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DAY 3

 今朝の目覚めは少し早かったと思う。リンが家に来る前に起きていなければ、もしかしたらまた同じような状況になってしまうかもしれないからな。いきなり目を開けたら目の前にリンが居るなんて嫌過ぎる。

 カーテンを開けて外を見るとウォーキングをしている男女を見かけた。恐らく夫婦か恋人だろう。俺のじいちゃんとばあちゃんも同じようにウォーキングをしていたらしい。健康のためにと言っていたが、夫婦二人で散歩するなんて素敵なことじゃないだろうか、ばあちゃんは背が低かったし、それになにより歳が15歳も離れてたからな!


 なんて羨ましいじじいなんだ!


 もう今は星になってしまったじいちゃんは、きっとロリコンだったに違いない。羨ましい、しかしそれは俺にとって希望でもある。15歳も年齢が離れていたからといってもじいちゃんとばあちゃんは結婚したんだ。15歳の年齢の差も愛の前には無力ということだ!

 それに比べたら俺が幼稚園に通う幼女を愛したっておかしくはないはずだ。

「よし」

 俺は思い立って、鍵がついた引き出しの中から手紙を取り出して開く。



―――手紙


 大好きな舞ちゃんへ


 いつもお兄ちゃんと遊んでくれてありがとう。


 お兄ちゃんはいつも舞ちゃんのことを考えています。


 今日はまじめなお話をするね。


 舞ちゃんはお兄ちゃんのことが好きかな?


 僕は舞ちゃんのことが好きだよ。

 

 舞ちゃんと一緒にいるととってもあたたかい気持ちになれるんだ。


 これはきっと愛っていうものだと思う。


 舞ちゃんは愛って何か知ってるかな?


 それはね。お母さんやお父さんと一緒にいたいって思う気持ちと一緒なんだ。


 舞ちゃんがもしもお兄ちゃんにも同じ気持ちを感じてくれてるんだったら


 僕と一緒に暮らさないか?


 舞ちゃんが大好きなお兄ちゃんより



「うん。素晴らしい内容だ。舞ちゃんは感動に噎び泣き、俺との暮らしを望むことだろう」

 今日こそ、これを舞ちゃんに渡すことにしよう。年齢の違いを考えてしまって、今までずっと悩んでいたが、じいちゃんは15歳も年下のばあちゃんを射止めることが出来たんだ。きっと周りも分かって祝福してくれるさ。

「舞ちゃん。俺と温かい家庭を作っていこう」

 これから行う人生最大のイベントを前にして、興奮とも不安ともとれる感情が渦巻いているのを感じる。俺はこれから舞ちゃんと幸せになるんだ!毎日のようにケーキを食べながら元気いっぱいな舞ちゃんの笑顔を見ることが出来る……なんて素晴らしい!

 手紙を学生鞄の中に入れようとして、ふと壁に貼ってある習字紙が目に入った。

 そこにはデカデカと


 自制心


 と書かれていた。

 頭の中が急速に冷めていくのを感じる。そうだった。この世界では幼女に愛の告白をしただけで社会的に抹殺されてしまうんだった。忘れかけていた。自分の世界だけで物事を考えてしまっていた。このまま、もしもこの手紙を舞ちゃんに渡したとしても、舞ちゃんの母親は俺の手の届かないところに舞ちゃんを連れていってしまうだろう。そんなのは悲しすぎる!

「くそぉぉぉ!!なんて悲しい世界なんだ!」

 俺は思い切り叫んで手にした手紙を握り潰そうとした。理性ではそうした方が良いと理解してはいるのだがどうしても出来なくて引きだしの奥に手紙を戻した。

「何故世界はロリコンに優しくないんだろう……」

 俺の呟きを聞いているものは誰もいない。

 外では小鳥達が俺の呟きも気にせず鳴いていた。



「朝からそんな危ないことを考えていたんですね……」

「ああ、悲しい話だろう。愛し合う姫は敵国の王女だったという話と似ているな。悲劇だ」

 今朝考えていたことを若葉に話をしてみた。周りにロリコンだということを明言するよなことはしないのだが、俺は昨夜考えた。

 若葉がロリコンに理解のある人間になればいいんだ。そうなれば俺がロリコンであっても受け入れてくれるはずだ。ちっこい子に対する愛を伝えようとしてもなかなか伝わらないが、でもそれが若葉の常識になってしまえば理解してもらえるんじゃないか?

 もちろん、これは諸刃ではある。この話を聞いて若葉がより一層引いてしまい距離が開いてしまうこともあるだろう。

 そう、今まさに若葉は俺から距離をとっていた。

「3メートル以内に近寄らないで下さいね」

「小学生かお前は!だが、それも良い!」

 若葉は疲れ切った顔をしている。やはりまだこの話は早かったかもしれない。

 だが、人に何かを理解してもらうのには同じ体験、同じ思いを持ってもらうことが一番手っ取り早いというのに若葉自身がちびっ子でどちらかと言えばロリに区分されるのだからなかなか難しい。

「若葉は何かフェチとかないのか?」

「そんなおかしな会話を朝からしないでくださいよ!フェチなんてありません!」

「本当にそうなのか?人には一つぐらいフェチと言われるものはあるものだぞ」

「ヒロくん、私はね。実はね、ヒロくんフェチなんだよ」

 きゃ、言っちゃった。なんて言いながらリンが顔を手で覆っていた。フェチが人物ってなんだよ!それはあれか?俺のことをおかずにしてる宣言なのか!?

「なぁ、若葉……。こいつこそ自重すべきだとは思わないか?」

 若葉は苦笑いして何も言わない。俺には厳しいのに何故かリンには甘い気がする。異常性を言うなら絶対こいつの方が上のはずだ!……と思いたいが周りから見たらそうじゃないのかもしれない。難しいところだな。ロリコンにはロリコンの異常性があまりよく理解できない。

 まぁそもそも異常性に大も小もないという認識が一番正しいのかもしれないが。

「そういえば明日は休みだがどこか行くか?」

 自然な流れで若葉に聞いてみる。

「いえ、私は勉強する時間があるので遊びには行きませんよ」

「それじゃ監視はどうするんだ?」

「監視はします。天崎くんも一緒に私の家で勉強しましょう」

「何言ってるの若葉ちゃん。ダメだよ。ヒロくんは私と一緒に駅前のデパートにヒーローショーを観ている子供たちを観に行くんだから!」

「子供たちを観に行くって分かっていて普通に受け入れているリンさんが私には怖いですよ……」

 そう言って若葉は頭を抑えた。それにしても何故リンは俺駅前のデパートに行こうと思っていることを知っているんだろうか?リンに話した覚えはないんだが深くは考えないようにしよう。うん、その方が良い。

「私、昨日はあれから色々と考えていたんですよ。ロリコンを治すためにはどうしたらいいんだろうって」

「あのなぁ、ロリコンは病気じゃないぞ。生き方だ」

「開き直らないでください。まずは私の話を聞いてください。思うんですけれど、何か打ち込めるものがあれば治すことは出来なくても自制心を鍛えることは出来るんじゃないでしょうか?時間が有り余っていると人は堕落して、快楽ばかりを考えてしまいまい、自制が利かなくなってしまいます。

 打ち込むものがあれば、子供を誘拐してしまうようなことはなくってきっと真人間になれるはずです」

「まだ誘拐したことはねぇよ!」

「まだということはこれから誘拐する予定があるんですね」

「ないない絶対ないよ。好きでも連れて帰りたいと思っても実行するほど馬鹿じゃない。ただ少し一緒に遊んであげるぐらいで満足するさ!」

「世間は天崎くんが思っているような優しいものじゃないんですよ。子供に道を尋ねただけで不審者扱いをされたり、迷子をデパートの迷子センターまで届けるだけで誘拐犯扱いされたりするものなんです」

「確かにそんな敏感な人はいるだろうけど、それは子供のことを大事にしてるっていうことだろう。別に俺はそれが悪いとは思わないな。むしろ警戒してしかるべきだ!あんなことやこんなことをするために誘拐したいるするような屑のような人間がいるからそうなるんだよ!嘆かわしい!」

 若葉にお前が言うなと言わんばかりのジト目をしている。

 ロリっ子のジト目も良いものだな……。おっといかんいかん。

「それでその打ち込めるものって言ってたけど。もしかして勉強に打ち込めっていうことじゃないだろうな?」

「勉強は学生の本分ですよ。やるにこしたことはありませんが、それだけっていうわけじゃありません。読書だったり、スポーツだったり、ゲームだったり、趣味でも良いと思います。打ち込めるものならなんでもいいんですよ。

 人間の性格は変化していくものです。何かこれだというものがあれば認識を改めて人間らしさを取り戻すことが出来るかもしれません」

 ロリコンだって人間だよ!

 しかし、思ったよりもちゃんと考えてくれているのかもしれない。

 押し付けがましく一方的に責めて矯正使用とするわけでもなく、だからといってただ見守るだけで距離をおくというわけでもない。

 俺に何かあったら周りが悲しむからというのは若葉自身も含まれてるのかもしれない。

 そう思うと可愛いもんじゃないか。

「若葉はちっちゃくて健気で可愛いなぁ」

「私は真面目に話をしてるんですよ!ちゃんと話を聞いてください!」

 怒られてしまった。

「はっはっは。そこでふくれっ面でもしてくれたらよりグッドなんだけどなっ!」

「気持ち悪いです」

 若葉の蔑むような視線に背中からゾクゾクとしたものが駆け上った。

 ちびっ子の冷たい視線というのもなかなか良いものだな……。


「ねぇ、ヒロくん。聞いてもいい?」


 突然――と言っても一緒に歩いていたのだから唐突とうわけでもないが――リンがそう言ってきた。

 リンは無表情で真っ直ぐに俺を見つめてきていて、何を考えているのかわからないがあまり良いことではない気がする。

「なんだ?」

 悪いことが起こるかもしれないと分かってはいても聞かずにはいられない。

「ヒロくんは若葉ちゃんのこと好きなの?」

 これはまた直接的な聞き方をしてきたもんだな。呆気にとられてしまう。

「ああ、そうだな。ロリは大好物だからな!」

 はははと笑いながら言うとリンとそして何故か若葉も悲しそうな顔をした。

「そういうことじゃないよ。ちゃんと真面目に答えてよ。小さな子だったらヒロくんは誰でも好きになるの?」

「真面目にねぇ……。別にふざけてるわけじゃないぞ。ロリっ子は誰でも好きだ。ロリに悪いやつはいない!」

「ヒロくんが真面目に答えてくれないなら私にも考えがあるから……」

「か、考えってなんだよそれ」

 リンは何も言わずに薄く笑う。

 何も言わないからこそ怖くなる。大抵、こんな雰囲気になった後は俺の予想のつかないことをする。


 すぐには何が起こったのか分からなかった。リンは鞄の中から薄い生地の布に包まれた”何か”を取り出すと口を小さく動かす。

 聞き取ろうと耳を澄ました次の瞬間、”何か”は俺の腹部に押しつけられた。

「リ……ン……?」

 思い切り押しつけられた腹部にじわじわと熱を感じる。

「リンさん!なんてことを……」

 若葉の悲痛な叫び声が聞こえる。

「ヒロくんが悪いんだ。ヒロくんが悪いんだよ!ちゃんと私の言うことに答えてくれないからいけないんだよ!そんな意地悪なヒロくんには……」

 俺は視線を戻して腹部を見る。


 無惨にも俺のお腹は焼き立てほやほやのチーズケーキまみれになっていた。


「ヒロくんにはもうチーズケーキ食べさせてあげないから!」

 リンはそう吐き捨てるとものすごい勢いで走っていってしまった。どうして体育の時間にその走りを見せないんだ!

 それにしても

「どうすんだよ……これ」

 服にべっとりとついたチーズケーキに立ち往生してしまう。

「チーズケーキに罪はないというのに……」

 隣では、全く俺のことを気にもしていない若葉がチーズケーキの惨劇に涙していた。



 学校につくと靴箱の前にリンがいた。一生懸命、靴箱に手を伸ばして、上履きを取り出そうとしているようなのだが、手が届かないようだ。

 俺はいつも通りリンの上履きをとって床に放る。

 リンからは感謝の言葉もなく、上履きにはきかえて外靴を俺に突き出してくる。

 なんとなく嬉しくなってくる。

 言っておくが別にMというわけじゃない。自分自身で出来ることなら上履きをとって俺に頼らないようにしようという考えが嬉しい。

 俺とリンはあまり喧嘩をしない。俺が怒っていたとしてもリンは申し訳なさそうな顔をするだけで、怒ったりはしない。

 いつも折れるのはリンで、「そうだね。私が悪いんだよね」なんてそんな風に言うばかりで張り合いも何もない。昔はそうじゃなかった。

 少し傲慢で、わがままなように見える方が人間味があると思う。

「なににやにやしてるんですか?」

 若葉に言われてにやけていることに気づいた。

「いや。何でもない。早くいかないと遅刻するぞ。誰かさんのせいで余計に時間を食ったからな!」

 リンは私は悪くないと言いたげにふんっと顔をそらした。


 授業中にスケジュール帳を取り出して眺める。明日はヒーローショー。日曜日の朝にやってる特撮もののヒーローと幼女が変身して敵と戦うアニメのキャラクターが来るらしい。

 ヒーローの方はよく知らないが、アニメの方は毎週欠かさずチェックしている。

 アニメスタッフはよく分かっていると思う。幼女の無邪気さ、幼女の直向きな姿、幼女のふわふわ感、幼女の柔らかさ、幼女のふともも、幼女の……。

「ふぅ……」

 俺は授業中に有意義な時間を過ごした。


「結局、明日はどうしますか?」

 昼休みになって、購買のメロンパンをむさぼり食っていると若葉からそう声をかけられた。

「無論、俺は予定を計画通りに遂行する。公然と幼女達を眺めることが出来る素晴らしいイベントを見逃すわけにはいかないからな」

 若葉は無言で俺の額に手を置いてきて自分の額にも手を置いた。

「大丈夫だ。熱はないし、頭の中身も正常に幼女たちのことを考えている」

「変態ですね」

 前から俺を敵視するようなことを言っていたが、最近はもっと酷くなったような気がするな。

 仲良くなった証拠だと考えておこう。

「なんと言われようと明日の予定を変えるような事は考えないぞ。例え我が家が炎に包まれようとも俺はヒーローショーを観に行く!」

「そんなに子供たちを観たいですか……」

「ああ!もちろんだ!」

 大声で叫んだからだろうか?クラスメイト達からの視線を感じる。

 若葉は嘆息してからわかりましたよと言って弁当を食べ始めた。

「そういえば、いつも弁当だけど自分で作ってるのか?」

「いえ、毎日母が作ってくれてますよ。高校に入ってすぐは一緒に作っていたんですけれど、私は朝が弱いので続かなくって、ふらふらしてると危ないから寝てなさいって言われてしまいました」

「ふ~ん。なんとなくだが朝は強そうに見えるけどな。眠そうな顔をしてるところを見たことがない」

「それはさすがに学校に行くまでの時間には目が覚めますからね」

「私は朝は強い方だよ」

 もう朝の機嫌の悪さはなくなっているようだ。

「リンさんは毎朝自分でお弁当を作っているんですよね。尊敬します」

 リンは毎朝自分で弁当を作ってくる。前に俺にも弁当を作ろうかと言ってきたが遠慮した。周りからそういう風に見られるのが嫌だったからというのが理由だが、結局いつも昼を一緒に食べているので、入学当初は冷やかされたものだ。

 まぁ、今となっては周囲も飽きてしまって、特に何も言ってこない。幼馴染でリンが引っ込み思案な性格だということが分かった今はそういうものなんだろうと受け入れている。

 付き合ってるんでしょ?的な感じで言われることもあるが断固として否定している。

「ヒロくん、やっぱりお弁当いらない?毎日パンばっかりだし……それじゃ栄養が偏っちゃうよ」

「いらんいらん。中学の頃にも言ってただろう。せっかく高校生になって学食や購買を使えるようになったんだからな。せっかくなんだから使いたいってもんだろ。俺には毎日弁当で満足してるのがよくわからん」

「お父さんの分も作るし、残り物はお母さんがお昼に食べてくれるし、食費が浮くからいいんだよ」

「それなら俺の分を作るなんて言うなよ。弁当代を請求するつもりか?」

「そういうわけじゃないよ。でも、一人分ぐらい増えたってあんまり変わらないよ」

「そういうもんかね。まぁどっちにしても俺は弁当はいらないかな」

「そっか……」

 リンは残念そうな顔をしているが、俺としては他人に弁当を作ってもらうというのは気が引けるのだ。自分で作るのも面倒だし、親は親で共働きで弁当を作るのが面倒だという性格だ。

「幼女が頑張って作ってくれるものなら毎日でも食べたいがな」

「そうですか、願いが叶うといいですね」

「いつかきっと叶えてみせるさ!」


 放課後になって今日も駅の喫茶店に寄ったのだが、今日は舞ちゃんがいなかった。

「舞ちゃんのいないこの喫茶店にはこのチーズケーキぐらいしか良いところがないな……」

 心底がっかりした調子でチーズケーキをつついていると若葉から脇腹を小突かれた。

「もっと周りを気にしましょうよ!」

 いつの間にか声に出ていたらしい。気を付けなければこのお店に出入り出来なくなってしまう。

「ごめんね、ヒロくん」

 唐突にリンが謝ってきた。なぜだ?もしかして、舞ちゃんがお店にいないのはリンのせいなのか?リンがなにかしたのか?もしかして俺がロリコンだとばらしたのか!?

「チーズケーキ作ってくるっていったのに……」

 あ、なんだ。そっちね。ふぅ……びっくりした。

「ああ、別にいいよ。それにまだ無事だった部分は少し食べたしな。相変わらず美味しかったよ」

「ヒロくん……」

 今朝、リンが俺にチーズケーキを押しつけて走っていった後に、服についていた食べられそうなところを少しだけ食べた。まだ熱々だったので、たぶん朝学校についてからでも渡そうとでも思っていたんだろう。

 その努力だけは認めてやらんでもない。

「まぁチーズケーキ好きだしな。リンは将来ケーキ屋でもやればいいんじゃないか?うん……そうだな。ここでバイトとして雇ってもらうというのはどうだ?ケーキ作りの腕も上がって、俺もリンが居るからという口実でここに毎日入り浸って舞ちゃんと遊ぶから」

 うむ、実に良い案だ。

「ヒロくんがそういうなら頑張ってみるけど……」

 リンも満更でもない様子だ。

「リンさん、ダメですよ!そんなことをしたら天崎くんの病状が悪化します!」

「何を言う。俺はリンの将来を考えていってるんだぞ。俺が舞ちゃんと遊べるというのは副産物であって決してそれが目的というわけじゃない」

「いいえ。絶対にあなたの目的は舞ちゃんですよ。今朝の話覚えているんですからね」

 ちっ!先に話すんじゃなかったぜ。俺としたことがぬかってしまった。

「まぁでも、本当に俺はリンがケーキ屋をやったらいいんじゃないかと思ってるんだがな。子供の頃の夢はケーキ屋さんって言ってただろ?」

 あれはまだ小学校の低学年の頃だっただろうか?あの頃から俺はベイクドチーズケーキが好きで、リンは幼いなりに頑張って作ってきてくれた。

 あの頃は不恰好で味も均一ではなくて、まずいとまでは言わないが上手くはなかった。

 今はあの頃とは比べものにならないぐらい上達していて、このチーズケーキだけならプロ並みだ。

「覚えててくれたんだね」

「今朝チーズケーキを食べるまでは忘れてたけどな。いいんじゃないか?俺はお前がケーキ屋さんになるっていう夢だったら応援するぞ」

「本当に!ありがとう、ヒロくん。私頑張るね!」

 おお、いつになくやる気だ。良いことだな。これで多少は自立してくれるんじゃないだろうか?

 さっそくリンはマスターに話に言った。

「天崎くんはちゃんとリンさんのことを考えてるんですね」

 にやにやとした顔の若葉の顔がそこにはあった。

「あいつがいると邪魔だからな!若葉と二人きりの時間を作りたかったんだ!」

 虫を見るような目で見られた。

「いや、まぁ。良いことなんだからいいじゃないか?あいつは俺に依存しすぎなんだよ。社会に出てもっと周りを見る機会を作った方が良い」

「良い言葉ですけど、それはあなたも同じことですからね」

 言葉のブーメランが返ってきてしまった。

 居心地の悪さを感じてリンの方を見ると笑顔で頷いてくる。

 どうやらOKをもらったらしい。

「リンさん、生き生きしてますね。良かったです」

「そうだな」


 外に出るとすっかり外は暗くなっていた。リンがこれから放課後にバイトをするとしたら帰りはもっと遅い時間になるかもしれない。

 夜は迎えに行ってやるかなと思う。

「それじゃまた明日な。時間と場所はメールで伝えるからメアド教えてくれ」

「わかりました――はい、送りましたよ。それではまた明日。リンさんもまた明日」

「えっと私明日はお昼過ぎに色々とこれからのことを話したいからって言われてるから、少し早めに抜けるけどいいかな?」

「おういいぞ。しっかりやれよ」

「リンさん頑張って下さいね!」

「うん、ありがとう」

「……」

「ヒロくんどうかしたの?」

「い、いや。何でもない。また明日な」

 逃げるようにそう言って家の中に駆け込んだ。

 リンの久しぶりの屈託のない笑顔にしばらく見とれてしまっていた自分を気取られたくはなかった。

 部屋に戻ってスケジュールを立てる。

 10時から開演なので9時半に集合。昼休憩の時間にはもしかしたら、幼女とお近づきになって一緒に食事をすることになるかもしれないので、店をいくつかピックアップして、場所を記憶しておく。

 午後は2時からアニメの方のショーがある。終わるのが4時になるのでそれからぶらぶら歩いても5時半頃には帰ることになるだろう。

 明日は何時ごろにリンが喫茶店から帰ることが出来るのか聞いてなかったが、それからあの喫茶店に行けばちょうど良いぐらいに一緒に帰ることが出来るだろう。

 若葉とリンにメールで明日のスケジュールを送る。

「よし!あとは突然幼女に告白された時のためのシミュレーションでもしておくか!」

 俺の妄想爆発なシミュレーションは留まることを知らず深夜にまで続いた。



リンさんの部屋


 ヒロくん覚えていてくれたんだ。私の夢のこと。そしてあの約束のこと。朝はとっても嫌な気分だったけど、でもそんなこともうどうでも良いよ。忘れてるのかと思ってたのに、そんなことなかったんだね。ヒロくんってば天邪鬼だよ。でも、今日のことは本心だよね。告白と思ってもいいのかな。これから私たち前に進むんだよね。でも、今朝は危なかったよ。もし私があの時チーズケーキを切り分けるために持ってきたナイフでヒロくんのこと刺してたら、後悔してたかもしれないね。若葉ちゃんも応援してくれてたし、私たちのこと祝福してくれるんだよね。若葉ちゃんのこと少し誤解してたかもしれない。ちゃんと私のこと考えてくれてたのに、私若葉ちゃんのこと邪魔だなって、嫌な人だなって思ってたの。ごめんね、若葉ちゃん。若葉ちゃんは私の親友だよ。ヒロくんと幸せになるね。

「私がケーキ屋さんになったら、ヒロくん私と結婚してくれるってあの時約束したよね」

久しぶりに運動したら筋肉痛になりまして、のらりくらりと歩いていたら知人から まるでゾンビみたいだね笑 と言われました。

自分の状態異常を他人にかける魔法があったら是非使ってみたい今日この頃です。

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