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魔女の家

「取りあえずお二人の話がついて何より。お婆さん、この物騒なの返しますね。二度と降りないように、降りるならしっかり教育してください。それと泉の人、いつもありがとうございます。僕ヒステリーを一度起こしたくらいで見捨てませんけど、今後止めてください。じゃ忙しいんで失礼します」


 オタク特有のまくし立てる様な勢いで喋り倒し、ピンクさんを放置して

泉を離れる。何か得るものがあるかと思ったが、ああいう女性は苦手だし、

出来れば係わり合いになりたくない。

リスクに対してリターンもなさそうだし。


「ま、待ちなさい康紀」

「なんです?」

「まだ話は終わってません」

「僕は終わったんです。これ以上僕の嫌がる事をするならそれはそれで報復しますよ?」


 泉の人は言葉に詰まる。黙って歩き出す。ホントめんどくさいの嫌いだ。

こんな世界に来てまで女性のヒステリーに当てられるなんて不快にも程がある。


「助けてくれたことには礼を言いますが、それ以上でもそれ以下でもありませんから。それじゃ」


 一応お礼は言っておかないとと思って振り返り頭を下げて再び歩き出した。


「坊や、それはあまりにツレないんじゃないかい?」


 暫くしてお婆さんが追いついてきた。


「何がです?」

「人には色々あるもんさ、長く生きてれば特に。意見の衝突で感情的になる事だってある。男ならでーんと構えてだね」


「男だから女だからとか関係ないですよ。男だろうと女だろうとヒステリーな口論に巻き込まれて愉快な人間は居ませんから」

「一回くらい大目に見ても罰は当たらないだろ?」


「だから言ったし今もお話してますよ?」

「……あんた頑固だね」


「そうですか?よく生温いと言われましたが」

「まぁまぁちょっと話でもしようじゃないか。どうだい近くにアタシの家があるんだけどお茶でも」


「知らない人に付いていくなって言われてますし、今忙しいんですよ」

「解った解った。来てくれたらアタシもその忙しい事とやらに手を貸すから」


「要りませんよ。貸してもらったらその見返りが怖そうだから」

「頼むよ老い先短い婆さんの頼みくらい聞いてもアンタの損にならないだろ?」


 どうあっても食い下がり続けてくるらしい。どうしたものか……

良心が無い訳ではないので老い先短いとか言われると辛い。


「解りました。じゃあ折衷案で行きましょう」

「な、なんだい!?」


「話を聞いてあげますから、その代わりこの世界の地図下さい」

「良いとも良いとも!それくらい何枚でも!」


「じゃあ案内してください」

「こっちこっち」


 明らかに元気に前を行くお婆さん。見た目だけで背筋は伸びてるし

足取り軽いし全然若いんだけど謎だな。魔女ってああいうものなのだろうか。


「……なに?」


 何時の間にか隣に居てしょんぼりしているピンクさんを見る。

ピンクさんももしかしたら年上なのではなかろうか。


「おーい!こっちだよー!」


 元気なお婆さんが手を振って呼んでいる。ああまでされると

ついつい噴出してしまう。現金だなぁ……。


「ピンクさん行くよ」


 ピンクさんは頷くだけで黙って付いてくる。程なくして家に辿り着いた。

洋風の小さなお城のような家。魔女の家を古いアニメ映画で見たとしたら、


こんな感じだろうと言うそのままの家である。

あんまり愉快な気持ちで入りたくないなぁ……。


「ささ!坊ちゃんどうぞ!」


 イラっとくるよりも笑ってしまう。このお婆さんは悪い人では無いんだろう。


「もう良いですよそういうの。笑っちゃうから」

「良いじゃないか別に。ささ!早く早く!」


 手を引かれて家に入ると、おどろおどろしいのかと思ったら、

高級なレトロインテリア家具屋のような室内になっている。


照明が温かみのある色になっていて、オーク材を使用したような家具。

色鮮やかではあるものの目に痛くないテーブルクロスやカーテン。

小物一つ一つ見ても、大切にしているそんな印象の部屋だった。


「アンタも家具とか好きそうだね」

「嫌いじゃない、というより好きです。見るのも作るのも……というか作りたかったと言うか」

「へぇ……まぁまぁ座りなよ。変なもの出したりしないから!」


 椅子を引かれたところへ座ると、お婆さんはピンクさんを抱きしめて帽子を取り、

頭にキスして座らせていた。しょんぼりピンクさん。

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