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風の話

以前侯爵が居た時は決断を迫ろうという話になっていたけど、今は放置している。今後もそうなるだろうけど、歯に何か挟まった状態なので気持ちが良いものじゃない。


「まぁ世の中そんなすっきりした話ばかりじゃないよなぁ……僕もこの世界に来て無敵の力を持ったと思った時大分偉そうだったのにグルヴェイグさんは協力してくれたし」


 勿論レイアさんを助けようとしたからなのは分っているけど、グルヴェイグさんの授業があったからこそある程度対応出来ている。元引き籠りニートのままなら崩壊してた。


「この世界に来た事で更生しつつあるってことかな」


 食堂の奥の扉から、茶色のツバの広いハットに少しボロッとした茶色い全身を隠すマントに身を包んだ入ってきた。低い声からして男だと思うけど。


「失礼ながら貴方は」

「ああ失礼。こうして会うのは初めてだったね。いつもうちのがお世話になっているから知ってる感じになってしまった」


 男はハットを取ると強い癖毛の金髪に鼻筋の通った高い鼻、切れ長の目とすっとした輪郭が露わになる。


「私の名はシルフィード。以後お見知りおきを」


 ハットを胸に当てて一礼された。僕は驚き目を丸くしたけど、直ぐに立ち上がり


「僕の名前は久遠康紀です。いつもシルフにはお世話になってます」


 と心臓に右手のひらを当て一礼した。そして椅子へ促すべく近くへ小走りで移動する。


「ああこれは申し訳ない」

「今お茶を用意します」


 椅子を引いて何とか良いタイミングで椅子を押して座って頂いた後、急いで食堂奥のキッチンへと移動し、アステスさんがいつも用意してくれている常温でも美味しい茶葉を使ってお茶をカップに淹れた。直ぐに注さず最初少し時間をおいてちょっと捨ててから淹れてカップとお代り用のポットをトレイに載せて持って行く。


「有難う」


 佇まいがイケメンというか佇まいもイケメンと言うか。爽やかすぎるなぁ。僕みたいにアステスさんとかが居ないと背もたれにだらけて座ったりし無さそうだ。


「美味しい……例え誰が用意しようとも、自然を愛してくれる者が用意してくれたものなら美味しい筈だね」

「す、すいません」


「ああ君の事じゃないよ。君は無駄に自然を荒らしたりしないし魔法魔術を使わない人だから」

「じゃあ」


 そうなるとアステスさんしかいない。アステスさんに何かあるのだろうか。


「彼女は特に他とは全く違うようだ。そういう点では君の周りに居る人たちはそういう人たちが多い。これからエルフも少しは変わってくれると良いんだけどね……」

「あの、シルフィード様は今の世界に怒ってらっしゃるって」


 僕はこの優しそうな人が何に怒っているのか本当のところを聞いてみたくて、少し食い気味に聞いてみた。


「……君が来る以前の世界は魔法魔術全盛の時代で、何をするにも魔法魔術を使う事が当たり前になっていた。それは怠惰を生み最後には生すらも操り始めた」

「そうなんですね……今は全く感じませんが」


 僕がそう言うと、シルフィード様はお茶を一口含んだ。


「そうだ。その世界に星に選ばれし者たちが現れた。命を弄ぶ者たちへの鉄槌を下す為だと私は思っている」

「……それは誰なんでしょう。僕の狭い視野で今見えるのはダガ―国そしてグラディウス国ですが、シルフィード様のいう者はそれらでは無いのでしょう?」


 僕が尋ねてそれに対し頷いてから静かな時が流れる。僕もお茶を飲んで間を埋める。


「この世界では魔法魔術は衰退し始めている。それは弱き者たちが力と繁栄を得て変わったからだ。ただそれでもまだまだあるけどね」

「シルフィード様はそれを無くそうとしているんですか?」


「いいや。お前も気付いているだろうが、例えば医療。今もこれには魔法魔術が用いられる事がここ以外の地域では多い。薬草なども知識の蓄積が始まったばかりに近い」

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