DAY 6
ちょいいつもより長めなのでご注意下さい。
十人十色という言葉をはじめて聞いた時はすごい上手いことを言ったやつもんだなぁと感動したのを覚えている。そういう言葉をもっと知りたくなって、四字熟語やことわざが沢山乗っている辞典なんかを良く読んでいたのだが、大は小を兼ねるという言葉だけは納得できない。
だってそうだろ!スマホが無いからって家の電話を持ち歩くか?デスクトップのPCしかないからってスーツケースに入れて持ち歩くか?
答えは否だ。否否否だ!
そんなことは絶対にないし、小さいものが大きいものを兼ねるなんていうのは嘘っぱちで、ことわざや四字熟語なんていうのはちょっと上手いこと言ってみましたっていうぐらいのものでしたかなかったのだ。全部が全部を否定するつもりはないが、しかしこの大は小を兼ねるという言葉には異を唱えずにはいられない。だってそうだろう?小さい子の事が好きなのにおばさんが好きになれるのかっていう話だ!
「俺はそんな風に考えてるんだが、若葉はどう思う?」
「特に何も思いません」
「……リンはどう思う?」
「スマホは便利だよね。この前お魚さんを育てるアプリを入れてみたんだけどすっごく楽しいよ」
「リン、俺が言いたいのはそういうことじゃないんだよ」
「それで一体何が言いたいんですか?」
「つまり、世界はロリコンに傾いているということを言いたいんだよ」
「は?」
「だからな。大が小を兼ねるんじゃなくて、小が大を兼ねるような世の中になってきたということはつまりだ。世界はロリコンを増やそうとしている……ということなんじゃないのか?」
「何を言っているのか全く意味が分かりま……」
「何故わからないんだ!分かろうと努力したのか?いや、していない!していないだろう若葉!」
「なんで今日はそんなに暑苦しいんですか……」
「ヒロくん、私、わかるよ!」
「おお!リンは分かってくれるのか!」
「それってつまりヒロくんは私のことが好きっていうことだよね」
「……なにいってんの?」
「ヒロくんは小さい私が大好きっていうことだよね!」
ふんふんと鼻息を荒くしてリンが言ってくる。この子は何を言ってるんだろうね。俺がせっかく高尚な話をしているというのに色恋沙汰などに変換するとは全く呆れてしまう。
「全く、リンはそんなことばかり考えているからいけないんだぞ。これからの世界がどうなっていくのか、未来を見て行動しなければいけないんだ……。そう幼女達に囲まれ、慕われ、お兄ちゃん大好きなんて言われる毎日を送りたいんだ……」
若葉が盛大に溜息をついているのが聞こえる。まぁいい。今日はこういうテンションで行こうと決めているんだ。全開の俺を見れば二人も安心することだろう。そのためならいくらでも道化になってやる。
うんうんと遠い目をしながら明後日の方向を見る。
「天崎くん……、もしかして打ち所が悪かったんですか……?」
心配されてしまった!なぜだ!俺の計画では呆れてしまっていつも通りになると踏んでいたのになぜそんな心配そうな顔をするんだ……。
「いや、いつも通りだ」
「いつも通りじゃないですよ。いつもの2倍はウザいですし、いつもの3倍は気持ち悪いです。頭大丈夫ですか?」
「うざっ……」
小声でリンがそう言ったのが聞こえた。
「……今なんて言いました?」
「うざいって言ったの。聞こえなかったの?ヒロくんが私たちに元気に見せようとしてるっていうのにどうしてそんな風にしか言えないのかな?」
え?ばれてたの?
「そんなことわかってますよ。だからこそ私はいつも通りにしてあげてるんじゃないですか?」
え?逆に気を使われてたの?さっきのってそういうことだったの?
「なんでそれが普通なの?いつも思ってたんだけど、若葉ちゃんって口悪いよね。本当は性格すごく悪いんじゃないの?」
「なっ!違いますよ。それはいつも天崎くんが変なことばかり言うからですよ!」
えー、あぁ、まぁ変なことは言ってるかもしれんが、いつもじゃないだろ。いつもじゃ……。
「別に変でもいいじゃない!若葉ちゃんの性格が悪いっていう話をしてるんだよ」
あ、そう。リンも俺のこと変だって思ってるんだ。へ、へー。
「性格が悪いっていうならリンさんの方じゃないですか?昨日の電話のこと天崎くんに教えてあげましょうか?」
え?なになに電話って、何か悪口でも言われてたの?ロリコン変態やろうとかそんな感じ?
「さいってぇ!そういうところが性格悪いっていうんだよ!」
それより俺の左右で喧嘩するのやめてもらえませんかね。なんか俺が責められてるみたいで嫌なんだけど。
「リンさんの方が性格が悪いということを説明するのはちょうど良いと思っただけですよ?」
なんだろう。道化になってもいいなんてそんなこと考えてたけど。
「ヒロくんの前でそんなこと言わないでよ!若葉ちゃんの馬鹿馬鹿馬鹿!」
今の方がよっぽど道化って感じじゃない?道化を演じるものは信の愚者のみ。あ、なんかことわざが出来ちゃった。今の俺にぴったりだね。
「リンさんの方からはじめたんでしょう?いつもそういう風に私のこと思ってたんだったら言ったら良かったじゃないですか?今更言うなんて陰湿ですよ」
そろそろ……止めるか?
「何でも思ったことを正直に言ったら良いってものじゃないよ!私、思ってたってウザいなんてヒロくんに言ったことないんだから!」
……泣きたい。幼女のひざまくらでなでなでされながら泣きたい……。
「リンさんだってうざいって思ってたんじゃないですか?それなら別にいいでしょう。ウザい天崎くんだって……。あまさき……くん?」
「なに?ボクもうおうちに帰る……」
「ヒ、ヒロくん。違うんだよ。私はただ若葉ちゃんが酷いって……」
「リンはいつもボクのことウザいって思ってたんだ……ね」
「うっ……」
「天崎くん、そんなこと言わずに学校に行きましょう。私も少し言い過ぎましたけれ……」
「ボク、ウザい天崎くん……ボク、ウザい天崎くん……」
「うぅ……」
「ああ、今日はとても晴れていたというのにどうしてボクの足元にだけこんなに雨がぽとぽとと降っているんだろう。あっこれって涙だったんだ。ははっ、そっかそっか。ボク、泣いてたんだ。ははっ……」
「うう……」「あうう……」
「あれ?どうしたの二人とも。ウザいボクのことなんて放っておいて、喧嘩しなよ。仲良く喧嘩してなよ……」
「あ、天崎くん。ごめんなさい」
「ヒロくんごめん」
「え?なに?なにに謝ってるの?」
「え?そ、それはウザいって言っちゃったことだよ」
「え~?別にボク本当にウザいんだし、本当のことだよ~?」
「……」
「じゃ、そういうことで」
俺はとぼとぼと家へと引き返して行った。
昨日も休んで、今日も休むんだな。なるほどこれがニートのはじまりっていうやつか……。不登校なんて、俺には関係ないことだと思ってたんだが、こういう風にして人は傷ついていくんだなぁ。
裏切られたという気持ち?いや、そうじゃないな。あの中で生きている自分の姿が想像出来ない。あの中に溶け込めるなんていう風に思えない。
そうさ、俺には幼女たちがいるんだ!舞ちゃんやミリアちゃんという幼女たちと一緒に毎日楽しく遊んでいよう。それが俺の本当の日常なんだ!
「……幼女……ふへへ……俺には幼女しかいないんだ……」
あ、なんか俺の方をすごく唖然とした目で眺めてるおばさんがいる。おばさんなんかいらねぇんだよ。幼女を出せ、幼女を!
「幼女ぉぉぉぉぉ!」
ああ、この叫びによって俺の存在が拡がっていくのを感じる。
「これが!俺の!全てだぁぁぁぁ……むぐぐぅ」
口をふさがれた。俺の邪魔をするのは誰だぁぁぁ!
「ななななな、何やってるんですか!」
「むぐぐぅぅ……」
「落ち着いて下さい。こんな往来で変態宣言したって何も良いことはありませんよ!」
「……」
「わかってくれましたか?」
ペロ……。
「うっ……」
ペロペロペロペロペロペロ。
「うあぁうああぅぅああああああ!」
「ふはははははは」
じゅるり。
「俺を止められるものは最早どこにもいないんだ!俺はこれから全ての幼女を……幼女をぺろってやる!」
「馬鹿なことはやめなさい!そんなことをしても警察に捕まるだけですよ!」
「逃げきって見せるさ……。そうだ、今の俺にならなんだって出来る。幼女のためなら今までの自分なんてすべて捨ててやる!」
悦びに打ち震える俺の瞳は涙に濡れていた。昔の自分への決別が悲しいか?それも刹那の物に過ぎないさ、これから俺は新しい自分に生まれ変わるんだぁ!
「ヒロくん戻ってきてー!愛してるー!」
「うるさい!俺は幼女が好きなんだ!ばばあは帰れ!」
「ヒ、ヒロくん私はまだ高校生だよ!」
「高校生?……はっ!中学生以上はおばさんなんだよ!ばーか、ばーか!」
「……」
ゆらゆらとリンが揺れてその場に倒れ込む。
「リ、リンさん?天崎くん、話し合いましょう。今のあなたはただ少し錯乱しているだけです」
「うっさいばばあ!」
「な……んですって?」
「だ~か~ら~、ばばあはうっさいって言ってるんだよ。いつもいつも真面目ぶって良識家みたいに振る舞ってるけどさぁ、それって自分に酔ってるだけなんだろ~?そういうの見え見えなのに説教されても全然心に響かないし、うざいだけなんだよ!」
「私は貴方のことを考えて言ってるんですよ!自分のためじゃありません!」
「はっ!俺のため?俺のためだって?じゃあ俺のために説教をやめてくれ!迷惑なんだよ!」
「!?」
「ああ、そうさ。俺はずっとずっと迷惑してたんだよ!若葉のせいで幼女を落ち着いて眺めることが出来ないしな!」
若葉が俺には何を言っても無駄だと悟ったのか顔を反らす。
これでいいんだ。これでよかったんだ!俺はそう、あの子と……。
「?」
あの子?誰だ?
「うぅぅ」
頭が痛い。何か得体のしれない何かが脳を圧迫している感覚がある。思わず手で頭を押さえるがその感覚はより一層圧力を強めたような気がした。
視界が明滅するように景色が何度もフラッシュするのを見ていられなくて目を瞑るが、瞼の中でも変わることがない。
その場にうずくまって頭を抑える。
逃げ場がないという恐怖。何か忘れている気がする。思い出さなくてはいけない。そうそれは何年も前の約束で、その約束をずっと俺は守っていたはずだ。守らなければいけないと思って、そして俺はずっとずっと……。
誰かに頭を撫でられている感覚。ああ、これを俺は覚えている。約束を忘れないために刻み込むためのギシキだと言っていたっけ。あの子は……。
「起きてください!大丈夫ですか、天崎くん?何があったんですか?」
「うあ?若葉?」
わめくような声に目を覚まして顔を上げようとすると頭に痛みが走って、目を細めてうめき声が出る。
「リンさん、天崎くん。目を覚ましましたよ!」
「ヒロくん?ヒロくん、良かったよぉ……本当に良かったよぉ……」
「なに、二人とも慌ててるんだ?」
俺は気づけば道路に倒れていた。周囲は騒然としていて、野次馬が集まっていた。
最近良く気を失うなぁ。貧血なんて今まで全然なかったのに。
「すまん。迷惑かけたみたいだな。すぐ起きる」
「お兄ちゃん大丈夫?」
身体を起こして声の方を向くとミリアちゃんがいた。
「あれ?ミリアちゃん。どうしてここに?」
ミリアちゃんは可愛らしく小首を傾げていう。
「たまたま通りがかったら人がいっぱい居たから来てみたらお兄ちゃんが倒れてたの」
「あ~そうか。まぁ大丈夫だよ。心配ない」
首を犬ようにぶるぶると振って頭に張り付いた鬱屈した空気を振り払う。
周りをもう一度見ると野次馬は減っていっていた。俺が目を覚ましたからだろう。
「すまん。もう大丈夫だ。学校に行こう」
「ヒロくん、今日は休んだ方がいいと思うよ」
「私もそう思いますよ。きっと昨日のことがまだ……。本当にすみません」
「いや、全然昨日のことは関係ないと思うぜ。別に朝から辛かったわけじゃないしな。若葉は気にすんな。それに本当にもう大丈夫だ」
と言っても2人は心配そうな顔をする。まぁ、休んだ方がいいか?2人に心配をかけるのも良くないし、本当に本調子じゃないのかもしれない。
「お兄ちゃんは今日お休みなの?それじゃミリアと一緒に遊ぼうよ」
ミリアちゃんがそう言ってくる。本当に子供というのは無邪気なものだ。
「ダメ!!!!!」
リンの鼓膜が破れるほどの声に顔をしかめる。
「絶対にダメだからね。ヒロくん。今日は家でゆっくり休んでてね。約束だからね」
「あ、ああ。まぁそういうことだ。ミリアちゃんと遊んでる時に俺が倒れたりしたら迷惑かけちゃうからな。遊ぶのはまた今度にしようね。ミリアちゃん」
ミリアちゃんはぷ~っと頬を膨らませた。かわええ!
「むー分かったよ~。それじゃまた今度ね。お兄ちゃん」
そう言って無邪気にミリアちゃんは走っていった。
「はぁ、なんだか気に入られてるみたいですね」
「幼女には気に入られるように心がけているからな!」
「他の人にもその半分ぐらい気に入られるように心がけて下さいよ……。さっきはびっくりしましたよ」
「さっき?俺何か言ってたか?なんだかあまり良く覚えてないんだが」
「え?私にばばあだとか説教ばかりするなとかって言ってたじゃないですか?」
「……覚えてないんだが……」
「はぁ……。もういいです。聞かなかったことにしてあげます」
「?あ、ああすまん。なんか良く覚えてない。酷いことを言ったんだったらごめんな」
「素直すぎて怖いんですけど……。本当に大丈夫ですか?リンさんも何か言ってあげて……リンさん?」
リンはミリアちゃんの去った方を眺めている。いや、眺めているというよりも睨みつけていた。今まで見たことがないような表情に背筋が凍る。
「おいリン?」
はっとして振り返ったリンはいつも通りの笑顔だ。
「な、何かな?」
「いや、ミリアちゃんがどうかしたのか?」
「……大丈夫。ヒロくんのことは私が守ってあげるからね。ヒロくんは何も心配しなくてもいいよ」
「?いや、何言ってんだお前」
「ふふっ。でも良かった、元気そうで。若葉ちゃんの昨日の”蹴り!”のせいでヒロくんがおかしくなっちゃったのかと思ってたよ」
「ぐ……」
若葉が呻いた。
思わずため息が出てしまう。仲良くしてほしいものなんだが。
「2人はちゃんと学校にいけよ。俺は家で休んでるからな」
「分かりました。ちゃんと休んでいて下さいね」
「ヒロくん、ゆっくり休んでね」
適当に家に戻り、母親に事情を話してへやに戻る。今日は朝から色々とあって、疲れてしまったからだろうか?昨日の昼も夜も休んだというのに寝たりないとは、人間の体は不思議なもんだ。環境というのもあるのかもしれない。休みの日は大体外に出ているから部屋は寝るためのものなんていう風に体に染み込んでいるのかもしれない。
まぁだからなんだという話だ。とりあえず寝ることにしよう。寝ようと思う時に眠れるなんて考えてみればいいことじゃないか?
眠りに落ちる瞬間は自分自身では絶対にわからない。あくまで俺はという話で分かる人もいるのかもしれないが、俺には分からない。でも、今は眠っているというのをたまに感じことが出来る時がある。今はそういう状態だった。
ああ、自分は夢の中にいるんだろうなぁと分かる程度で、だから何が出来るというわけでもない。自分の夢だからといっても勝手が出来るわけじゃない。『表層で幼女に会いてぇ!!!すっごく会いてぇ!!!』と願っても深層が、『え?何言ってんの?どっちかっていうと食欲じゃね?肉食え肉』と考えていれば、肉を食うということになってしまうということなんじゃないだろうか?いや、どうなんだろう。良く知らんから知らんが。俺がどんなに幼女に会いたいと思っても会えない。
そう、だから夢の世界でそれが夢だと認識できたとしてもなんの得もないというわけだ。それどころか寝ていたのに寝ていた気がしないのだ。
と、そうは思っていても俺は幼女に会うことを願ってしまう!幼女!幼女!幼女!
「ヒーくん。何してるの?」
「む?」
幼女の声が聞こえる。この声はミリアちゃんだ!
「ミリアちゃんじゃないか!どうしたんだい?」
「ふふふ……。ヒーくんの夢の中に遊びにきてあげたの」
「なんと!素晴らしい。ミリアちゃんに会えるなんて僕はとても嬉しいよ!」
夢の中で思った通りに幼女に会えるなんて最高じゃないか!
「ヒーくん、座ったら?」
いつの間にか真っ白な世界の中に真っ白な椅子が二つと机が現れていて、その片方にミリアちゃんは座っていた。
「ああ、座らせてもらうよ」
俺はミリアちゃんの向かいの席に座る。顔が自然ににこやかになってしまう。
「僕の夢の中にまで遊びに来てくれるなんて、ミリアちゃんは本当に俺の事が好きなんだね」
「うん、ミリアはヒーくんのこと大好きだよ」
にこにこ顔でミリアちゃんは俺にそう言ってくる。なんて可愛いんだ!
「ふへへ……。そっかぁ、ミリアちゃんは僕のこと大好きかぁ。嬉しいなぁ。僕もミリアちゃんのこと大好きだよ」
顔の筋肉が柔らかくなりすぎてやばい気がするがここは俺の夢の中だからいいのだ!
「ミリアね。ヒーくんにお願いがあって今日は来たんだよ?」
「なんだい。僕に出来ることだったらなんでも言ってね」
お願いというとなんだろう?もしかして、結婚したいとか!?困ったなぁ。日本の法律が変わらない限りすぐに結婚するのは無理なんだよね。大人にはならなくてもいいから結婚出来ないかなぁ。
「ヒーくんにあの日のことと約束を思い出してもらおうと思うの」
「うん?あの日のことっていうとどういうことかな?」
約束……。この前、そんなことを言っていたから夢の中のミリアちゃんも同じことを言うのかな?」
「やっぱり忘れちゃってるのよね」
ミリアちゃんは幼女には似つかわしくない溜息を吐く。
「でも、約束はちゃんと守ってくれてるみたいだから嬉しい。無かったことになってるんじゃないかって心配していたの」
「約束は守ってる?う~ん。ごめん。僕にはその約束が何かわからないんだ」
「だから今日は来てあげたの」
ふむ、本当に俺はこの子と約束をしていたんだろうか?自分自身で生み出したミリアちゃんがこれからその約束とやらを教えてくれるのだろうか?なんか面白いな。
「それじゃ教えてくれるかな。僕はミリアちゃんとどんな約束をしてたのかな?」
「うん。ヒーくん手を出してくれる?」
ミリアちゃんは机の上に小さな手の平を上にして載せた。
こ、これは!なんという役得!
俺は手の汗を(といっても夢の中なので感覚はあやふやだが)ズボンで拭いてミリアちゃんの手の上におく。
「私の記憶を貴方に」
ミリアちゃんが目を瞑ってそう呟くが、特に何も起こらない。
「あれ?ミリアちゃん。何も起きないんだけど……ど……ど……ど……」
突然視界がぼやけてきた!なんか最近こんなんばっかだなぁ!
ブランコにジャングルジムに滑り台にシーソーに砂場。ヘリコプター型のジャングルジムは懐かしいな。昔あった公園だ。幼稚園に行ってそのあとは良くリンと一緒に遊びに来ていたな。2人でスコップを持ってきて、そしてスコップは全然使わずにシーソーで遊んだりジャングルジムで遊んだりしてたな。帰るときに持って帰るのを忘れて、取りに行くと言って泣いていたのを覚えている。
子供の頃の俺は身勝手だったな。身勝手で傲慢で自信家で、それでいて泣き虫で、ああ本当に最悪の子供だったなぁ。まぁでも、子供だからこそ許された。
ジャングルジムの滑り台で二人の子供が遊んでいるのが見えて、そこで少し視界がおかしいことに気づく。瞼を閉じたつもりはないのに瞼が閉じられている?良くわからない。
さっきまで全然違和感はなかったが、考えてみたらこの視界はおかしい。地面までの距離が異様に短い。この公園に来るのが久しぶりだから気づかなかった。
視界を動かそうとするが、全く動かない。どうやらこれは俺の体じゃないらしい。だとしたら誰の体だ?
「ヒーくん、リンちゃん」
口を動かしていないのに口が勝手に喋った。ヒーくん?それじゃこれはミリアちゃんの記憶?え?でもミリアちゃんは今も幼女で、この頃俺が子供だとするとミリアちゃんはいないはずだが?何だこれ?まぁ夢だからな。
「お、ミリアか。良くきたな。このヘリコプターは俺が占拠した!人質をカイホーしてほしければ俺の言うことに従え!」
「え、えー!ヒロくんは今日は何役なの?私、ひとじちなの?」
「俺か?俺は正義のヒーローヒロだ!」
うわー。何が何やらさっぱりわからないことを言ってるな俺。なんかこっ恥ずかしい。
「ふ~ん。ヒーくんは今日は正義の味方をやってるんだね。じゃあ私は悪の組織の親玉をやるね」
「よかろう!」
なんでそんなに不遜な態度なんだよ、俺!つーかミリアちゃんとは知り合い設定なのか、まぁいいか。む、ということは俺は今幼女の身体ということなのか!うおぉぉ!今のうちに幼女の体を堪能しなければぁ!ぐぐぐぐぐぐぅ動け動け動けぇ!
なんてこった。一ミリも俺の思い通りに動かない。
「はーははは!ヒーローヒロよ!人質など私には無意味だ!」
なんて胴に入った演技なんだ、ミリアちゃん!
「ぐっ!なんてことだ!人質が役に立たないということならもうこいつはいらねぇなぁ!死ねぇ!」
ヘリコプターの滑り台からリンを滑り下ろさせる。
「キャー!」
リンは怖そうだ。そういえば昔は高いところが嫌いで、滑り台ぐらいでも怖がってたなぁ。
「がしっ!」
ミリアちゃんが滑り降りてきたリンを捕まえる。
「ふははは!今のはお前が人質に意味がないと知って突き落すだろうという予測の元に立てた我が知略なり!」
「よそく?ちりゃく?」
「ええっと、人質を助けるためにわざと人質が役に立たないと言ったのだ!」
うわぁ、俺説明させてるの?ミリアちゃんもめげずに答えてるし……。なんか居た堪れない気分になるんだけど……。
「なっ!なんて悪いやつなんだ!」
「ふっ……。戦略と言ってもらおうか」
「せんりゃく?」
はいはい。馬鹿な子供の俺にはその言葉の意味わかりませんよね!
「ええっと、もう悪いやつでいいよ!」
「そ、そうか。ふむ。悪いやつめ!」
「え、ええ、悪いやつだよ!」
「うん。あ、そうだ。ミリアはアイス好きか?」
えぇぇー!なんでいきなりそういう話してるの俺!
「え?あ、うん。好きだよ。ミリアはアイス好き」
「じゃあこれあげる!俺がさっき作ったんだ!」
満面のほほえみを浮かべて、俺は棒にべったりと泥を塗りたくったものを差し出してくる。
「食べていいよ!」
「え?食べるの?」
「え?食べないの?ミリアは好きなんでしょ?はい!」
ちっこい俺は飛び降りてきてミリアちゃんに泥アイスを渡す。馬鹿やめろ俺!
「あ、ありがとう」
俺の視線……というかミリアちゃんの視線が泥アイスに注がれている。それに何か視線が滲んでいるように感じるんだが……、幼女を泣かせるとは昔の俺というやつは……殺してやる!
「食べないの?」
満面の笑みでミリアちゃんを見つめるちっこい俺。
「食べるよ。食べればいいんでしょ!」
ちょ、ミリアちゃんそれは食べなくていいから!そんなの食べたらぽんぽん壊しちゃうよ!
「あ、そういえばリンも作ってたんだよね!」
おま、これ以上増やすつもりなのか?ミリアちゃんがくがく震えてるぞ!
「あ、うん。あのね。私はね。カルパッチョ作ったの!」
なんだそのセンスは!カルパッチョって子供の遊びで作るもんじゃないだろう!
「へへっ。俺が作らせたんだぜ」
お前かよ!てか俺かよ!なんでカルパッチョなんてもの知ってるんだよ!
「あ、ありがとうございます……」
ミリアちゃんも人生諦めましたみたいな声色で敬語になるんじゃないよ!
「あ、そうだ。ジュースもあるんだよ。もうすぐ出るからちょっと待っててね」
「出る?」
出る?俺とミリアちゃんの疑問が重なる。おもむろにちっこい俺はズボンを脱ごうと……ってちょっと待て!お前何してんだよ!それジュースじゃないから!
「な、何してるのヒーくん!ダメよ!ダメダメダメ!それはまだ早いの!」
いや、ミリアちゃん、早いとか遅いとかそういう問題じゃないよね!俺もおかしいけどミリアちゃんもおかしいよねぇ!
「えー?」
何残念そうな顔してるの、俺!
「私飲むよー?」
リン……。やめてくれ……。このままじゃ俺が新たな性癖に目覚めてしまうかもしれん……。
「えー?やだよー。俺リンじゃなくてミリアちゃんに飲ませたいんだもん」
なんだお前。ロリリンでもいいじゃないか!いや、飲ませるのは良くないけど、略してロリンも可愛いじゃないか!
「だってリンは嬉しそうなんだもん。それじゃ面白くないよ」
ちっこい俺がすごく悪そうな顔をしている。この時の俺はSだったようです……。
「あ、あー!あんなところにUFOが!」
突然ミリアちゃんが空を指さす。
そして視界が地面を向いてアイスとカルパッチョを落とし、足で踏んで自然に返した。
この子、なかなかやりおるわ。というか俺の中のミリアちゃんはそういうキャラなのか?
「ごちそうさま」
「え?」
「ふぇ?」
呆けたような顔で振り返るロリンとちっこい俺。すごい馬鹿っぽい顔をしている。ロリンは馬鹿っぽくて可愛いな。
「おお、全部食べたのかぁ!やるなミリア!」
まるでグッジョブという感じの手をこちらに向けてくるちっこい俺。
「う、うん。でも、まだまだね。センスが足りないわ」
そういいながらミリアちゃんの視界がそれていく。ああ、悪いことしたと思ってるのか?いや、あの俺に対してはそんなこと思わなくてもいいだろう。
「ミリアはすごいなぁ。泥なんて俺食べられないよ」
にこにこ笑顔の俺はそんなことをのたまってからミリアちゃんの頭を撫でる。
「うん、ありがとう」
なんだか色々と突っ込みたいことはあるが、何も言えないので黙っておこう。っていうか黙ってるしかないしね!
急に視界がぼやけてきた。夕方?公園?同じ公園だ。視界の先には泣きそうなちっこい俺がいる。
「本当に行くのか?」
ちっこい俺がそう言ってきた。
「ごめんね、ヒーくん。本当に本当はね、私も行きたくないんだよ。でも、行かなきゃいけないの。私たちは一所にずっと留まることが出来ないの。皆と違うからね。同じところに一緒にいたら変に思われちゃうから……」
「意味……わかんない」
「ええっと……。そうね。ヒーくんが大人になってもずっと私はこのままなの」
「じゃあ俺は大人にならないよ!」
「う~ん……。それは出来ないよ。ヒーくんは私とは違うし、私たちと同じにはなれない。私はずっとこのままだし、ヒーくんは……いえ、リンちゃんも周りの子たちも皆大きくなっていくの。それにね。私はヒーくんよりずっとずっと年上なの。貴方がまだ生まれていない時からずっとずっとこの姿のままなの」
「そんなことないよ!年齢なんて関係ないよ!ずっと一緒にいてよ!俺はずっとずっとミリアのこと好きでいるよ!」
「今のヒーくんはそう言ってくれるけど、ずっとそんな風に思うのは無理だよ」
「そんなことない!ミリアは俺のこと信じないのか?」
「信じない。人は違うものを嫌う生き物だということを私は、私の血は知っている」
「俺は違う!」
「……いいでしょう。わかったわ。貴方がそこまで言うんだったら”約束”しましょ。貴方がずっと私を嫌いにならないように」
「うん、いいよ!俺はずっとミリアのことが好きだ!」
「っ……」
「俺は!ずっと!ミリアのことが好きだ!」
「……わかった。私もヒーくんのこと大好きだよ。だから本当は私のことずっとずっと好きでいてほしいって思ってる」
ミリアちゃんがそう言うとミリアちゃんは俺の頭の上に手をのせた。
「言ひ契る」
ミリアちゃんが言うとちっこい俺の目に生気がなくなる。なんだこれ?
「人間。私の言葉で心に傷をつけなさい」
冷たい声。心の底から震えるような声が響く。
ミリアちゃんは俺の頭の上で時計回りに手を回す。
「貴方は小さい子を愛する」
まるで俺の頭の中に刷り込んでいるようだ。刷り込んでいる?いやいや、まさかな。原因が知りたいとは思っていたがこんな突飛なものじゃないはずだ。
「貴方は大人を愛せない」
ミリアちゃんは俺の頭の上でまだ時計周りに手を回している。まぁ大人は愛せなくていいけどな。ははっ。あんな汚い生き物愛さなくて全然……。
「大人なんて、あんな汚い生き物愛さなくて当然よ」
……それも刷り込みとかいうんじゃないっすよね。
「私が会いに来たら……」
「ヒロくん!」
あ、ロリンだ。
「くっ!今邪魔されたらヒーくんが…!!」
「ミリアちゃん何してるの!」
「仕方ない……か……。塞がれ!」
小さな俺は糸が切れたようにその場に倒れた。
「ヒロくん、ヒロくん!」
「まったく、貴女が来なかったらちゃんと最後まで出来たっていうのに……」
「ミリアちゃん!何をしたの!」
「どうしたのリンちゃん?私何もしてないよ?最後だからってヒロくんに会ってただけ」
「嘘だよ!じゃあどうしてヒロくんはこんなになっちゃったの?」
「心配しなくてもじきに起きるわよ」
「なんでこんなことをしたの?」
「こんなことって貴女……。どんなことをしたのかわかってるの?」
「わからないよ!なんでこんなことをしたの!」
「あはは…わからないのに、そんな風に言うんだ。リンちゃんもヒーくんのこと好きだもんね」
ミリアちゃんはおかしそうに笑う。
「でも、リンちゃんはヒーくんに嫌われるよ?」
「どうして?」
「だってヒーくんは大人のことが嫌いになったんだもの」
「意味わかんない」
「リンちゃんに教える義理はないわね。でも、あなたが大人になったらヒーくんはあなたのことを嫌いになるの」
「意味わかんないよ!」
「あはは……。ごめんね~!私、リンちゃんのこと嫌いじゃないけどヒーくんの方がもっと好きだなんだ。それとさようなら。もうここにはいられなくなっちゃったから。でも、またヒーくんのところに私は必ず帰ってくるからね。それまで、リンちゃんはヒーくんに嫌われないでいられるかな~?」
「ヒーくんは私のこと嫌いになったりなんてしないよ!」
「そっかぁ。じゃあ頑張ってね。ばいばいリンちゃん」
ミリアちゃんは俺とリンの傍から離れていく。視界がぼやけていく。ぼやけている視界は涙なのか、それともさきほどからの移動の際に生じるものなのか分からなかった。
「ヒーくん。ねぇ、ヒーくん」
白い机の上に突っ伏していた身体を持ち上げると頬杖をついたミリアちゃんがニッコリとほほ笑んで俺のことを見ていた。
「あ、ああ。おはよう。俺、寝てたのか?」
寝てる時に寝るって意味がわからんな。とどうでも良いことを考えているとミリアちゃんはぺしぺしと俺の頭を叩いてきた。
「いたた。な、なにかなミリアちゃん」
「私の質問に答えなさいよ。思い出したの?」
「思い出したというか、良くわからないかな。これって俺の夢だろう?」
ミリアちゃんが深い溜息を吐く。可愛いがなんとなく子供らしくない。
「だから、それが私とヒーくんの記憶なの」
「え?だってミリアちゃんの年齢を考えるとあの時から……ってえ?」
「もう……察しの悪い男ね。まぁ、昔からそうだったけど、それでも前の方がまだ男らしかったわよ」
「じゃあミリアちゃんと俺って昔会ってたってことか?」
「そう」
「じゃあミリアちゃんが俺にした約束をずっと俺が守ってるからロリコンになっちまったってこと?」
「ロリ……コン?あ、あ~そう……そうなるのかしら?……これは盲点だったわ」
「え?」
「べ、別に私はヒーくんのことをロリコンにしようとしてたわけじゃなくて、私のことを嫌いにならないようにってそう思って……」
そう言ってミリアちゃんは目線を逸らす。なんだ、俺に嫌われたくないだなんて可愛いじゃないか!
「大丈夫だ。俺はミリアちゃんのこと好きだよ!」
「ん……それならいいのよ。嬉しいわ」
ミリアちゃんははにかんだ笑顔を浮かべる。すっごく可愛い!
「ああ、もちろんだよ!ちっちゃくて可愛いミリアちゃんのことが大好きだよ」
「ふふっ……。悪い気はしないわ。ヒーくん聞いてくれる?私またこれから一緒にいられるようになったのよ」
「そうなのか?嬉しいなぁ。ああ、本当に嬉しいよ」
「ええ、6年たったらまたここに戻ってこれるようにって説得したの。6年も経てば覚えてる人なんて……どうしたの?泣いたりして」
「あ、あれ?なんでだろうね。きっとミリアちゃんと一緒にいられるのが嬉しいんだよ」
涙が止まらない。なぜだろうか?
「そう?それならいいんだけど……」
「ああ、本当に嬉しいよ。こんなに小さな子と一緒にいられるなんて本当に嬉しいよ」
「小さな子なんて言わないで、ミリアって呼んでほしいわ。あの頃みたいに」
「ミリア。ちっちゃくて可愛いよ」
「だから、ちっちゃいっていうのはいらないのミリアっていうだけでいいの」
「ミリア。可愛いよ。ちっちゃくて、ちっちゃくてすごく可愛いよ」
「ヒーくん、もうふざけないでよ。ちっちゃいはいらないって……」
「ふざけてなんてないよ。”ちっちゃいから”ミリアのことが好きなんだよ」
「……」
「可愛いよ。ちっちゃいミリア」
「やめて」
「ちっちゃいミリア。大好きだよ」
「やめてよ」
「どうしたんだ?ミリア。俺はミリアのこと好きだよ。ちっちゃいミリアが大好きだ」
「やめてって言ってるでしょ!」
ミリアちゃんが突然立ち上がった。どうしたんだろう?
「分かったわ。そうだったわね。そうなのね。こういうことだったの。どうしたって人間とは一緒に生きていけないっていうことなのね。そんな心にもない言葉を並べられても私は嬉しくない」
「何言ってるんだよ。俺はミリアのこと好きだよ。幼女のためだったら死んでもいい」
「もういいわ。もういい。ごめんなさい。やっぱり私は貴方と一緒には生きられないみたい」
ミリアちゃんが悲しそうな顔をする。どうしてだろうか?俺が好きって言ったからか?やっぱりこんなロリコン野郎はキモいっていうことか?
「ごめんな。そんな悲しい顔をしないでくれ……」
「どうしてヒーくんが謝るの?謝るのは私の方なの。あなたは何も悪くない。私が悪いの。準備が整ったら全てなかったことにしてあげる。だから、ごめんなさい。あなたの心を壊してしまってごめんなさい」
「どうして?ミリアちゃんは俺に会いたくなかったのかい?」
「会いたかったわよ!でも、私が会いたかったのは今のあなたじゃないの!私が会いたかったのはヒーくんなのよ!」
そう涙声で叫んでミリアちゃんは消えてしまった。夢。そうこれは夢だ。夢なんだから色んなことが起こるのは当たり前だ。早く目を覚ましたいな。あまり良い夢じゃなかった気がする。どういう夢だったっけ?あれ?思い出せない。そう、確か幼女と会っていたような……。
幼女と会う夢をみたのに悲しい夢だった?良くわからないな。
にしても目が覚めるのもいつの間にかだなぁ。
くんかくんか。
「幼女の匂いがする?」
いや、まさかな。この俺の部屋に幼女が訪れたことなんてもう何年もない。それも寝ているうちに連れ込むなどということがあるはずがないか。
「ん?なんか外でガタっと音がしたな」
もしや、幼女が羽休めに来ているのかな?
窓まで歩いて開くとそこには何もなかった。
「まだ寝ぼけてるなぁ。幼女が羽休めってなんだよ!っと……ん?」
何か赤いものが落ちているのに気付いて拾い上げた。
くんかくんか。
「ふむ。これはミリアちゃんのリボンか」
「ひっ」
「ん?」
何か声が聞こえた気がして外を見るが誰もいない。どうやら風で飛ばされてきたらしい。
「気のせいか。ふあぁぁ。寝たっていうのに全然寝たりねぇ」
ぶつぶつと呟きながらベッドに戻って横になる。そういえば、窓開けてたっけか?帰ってきた時に開けたんだったか……うーん。覚えてないが特に気にするようなことじゃないか。
チャイムが鳴って、ぱたぱたと俺の部屋までの足音が聞こえて、ドアをノックされた。
「開いてるよ~」
「お邪魔します」
入ってきたのは若葉だった。何となく元気がないように見える。
「どうした?」
「いえ、今日のことやっぱり私のせい……ですよね……」
「なんだ。まだ気にしてたのか?大丈夫だよ。若葉のせいじゃないって」
「でも、昨日も今日も二日続けてなんてやっぱり、頭がおかしくなってしまったんじゃ?」
「うん。言い方には少し気を付けた方がいいな。頭がおかしくなったっていう言い方は良くない」
「え?そ、そうですね。すみません……」
どうしたんだろうな。こういう気遣いは出来るやつだからこそ変だ。別にそれに腹を立てているというわけじゃない。
「いや、別にいい。怒ってるわけじゃない。とりあえずまぁ座ったらどうだ?」
「はい……」
そういって若葉はまわりを見回す。
「さぁ、このベッドに腰掛けるが良い。なんならそのまま入って俺のことを身体で慰めてくれてもいいんだぜ」
「椅子お借りしますね!」
「あ、そう?」
はっきりと宣言されてしまった。やれやれ……こういう時でも隙が無いようならいいか。
自衛には二種類あると思っている。一つは迎合、もう一つは拒否。この二つのどちらも上手く出来なければ何かとんでもないことに巻き込まれる可能性が増す。
まだ拒否が出来るならいいか。とりあえず精神が安定したらいつもの若葉に戻るだろう。
「元気そうでなによりですね」
すごく冷たい目で見られてるなぁ。傷ついちゃうよ、俺。
「はは。まぁな。とりあえず見舞いに来てくれてありがとな」
「私がしでかしたことですから……」
「気にするなっていっただろう?まるでリンみたいだぞ?」
「……やめて下さい」
本気で嫌そうな顔をされた。どうしたらまたこんなに一日で人を嫌いになれるもんかね。
「リンのこと嫌いなのか?」
「別に嫌いというわけじゃないです。ただ、理解出来ないんです。あの子は天崎くんのことになると本当に見境なくなりますよね」
「そうみたいだな」
「どうしてあの子はああなんですか?」
「知らないな。気づいたらああだったと思う。まぁ一緒にいたら気づかないもんだよ」
「天崎くんだってあの子の気持ちに気づいてるんですよね」
「気づいてない……って言っても信じないだろうなぁ。まぁ肯定だ」
「つまり、わかってて気づかないふりをして毎日過ごしてるんですか?それが原因なんじゃないですか?」
「リンがああなったのが俺のせいだからアイツと付き合えっていうのか?」
「そうは言いませんが……。はっきりとした気持ちを伝えたらいいじゃないですか?」
「はっきりとした気持ちがないからな。伝えられんな」
「それじゃどうしようもないじゃないですか?」
「そう、どうしようもないという話になるよな。歪でもこのままで行くしかない。無理に答えを出すことは俺には出来ない。優柔不断と言ってもいいな」
「そこまでわかってるならもう何も言いません。でも、私にはリンさんが可哀想に見えるんです」
「だからと言って俺の気持ちは変わらないな。好きだと思わないわけじゃないが。そうだな。何か心残りがあるのかもしれない。もしかしたら俺は他にリンと同じぐらい好きなやつがいるのかもしれないな」
「……」
「やはり、幼女が……」
「死んでくれませんかね。真面目な話をしているんですけど」
「は、ははは。悪かったよ。それにしてもダメだぞ。死ねなんてそんな言葉を簡単に口にしちゃいけない」
「はいはい。わかりました。元気そうなのでもう私は帰りますね」
空気を読んでくれたらしい。
「気を付けて帰れよ。そういえば、今日もリンはちゃんとケーキ屋に行ってるのか?」
「ええ、行ってるみたいですよ。貴方に美味しいケーキを作ってあげるために」
刺々しい物言いですこと。俺にも良心っていうものがあるんだぞ。
「……仕返しかよ」
「否定はしません」
「鬼め」
「ええ、鬼ですよ。そんな鬼の私の心配なんてしなくても構いませんよ」
素直じゃないな。
「へいへい。それじゃな」
「はい。また明日」
若葉はそう言って出て行った。
ごろりとベッドに寝転がる。寝転がっていても全然眠たくなんてならない。さっきまでは眠たかったというのに、なんという体たらく。いや、この場合は使いどころが悪いな。
悩みがあるとなかなか眠れないものだ。誰でもそうだろう。どうにも寝付けない。
「他に同じぐらい好きなやつがいる……か?馬鹿馬鹿しいな。理由をつけて先延ばししたいだけじゃないか」
「……」
「ミリアちゃん何してるんだろうなぁ……。はぁ、こういう時でも考えるのは幼女のことか。俺ってやつはつくづくロリコンだなぁ」
「……」
「ええい!眠れん!」
リンを迎えに行くか?そうしよう。このままじゃ全然眠れやしない。
立ち上がって机の上から何かあった時のためにと思って財布をとろうと思った時にミリアちゃんのリボンに気づいた。
「あ~若葉に返してもらえばよかったなぁ」
どうしようか、もしかしたらまだ外に若葉がいるかもしれない。とりあえず少し遠回りにはなるがあいつの家の近くを通るルートにしよう。
リボンと財布をズボンのポケットに入れて部屋を出た。
少し小走りになりながら若葉を探してみたが、見つからなかった。もしかしたら家までは最短距離のルートで帰っていないのかもしれない。買い物をして帰るというのも考えてみたらありえる話だ。夕食の時間になるしな。
引き返そうと思って踵を返す。
「?」
なんだろうか、何かが電信柱に隠れるのが見えた。小さかったが、猫というわけでもない。子供がこんな時間に出歩くということはないと思うが……。もしそうだったら一大事だ!
責任を持って親御さんの元に届けなければなるまいて!
そう思い立って電信柱まで行くと隠れていたのは……。
「ミリアちゃん?」
ミリアちゃんが身を小さくして縮こまっていた。暗闇が怖くて隠れていたのだろう。可哀想に……。
「ヒー……お、おにいちゃん」
「どうしたの、こんな時間に。危ないよ」
「え、えっと。あのその、ミリア迷子になっちゃってその……」
迷子になって道が分からなくなったのか、年齢にしてはしっかりしていそうに見えたけど、やっぱりまだまだ子供だな。
「そうだったんだね。怖かっただろう。家に送ってあげるからもう大丈夫だよ」
ミリアちゃんに手を伸ばすと掴もうとして掴んでこない。思えばまだ会ってからそう時間が経っていなかったんだった。この前、病院では俺のことを誰かと勘違いしていたようだけど、もしかしたら怖くてあんな変なことを言ってしまったのかもしれないな。まぁそのお蔭で俺はなんだか昔から知っているような気になっていた。
「ミリアちゃん、怖がらなくても大丈夫だよ」
俺はいつも常備している薄いものを財布の中から取り出してミリアちゃんに見せるとミリアちゃんは呆気にとられた顔をした。
高校生だったら誰でも持っているものだろう?そう薄いあいつだよ。薄っぺらくて棒に刺してある……キャンディ。これを持っていなければ不意に迷子の幼女と遭遇した時に手なずけることが出来ない!
「ありが……とう……」
「うんうん。それじゃ家まで一緒に行こうね。すぐにお兄ちゃんが家まで連れていってあげるからね」
とは言っても俺はこの子の家を知らない。そして迷子になっているということはこの子も家の住所を知らないんじゃないだろうかという懸念があるが、それを悟らせてはいけない。
そんなのは二流の迷子救いのすることだ。
「そういえば、ミリアちゃんの家はどこにあるのかな?」
さりげなく口に出してみる。ミリアちゃんは飴をじっと見つめたままだ。
「ミリアちゃん?どうかしたの?」
「ううん。なんでもない」
まだ警戒を解いていないようだ。
「そう。うん。そうだ。ミリアちゃん。そういえばリボンを失くしたりなんてしなかった?」
「……なくした」
ミリアちゃんが落ち込んだ顔をする。やっぱりこれはミリアちゃんのだったんだ。俺の嗅覚がミリアちゃんのものだと断定していたけれど、これで確定したな。
「実はお兄ちゃんは魔法使いなんだ」
「?」
ミリアちゃんはとても驚いた顔をした。ふふふ作戦通りだ。
「これからお兄ちゃんがミリアちゃんの失くしたものを今ここに取り出してあげるね」
「ほ、ほんとうに?」
「ああ、本当だよ。僕は嘘をつくのが大嫌いだからね。生まれてこの方一度も嘘をついたことがないのが自慢なんだ」
「そう……」
ミリアちゃんは少し悲しそうな顔をした。俺がそんなに嘘つきで胡散臭いやつに見えるんだろうか?心外だ!
「それじゃこれから魔法を見せるね!」
そういって俺は右手を大きく上に掲げて叫ぶ!こういうのは勢いが肝心だ!
「月の女神よ!ミリアちゃんの大事なものを返して下さい!」
そしてミリアちゃんが俺の右手に気を取られている内に左手でポケットからリボンを取り出す。
「……なにおきない」
ミリアちゃんは俺の右手を見てそう言った。がっかりした顔をしている。
「ん?おかしいなぁ。お?おお!女神さまが間違えて俺の左手にもたせてくれたみたいだよ」
さっとミリアちゃんの目の前にリボンを持っていく。
「え?……え?」
目を見開いて俺と手の方を交互を見るミリアちゃんは子供らしくてとても可愛い。
「はい。これはミリアちゃんのリボンだよね?」
「うん!うん、そうよ!でもどうやったの?本当に魔法が使えるの?ヒーくんは魔法使いだったの?」
うわ、かなり食いついてきたな。ここまで食いついてきてくれるとは思ってなかった。それにまたヒーくんって、俺はそんなにそのヒーくんと似ているんだろうか?俺と同じぐらいの年のやつなんだろうなぁロリコン許すまじ!
「も、もちろんだよ。僕は魔法使いだからね」
「そうだったんだ。私、全然知らなかった。どうして教えてくれなかったの?ううん、でもそうよね。そんなこと教えられるわけないわよね」
ミリアちゃんが一人でぶつぶつと言い出した。どうしたんだろう?ちょっと刺激が強すぎたかな。
「ミ、ミリアちゃん。そろそろお家に帰ろうか。もう今日は遅い時間だからね。パパもママもきっと心配してるよ」
「え?う、うん……。わかった。帰る」
「家はどこかわかるかな?」
そう言って再び手を出すと、数瞬だけ逡巡したのちに俺の手を握ってくれた。幼女の手柔らけぇぇぇ!でも、なんかこの感触、少し前にも感じた記憶があるような気がするが……。まぁありえないか、そうそう幼女の手を握るという機会に恵まれるはずないもんな!
それからミリアちゃんを送っていくことになったのだが、ミリアちゃんは家が分からないというわけではなかった。次の角を右に曲がってという風にちゃんと家の場所は分かっているようだ。
さっきまでは一人で心細くて考えることが出来なかったんだろう。
それにしてもさっからちらちらと俺の方を見てくるのはなんだろう?
「ミ、ミリアちゃん。どうかしたのかな?」
ちらちらとしか見ていないし俺が顔を目線を見ると顔を逸らすので気づかれたくないのかと思ったがずっと続くと居心地が悪くなる。
「えっと……。お兄ちゃんは魔法使いなのよね?」
「え?」
あ、まだその設定生きてたんだ……。
「あ、ああ、うんそうだよ」
「そうなんだ……」
どうしよう。完璧に信じてる。子供だからすぐ忘れてくれると思ったんだが……、魔法使いだからって言って空を飛びたいなんて言われても俺には出来ない。信用丸つぶれだ。それでは幼女を悲しませてしまうことになってしまう!俺ピンチだ!
「あなたが魔法使いなんだったら」
うはっ!きた!
「もしあなたが本当の魔法使いだっていうんだったら」
なんだ。どんな願いだ?水を出してくれということだったら水道の近くに行けば同じ方法でやれんこともないぞ。しかし、相手は子供だ。子供といったら空を飛んだり怪獣を出してくれと言ったり、もしかしてお嫁さんになりたいとか?それならOKだ!
「私のことを大人にしてほしいの!」
ミリアちゃんは意を決したようにそう強く願った。
大人になりたい。考えてみたら子供の頃はみんなそう思うものだろう。でも、大人になってしまったら、子供の頃の方が良かったと思うものだがな……。
「私はヒーくんぐらい大人になりたいの……」
ヒーくんって……俺ぐらいっていうことか?
真剣な眼差しでミリアちゃんは俺のことを見つめている。大人には誰でもいつかはなれるものだ。望まなくてもな。俺はミリアちゃんになってほしくないけどな。はぁ……大人なんてあんな汚い生き物になんてならなくていいのになぁ……。でも、今は俺はミリアちゃんの魔法使いだからな。叶えてやらんわけにはなるまいて。
「よし、わかった。それじゃ僕がこれからミリアちゃんに魔法をかけるよ」
「本当に!ヒーくん、本当に?私大人になれるの?」
「あ、ああ。本当だよ。でも、ごめんね。僕の力はそんなに強くないから、すぐには難しいかもしれないけれど、それまで我慢できるかな?」
「う、うん。大人になれるんだったら何年でも待てるわ」
「そうか、わかった。それじゃ目を瞑って頭を出してね」
「うん!」
俺は頭の上に手を置いた。そして、どうしようか?時間時間、そうだな。時計回りに手を回すことにしよう。
「時を刻む歯車よ」
歯車がなんだろう。そうなんかこう素早く回る……違うなぁ。ああ、そうだ!
「疾く廻り幼子の願いを叶えよ」
なんかそれっぽいな。うむ。なんとなくこれは願いが叶いそうな気がするな。うむ。俺自身もなんとなく魔法使いなような気がしてきたぞ。
最後に手をミリアちゃんの頭から放してパチンと鳴らす。
「…………終わったの?」
「ああ、終わったよ。これでミリアちゃんは大人になれるよ」
「本当の本当の本当に!?」
「あ、ああ。本当だよ」
ミリアちゃんの剣幕に少し押される。そんなに大人になりたいんだろうか?まぁ子供はそういうものだよな。きっともう何年かしたら、ボンキュッボンな糞みたいな大人になることだろうさ……。
「ありがとう。ヒーくん」
「うん。ミリアちゃんのお願いだからね。難しかったけど成功したみたいで良かったよ」
ああ、なんだかさっきは嘘はつかないって言ったのにどんどん嘘が溢れてくるな。だから大人は嫌いなんだよ。俺ももう大人なのか……。
「着いたよ!」
「お、もう着いたんだね。良かった」
ミリアちゃんは俺の手をぎゅっと握った後に放して、目の前に出てから向き直った。
「今度は私が約束を解いてあげる。その日にまた会いましょう」
そう言ってミリアちゃんは家の中に入っていった。しかも鍵を使ってだ。家の人は何をしているんだろうか?
というか約束っていうのは何なんだろうか?良くわからんが、またミリアちゃんに会えるというのは良いことだ!
それから物凄い勢いでケーキ屋の前まで走った。運動が不得意というわけじゃないが、さすがに全力疾走すると息が切れるものだ。
「よ、ようリン」
「ヒロくん?」
「あ、ああ。ちょっと近くを通りがかったもんでな。寄ってみた」
「もう大丈夫なの?」
「ああ、もちろん大丈夫だっはぁぁぁぁ」
「な、なんかすごい汗だよ?」
「あ~これはな。最近運動不足だったから走ろうかと思ってな。そのついでに迎えにきたというわけだ」
「そうだったんだね。うん、でもすごく嬉しいよ。ありがとう、ヒロくん」
「うむ。感謝せよ」
「あ、でもちょうど良かったよ。今日はね。私が初めて焼いたチーズケーキがあるの」
リンは持っていたバッグをちょんと上にあげる。
「お!まじか?腹減ってたんだ。食おうぜ」
「もう……ヒロくんったら。こんな所じゃ食べられないよ」
「ふむ、そうだな。それじゃ久しぶりに公園でも行くか。ほら、前に行ってた公園ってこの近くだったよな。ヘリコプター公園」
「え?」
「ん?どうした?」
「あの公園もう無くなっちゃったよ」
「あれ?あーそうだっけなぁ。なんか今日見かけたような気がしたんだが、そういえばそうだったな」
「変なヒロくん」
そう言ってリンが笑う。こういう笑顔を見ているとやっぱりこいつの事が好きなのかと思う。でも、何か引っかかってしまう。リンの笑顔にというわけじゃない。やっぱりはっきりとはしない。
「それじゃ別の場所だけど、公園に行こうよ。ベンチがある場所でね。目の前に砂場があって……」
「あ、ああ、あそこな。いいぞ。たしか若葉の家の近くだったよな。あいつも呼ぶか?」
「やだ!」
「そ、そうか……」
どっちも頑固だなぁ。
「やっぱり、ヒロくんの家で食べたいなぁ」
「よし、公園に行くか!」
「えー、どうして?私が家に行くの嫌なの?」
最近、リンが明るくなってきたような気がするな。若葉の影響かもしれない。良い傾向だ。
「ははは。そんなことはありませんよリンさん」
リンが昔みたいに明るくなればきっと俺はまたリンのことを好きなれるはずだ。このもやもやはきっとそういうことなんだろうと思う。
「そういえば、さっきミリアちゃんを見たよ。なんかなぁ、一人で迷子になっててさ。俺がいなかったら危なかったよ」
「……」
「俺が魔法使いだ~って言って失くしたリボンを渡してあげたらすごく悦んでたよ」
「……」
「リン?」
声が聞こえないので振り向くとリンは立ち止っていた。
「どうした?」
「あの子にあったの?」
「ああ、さっきも言ったが迷子になってたんだよ。危ないよな」
「本当に危ないね。何もなかった?」
「ん?ああ、何もなかったよ」
「そういえば、ミリアちゃんは早く大人になりたいんだってさ」
「大人?」
「ああ、俺ぐらいの年齢になりたいから魔法をかけてほしいんだって言ってたよ」
「ヒロくんと同じぐらい?」
「リン、どうしたんだ?」
「……」
「おい、リン?」
「アイツ……アイツどういうつもりで……もしかしてヒロくんのこと……」
「お~~いリン?俺がどうしたって?」
なんだか一人で考えこんでしまったようだ。たまにこういうことがある。本当に困ったものだ。
「おいおい、もしかしてミリアちゃんにまで嫉妬してるのか?」
「嫉妬じゃないよ」
「ああ、そう」
「うん、これは嫉妬じゃないよ。これは嫉妬なんかじゃなくて」
リンはにっこりとほほ笑んだ。
「お、おいその先を言わないと怖いだろ?」
「ううん。ミリアちゃんってかわいいよね」
「うむ!ミリアちゃんは可愛い!なんといってもあの少しおませさんなところがいいな」
「おませさん?……あはそうだね。あはは。本当におませさんだよね」
「うむ。そこがまた良い。背伸びをしているところがな。でも、大人になったらなぁ……はぁ……」
「ふふっ。ヒロくんったらまたそんな話してる」
「おいおい、俺からロリをとったら何も残らないだろう」
「そうだね。何も残らないね」
「こら!お前それは言い過ぎだろう!」
「ふふふっ。ごめん。そうだね」
「いや、その……。なんだ。まだ今のノリで話は続けられただろ?」
「ごめんね、ヒロくん。でも、安心して。私はヒロくんがどんな風になったって傍から離れたりしないし、私が
どうなってもヒロくんのことを守ってあげる」
口元は笑顔を見せているが目はとても真剣だ。気圧されそうになって俺には軽口ぐらいしか叩けなくなる。
「お、おい。どっちかっていうと守られるのはお前の方だからな」
「え?ヒロくん、守ってくれるの?嬉しいなぁ。ありがとうヒロくん」
リンに腕をつかまれた。ああ、なんだか甘い匂いが……ち、違うんだ!これはリンの匂いが甘いって言ってるんじゃなくて、ケーキの匂いが甘いっていう意味なんだからね!勘違いしないでよね!誰に弁明してるんだろうね!
もう何が何やら頭が混乱してしまって、別の話題を探す。
「そ、そういえば。ミリアちゃんとまた会う約束をしたよ」
「へぇ、そうなんだ」
「いつになるかはわからないけど。また会おうってさ。約束がどうとか言ってたな」
「そうなんだね。でも、もしかしたらもうミリアちゃんとは会えないかもしれないね」
「なに言ってんだよ」
「あはは。冗談だよ。早く公園に行ってケーキ食べよ?」
その日はそれから公園でリンとケーキを食べて、いつも以上にべたべたと俺にくっつきたがるリンを引きはがすのに疲れて、家に帰るとすぐに寝てしまった。
リンさんの部屋
あいつあいつあいつあいつあいつあいつあいつあいつ。ヒロくんに手を出したら絶対に許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。あいつが全部悪いんだ。あの日まで、ううん。あの日から全て狂ってしまった。そうだよ。あの子がいなかったら良かったんだ。あの子がいなければ良かったんだ。あの子がいなくなればいいんだ。ミリアミリアミリアミリア。ずっとずっと変わらない気持ちの悪い子供。あの子がこの世からいなくなればいいんだ。そうだよ。変わらないなんて変なんだから、成長しないなんて変なんだから、おかしいよね。あの子はきっと人間じゃない。人間じゃないんだから殺してもいいよね。殺してもいいよね。居なくなっても皆が悦ぶの。ヒロくんも助かるよね。ヒロくんも悦ぶよね。嬉しいよね。あの子が居なかったらこんな風にはならなかったんだ。若葉ちゃんとのこともきっとあの子が悪いんだ。本当はヒロくんが気絶したのはやっぱりあの子のせいだったんだ。若葉ちゃんごめんね。疑ってごめんね。でも、私若葉ちゃんのことあんまり好きじゃないよ。ごめんね。でも、ヒロくんのこととったりしないんだったら傍にいるぐらいだったら許してあげるよ。でも、あの子はダメ。あの子がいたらヒロくんが消えちゃう。ヒロくんは私のヒロくんなんだから!絶対に絶対に絶対に絶対にヒロくんに危害を加えることなんて許さない。
だって、私はあの時に自分自身に約束したんだから、ヒロくんが倒れてから目を覚まさなかった時に。私のこと嫌いになってもいいからそれでもいいから、ヒロくんのことを絶対に絶対に守るんだって。
あれ?あれ?私嫌われてもいいよね。嫌われてもいいよね。嫌われたくないよ……。やだよ。ヒロくんのこと好きだもん。笑顔を向けてほしいよ。ごめんね、ヒロくん。わがままでごめんね。でも、どうしてもダメだったら私はヒロくんに嫌われたってそれでもヒロくんのこと守るよ。
リン「最近出番が少ない!ヒロくんといちゃいちゃ出来ない!どうなってるのぉぉぉ!」
という夢をみた。
いつもお部屋があるから出番少な目でも後から書けばいいかぁと思ってるところがあったりするかもしれませんね。
今後はもうちょっと出番を増やそうと思っていたりします。
1日という区切りにしてしまったんで、今回は普段よりめっちょ長くなってしまいまして。すんません。