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ゴブリン討伐戦その③

 暫く真っ直ぐ走ると、雑草など無く大きな石も無い整備された道に出る。


「じゃあ俺はあの丘に控える。お前はゴブガンとかいうのを孤立させる事だけを考えていてくれ。後はこっちがやる。フェン、ヴィト。康紀の御守を頼むぞ。さっき行った事を忘れるなよ!」


 ジャンさんはそう言って斜め左側の山へと駆けて行く。

それを見送ってから僕はフェンとヴィトを見て斜め右の山へと進んでいく。


森の中を走っていると、フェンとヴィトが僕の前に出て止まり、僕の顔を見た。

何か来ているのかもしれないと思い足を止めて木の陰に隠れる。


 するとガサガサと音がした。音は一つだけだ。ここで気付かれたら不味い。

まだゴブガンとかいうのを引っ張り出せていない。


目を瞑り右手を左胸に当てて深呼吸をする。動物を捌いた。覚悟は出来ている。

悪い奴だから、人を家畜のように扱う奴らだから。……いやレイアさんが

酷い目に遭うのをみたくない。


ただそれだけだ。木から少し顔を出す。視界に居たのは背は百五十センチくらいで

緑の肌にお腹がぽっこり出て棍棒を持っている。顔には赤いペイント犬歯が飛び出ていて、


角も生えて目は充血して釣り上がっていた。それが段々と近付いてくる。

心臓が煩い音を挙げていた。息が荒くなるのを左手で抑え、右手に剣を構えた。


「ふっ!」


 僕の目の前を通り過ぎようとした瞬間。お腹がぽっこり出ていたので、肋骨と

そのぽっこり部分の間に剣を両手で握り、体ごと突っ込んで刺した。


抵抗があったが精一杯力を入れて押し込んだ。手に感触が残っている。

倒れたゴブリンは息があるようで声を挙げようとしていたが、

僕は変な感覚に捉われて手を見つめることしかできなかった。


「何をしているのかねぇ?」


 不意に背後から声が掛る。僕は驚いて剣を向けてしまったが、

それを摘まんで止められてしまう。


「……素人か。何故素人がこんなところに……」


 その人は黒いマントに黒いハット、右目に片眼鏡を掛けている。

細長く端正な顔立ちでどこか浮世離れしている感じるのする人だった。


「……この犬は?」


 僕の足元に視線を向けると、フェンとヴィトは歯は見せていないまでも、

何かすれば飛びかかろうと身を少し屈めていた。


「なるほど。失敬。狼のようだね。時に君の名前は?」

「え、あ、く、久遠康紀……」


「そうか。で、これから何をしに行くのかな? この先に居る連中は少々ゲスい連中でね。お宝探しや賞金稼ぎなら他を当たると良い。みたところ慣れてもいないようだし……」


 その紳士は僕の剣から指を離し、マントの埃を払った。白い手袋をしていて

中はタキシードのようだった。


「あの、誰」

「あ、私かい? これは失礼。私はファウスト。ファウスト侯爵とでも呼んでくれ」


 ねっとりと喋るのも特徴的だけど、その喋る合間に口から見える牙が

常人ではない事を物語っていた。


「吸血鬼?」

「……君は思った以上に馬鹿なんだねぇ。僕が仮に吸血鬼だとしたら、君とこんなに呑気に会話するとは思えないけどなぁ」


 呆れ果てたというように両手を広げて天を仰ぎながら言った。

確かにその通りだ。僕は深呼吸を二回した後で


「すいません。知り合いがこの先に捕らわれているようなので、助けに行こうと」


 とその紳士を真っ直ぐ見て答えた。すると紳士は目を丸くして小さく笑った。


「そうか。その正しい謝罪は受け入れるし君の回答に私は満足した。だがその知り合い、女性ならもう行かない方が良い」

「生きてはいないでしょうか」


「生きている、というのが心臓が動いている、というだけならその通り。ただ助かる事は無いけどねぇ」

「ならひと思いに……」


「あまり言葉だけで軽々しく口にするもんじゃぁないよ君。言うほど同じ人間の命を絶つのは軽い事じゃない。確かにやらなければならない事もあるだろうが、その時は修羅となる覚悟をする必要がある。君にそれは出来るのかい? 今し方この獰猛な動物を刺しただけで手が震えていたようだが」


 牙を剥き出しにして微笑みながら僕に問う。


「正直出来る気がしませんが、して欲しいと言われれば覚悟を決めます」


 そう、今出来る訳がないのは当然だ。でももしそうする事を求められ、

救う手立てが何一つ無いのならいや救う手立てがそれしかないのなら。

僕は手を握り真っ直ぐ再度見た。


「……どうしても行くと言うのであれば同行を許そう」

「え」


「同行を許そうと言ったのだよ康紀。私はね、康紀。醜いものがあまり好きではない。だが醜いものとて生きる資格はあるし、私の美的感覚で判断するとこの星に生きるものは少数になってしまう。だので許容するという事を覚えた……が! しかしだ。許容と言っても限度があるのだよ康紀。この先に居るのは上限一杯枠使い切り請求しようもないほどの醜悪な連中だぁ。分かるかね康紀」


「お供させて頂きます」

「宜しい……。君は中々見込みがありそうだ。生きてこの始末を着けられたら私が多少手解きをしてあげよう」


「あ、ありがとうございます!」

「まぁ私も大概我流なのであまり期待しないでくれたまえよ。何れちゃんとした剣術者にでも習ってくれ。では行くとしようか。ちなみに私は無断で犬に踏み荒らされるのも嫌いでね。……狼じゃないぞ?」


「例の国が出張ってくるって言うお話をご存じなんですか?」

「ご存じも何も。あんなあからさまで醜悪な通達を見た事が無い。私は女性には大分寛容ではあるが、流石に今回は許すわけにはいかなくてねぇ。ただし血を見たくはないので解決してお引き取り願いたい訳だよ」


「あの、もしかしてファウスト侯爵は領主さま……?」

「うーん、まぁ領主みたいなものだと考えて宜しい」


 これは不味い……。機嫌良く奥へと警戒しながら歩き始めたファウスト侯爵。

その後を付いて行っているが、僕が荒れ地に家を建ててると知ったら

怒られるんじゃないだろうか。


さっきまでの吐き気とか恐怖とか何処へやら、変な汗が出てきた。


「ああちなみに荒れ地に何か建てようとしている連中がいるようだけれど、私に挨拶をした方が良いと伝えてくれるかね」

「……はい……申し訳ございませんでした!」


 顔だけをこちらに向け牙を見せながら微笑む侯爵。僕は視線を逸らし

俯いたが直ぐに謝罪した。それを見て侯爵はケラケラと笑い向き直った。

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