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DAY 5

 薄らと太陽の光が見え始め、小鳥たちが鳴き声が聞こえはじめたぐらいの時間に俺は一つの疑問に対峙していた。


 どうして俺は盲目的なまでにロリコンなんだろう?


 何か切っ掛けがあるんじゃないかと過去の思い出を探ってはみるが明確にこれだというものを見つけることが出来ない。

 それが見つかったとしても自分自身がそこまで変わると思っているわけじゃないが、自分自身の性質の原点を知ることが出来れば、これから先に数多ある無意識であったはずの選択を、意識した上で選択することが出来るようになるんじゃないだろうか?

 選択を誤ればそこには絶望だけが残り、結果として自分自身を傷つけてしまうことになるだろう。盲目的ではなく、ちゃんと意識した上で選択できる人間になりたい。


 俺は朝から今までの自分自身の生き方とこれからについて考えて、『特選!!ゴスロリ少女達!!』という名の雑誌をベシっと床に叩きつけた。

「表紙だけで中はどいつもこいつも少女じゃねぇじゃないか!なんの冗談だこれは!ババアがゴスロリ着ても似合わねぇんだよ!」

 昨夜はミリアちゃんという最高のロリに会ったことで目を瞑るとすぐに思い浮かべてしまって、なかなか寝付けなかった俺は、気晴らしをしようと思い外に出てコンビニに向かった。

 そして、そこでこの雑誌を見つけてしまったんだ。

 俺は運命を感じたんだ。

 この本を買えばこの、今悶々としている不安定な状態を”すっきり”させて安定させることが出来る!

 そんな風に考えてしまったんだ。

 きっとこの中には俺の求めるものがある。とそう信じて、薄さにしては高価な本を買うためにわざわざ家に一度引き返して財布の重量を増やして買ってきたというのにこの仕打ちは何なんですか神様!

 表紙を見た時の胸のときめきを税込1200円と共に返して下さいよ神様!

「あ゛ぁ~~~~」

 そうか、そうかよ、そうだったよなぁ!エロ雑誌なんてこういうものだったよな。最近は買ってなかったから忘れてたぜ表紙に騙されたから買うのをやめて、そしてまた表紙に騙される。

 悲しいかなこれが男の性質なんだろう。

「はぁ……」

 やる気は出ないなぁ。学校に行くような気分になれない。今日は休んで幼稚園でも眺めに行くかな。

「よし!」

 そうと決まれば今日は休むと若葉にさっそくメールを書くか。



 件名 人生に疲れた


 本文 若葉、俺はこれから飛び立つことにするよ。


    もう学校には行けない。


    分かったんだ。


    俺はどうしようもない馬鹿な男なんだってな。


    それじゃ後はよろしく頼む。



「よし、これでOKだな」

 リュックにコンビニで買ってきた菓子パンを2つとノートと後はそうだな、カメラを入れて準備完了だ!今日は幼女達を思う存分撮りまくって楽しむぞ!

 俺は机の上に今日は早めに出るからと書置きを残して外に出ると早い時間ではあるが、ちらほらと出勤している人たちが見えた。

「ふ~む。みなさん今日も一日頑張って下さいな」

 月曜日の憂鬱さに打ち勝つことが出来る”出来た人たち”に労いの言葉をこっそりとかけて公園へと向かう。

 若葉に俺の秘密がばれてしまった公園だ。

 ベンチに座って砂場を眺めるが、子供たちは当然のごとく居ない。

 でも、誰もいないというわけではなくて、老人が体操をしているのが見える。健康的な生活が長寿の秘訣というやつなんだろうなぁなどと考えて見ていると、訝しげな目を向けられた。

「?」

 なんだろうなぁと思って首を傾げてみると老人は途端に驚愕したような顔になった。

「???」

 何か自分自身が変な恰好をしているのかと思って服を見るが特に普段と変わらないしおかしくはないと思う。

 再び老人の視線を良く見ると俺の頭の少し上を見ていることに気づいて、後ろを振り無くと

「こんなところで何をしているんですか?」

「うおっ!若葉!?」

 まるでゴミでも見るような顔で俺を見下している若葉が立っていた。

「ど、どうしたんだ若葉。突然そんなところに……」

「こんなところで何をしているんですか?」

 どうやら物凄く怒っているようだ。

「いや、今朝もメールしただろう」

「…………」

 若葉は俺の言葉を聞いて無言のまま神妙な顔をして俺の隣に腰を下ろしてきた。

「それで、どうしてあんなメール送ってきたんですか?」

「ああ、さっきのメールのことか」

「ええ、さっきのメールです。人生に疲れたって書いてありましたけど……」

「言葉通りの意味だよ。人生に疲れたんだよ。自分自身の馬鹿さ加減にほとほと呆れてしまってな。全くやる気が出ないんだ」

 このままじゃ人生やる気が出ないから学校はサボらせてもらうよ。

「天崎くん。人生というのはですね、失敗の連続なんですよ」

「はぁ……そうなのか……」

「真面目に聞いてください!」

 曖昧に返したら怒られた。

「いいですか?誰でも失敗はあるんですよ。私にだって失敗するようなことはあります。それでも前に進むことをやめてはいけません。そう、失敗というのは人を成長させるんです。一度失敗したからといってもそれで人生に疲れたなんてそんなこと言わないで下さい。そもそも……」

 若葉が俺を諭すような声で俺に声をかけて来る。よく見ると若葉の頭は寝癖がついたままだった。冗談のつもりでああいう内容のメールをしたのだが、どうやら本気で受け取ってしまったようだ。

 悪いことをしたな。だが、「イッツアジョークだよ。ただ休みたかっただけなんです。テヘリ」なんて言ってもきっと許してくれないだろうな……。

 しかし、若葉は真面目だなぁ。それにメールを返せばいいのにわざわざ足で探すなんて……うん、やっぱり正直に話すことにしよう。これで嫌われてしまったとしても仕方ないことだ。はじめからそんなに好かれてないだろうしな。

「……生きているということはそれだけで素晴らしいことなんです。人生の中で一つぐらいの失敗をしたからといってそれで生きることを諦めるなんて……天崎くん、聞いてますか?」

 ジロリと音が聞こえそうな目で睨まれてしまった。

「ああ、もちろん聞いてたよ。それで、その……申し訳ないんだが、朝のメールは冗談のつもりだったんだ。ただちょっと学校休みたくてあんなメールをしたんだ」

 若葉が唖然とした顔をして、その後頬の筋肉が攣ったようにぴくぴくと動き、青筋を浮かべて、顔が段々紅潮していき、右の口角だけが異様に持ち上がっていく。

「ははは……そうですか、私のことをからかってそんなに楽しいですか?」

「い、いやそういうわけじゃないんだよ。普通冗談だって思うだろ?」

「私ってそういう冗談も通じないぐらい真面目でつまらない女なんですよね。空気読めなくてすみませんね、天崎くん」

 本気で怒ってるなこりゃ。そりゃそうだよな。本気で心配してきてみれば冗談でしたじゃ怒るよな……。

「すみませんけど、今日は朝迎えに行きませんから。それでは失礼します」

 そう言って若葉は後ろを向いて去っていこうとする。

「若葉、すまん!本気で悪かったよ。冗談とはいえ、心配させてしまったことは謝る」

 こちらを向いていないので見えないとは思うが誠心誠意頭を下げる。

「……」

 言葉はないが、足音は止まっていた。

「若葉、本当にすまん」

 重ねて言葉を言うと溜息が聞こえた。

「冗談だったんだったらいいんです。私も怒ってしまってすみません。でも、どうして私服のままでリュックを持って外にいるんですか?私、心配になって家まで行ったんですよ……」

 顔を上げると若葉はさっきの怒気を含んだ顔付きとは一転して不安そうな顔をしていた。

「家にまで行ったのか……、それは悪かったな」

 後で母さんから怒られちまうな。まぁ仕方ないか、甘んじて受け入れよう。

「それで本当に何もないんですか?」

「ああ、大丈夫だ。ただちょっと今日は学校を休んで幼稚園に行って、幼女をカメラで撮影しようと思っていただけだよ」

「あ、そうなんですね。全くもう、天崎くんらしいというかなんというか……なんというか……なんというか……」

 一瞬ほっとした顔をして、頬を緩ませて笑みを見せてくれた若葉だったが、うつむきながらふるふると震えている。どうやら安心しきって涙腺まで緩んでしまったようだな。間違いない!

「まぁそういうわけだから先生には天崎浩は自分探しの旅に出たと言っておいてくれ!それじゃまた明日!」

 しゅたっと手を前に揚げた後に、自然な動作でリュックを抱えなおして歩きはじめた。

 悪いとは思っているがそれで予定を変えるほど俺は出来た人間じゃないんだ!

「ちょ……、ちょっと待ってください天崎くん!ロリコン!変態!犯罪行為はやめなさい!」

 たったっと柔らかい土の地面をかけてくる若葉の足音と心外だが否定できない言葉を背中に聞きつつも歩みを止めることはしない。

「待ちなさい!」

「嫌だ!」

「通報しますよ!」

「見逃してくれ!」

 最初は普通に歩いていたのだが、段々と早歩きになって、仕舞いには走り出して、幼稚園への道のりの途中で撒けるポイントを頭の地図上で思考しつつ疾走していく。

「諦めろ!お前に俺の情熱を止めることは出来ん!」

「何ちょっと恰好よさげな台詞を言ってるんですか!やろうとしてることは矮小な犯罪ですよ!」

「犯罪じゃない!これはちょっとした趣味だ!幼女を撮って何が悪い!」

 くっ……若葉のやつ意外と足が速いし体力もあるな!こうなったら……。

「キャーストーカーに追いかけられるー!」

「ええぇぇ!何言ってるんですか、天崎くん!」

「助けてー!おまわりさん、変態が追ってくる~!」

「やめて下さい!それに捕まったとしたら困るのは天崎くんの方でしょうがぁ!」

「……!?」

 そうだった!

「いい加減に諦めて学校にいかないと遅刻しちまうぞ!」

 こうなれば若葉の真面目さに訴えかけるしかない!

「それは私の台詞ですよ!天崎くんが諦めて下さい!」

「断る!」

「それじゃ私も絶対に諦めません!」

 くそう!もう幼稚園についちまうじゃないか……。このままずっと追いかけられていたら写真が取れないじゃないか!仕方ない……。

 俺はその場で急停止して、後ろを振り向いた。

「はっ!」

 俺は渾身の力を振り絞って、走ってくる若葉に正拳突きを放った。もちろん威嚇のつもりで本当にあてるつもりはない。これで止まってくれれば逃げ切れるという考えた末での最低の行動だったが、それがすぐに愚策だったと気づくことになる。

「!?」

 突き出した拳の先にいるはずの若葉の姿が消えたかと思うと次の瞬間視界は青空を捉えていた。

「あ……れ……?」

 そして、脚の力が抜けて膝が曲がって前方に倒れこんで行く間に、掌底を空に向けて勇ましく立つ若葉が見えた。

「うそ……だろ……」

「女の子に手をあげるなんて、天崎くんは本当に最低ですね。地面に頭をつけて世界に謝罪して下さいね?」

 頭上から若葉の冷たい声が聞こえてきて――


「――なことしたの?」

 声が聞こえる。どうやら俺は気を失っていたらしい。

「彼が私の――――――然の報いです」

「そんなこと関係ない――――――」

 誰かと誰かがカーテンの向こうで言い合っている声が聞こえる。

「もし、ヒロくんが目を覚まさなかったら、私若葉ちゃんのこと許さないから」

「…………」


 若葉とリンか……。こりゃまたぼけっと寝ていることは出来ないな。

 頭をかいて声をかけようと思って体を起こそうとするとまた言い合いが始まった。

「リンさん、おかしいですよ。天崎くんのことになるといつもそうですよね。お医者さんも大丈夫だって言ってたじゃないですか?」

「どうして?こんなことしたのにどうしてそんな風に言えるの?謝るものじゃないの?」

「天崎くんに謝るということならわかりますが、どうしてリンさんに謝らないといけないんですか?」

「別に私に謝ってほしいわけじゃないよ。ヒロくんに謝ってくれたらそれでいいよ。でも、もしも目を覚まさなかったらどうするの?」

「どうするってそんなこと……。私はちゃんと手加減しましたし、あのぐらい天崎くんなら大丈夫ですよ」

 ははは……まぁ大丈夫だがまだ顎が痛いぞ。

「若葉ちゃんはもうヒロくんに近づかないで」

「……どうしてリンさんが決めるんですか?」

「ねぇ、じゃあどうしてヒロくんのこと傷つけたの?ヒロくんの傍にいるのはヒロくんのことを傷つけるためだったの?私はヒロくんが傷つくのを見るのが嫌なの。ヒロくんが目を覚まさなかったらって、私の前からいなくなったらって考えただけで怖いの。私が知らないところで、私には何も出来ない時に、ヒロくんがいなくなっちゃうんだよ?そんなの耐えられないよ。だからもうヒロくんに近づかないでヒロくんは――」

「う、うぅ~ん。こ、ここはどこだろう?」

「ヒロくん!」

 カーテンがさっと開いた先には思っていた通り、リンと若葉がいた。二人とも心配そうな顔を俺に向けている。

「あ~良く寝た。今何時だ?」

「今は―――」

「15時だよ。もうお昼も過ぎちゃったよ。ヒロくん、どこも痛くない?」

 若葉の声を遮ってリンが言う。

「ああ。大丈夫だ」

 ちらっと若葉を見ると開いた口を閉じて目をそらしていた。

「本当の本当に本当?」

「ああ、元気だから大丈夫だって、言ってるだろ。あ~若葉も悪かったな」

「いえ、悪いのは私ですから……。すみません」

 そういって若葉は頭を下げてきた。

「……あ~まぁ気にするなよ。俺はこの通り無事だからな」

「はい……」

「ヒロくん、顎のところに傷が出来てたんだよ。今は絆創膏が貼ってあるけど、もしかしたら割れちゃってるかもしれないよ?顎割れしちゃってるかもしれないよ?すっごく濃い顔になっちゃってるかもしれないよ?」

「え?……いや、え?」

「顎が割れちゃってたら死ぬしかないよねぇ!恥ずかしくてもう生きていけないよねぇ!」

 ずずいと顔を寄せてそう言ってくるリンの目は笑っていない。

「い、いや、割れてないからな?触っても別違和感ないし、それより何より顎が割れてる人に謝れよ!別に顎が割れてるなんて普通だろうが、顎割れしてる人が聞いたら怒るぞ?」

「だって、私は顎が割れてるヒロくんなんて嫌なんだもん!」

「お前の趣味の問題かよ!ったく……俺は全然変わってないから大丈夫だって言ってるだろう。イケメンのナイスガイを通常営業中だ」

 元気そうなところを見せようと思ってぐっと親指を立ててニカリと気雑ったらしく笑ってやった。

 これで俺が元気いっぱいだとわかってもらえただろう。

「……ヒロくんの頭がおかしくなっちゃってる!」

 若葉が悲壮感たっぷりの顔で俺の肩を持ってゆさゆさと揺らしてくる。

「お、おい」

「ヒロくんは変態のロリコンさんなんだよ!イケメンのナイスガイなんかじゃないんだよ!思い出してヒロくん!そして私がヒロくんの恋人のリンデス!」

 ぶるぶると揺らされながら色んな意味で酷いことを言われてた。

「リンが普段どう思ってるのか良く分かったよ。すまねぇ、オラ、もうダメみたいだ。少しの間一人にしてくれ……」

「そんなことできないよ!恋人の私!が傍にいてあげるからね!恋人の私が!」

 ふんふんと鼻息を荒くしているリンが怖い。

「とりあえず本気で一人にしてくれ。ただの幼馴染のリンさん」

 何か舌打ちが聞こえた気がしたんだけど俺の気のせいだよね!?


 やっと落ち着いてきてここが病院だということが分かった。真面目な若葉にはかなりこれは堪えただろうなぁと思って若葉を見てみたら案の定暗い顔をしている。

 やれやれと思う。

「若葉、それにリン。聞いてくれ」

「なに?(ですか?)」

「とりあえず俺は大丈夫だから二人は学校に行け。若葉は今朝のままだろう?リンは制服だが、どうせ朝からずっといたんだろ?」

「そうですが、でも責任がありますし……」

「悪いと思ってるんだったら、俺が若葉をさぼらせて悪いと思うような気持ちにさせないでくれ」

「わかりました……」

「リンもわかったか?」

「……ヒロくんがそういうなら行くけど、でも今日はバイトを休んで夕方来るからね」

「いや、大丈夫だって言ってるだろ?まだ二日目じゃないか?いきなり休むなんて言ったらやる気がないやつだって思われるぞ?」

「で、でも、ヒロくんのこと一人にしておけないよ。それに若葉ちゃんが……」

「私は別に天崎くんのことをどうこうするようなことはしませんよ」

「信用できない」

「別にリンさんに信用してもらわなければならないわけじゃありませんよ」

 なんかいつの間にか仲が悪くなってるなぁ。これは俺のせいなのか?

「二人ともどうしたんだ?喧嘩でもしたのか?ロリっ子たちが俺の目の前でいがみ合うなんてお兄さん悲しいよ」

「同い年ですからお兄さんというのは正しくありませんよ」

「そういう突っ込みはいいから、仲良くしろよ。いつも仲良くしてるだろ?たまに喧嘩するのもいいかもしれないが、なんつか、原因は俺なんだろ?」

 これがモテてるっていうことだったら多少嬉しくもあるんだろうが、片方はそうなんだろうけど、もう片方はただ真面目というだけだからな。

「この際だから言っておくね。私、ヒロくんと若葉ちゃんが一緒にいるのは良くないと思うの」

「なんで?」

「ヒロくんが怪我をするようなことがあるからだよ。だって今まで通りで別にいいじゃない。ヒロくんはちっちゃな子が好きで、ちょっと困ることもあるけど、でも怪我するようなことはなかったよね。それを止めようとして怪我させちゃうなんて、若葉ちゃんがそういうことをする人だったなんてわたし――――」

「リン」

 リンの言葉を遮り、嘆息して続ける。

「お前が心配してくれてるのは嬉しいが、俺の人間関係をお前が決めるなよ。俺は若葉と仲良くしていたいし、心配かけちまったかもしれないが、俺自身は楽しいと思ってる」

「……ずるいよ。そんな言い方されたら私何も言えない」

「若葉、悪いがリンのこと頼むわ。悪気があるわけじゃないんだ。変な意味で純粋っていうかその……」

「分かってます。でも、私だってそこまで出来た人間じゃないんですよ。理不尽なことにまで全部納得できるほど出来た人間じゃありません」

「若葉は本当に可愛いなぁ」

「な、何言ってるんですか!」

 リンが若葉を睨んでいるのが見えてまた嘆息する。俺には上手く収拾することが出来ない。本なんかだったら上手いこと主人公が説得して上手いように関係を取り持って、みんなハッピーになれるんだろうがなぁ。

 若葉も言っていたが俺もそこまで出来た人間じゃない。上手くいかずにギクシャクした人間関係になることだってあるかもしれないが、それでも別に構わないとも思っている。

「ほら、とりあえずお前らは学校行けよ」

「お大事に。放課後にまた来ますね」

「ヒロくん、ゆっくり休んでね」

 二人が出ていった後の病室はとても広く感じた。6人部屋のはずなのに俺一人しかいないというのも広さを感じる原因だろう。

 窓際に移動して外を見ると車いすに押されて散歩をしているらしい爺さんと看護師さんが見える。

 こんなところに居たら欲望にまみれた俺の心も萎縮するというものだ。

「なにやってんだかなぁ」

 朝、自分があんなことを思いつかなければと思うとその原因になった行動がとても馬鹿らしく思える。

「それもこれもミリアちゃんがあんなに可愛いのがいけないんだ!」

「ミリアがどうかしたの。お兄ちゃん」

「ぬあ!」

 突然背後から声をかけられて驚いて振り向くと今まさに考えていた人物が居た。

 え?なに?これは俺の妄想か?妄想が現実になったのか?夢か!?そうか俺はまだ夢を見ていたんだな!

「お兄ちゃん?」

 きょとんとした顔のミリアちゃん。かわええぇぇ!

「い、いやこんなところでどうしたの?誰かのお見舞いかな?」

 ミリアちゃんはきょろきょろと見回して、俺の方を向いて笑顔を見せる。なんとなく違和感を感じた。

「お兄ちゃん、今日は一人なの?」

「あ、ああ、さっきまで若葉たちが居たが学校に行ったよ」

 ミリアちゃんはへ~そうなんだ~と言いながらおいて窓際に置いてあった椅子に腰を下ろした。

「それで、ミリアちゃんは誰かのお見舞い?」

「ううん。違うよ。お兄ちゃんに会いに来たの」

「?」

 子供の言うことは分からないことが多いというがこれは本当にわからなかった。昨日初めて会ったばかりなのに、会いに来るというのが良くわからない。まぁでもそれでもミリアちゃんに会えたというのは嬉しい。

「そっか、僕に会いに来てくれたんだね。嬉しいなぁ」

「本当に?良かったぁ。ミリア、お兄ちゃんに嫌われてないかどうかすっごく心配だったの」

「そんなわけないじゃないか!僕はミリアちゃんを見た時からミリアちゃんのこと大好きだよ!」

 ミリアちゃんは幼い子には似合わないような呆気にとられた顔をした後に顔を赤く染めた。

「ふふっ……。同じこと言ってくれるなんて嬉しいわ」

「何?」

「ううん。なんでもないよ。ねぇねぇお兄ちゃん。ミリアのこと好きならミリアと一緒に遊んでくれる?」

 おお、なんと!幼女から遊ぼうなんて誘われるなんてことがあるなんて今日はなんていい日なんだ!

「もちろんOKだよ!」

「それじゃ。キスして?」

 首を傾げて、口元に人差し指を立てて持ってくる仕草にドキリとしてしまった。

「キ、キスは遊びじゃないよ?」

 さすがに幼女にキスをするなんていうことは出来ない。俺の自制心が警鐘を鳴らしている。

「お兄ちゃん、ミリアのこと嫌いなの?」

 ミリアちゃんは口元にあてた人差し指を上唇にあててそのまま少し持ち上げてむっとした顔をする。かわええ!

「大好きだよ!大好きだけど、キスっていうのはね。好きな人同士がすることであってなんていうか遊びでやるようなことじゃないんだよ?」

「私もお兄ちゃんのこと大好きだよ?」

「ふはっ!」

「?」

 思わず鼻血が出そうになってしまった。やばい!なんという破壊力だ!

「で、でもお兄ちゃんとミリアちゃんは歳が離れてるからね。だからこういうことはしちゃいけないんだよ」

 俺は何を言ってるんだ!こんなチャンス二度とは来ないかもしれないのに!幼女の方から俺に向かってキスをしたいって言ってきてるっていうのにどうして否定するんだ……歳の差なんて関係ないっていつも言ってるじゃないか、このヘタレが!

「ふ~んそっかぁ。年齢なんて関係ないって前は言ってくれたのにね」

「は?」

「ずっとずっと私待ってたのに、ヒーくんは私のこと忘れちゃったの?」

「え?何言ってるの、ミリアちゃん」

 忘れるも何も昨日会ったばかりだし、俺がこんな可愛い子のことを忘れるはずがない。それにヒーくんって?

「もしかして、あの時の約束のせいなのかしら?」

「約束?俺、昨日ミリアちゃんと約束してたかな?」

「やっぱりそうなのかしら?ねぇ、ヒーくん。私のこと覚えてなぁい?」

 何を言っているのか全く分からない。誰かと勘違いをしているようにも見えない。それにヒーくん?子供の頃に呼ばれていたような記憶はあるが、でも、その頃はこの子はまだ生まれていないはずだ。

「ミリアちゃん、誰かと勘違いしてないかな?」

「勘違い?ううん、してないよ」

 ミリアちゃんはにっこりと笑ってくる。その笑顔は何か子供には似つかわしくないものに感じた。

「約束したよね。私のことずっとずっと好きでいてくれるって、いくつになっても私が小さなままでもずっとずっと好きでいてくれるって」

「……」

 何言ってんのこの子?

「うーん。忘れてるみたいね。本当にどうしたものかしらね」

 神妙な面持ちで考えこむミリアちゃんを見て、俺は何がなんだか分からずただ茫然としていた。

「あ、そうだ」

 思いついたようにミリアちゃんは顔をぱっと笑顔にする。

「ヒーくん、ミリアは今日は帰るね。またね」

「あ、ああ。またね、ミリアちゃん」

 ミリアちゃんは手を振りながら外に出ていった。終始ミリアちゃんのペースで意味が分からなかった。子供はわけがわからない自分ワールドを持っているというが、ミリアちゃんのこれはそれとは違う気がする。

「一体なんだったんだろうな」

 考えても良くわからない。昔会ったことがあるようなことを言っていたが、俺にはその記憶がない。

 それにしてもやっぱりミリアちゃんは可愛かったなぁ。あの可愛さは人間とは思えないほどだ。特に肌の綺麗さ、唇の瑞々しさといったらもう……何故俺はキスを拒んだのか!

 自制心なんて、常識人ぶっても俺はロリコンだというのに!

「はぁ、寝よ寝よ」

 せっかく何もせずに眠れるっていうんだからこういう時には寝るに限る。


「起きて下さい。天崎くん、そろそろ帰りますよ」

 目を開けると若葉が立っていた。

「もう大丈夫だってお医者さんも言ってますから行きましょう?」

 診察を受けたような記憶がないんだけどいいんだろうか?

「あ、ああそうか、とりあえず帰るかな」

「今日は本当にすみませんでした」

 そういって若葉はまた頭を下げてきた。

「いや、もういいよ。気にしてないしな。それより、リンはちゃんとバイトに行ったのか?」

「ええ、リンさんはちゃんとバイトに行きましたよ。行く前に私に怪我させたら殺すからって言われましたけどね……」

 若葉が暗い顔をして苦笑いを浮かべる。

「すまん。まぁだが、しばらくしたら治るだろう。一時的なもんだよ」

「別に天崎くんが謝るようなことじゃありませんよ」

「そうはいっても原因は俺にあるようなもんだしな」

「天崎くんに原因があるわけじゃありませんよ。私とリンさんの問題です」

 リュックを持って帰り始める。

 今日は色々とあった。色々とありすぎたからだろうか、二人ともほとんど会話もなく、家まで着いた。

「ありがとな。それじゃまた明日」

「ええ、それではまた明日。明日は思いつきでカメラを持って徘徊するのをやめて下さいね」

「おいおい、まるで変質者みたいに言うなよ」

「私から見たら十分変質者ですよ」

「……さいですか」

 家に帰ってから若葉にミリアちゃんのことを聞いていなかったことを思い出す。どういう子なのか聞いておけば良かったな。まぁ俺がミリアちゃんのことを教えてくれなんていっても教えてくれない可能性の方が高いだろうけど。

 母親にこってりと絞られてから部屋に戻ると病院で十分眠ったと思っていたのにまた眠気が襲ってきて、着の身着のまま眠りについた。



リンさんの部屋


 ヒロくんが”また”目が覚めなくなるんじゃないかと思ってすごく怖かった。あの時みたいにずっとずっと眠り続けるんじゃないかって思って怖くなった。どうして若葉ちゃんには私の恐怖が分からないのかな?若葉ちゃんだってヒロくんと私のこと応援してくれてたのに、どうしてなのかな?若葉ちゃんなんて嫌いだよ。ううん、ヒロくんを傷つけるようなものは何でも嫌いだよ。やっぱりあの子がいたからかもしれない。ミリアって言った子。前もそうだったよね。前にもあの子がいたからヒロくんが起きなくなっちゃったんだ。ヒロくんに何度聞いてもあの子のこと覚えてないっていうし、あの子はやっぱり危険だよ。どうしよう。私ケーキなんて作ってていいのかな?でも、ヒロくんは私にバイトしてっていうし、私と結婚したいからだよね。やめちゃいけないっていうことだよね。苦しいけど、でも、私頑張るね!ヒロくんと私の未来のために頑張るからね!

「……。もしもし?若葉ちゃん。何?何か用なの?私忙しいから明日にしてくれないかな。ごめんって何が?別に私に謝ってほしいわけじゃないって言ったよね。うん、そう。わかった。でも、もうヒロくんに付き纏うのはやめた方がいいと思うよ?どうしてって、若葉ちゃんも高校生のままで人生終わりたくないよね。あははははははははははははははははは」


自分で期限を決めて間に合わせられないってダメですよね。まぁでも大体日曜日近辺で更新を行っていきます。

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