料理に必要なのは愛情
料理は難しい
料理。
美味しいものを食べたいという人の欲望の形である。煮る、焼く、蒸す、揚げるという工程をへて作られる究極形だ。
かくゆう僕も料理はそこそこできる。ただしレシピがないと作れないが。
そう人は僕のことをこう呼ぶ。
「料理の鉄人と」
「お腹が減ったわ。鉄人」
然と僕は家のキッチンにいた。
「仕方ないよ。母さんは父さんのお見舞いに行ってるんだから」
先日、脱水と食あたりでたおれた父さんは今だ病院だ。そのため今日は夕食が準備されていないのだ。
「私の料理の腕を披露する時が……」
「仕方ない。出前をとろう」
然がなに言いかけたが遮る。然が料理? おいおい、そんなの眉間に銃突き付けて引き金引いたら死ぬ! って確率くらいやばいよ。
「なぜ私に料理を作らしてくれないの?」
「然が料理すると誰かが体調不良になる」
こいつはまともに料理ができない。いや、しないと言った方がいい。なにせいろいろ混ぜるのだ。素人の料理の失敗で一番多い失敗はオリジナリティというわけのわからない見栄だ。そんなもの使わずに偉大なる先人がのこしたレシピ通りに作れば問題ないというのに。
「然が料理を作ると言うなら出前だ。それで僕はハッピーになれる」
「私はハッピーじゃないわ」
「僕は死体役にはなりたくないし」
「なら使郎も一緒に作ればいいじゃない」
「……ちなみになにを作るんだ」
「そうね。今日のところは手軽なやつにするわ」
「手軽なやつ?」
手軽なやつなら大丈夫か。卵料理なら横で見ている分には失敗はないだろう。
「今日は手軽に満漢全席にするわ」
「一日で食べきれる量じゃないし今から作ってたら朝になるよ! しかもお手軽じゃない!」
「少しずつ作るだけよ?」
「手間を考えろと言ってるんだよ!」
首を傾げてるけどコイツ、理解してないな。
「とりあえず、満漢全席は却下だ。お手軽というか失敗の少ないやつにしろ。卵焼きとか」
「じゃ、卵焼きで」
然がそう言うと冷蔵庫から卵を取り出す。その間に僕は他の物を準備しよう。
「使郎」
「なんだ?」
「まずはゆで卵を作るわ」
それくらいなら出来るか。
「じゃぁ、僕は味噌汁を作るからな」
「むぃ」
鍋に水を入れIHクッキングヒーターのスイッチを入れる。後は適当に味噌を混ぜて少量の『増え増えわかめちゃん』を入れる。入れすぎると大変だからね。
ドォォン!
「なにごと⁉︎」
「大変よ。卵が爆発したわ」
「爆発⁉︎ 鍋に水張ってたんじゃないのか⁉︎」
然が相変わらずの無表情で淡々と告げて来た。
その後ろにはいろいろとグチャグチャとなっている電子レンジがあった。
「おい」
「使郎、卵は兵器にになると思うの」
「普通は卵を電子レンジで温めたりしない!」
そんな常識も欠如してるのか。
「卵が古かったのよ」
「新鮮度は関係ない!」
とりあえずこいつに卵は早かったか。
「卵には触るよ? これ切っといてくれ」
「わかったわ」
そう言うと然にキャベツを渡す。先程の失敗は支持を出さなかったことだ。つまり大まかな指示ではなく細かい指示を出せば然でもできるだろう。
そう考えIHにかけたままの味噌汁のほうに向き直る。
ふふふ、いい感じに煮込まれてるな。あとはもうだし弱火にしとくか。
チョキチョキチョキ
「何の音だ?」
まるで何かを切るかのような、ハサミで切っているかのような音だ……
「ハサミ⁉︎」
再び然の方に振り返ると然は確かにキャベツを切っていた。包丁ではなくハサミでだが……
「切りにくいわ」
「ハサミだからな!」
「私の愛刀よ?」
「愛刀だろうが料理にいや、野菜を切るのにハサミは使わない! 包丁を使え!」
野菜すら切れないのか! こいつは!
「ほら、これで切るんだよ」
「わかったわ」
不安だ。凄まじく不安だ。目を話すのが怖いし。
「では行きます」
「待って! 切るんだよ⁉︎ なんで居合みたいに構えてんだよ」
「悪・即……」
「斬はやめろ! なにが切れるかわからない!」
然から包丁を取り上げ素早くキャベツを刻みさらに盛り付ける。新たに冷蔵庫から卵を取り出し目玉焼きを作り同様に皿に盛る。
味噌汁はもうちょっとかな。
「然、味噌汁がふきでないか見張っといて。ちょっとトイレに行ってくるから」
「わかったわ」
然に味噌汁の番を任せトイレに向かう。流石に然でも見とく位はできるだろう。
…………スッキリ!
手を洗い再びキッチンに戻る。
「然、味噌汁大丈夫か?」
「……ええ、大丈夫よ」
そう言い、然は一歩横にずれる。すると、
「おい」
「なに?」
「なんだこれは?」
「使郎の作った味噌汁でしょ?」
「僕の作った味噌汁はこんなのじゃない」
僕が指差した元味噌汁の鍋には山盛りのワカメがもられていた。試しにお玉で混ぜてみると味噌汁は一切なくワカメだけだった。全部ワカメが吸いやがった!
キッと然を睨みつけると、
「量が少なかったから増やしたのよ」
「増えるんだよ⁉︎ 少量でも水分すって!」
「使郎、人間は失敗することで大きくなるわ」
「お前は今日は失敗しかしてないからな!」
「器の小さな男に育ったわね。父さんが泣いてるわ」
「主にお前の失敗に怒ってるんだ! あと父さんが死んだみたいに言うな!」
「それよりお腹が減ったわ」
「お前、本当に自由だな」
もう、言い返す気力もなくなった僕はぐったりとしながら味噌味のワカメをお椀によそう。そこで気付く。
「おい」
「なにかしら?」
「目玉焼きとキャベツのサラダにかかってるのはなんだ?」
目玉焼きとキャベツに何かがかかっていた。
「スコヴィル値100万、MAD DOG'S REVENGEよ」
「直訳で狂犬の逆襲⁉︎」
なんだそれ⁉︎ スコヴィル値ってなに!
「スコヴィル値は辛さの単位よ。唐辛子の辛さを量る単位であるスコヴィル100万超えのタバスコ約500倍の辛さ、それがMAD DOG'S REVENGEよ」
「…………それは食べれるのか」
すでに匂いだけで目が痛い。さすがにこれには然も眉を潜めた。そりゃそうだろう。辛いものばかり、しかも辛くないのが味噌味のワカメだけなんて食べたくないし。
しばらくの間沈黙が場を支配する。
「出前取りましょう」
「初めからそうしようと言ってるじゃん!」
天白家は今日も平和です(キッチン混沌中)
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また、こういうネタでやってほしいみたいなものがあれば教えてくれれば幸いです




