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学園ミュージカルディゴ  作者: 多那彼方
16/21

第5章ー1

※※※


様々な出来ごとのあったゴールデンウィークも終わる。

あの日以来変わった事も変わらない事もある。

「ふうっ。そろそろ時間かしら?」

「もうそんな時間か」

坂中の家は意外なほど近くにあった。山の中腹にある同じ住宅地の隣の地区。

学校に行く前に寄ろうと思えば寄れる場所。

「……休みも終りね」

「大丈夫だって。みんなに会って確認したし」

「私まだ何も言ってないわよ!」

二人で山を下りていく。

このまま一緒に投稿したいけど、朝食を食べに一度家に帰る必要があるから、一緒に居れるのは山を下りるまで。

 朝食を食べてからだと思ったように歌えないからこればかりは仕方がない。

喋りながら横顔をうかがう。

坂中はこんな私を追いかけて来てくれた。慰めてくれた。

坂中の顔を見ていると落ちつく自分を感じる。感じている不安が和らぐ気がする。

「ザンハイのやつは次の舞台では歌えるようになってるって知っているなんてキザなこと言ってやがったし、河中は琴吹をイメージして書いたキャラが歌うシーンを脚本に入れていて、変える気はないって言ってたし、二条さんなんか琴吹のために親に交渉までしてくれてた。みんな応援してたぜ?何だかんだでいい奴らだよ」

みんなに会う事を少し恐がっている事がわかったのかな。みんなの想いを伝えてくる。

居場所は変わらずそこにあり続けているのだと、気にする必要などないのだと。

「っ!わっ私の部員なんだから当然でしょ!こっここで別れ道よね。遅れるんじゃないわよ!」

二手に分かれた道を走る。

顔が火照っているのを感じる。

言って欲しい時に言って欲しい事を言ってくれる。

反則だって思う。

だって、たったそれだけで、私の中にあった不安は吹き飛んでいたのだから。


※※※


授業開始10分前。

朝練でぐったりする奴や睡眠不足であくびをする奴。そんな朝特有のけだるい空気の教室で、陰陽のバランスを取るかのように騒がしいグループがあった。

「んぁああっ!陽光の煌めきを一身に受け、うら若き美少女達に囲まれながら1人の悩める麗しき乙女の登場を待つ僕。絵画にでも描かれていそうな美しき光景だね。これから乙女の悩みを受け入れ、共に解決の道を歩むことで彼女は我がハーレムの一員と成るのだね!はっはっは!なんて順調なハーレムルート!後はこの婚姻届に印を押すだけだね!」

「なんでそんなもん持ってんだよ!っていうか何枚あるんだよ!」

「はっはっは!真に優秀な男は準備を怠らないものなのさ!校内全女生徒の婚姻届くらい持っていて当然だろう?」

「んなわけあるかボケ!!」

「はははっ。朝から元気だね」

「あの……クラスでもこんな感じなのでしょうか?」

暴走するザンハイを叩いて止める俺に、それを見て笑っている二条さん。部活以外で初めて顔を見せる河中さんは、こんなクラスを見て何を思うのだろうか……まあいつも通りの光景だ

そんな風にはしゃぎながらも、俺たちの心の中は一人の人物の事で埋められていた。

ガラッ

今日何度目かの扉を開く音。しかし今回は期待を裏切られることなく、

「……おはよう」

「「「「おはよう!琴吹さん」」」」

悩める麗しき乙女の登場だった。

「やあやあ今日も綺麗だねっ!僕のハーレムに加わらないかい?」

「エアハーレムって虚しくないか?」

「おはよー。良い知らせ持って待ってたよ」

「あっあの、脚本出来たので読んで貰えないでしょうか?」

いつも通りに振る舞う俺達。

いつも通りを振る舞う俺達。

これが俺達の励ましで、伝えたい想いだった。『居場所はここにあるんだ』と。

「よっ、ようやく出来たのね。面白く仕上がってるんでしょうね?」

特別な事をしたわけじゃない。普通に振る舞う事、役を与える事。それだけで想いは伝えられる。脚本に書かれた無言のメッセージ。ヒロイン役の欄には琴吹の名前が刻まれていた。

「…………ありがとう……信じてくれて…………」

消え入りそうな程小さなその声は、しかし確実に届いていて、

「はっはっは!なんの事だい?僕はお礼を言われるような事をしたのかい?」

「お礼参りをされるような事はしてそうだけどな」

「襲われるの!?」

「うざすぎの罪で?」

「罪なの!?っていうか、そこまでうざいのかい!?」

「確かにちょっとね」

「否定されなかった!?」

「あの、それ人数分ありますからそのまま持ってて大丈夫です」

「そうそう、俺達もうみんな持ってるし」

「ごめんね、勝手に役は決めちゃったよ」

「はっはっは!僕の美演技に酔うがいいさ!」

真剣に返事をすることも、言葉で返事をする事も出来たろう。けど、俺達は『普通の姿』を返事にする事にした。

居場所の確かさを見せるために。

ここにいて良いんだと伝えるために。

零れた涙は透明な涙となって誰の目にもとまらなかった。


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