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学園ミュージカルディゴ  作者: 多那彼方
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第1章ー5

「やるじゃないあんた!まさかこんなに早く見つけて来るなんてね」

 河中さんを部に誘ってから20分。とりあえず琴吹に会わせないとと探していたら、職員室前で憮然とした表情で歩く琴吹を見つけた。

「ふっふっふ。俺の勧誘力に掛かればこんなもんだ。それより琴吹はさっき何であんなに不機嫌そうな顔してたんだ?」

「ああそうよ、聞きなさいよ。あの生徒会長の嫌みメガネが言うのよ、ポスター作りたいなら正規の手順を踏まえて部の申請して生徒会印を押してからにしなさいって。部員が足りないからポスターを貼りたいのに、部員が足りないから貼れないなんてどう考えてもおかしいわよねっ」

 納得いかないとばかりに頬を膨れさせる琴吹。そんな琴吹におそるおそるといった感じで河中さんが話しかける。

「あの、それって『校内の壁に生徒の作った印事物を貼る時には必ず生徒会の認め印を押す事』っていう規則ですよね」

「そうそれ。そんな感じの事を言って禁じて来るのよあのメガネは」

 話していて憤りが再燃したのか語尾が荒くなる琴吹。そんな琴吹の熱を冷ますかのように河中さんが言う。

「逆に言えば校内の壁に貼らなければ問題ないという事なんじゃないでしょうか」

「えっ?」

「いえっあの、例えばチラシとかだったら問題ないんじゃないかと。あっいえ、すいません、でしゃばりました。忘れて下さい」

話していて自信がなくなってきたのか、だんだん声が小さくなる河中さん。だが、その意味が頭に伝わってきた時、琴吹が満面の笑みで河中さんを抱きしめた。

「それよっ!それならいけるわっ!これでメガネを黙らせられる。最高よっ河中さん!」

「きゃっ。あっあの苦しいです」

「あっとごめんね、力込め過ぎちゃった。ところで、河中さんって絵上手い?」

「絵……ですか?あの……苦手です」

「あーそうなんだ、残念。坂中は?」

「俺も苦手かな」

「あんたも?それじゃあチラシを描く人がいないじゃない」

「いや、絵なら一人心当たりがあるぞ」

 心当たりならあった。元演劇部でやたらとスペックの高いバカに一人。



「はっはっは!絵の事ならこの僕新庄真一にまかせたまえ!」

 やたらとテンションの高いバカが高笑う。果てしなく不安になるが、俺は心辺りのザンハイにチラシの事を頼んでいた。

「ねえ、本当に絵上手いの?」

 不安そうに小さく俺に尋ねる琴吹の言葉が聞こえていたのか、

「はっはっは。中学では背景を担当していたからね。星平のダ・ヴィンチと将来うたわれるであろうこの僕にその質問は愚問だぞ。心配に思うのなら試しになんでも言ってみたまえ。どんな絵でも描いてやろうではないか!」

 やたらと自信満々に答えるザンハイ。

「……俺が言ってもいいか?」

「んむ?良いとも!さあ何でも言いたまえ」

ノートを出してペンを構える新庄。

将来うたわれるであろうって事は今は無名ということなんだがなんて思いながらも、その天狗っぷりになんだかイラっときたので描けそうにないモノを考える。うん、よしっ

「じゃあケネディ暗殺の真犯人の顔を描いてくれ」

「描けるかあああああああああああああああああああ」

いきなり頭を抱えて叫ぶザンハイ。

相変わらず面白い反応をする奴だ。いじられキャラとはこいつの事を言うのだろう。

「なんでもいいんじゃなかったのか?」

「せめて知ってる奴にしてくれよ!」

「まさか知らなかったのか!?」

「まさか知ってると思ったのかい!?」

「鏡くらい見たことあるだろ?」

「犯人は僕!?」

「……カツ丼食うか?」

「その優しさが恐い!」

全力で無罪を主張する新庄の肩に手をやり、優しく言ってあげる。

「うん、そうだな。新庄はやっていないよな。俺は信じてる。信じてるから全て吐いて楽になろうな。そしたらしがらみとか生きる辛さとかからも楽になれるからな」

「それ信じてないよね!?信じてない上に信じさせた瞬間首に縄付けて13階段の崖から突き落とす気満々だよね!?」

「……獅子が子供を崖から突き落とすのは優しさなんだよ?」

「……司法が無罪を有罪に突き落とすのは残酷さなんだよ?」

「違う!俺はただ自白を強要するだけだ!」

「自白を強要って言っちゃった!?それでも僕はやってない!というか別の課題にしてくれよ!知っている範囲内で!」

ふむ、知っている範囲内と。じゃあみんなが知っているようなものであれば良いわけだ。

「じゃあツチノコを細部まで詳細に描いてくれ。想像でとかは禁止な」

「知ってるけど知らないいいいいいいいいいいい」

「おいおい、知ってるんならいいんだろ?」

「わかんないよ!ツチノコなんているかどうかもわからない生物の詳細なんて書けるわけないだろ!?っていうか空想の生き物なんだから想像以外でどう描けって言うんだよ!!」

「根性?」

「無理だよ!」

「頑張れ、頑張るんだ(しん)ジョー!ツチノコが見つかるまで不眠不休で食べる暇も惜しんで山を駆け巡るんだ!」

「遠回しの死刑宣告!?無駄に希望を持たせて、じわじわといたぶってるぶんより一層残酷だよ!」

「なんだ、ずいぶんと文句が多いんだな」

「無茶苦茶ばかり言われるからね!」

「無茶言ったつもりは無いんだけどな」

「驚きの認識だね」

「じゃあ最高の演劇部のチラシってのも無茶に入るのか?」

「それはっ……入るとでも思うのかい?」

 おれの言葉に一瞬目を開いた後、不敵に笑う新庄。ああ、こいつのこの顔は悔しいけど頼りになるんだよな。

「はっはっは。誰もが注目せずには居られない、そんなチラシを作ろうではないか」

 真っすぐに自分の席へと戻り一心不乱にノートに絵を描き始める新庄。

「ずいぶんと乗せるのが上手いのね」

「半分以上からかいだったけどな」

「それでも新庄君やる気満々じゃない。あの様子だったら任せられるわね」

 止まる気配を見せずに絵を描き続ける新庄を見て笑みを浮かべる琴吹。

「私も頑張らなきゃね」

 気合を入れて教室を出ていく琴吹。頼もしいその背中を見ていると、隣から小さな声が聞こえてきた。

「……楽しそう」

「えっ」

「いえっあの……凄く楽しそうだなって」

 ゆっくりと何かを思い描くように河中さんは小さく笑みをこぼした。



「……はっ恥ずかしいです」

 ゆっくりと顔を赤らめて河中さんは顔を伏せた。

「……正直悪かったと思ってる」

 みんなの奇異の視線が突きささるのを感じる。

 当たり前だろう。朝来たらいきなり校門に猿と犬の格好をした怪しい奴ら(・・・・・・・・・・・・・・)が待ちかまえているんだ。そりゃ驚いて注目もするだろう。

「ちょっとあんた達。恥ずかしがってないでちゃんと配りなさいよ」

「そのとおりさ。恥ずかしがる必要なんてどこにもないじゃないか」

 ましてや侍とキジまで加わったら見るなという方が難しい。というか、

「なんでチラシ配るのに桃太郎の格好をしなきゃならないんだよっ!」

「何を今さら。そんなのその方が目立つからに決まってるじゃない」

「だったら何も桃太郎じゃなくてもいいだろ!?」

「仕方ないじゃない。ちょうど人数分あったんだから」

「それは仕方ないの理由にはならないと思う」

 俺は頭が痛くなるような思いを浮かべながら何故こうなったのかを思い出していた。


 事の発端は昨日の夕方だった。凄い速度で描きあがっていく絵を見ながら完成を待っていると、満面の笑みを浮かべた琴吹が教室に飛び込んで来て言ったのだ。

「喜びなさい。私たちに部室が出来たわよ!」

最初は何を言っているか解らなかった。だけど、その言葉が頭に浸透するにつれて喜びが湧きあがってくる。だが、その喜びを言葉にしようとした時一つの疑問が浮かんできた。

「えっ何で部も出来てないのに部室が?」

 正規の部でさえ部室を持てていない所があるのに、まだ部になってすら居ないのに部室を持てるだなんて普通ではあり得ない。

「ふふん。それはついてきたら解るわよ」

 自慢げに笑う琴吹の後を河中と共について行く。ついた先は部室棟1階角部屋という好条件の部屋。その事に更に頭を傾げながら扉を開いて、理解した。

「これは……」

「……凄いです」

 幾つかの教壇を重ねて作られたステージ。剣や杖等の小道具が入れられた箱に、幾つもの衣装が入れられた衣装箱。

 そこには演劇に関するモノが詰まっていた。

「驚いた?去年まで演劇部があった場所よ……全員卒業して廃部になったらしいけど」

 次に使う部がまだ決まっていないまま放置されていた部屋。その存在を知った琴吹が先生に交渉したらしい。ただし、その条件として――

「まあ今月中に5人集めて部として登録しないと貰えないんだけどね」

 という訳だ。まあ学校としても勧誘合戦が終わる5月までに人を集められなかったやつらのためにこんな良い場所を開けておく訳にはいかないんだろう。

 制限期間のついた人数集めに少しプレッシャーを感じながらも頑張ろうと気合を入れていると、衣装箱を開けて見ていた琴吹が急に立ち上がり言った。

「ふっふっふ。決めたわ。二人とも。今から教室に戻ってザンハイのチラシが完成するのを待ちましょう。それから百枚くらい刷るのよ」

「100枚って結構多いな。明日配るのか?」

 そう言った俺の言葉に琴吹は俺の方に振り返って言う。

「明日は7時に集合ね」


 そうして、今に至るという訳だ。衣装箱の中に桃太郎の衣装一式が入っていたのが運の尽きだったな。いやがる河中さんも無理やり着せかえて、キジの衣装に身を包んだ琴吹は機嫌よくチラシを配っていた。

「はっはっは。見るがいい我が演舞!」

「少しでも興味を持ったら一緒にミュージカルをやりましょっ」

 腰に下げた刀で殺陣を演じて注目を集めるザンハイとその殺陣を見ている人にチラシを配っていく琴吹。ってぼーっとしてないで俺も配らないと。

「……い…な」

「えっ?」

琴吹の下に近づこうとした時、後ろから誰かの声が聞こえた気がして振り返る。そこに居たのは長い黒髪の背筋の伸びた女性。どこかで見た事のあるような気がして記憶を探っていると、こちらの視線に気が付いたのか、彼女が話しかけてくる。

「君は彼らと同じ部員の人?中々見事な殺陣を演じているね。見たところ同じ部員のようだけど、演劇部?」

 力強い響きを持ったその声で思い出す。ああ、この人は入学式の時の人だと。

「演劇部じゃなくてミュージカル部です。興味あるなら一緒にやりませんか?」

「私?うーん。残念だけど私は部活に入るつもりは無いんだ。悪いけど他を当たってね」

 一度話した事があるからといってどうという事もないので誘ってみるが、すっぱりと断られる。興味がありそうな気がしたんだけどな。

「駄目か?まあ気が向いたら来てくれ」

「そうさせてもらうよ」

 チラシを渡して琴吹のいる場所へと向かう。今日で見つかればいいけど何て考えながら。


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