ゴブリン討伐戦その②
「これ」
親分が紙を指さしたので見てみると、黒い丸が三つ付いていた。
「これは敵?」
「違う。これ同じ種族」
「なるほど狙いやすい位置にあるわけだな。他の三つは人間が通るルートとしては道が悪い」
「そう。道が悪いところで戦う。人逃げる。俺たち物貰うだけ。命取らない」
そう言う事か。道が開けていたり街道になれば、戦闘になる。
敢えてその近くを選んでいるのは端からそう言うつもりで奇襲をかける為なんだろう。
それだけ戦闘に自信があるんだな。
「親分みたいなやつも当然いるんだろうね……戦闘に特化したのが」
「ゴブガン」
「ゴブガン?」
「そう。ゴブガンはゴブリンの中で生まれつき体大きい力強い獰猛だけど頭も良い」
「じゃあ狙いは決まりだな」
「そうですね。少人数で戦うならその手しかない」
僕とジャンさんは見合って頷く。ボブゴたちを巻き込むのは気が引ける。
何より勝負は早く着けた方が良い。でないと親分たちも危ない。
「親分、そのゴブガンは見た目はどんな感じ?」
「ゴブガン大きな斧もってる。背より大きなの。あと鎧着てる。兜も大きなの。皆人間に作らせてその人間殺した」
「それだけ派手にやったから国の兵隊が出てくるってわけか」
「そうなると自治権も怪しいですね」
「だからギルドで依頼が出たんだろう。しかしそれにしても金貨一枚じゃ割に合わなさすぎだろ。考えようによっちゃあ皆倒さないといけな……」
ジャンさんは最後まで言わずに押し黙った。そう、そう言う事なんだろう。
国としては一応依頼を出しておいた。恐らくこの地域は魅力があるのだろう。
出来れば直轄にしたい。そうとなれば直轄にする事のメリットを示す必要がある。
だけどあからさまにやればイメージが悪い。そこで形だけの依頼。
割に合わない事は誰もやりたがらない。
「ゴブリンもボブゴもお構いなしに処分てか」
「領地を分かりやすくする為には都合が良いでしょうね。正義を行ったんですから見た目は」
危険なゴブリンをどうにかするのはしょうがない。共生の道が断たれているから。
でもボブゴの親分たちは違う。同じように見えて同じではない。
人間の都合だけでそれをしてしまって良いのか。……なんて考えるまでもないか。
「覚悟を決めた顔をしてるな康紀」
「ジャンさんも」
「俺には皮肉にも憎みもし愛しもしたこいつがある。もう二度と握りたくないと思ったのにな……。でもあるからには使う。それで多くが救えるなら、その罪は俺が背負おう」
「半分は僕も背負いますよ」
「かっこいいな日本人」
早速僕たちは作戦を立てる。親分たちの話によれば、ゴブリンたちは
かなり大胆に行動しているようで、奇襲の一つや二つお構いなしと言った
護りらしい護りもない状態の砦に居るようだ。
一応柵で覆っているようだけど、あくまで家畜や人質を逃がさない為のものらしい。
見張り台は四つ。昼夜問わずしているわけではなく、夜は火を消しているとの事。
なんて健康に優しいんだとジャンさんは吐き捨てるように言ったが、親分曰く彼らは
動物に近いと言う事だ。夜目が効き勘が鋭く嗅覚が凄い。
「となると僕がこの砦に乗り込んでいって、ゴブガンを引っ張り出してジャンさんが狙撃」
「それが一番正確だろう」
「出来ればある程度ゴブリンを叩いてゴブガンと一対一に持ち込めればと思っています」
「でもなぁお前さん剣なんて握って何日だよ」
「ここ数日です。二足歩行の生き物を切った事はありません」
その言葉にジャンさんや親分たちはがっくりしている。でもしょうがない。
この世界に来るまでヒキニートなんだから。そんな力がある位なら働いてたし。
「しっかし参ったなぁ誰か助っ人でも居てくれれば良いんだけど」
ジャンさんの言葉にフェンとヴィトが僕の前に出てきた。
「お前たちもやるのか?」
ジャンさんがそう言うと小さく一度吠えた。
「……そうか。だが相手は親分達くらいの背丈だ。喉に噛みついても直ぐには」
フェンとヴィトは唸り声を挙げる。
「分かった分かった。戦力として期待しておく。後は……」
「アンタ達!」
後ろの森から怒鳴る声が届く。目を細めてみると、それはグルヴェイグさんだった。
とても慌てていて顔色が悪い。
「おい……」
ジャンさんの言葉を聞き終わる前に、僕は剣を手に取りグルヴェイグさんのところまで走る。
フェンとヴィトも付いてくる。嫌な予感がする。
「グルヴェイグさんどうしたんですか?」
「はぁ……はぁ……困ったね家の中に居る事が多くて久々に走ると息が上がる」
「レイアさんはどうしましたか」
「察しが良いようで何より。あの子何を思ったのかゴブリンの砦に一人で行っちまって」
「了解です直ぐ後を追います。グルヴェイグさんは家で待ってて下さい」
「そう言う訳には」
「ここから先は体力勝負ですから。それじゃあ!」
俺はそれだけ言って走り出す。地図は頭の中に入れてある。こないだ行った街の
北西にある門から出て真っ直ぐの舗装された道。その右脇の山の麓付近を根城にしている。
何故今まで放置されていたのか。恐らくこのゴブガンは想像以上に強い。
真正面から何もせず戦えば、勝ち目は無い。だけど僕には一つ大きな能力がある。
フェンとヴィトがいる。ゴブガンだけでも潰す。
「おいおい年長者を置いて行くなよ」
「ジャンさん早いですね」
「同じくらい補正を受けているからな。素の能力なら俺が上だし」
「確かに」
「良いか、頭に血を登らせるなよ。常に頭だけは冷えておけ。熱くなるのは体だけで良い。これは最後まで生き抜く為の鉄則だ。死んで意識を失うまで冷静でいろ。指一本動くうちはまだやれる。念仏みたいに唱えておけ」
「はい」
教官のように僕を窘めてくれるジャンさん。
本当にジャンさんが居てくれて良かった。
何も考えず突っ込んでいたら死んでいたはずだ。
超絶強力な能力を持っている訳じゃないから。
それでも体は動いてしまっていた。燃えるようだ。




