溢れんばかりの臨場感を込めて
俳句。
それは五、七、五のリズムに合わせてラップを刻むという原始時代から受け継がれる魂の句だ。いや、原始時代からあるならそれは魂の歌と言っても過言ではないだろう。
魂の歌、つまりソウルソングだ。
……すいません。嘘です。原始時代からはありません。多分、きっと、おそらくは。
だから僕は俳句キングなんて名乗ったりしません。
「俳句って具体的に何を書くのに?」
国語の授業中に渡された俳句を書くようの紙を見ながら然が不思議そうな顔をしていた。
「そりゃ、五・七・五のリズムに魂を乗せて歌うのさ! 然っち!」
「いや、魂乗せちゃだめだろ。死ぬだろうし」
「いやいや、俳句になら命をかけても惜しくないというキチガイ達がいたから今も俳句というよくわからない文化が残ってるんだぜ?」
「おい、神、とりあえず誤っとけ。歴史の俳句を生み出した人たち全員にな」
授業中の自由時間なだけあって周辺が騒がしいからか神の侮蔑とも取れる発言は誰にも聞かれなかったようだ。
「でも神の言う通りよ。松尾芭蕉の『古池や蛙飛びこむ水の音』なんてカエルが水に飛び込んだってだけなのよ」
「そこは風情とかそういうのを出す演出なんだぜ? 然っち」
「演出とかいうと急に安っぽくなるな〜」
なぜか僕の頭にカエルを掴み水溜りに投げつける鬼畜な芭蕉の姿が思い浮かんでいた。まぁ、会ったことないんだけどね。
「演出なら私が加えてあげるわ」
そういうと然はシャーペンを動かし何かを書き始めた。
「なるほど! 演出勝負か! ならばこの最高神が受けて立つ!」
「え〜」
神も然同様にシャーペンを動かし始めた。
これ、必然的に僕も書く羽目になるの?
「できたわ」
「俺もできた!」
「はやぁ⁉︎」
満足げな顔を浮かべる二人を見て僕はただただ不安しか感じないよう。
『目に涙、蛙飛び込む、地雷原』
「かえるぅぅぅぅ⁉︎」
目に涙浮かべて地雷原に飛び込むなんてなにか脅迫されてたとしか思えない!
「家族を人質に取られたから仕方がなかったのよ」
「重いよ! 五・七・七の句に載せるような風情じゃないよ!」
「やるな然っち! 熱いシチュエーションだぜ!」
「熱い⁉︎ 今のどこが熱いんだよ! どう聞いても黒い部分しかないよ⁉︎」
「蛙の一生は裏切りの連続だったの。だから最後に家族のために死ねて彼も満足だったと思うわ」
「勝手にサイドエピソードつけてんじゃねぇよ!」
「じゃ、次俺な!」
「僕の話聞けよ!」
こいつらには耳がついてないねかもしれない。だって人の話全然聞かないし! 周りのクラスメイトも止める気がない、むしろワクワクしてるみたいな顔をすんな!
「いくぜ!」
『古池や 蛙飛び込む I’ll be back』
「蛙どこ行くんだよ! 絶対古池じゃないだろ!」
「昔の母は弱い、守ってやってくれ」
「最新作⁉︎」
「そうして地雷原の中に涙を浮かべながら蛙は飛び込むのね」
「まさかの合作⁉︎」
「「ダダンダダダン!」」
「いろいろアウトだからやめろ!」
「ならこういうやつはどうだ?」
神がワクワクとしたような表情を浮かべてる。ロクなものじゃないな、これは
「……言ってみろよ」
『時は20xx年夏 地球は 核の炎に包まれた』
「俳句どころじゃないよね!」
「まぁ、この後救世主伝説が始まるからな」
「なら、むしろそこを書くべきだろうが!」
「私が書いたわ」
「なんでそんなくだらないことには積極的なんだよ!」
『我が生涯、愛に生き、一片の悔いなし!』
「どこに季語があるんだよぉぉぉぉ!」
「愛あたりよ」
「適当すぎるだろが! というか俳句じゃない! これはただの名言だろ!」
ゼイゼイと肩で息をする僕をふぅと言わんため息をつきながら二人は僕を見てきた。
なんなんだよ。
「「使郎はね 普通普通と つまらない」」
「うるせぇぇぇぇ! 俳句で僕をdisるなぁぁぁぁ! あと字余りな上に季語をいれろぉぉぉぉぉ!」
天白家は学校でも平和です(然の俳句は教師に涙を流させました)
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また、こういうネタでやってほしいみたいなものがあれば教えてくれれば幸いです