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バレンとホワイトの物語

作者: 高岡ミヅキ

これは昔々にあった二人の特別な想いが生んだ物語。

今からずっと昔、タインという国に、それは美しい声をもつお姫様がいました。お姫様はバレンといいます。

しかし、バレンの美しい声に嫉妬した魔女が、まだ幼いバレンの声を奪ってしまいました。

「お前の声は、お前が愛する者の誰一人にも届かすまい」

そうして、バレンはその時から声を出すことはできなくなったのです。

泣いても、笑っても、怒っても、声も、気持ちも伝えられなくなりました。


それから時は経ち、バレンは15歳になりました。

キレイな女の子に成長したバレンですが、笑顔も絶えて、元気のない女の子になりました。

音楽を聞いても、踊っても、楽しいことは一つもありません。


ある夜のことです。賑わう舞踏会を抜け出して、バレンは庭で一人で泣いていました。声もでないから、誰も暗闇のバレンには気付きませんでした。

しかし、その夜だけは違いました。

舞踏会を抜けて散歩をしていた縦笛吹きのホワイトが、バレンを見つけたのです。


「バレン姫。涙を拭いて、笑って下さい」

そういうとホワイトは縦笛を、バレンだけのために吹きました。

優しい月の光が二人を包み、寄り添う二人は、静かに微笑み合いました。

それから二人は仲良くなって、いつしか愛し合うようになりました。


それからバレンも少しずつ元気が出てきて、笑顔をみせるようになりました。

王様はそんなバレンを喜ばしく思いましたが、ホワイトとの仲を許すことはできませんでした。

「ホワイト、お前はただの縦笛吹きだ。いくら二人が仲良く睦まじくとも、一国の姫と縦笛吹きの結婚は認められないのだ。」

そしてホワイトは言いました。

「ならば王様、私がバレン姫の声を魔女から取り戻して参ります。そうしたら、私たちの結婚をお認め下さい」

それを聞いて、誰もが驚き恐れました。バレンはホワイトに頭を振りました。王様は言いました。

「あの魔女は、世界で一番美しく、そして一番恐ろしい魔女である」

「わかっております」

「無事帰ることもできないかもしれぬ。殺されてしまうかもしれぬぞ」

「わかっております」

そしてホワイトは力強く言いました。

「私の愛は、この命をかけても貫き通し、一生かけても愛する方を守る覚悟の印なのです」


出立の日、ホワイトは涙を浮かべる姫に、

「必ず戻り、あなたを幸せにします。待っていてください」

と伝え、国中の人に見送られながら魔女の元に向かったのでした。


ホワイトは山を超え谷を越え、湖を渡り、森を抜けて、魔女の元に向かいました。そうしてホワイトは初めて魔女と対面したのです。それはそれは美しい魔女でした。

「縦笛吹きのホワイト。よくぞ参られた。さあ側に来て、その勇敢なる顔をよくお見せ」

ホワイトが側へ寄ると、美しい魔女は大きなドラゴンに化けてホワイトに襲いかかりました。


ドラゴンは体中ただれていて、年もとっているようで、あまりに醜い姿でした。

「私は昔、大昔、人間の望むものを与えたにもかかわらず、私を傷つけ誤りもせず、醜いと火を向け何度も殺そうとしたのだ。憎い。憎い」

涙を流しながらドラゴンはホワイトに襲いかかりました。爪を立て、火を吹き、竜巻を起こしました。

しかしホワイトは反撃をしませんでした。

「あなたの声は美しい。あなたの声はバレン姫の声ではないか」

ホワイトは言いました。するとドラゴンは答えました。

「美しいものが羨ましい。そして憎い。私はあらゆる美しいものを人間から奪ってきたのだ。顔も肌も髪も爪も声も」

ドラゴンは泣きながら、叫び続けました。

「こんな醜い私を誰が愛そうか。こんな私を、誰が求めるものか。誰もが憎い。ああ、憎い」

「あなたを倒せば、何もかもが消えてしまうのだ。私はあなたを倒せない」

ホワイトは涙を流すドラゴンに、縦笛を吹いて聞かせます。するとドラゴンは静まり、耳を傾けました。

「私は誰もが憎い。声を奪いにきたお前も憎い」

「それでも構いません。だけど、あなたのことを知った今、私はあなたを傷つけることはできません。だから、私はあなたのために歌い、その傷を癒すお手伝いをしましょう」

「その前に、お前を殺して、お前の美しい心を奪ってやる」

ホワイトは縦笛を吹き続け、ドラゴンはホワイトを痛め続けました。


ホワイトが国を出てから3年もの月日が経ちました。バレンもすっかり大人になり、いろいろな国の王子様や貴族の息子に求婚を申し込まれるようになりました。

どんなに王様に進められようとも、断りました。なぜなら、バレンはホワイトを信じて待ち続けていたからです。


そして、ついにホワイトが国に帰ってきたのは、新しい年が開け、雪が溶け始めた春の陽気が感じられる頃でした。

ホワイトは無事に帰ってきたのです。


誰もが祝福しました。王様も無事の帰りを出迎えました。

そしてバレンはホワイトに駆け寄り、二人は抱きしめ合い、キスをしました。

「バレン姫、会いたかったです。私は幸せです。あなたに出会い、愛し合い、こうしてあなたに真に愛を示せたのです。私は、あなたを愛しています。一生をかけて、あなたを幸せにします。バレン姫」

バレンは涙ぐみながら、胸に積もりきった思いを喉に通し、口に出しました。

「私も、あなたを愛しています。ホワイト」

それがバレン姫の最初の一声となりました。

その愛が王様にも認められ、しばらくして二人はめでたく結婚式を挙げました。


その次の年の2月、バレンは自身の誕生日にホワイトに好物のチョコレートをプレゼントしました。

「今の私の幸せがあるのは、あなたがいたからです。誰よりも、愛しています」

そしてそのお礼として、ホワイトは、自分が国に帰ってきて祝福された3月のその日にバレンに大きなバラの花束をプレゼントしました。

「私の幸せがあるのは、あなたの笑顔がいつだって私の心を明るくするからです。誰よりも、誰よりも、あなたを愛しています」

この二つの日が、それから国では特別な日となり、大切にされるようになりました。


バレンとホワイトは、末永く幸せに過ごしました。

2月と3月の特別な日が、どうして大切にされるのでしょうか。

どうかこの二人の物語を覚えておいてください。


あなたがその心を伝えたい人は誰ですか。

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