見上げ続ける者
「貴方、何をしてますの?」
荒野から冷たい風が吹き付ける街の、一番高い建物の上。誰も居ないその場所で一人佇む白い毛に頭だけでなく顔も覆われた小さな人物に、冷たい風を寄せ付けない様な白い肌と白いドレス、空色の髪に少し釣り上がった目の女性が強い口調で問う。それに白い毛に顔を覆う人物は答えない。
「我々のすべき事はかの者に加護を与え神秘としてのレベルを上げる事。星の剣が生まれた今、それをする必要があるのですよ?」
大きな溜息と共に口元が現れ毛が揺れる。
「確かにな。御前の兄上によってこの大陸から星の剣が消えた。そして新たに星の護りが生まれた。だがなぁ」
そう言った後言葉が止まる。白い毛の人物は思う。彼女の兄は大英雄であり開拓者であり冒険者の夢だった。それに自分は挑む為に計略を立てた。ただ知れば知るほど夢は現実を突きつけ、自分の真意は違う形に変えられている様な気がする。
幼い頃から肺を患いそれでも鍛え上げ外見では分からないまでになった。そして領地を統一するまでになれたのに、肺は治らないまま。この病さえなければ領地だけでなく大陸を統一できたのに。この病さえなければアレに屈して同盟を結ぶ事も無かったのに、と。
偶然グルヴェイグの家にあったとある書物を見つけ、それ書かれていた禁呪を用いて一時的な死を迎えこの体に特殊な印を結び自ら神秘となった。星の護りが神秘のレベルを上げればそれと対を成す存在が必要になる。その時こそ覚醒の時だと白い毛の人物は考えていた。
「まぁやる事はやってるさ、確実になぁ」
覚醒した時、果たしてそれは誰の夢なのか。神秘となりかの者と同じように成ったとして、それは願いを叶える事になるのか。そう思わずには居られず迷いが生じているのを白い毛の人物は気付いてしまった。
「私たちは貴方の為にやっているのですよ? それを忘れないでくださいまし」
その言葉につい鼻で笑ってしまう白い毛の人物。ああここは自分の家だった、夢だった筈なのにもう居場所も心通わせる人も居なくなってしまったんだな、と痛感せずにはいられないようだ。この荒野に首都を構えたのも彼女と宰相の提案で、恐らくグラディウス国の思惑だろうと思っている。この領地の国力を削ぐ為に無駄な事業をさせた、と。こんな冷たい風が吹く命の息吹を感じ辛い場所で人は育つのか、自分は本当は嵌められているのではないかとさえ考え始めてしまう。
「勿論。君たちの献身を僕は忘れないよ」
微笑んで白い毛の人物はそこから飛び上がり夜に消えた。
「スティルお姉さま、宜しいのですか?」
お城のテラスに一人の人物が現れる。少しピンクがかった白髪をオールバックのように後ろに持っていった少し釣り目の女性。皺はあるものの背筋は伸び足取りもしっかり綺麗で、とても品があるように見える。ただお姉さまというには年上に見えた。
「グルヴェイグ、無理はしないように」
急いでお姉さまと呼ばれた女性は駆け寄り、近くのテーブルの側の椅子に互いに座り空を見る。
「随分と嫌われてしまったようですね」
「……仕方ありません。彼の望みは私たちには叶えられません」
「私たちが出来る事といえば、彼を好きにさせつつ彼の名君としての功績を汚させない事」
「それも何の意味があるのやら」
スティルはグラディウス国王の妹で共に冒険をした人物でもある。グラディウス国の南にあるここダガー国に政略結婚の為嫁いできた。彼女の元のクラスは実は不明で魔術も使え体も軽く俊敏な動きが出来るという前衛も後衛も器用にこなせるというものだった。グラディウス国王の覇道を支えた人物でもある。
グラディウス国王より難あれば処する様使命を受け意気揚々と来たものの、その夫となったアダガ王は王と呼ぶにはあまりにも掛け離れていた。




