祭りの始まりに
「さぁいらっしゃいいらっしゃい!」
朝から威勢の良い声が飛び交う。ここ数日各村を回って御祭りの相談等をし、皆参加する事が決まったのでその出し物の提案を受けて一緒に決めるという事をしていた。それにサルビアさんもアステスさんもヴェルさんもシェンリュさんも同行したのが切っ掛けで、他の族長達も同行し始め皆が各村を訪れるという今までに無い事が起こった。長い歴史を見ても中々無い事らしい。
「領主様! これどうぞ」
御祭り当日まで何も無かった訳ではない。僕達の露天などは町の壁の外の周りに出され更にそこを整備させられると言う事にもなって開催が危ぶまれた。というか僕もじゃあ止めましょうよと提案した。別に街でやる必要はないので、僕の屋敷で街の人たちが来たい人は来るみたいな形式で良いのでは? と。
ただそれだとメンツがどうのと言われて知らんがなと返しその日は御終い。僕は御祭り自体はここでは新たな取り組みだったのでやろうと決めてはいた。だからノルン様たち族長と話して僕の家でやる方向で話を進めていた。
「領主様! 大繁盛ですよ! これどうぞ」
その後、サルビアさんが謝罪に訪れたもののお祝い事に水を差してまでやりたくはないと断った。更に何度も新町長と共に訪れ話し合ったけど大した進展は無かった。結局町の外というのは変わらずその事情を察して欲しいとの事。完全に話しにならないので僕は拒絶。
「どうじゃ、やってみて良かったじゃろ」
髭もじゃさんはニヒヒと笑いながら僕と並んで出店を回っている。見回りと警護を兼ねたものだ。
「……今のところは」
「おめぇも大概素直じゃねぇな。別に良かんべ? 結局相手の顔も立てつつこっちの利益になりゃ何でもええのよ」
暫く一人で考えていた時、髭もじゃさんの襲撃を受けた。その時僕の雰囲気の違いに気付いて声を掛けてくれた。僕としては話したくないと最初拒否したものの粘られ仕方なく話した。髭もじゃさんは是非受けるべきだと言った。僕はそれも拒否したものの、髭もじゃさんに町の人たちからすれば今まで敵対に近い状態だったのを直ぐに受け入れろというのは無理がある、と説かれた。
なら僕の案でと言うと、それはそれで良いが今回の主旨が違うと言われた。あくまでもサルビアさんの就任祝いの祭りなのだから、協力する事で相手に貸しも出来るしこっちにも得がある筈と熱心に説かれた。何故そんなにサルビアさんに肩入れするのかと尋ねると
「やっぱ良いもんじゃよな、気を張らない笑顔っていうのはよ」
髭もじゃさんは今目の前で笑顔で出店を見て回るサルビアさんを見ながら言ったように、僕の問いにそう答えた。以前ならそれはそれとして断固拒否していただろうけど、今は違って僕はそれを理解せざるを得ない。アステスさんやヴェルさんだけでなく、屋敷で暮らす皆、そして各村の人々。皆が笑顔で居れる事なら僕一人の不満は外に置いておく。
結局族長だけじゃなく各村の女性陣や子供たちとも言葉を交わした上で僕達は開催に協力する事に。その際に一人見たことの無いダークエルフだと思われる女性が、開催に対して向こうにも整備に関しては協力してもらうべきだと提案し、皆それを前提とした上で交渉しようということになりサルビアさんも受け入れてくれた。何より意外だったのが髭もじゃさんも協力してくれた事だ。
「良く協力してくれましたね」
「御前さんに強く勧めたのはワシだしなぁ」
髭もじゃさんは僕と一緒に出店を回りながら歩いているけど、とても人気がある。屈託の無い笑顔と人当たりの良さで僕よりも話しかけられている。それがちょっと羨ましかったりもする。僕一人が歩いてるだけじゃ僕から話しかけない限り話しかけてくることは無い。そんなところだけはヒキニートと変わらなかった。




