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次女という立場にあまんずることなかれ

 天白家次女の話をしよう。

 天白才華。それが次女の名前である。

 現在小学五年生。座右の銘は『天はわっちの上に人を作らず、わっちの下に愚民多し』という極めて尖ったものだ。

 ついこの間までは教会の神父様にマジカル八極拳なるものを習いに行っていたがすでに飽きたのか今日、僕が帰ってきた時点ではすでにリビングにいた。スクール水着で、だ。


「む、愚民兄ぐみんにぃおかえりでありんす」

「兄に向かい愚民とはいい度胸だな妹」


 よくわけのわからない構えをしながら我が残念妹、才華が声をかけて来た。どうしてうちの妹はバカばかりなんだろう。


「愚民兄、今失礼なことを考えなかった?」

「安心しろ。少なくとも妹である限り相手はしてやる」

「あにさま、わたしへのたいおうひどくありませんか!」

「一人称はわっちじゃなかったのか?」

「はっ!」


 相変わらず設定の甘い妹だ。その分まだ然より好感が持てるのだが。


「才華、お前マジカル八極拳とやらはどうしたんだよ」

「教わりに行っていた神父様がぎっくり腰で倒れたのでめんきょかいでんとやらをもらったのじゃ!」


 これが証拠と言わんばかりにぺったんこな胸元から紙を取り出しひらひらとさしていた。

 ぎっくり腰で免許皆伝…… えらく安いなマジカル八極拳。

 才華から受け取った紙に目を落とす。


『才華よ、儂の腰をくの字に曲げた一撃、まずは褒めておく。まぁ、儂、本気出してないんじゃけどね!』


 文面からの第一印象は最悪だなこの神父じじい


『しかし、まさか腰の骨を折られるとはまさかの爺ショック』

「お前、神父の腰の骨を折ったのか⁉︎」


 おもわず紙を握りつぶし才華を振り返った。


「だって『本気でかかってこい! なぁに保険にははいってる!』って言ってたから意味わからなかったけど」


 意味がわからなくても爺を殴るお前の神経がおかしい。そう考えながらも握りつぶした手紙を再び開いた。


『腰の骨を折られた爺はもうマジカル八極拳を使うことはないじゃろう。そして爺を要介護者にした才華には免許皆伝のじいちゃんストラップを与えよう。まさか一週間で免許皆伝とは』

「薄い! 一週間で極められるの⁉︎ マジカル八極拳!」


 そこから先は真っ白なためこれで終わりかと思っていたがしたの方にまだなにか書いてあった。


『追伸、願わくば爺婆には拳をむけるなよ? いや、まじで』


 読み終えた紙をビリビリに破きゴミ箱に捨てる。神父には悪いが運がなかったと思ってもらうしかない。


「師匠なんて書いてあったでありんす?」

「ああ、じいちゃんとばぁちゃんには拳をぶつけるなってさ」

「ふーん」


 すでに興味が失せたのさ才華は寝転がり漫画を読み始めていた。


「おい、宿題とかないのか」

「わっちは天才じゃから10分あれば余裕でありんす」

「そう言いながらお前この前のテスト30点だっただろ」

「……過去は通り過ぎたでありんす。未来を見よ」

「今の現状から推測される未来は30点以下だな」

「愚民兄はうるさいなー」


 めんどくさげに言う才華。こういうとこは然とそっくりださすが姉妹だ。


「ただいま」


 そんな事言ってたら我が家の問題児の長女が帰ってきた。


「然お姉さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 然がリビングに姿を見せた瞬間、今までけだるげな顔を浮かべていた才華が読んでいた漫画を放り投げ、弾けるように跳躍。僕の視界からあっさりと消えた。


「相変わらず人間離れしてるなぁ」


 弾丸の如く突撃してくる才華の顔面を右手で然は受け止める。


「然お姉様! 才華は、才華はお姉様に会えず寂しかったんじゃ!」

「私はそうでもないわ。朝には会ったし」


 才華にアイアンクローを決めた状態で然が無表情で答えた。……愛がねぇ。


「ねぇ才華」

「なんでありんす? 然お姉様」

「週刊ニャンプが読みたいわ。あとコーラ」

「買ってくるです!」

「三秒よ」

「が、頑張るでありんす」

「いや、無理だろ⁉︎」

「才華に不可能はないのよ」

「三秒というのがすでに現実不可能なんだよ!」

「然お姉様の期待に応えてみせるでありんす!」


 アイアンクローから解放された才華は拳をグッと握り駆け出そうとした瞬間、然は才華の足元にスッと足を引っ掛けるように伸ばした。

 当然駆け出そうとした才華は然の足に引っかかり盛大にこけた。


「あだぁ!」

「おい、顔面からいったぞ」

「私の妹よ? 無傷に決まってるわ」

「以前から思ってたがお前の妹への信頼はおかしい!」


 こいつは妹を定のいい道具としか見てない気がする。

 然はスタスタと自分が転がした才華の元に近づいて行く。


「才華よく考えなさい」

「えぇ?」


 顔を上げた才華は鼻を打ったのか少なくない血が出ていた。痛々しい。


「あなたその格好で外に行く気?」

「然がまともな事を言ってる⁉︎」


 なんだろう! 当たり前のことなんだけど然がまともなことを言うなんて天変地異の前触れなのかもしれない。

 しかし、才華はいい加減スクール水着を脱いでまともな服をきてほしい。


「あなたは普段そんな服で外に出歩くと言うの?」

「そうでした! 然お姉様! すぐに着替えてくるでありんす!」


 バタバタと音を立てながら才華は二階に上がっていく。おそらく自室にむかったのだろう。


「然、お前たまにはまともな話ができるんだな」

「私はいつでもまともよ」


 そう答えながら然はリビングの時計を眺め、


「三秒たったのにまだ私の手元にニャンプがないわ」

「あれ本気だったのか!」


 恐ろしいよ然。お前には冗談が通じない。


「然お姉様! 着替えてきました!」


 息を切らして姿を現した才華やたらとヒラヒラとした物がいっぱいついた、


 メイド服だった。


「あの然お姉様、似合ってますか?」

「さすが私の妹、なんでも着こなす。そして私の目に狂いはなかったわ」

「ありがとうごさいます!」


 パァっと笑顔を浮かべる才華。その笑顔を僕はため息をついて見ていた。


「……ああ、お前の目に狂いはないだろうが頭がトチ狂ってるんだよ。どこの世界に妹にメイド服を着せる姉がいる!」

「ここ?」

「なんで疑問形で自分を指差す! というかお前しかいないよ!」

「ちなみにこのメイド服、神がくれたわ」

「あいつも変態か⁉︎」


 一応、親友の意外な変態性を垣間見た気がするよ。


「では天白才華! ニャンプとコーラを買ってくるでありんす!」

「その愁傷な心がけに免じて五分にしてあげるわ」

「ありがとうございます!」

「いや、無理だろ!」

「後は私への愛を買ってきてね」

「了解でありんす!」


 僕の叫びを無視し才華はリビングを飛び出して行った。

 然への愛って。


「お前への愛ってコンビニで買えるなんて安いな」

「私への愛で何を買ってくるか楽しみじゃない?」


 やっぱりこいつ最悪だ。


「お前、悪魔だな」

「私のどこを見て悪魔だというの? 美少女よ?」

「心が腐ってる!」

「早すぎたんだ、私が生まれてくるのが……」

「時代のニーズに合わせて生きろよ!」

「あいるびーばっく」

「もうわけがわからない!」

「ところであの子、メイド服なんか着て恥ずかしくないのかしら?」

「今更普通のリアクションかよ!」


 だれかこいつと話をするための翻訳機を用意してくれませんかね? このままにしていたらいろいろ危ない気がするし。


「ただいま戻りました!」


 すごい音を立てながら才華の声が聞こえ、ドタバタと近所迷惑な音を立てながらリビングに入ってきた。


「五分三十秒、かなりオーバーしてるわ」

「ごめんなさい! 然お姉様!」

「いや、十分に早いだろ」


 どれだけ全力で走ったのかわからないが才華は汗でビッショリだ。さっきまでヒラヒラしていたメイド服が汗で肌にへばりついていた。


「まぁ、いいわ。私への愛は?」

「はい、これです!」


 ガサガサと才華が袋を漁り取り出したものをドン! っと音を立てテーブルに置く。


「これがわっちの然お姉様への愛! コカコーラ二リットルでありんす!」

「多いわ」

「妹をパシリに使っといてそのリアクションかよ」


 ひどい姉だよ。全く。


「では姉として労うわ。才華、コップとって」

「はい! 然お姉様!」

「いや、早速使ってるじゃん。労ってないし」


 言われた才華もまったく疑問に持ってないし。この姉妹には常識がなさすぎやしませんかね?


「はい、愚民兄ぐみんにぃにもあげるでありんす」

「あ、ありがとう」


 差し出されたコップを受け取り感謝を告げる。こうしていたら普通の妹なんだけどなぁ


「ではまず労いの意味を持って私が才華に注いであげるわ」

「ありがとうございます! 然お姉様!」


 才華が嬉しそうにコップを然に差し出し然がペットボトルを掴む。

 しかし、ここで気付いた。才華は往復十分かかる道のりを五分で帰ってきた。

 しかも汗だくで。

 つまりかなりのスピードで走っていたのだ。コカコーラを入れた袋を持った状態で……

 そして気付いた。コカコーラの入ったペットボトルの口が才華の持つコップではなく才華の顔のほうに向いていることに。


「ちょっと、まっ!」


 僕の制止を無視し、然は才華に向けていたペットボトルの蓋を捻った瞬間、


 プシャァァァァァァア!


「「目が、目がぁぁぁぁぁぁっ!」」


 才華の後ろにいた僕にまでかかった! 染みる! コーラが半端ないくらい目に染みるよ!


「痛い! 痛い! 痛い!」


 僕よりも前にいた才華はより勢いよくかかったせいか転がり回ってるし。


「つまり愛は痛かったわけよ」

「うまくもねぇよ!」


 転がり回る才華を見ながら僕と然はそんな会話をしていたのだった。


 天白家は今日も平和です(炭酸を持って走らない)

よろしければご意見・ご感想をお寄せください。


また、こういうネタでやってほしいみたいなものがあれば教えてくれれば幸いです

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