ん? 康紀よく聞いてくれ。人間が死ぬ時に恨みを込めて相手を罵るのにタコ、なんて言わない。どちらかと言えば、彼らの間抜けな様を見て人間が言う言葉だろう。そしてそいつは中々力のある人物と言う事だ。それはこの近隣にはいない。私が断言しても良い」


 侯爵は恐らくゴブガンであろう奴が持っている大きな剣が振り下ろされても、枝を避けるような動きでステッキで受け止めた。ゴブガンは顔を歪ませ力を入れて押し込んでいるが、侯爵は微動だにしない。


「国が出張ってくるなんて随分と胡散臭いと思っていたが、なるほどそう言う事か……随分とえげつない方法で欲を露わにしてきたなぁ。彼女にそんな気概があったとはね。何がそうさせたのかは興味がある。そうだな、こうしよう。お前を生かしてやっても良い。その代わり私に手を貸したまえ」


「馬鹿言うな!」

「……そうか。なら仕方ない」


 半ばどうでもいいと言わんばかりにあっさり受け入れると、剣を暖簾でも潜るかのようにスッとステッキで優しく横へ動かしただけで吹き飛ばした。


「おっと失敬」


 ゴブガンは侯爵に固執するかと思ったが、頭が良いらしく危険を察知し逃げ出した。


「侯爵、屋根の上に」

「ん? 何故だい?」


「足止めします! フェン、ヴィトも」


 二匹はすぐさま屋根の上に登る。侯爵は不思議な顔をしたまま二匹に続いてくれた。それを確認して僕はゴブガンに視線を向ける。絶対に逃がす訳にはいかない。レイアさんの為にも……。


「怠惰の結界(スロウスサークレットプレイス)


 全身に力を入れつつ歯を食いしばった後、僕は叫びながら右手を突きだす。それと同時に足元から色が消えて行く。それは速度を増してゴブガンの足元へ辿り着く。


「おあああああ」


 だらしない声と共にゴブガンは膝を地面に付いて突っ伏し、最終的には寝そべった。


「ジャンさん!」


 僕は思い切り叫ぶ。暫くしてヒュッという音が左からした後、パスッという音と共に寝そべるゴブガンの左米神に黒い点が出来る。ゴブガンは白目をむいて泡を吹く。ヒュッヒュッヒュッと三つ更に続く。


左米神付近に一つ、左脇付近に二つ黒い点が出来て行く。ゴブガンから出血を確認し、僕は力を抜いて深呼吸するし腕を下ろした。一気に疲れが襲ってきて、膝と手を地面に着いてしまう。


フェンとヴィトがすぐ僕の傍まで来てくれた。二匹の顔を見て微笑む。


「……なんだいこれは?」


 侯爵は僕の目の前に立ち、目を丸くして問う。


「わ、分かりません。正直これしか出来無くて……」

「……これは話を聞く必要があるねぇじっくりと。まぁその前にここを片付けるとしようか。狙撃兵へは私の使いをやるから、康紀は休んで気力を回復したまえ」


「気力ですか……?」

「そう。精神的なものではなく、生命維持活動に必要な気の力。やる気とかそういうものの一種だよ。これがゼロになると生きながら死んだようになる。所謂無気力。これが継続的になると生命力が無い、所謂屍になる。君の力はそう言ったものを媒介として発動している特殊技能だね。まぁ目を閉じて休んでいろと言う事だ」


 侯爵は釈然としないようだったが、溜息をついてゴブガンを追ってきたゴブリンを屠りに行く。フェンとヴィトもそれに加勢した。

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