DAY 9'
誰かの夢の話です。
朝起きたら体が縮んで幼稚園ぐらいの子供になっていた。
違うよな。そうじゃない。これ夢だ。たぶんそう。そして、俺の夢なら俺が子供になるんじゃなくて俺以外の人間すべてを子供にしろよ馬鹿!と心の中で思いながら目覚まし時計の上部のスイッチをぺしぺしと二度叩いた後に、とりあえずもう一度ぺしっと叩いた。
夢だとは分かっているが、子供になった慣れない体でベッドと床がやけに高いなぁと怪訝な顔をしながら降り立つ。夢の中だというのになんとなく足で床を踏んだ感覚があって驚いて、慣れない体ということもあり尻餅をついてしまう。小さくなった足でとんとんとんと床を楽器にしてみる。音と地面を踏む感覚はある。驚きだが、頬をつねって痛くなかったら夢だという話を聞いたことがあるのでそちらも試してみるが、痛い。
首を傾げていると部屋のドアの開く音がした。ドアとベッドとの間には冬になると一人用炬燵になるテーブルがあり、今の尻餅をついている体勢からはドアを開いた人物の姿は見えない。
「ヒロくん!朝だよ」
少し高い声だったがリンだということが分かる。今の姿を見せても良いものかと悩んだが、隠れるとしたらベッドの下ぐらいしかないのだが、なぜか体が言うことをきかず。疑問を浮かべている内に声をかけられた。
「ヒロくん、もう起きてたんだね」
声の方を向いて、俺の表情は固まってしまった。だってそこにいたのはリンじゃなかったんだ。いや、リンといえばリンなんだが、強いて言うならロリンだった。リンは俺と同じぐらいの身長に縮んでいて、ふんわりとやわらかそうなほっぺをして、きょとんとした顔をしている。何故か着ているのは高校の学生服だ。サイズはもちろん俺たちに合わせて縮んでいる。
「ヒロくん?」
ロリンは何かおかしいの?とでも言いたげな視線を俺に向けて首を傾げる。
なんという可愛さであろうか?俺は電撃に打たれたような衝撃をうけて、つい、ロリンのほっぺをぷにぷにとつつく。なんという弾力であろうか?俺は雷撃に打たれたような衝撃をうけて、つい、ロリンの二の腕をぷにぷにと触る。なんという弾力で……
「ヒ、ヒロくんダメだよ……まだ朝なんだから……」
「ハッ!?」
いつの間にかロリンを押し倒していた。いけないいけない。自制心を忘れたロリコンどもの末路を思い出せ!
「はは。ただの朝の冗談じゃないか、本気にするなよリン」
と言いながらそそくさと立ち上がり、リンを立ち上がらせる。危なかった。しかし、冷静に考えてみれば、俺とリンは同い年だ。ということはだ。別にいいんじゃね?
「どうかしたの?」
ぼーっとしてロリンを見ていた俺は声をかけられて正気に戻る。自分自身が怖い。
「いや、なんでもない。ともかく着替えるから外に出て行ってくれ」
そう告げるとロリンは足早に外に出ていったのだが、その小さい姿でぴょんぴょんと跳ねるように走っていく可愛らしい姿を追ってしまう。
「また夜にね」
バタンと閉まる扉の音がやけに大きく感じた。なんだろう。俺は取り返しのつかないことをしてしまったような気がする。しかし、今は着替えるのが先だ。それにしてもこれは夢だろう?夢だよな。そうだよ。こんなことあるはずがない。でも、それを証明する手段がない。頬をつねっても目は覚めない。
着替えてから外に出た。今日の陽ざしは曇っているわけでもなく、明るいはずなのにやけに冷たく感じる。なんだろうかと疑問に感じて、眩しいはずの空を見上げていると声をかけられた。
「おはようございます、天崎くん。今日もやっぱり変な天気ですよね」
目を向けて俺はまた静止する。そこに居たのはロリ若葉だった。いつもかけている眼鏡をかけていない。そして背中にあるのはランドセルだ。本物のロリに赤いランドセル。この組み合わせに戦慄する。もちろん、肩から延びる二つの連尺を両手で掴んでいる。分かっているじゃないか。つまりは最強ということだ。
「結婚して下さい」
「死んで下さい」
天崎浩です。今、本物の幼女に死ねと言われました。どうしたらいいでしょうか?俺は死んだ方がいいんでしょうか?それとも幼女をペロるべきですか?ペロってもいいですか?
「ダメだよ!ヒロくんのお嫁さんには私がなるんだから!」
ロリンも良く見ると先ほどとは違い、リュックを背負っている。そして、なんとほっぺたを膨らませて、ぶすーっとした顔をしているのだ。そうだった。こんな顔をしていたんだった。あの頃の俺には分からなかった。だが、今の俺には分かる。自然と涙が毀れおちる。悲しいわけでも嬉しいわけでもない。ただ純粋な感動の涙だった。
「あの天崎くん、何泣いてるんですか、気持ちわるいです」
「もっと言って!」
物凄く引かれた。だが、それがなんだというのだ!これは夢だろう。ぐへへ。そうだよ。夢なんだから何をしてもいいじゃないか!そう考えた俺はきっと子供とは思えないような下卑た顔をしていたことだろう。両手をわきわきとさせながら若葉の方へ向かって飛びかかる。
「いただきま~す!」
ぴょ~んと擬音が出そうな跳躍をした俺が見たのは若葉の足の裏だった。気付いた時には遅く、避けることは出来ず、その足に触れた途端に出た声はふげふ。幼女に顔を蹴られた時に出る言葉はふげふ。ここテストに出るからな。覚えておけよ。と自分自身でも意味が分からないことを考えながら蹴りをうけて背中から地面に落下した。物凄く痛い。これが本当に夢か?もしかしてこれは現実なのか?
「痛い……」
「自業自得です……。毎日のように変態的なことをするのやめてもらえませんか?こうなってからずっとですよ。それは……天崎くんの性質を考えれば仕方のないことなのかもしれませんけど……。こう見えても私は高校生ですよ?」
「だからなんだというんだ!どこからどう見ても幼女じゃないか!幼女だろう?幼女以外の何物だというのか!幼女、最高じゃないか!幼い女の子。お前のことだ!」
若葉を指さす。
「そして、俺は幼女が大好きなロリコンなんだよ!」
「ねぇ、ヒロくん。私は?私は?」
ロリンの方を振り向く。
「大好きだ!」
ロリンはうふふふなんて声を上げながら、真っ赤になった柔らかそうなほっぺに手をあている。いつもだったら気持ち悪いと思うがそんなことはない。幼女ならなんでも許される。ああ、幼女ならな。
「幼女最高!幼女最高!幼女最高!幼女さ……もがっ!」
俺が叫ぶと若葉から口元を抑えられた。今の気持ちを最大限に表しているというのに止めるなよと思ったのも一瞬の事で、幼女の手で口を塞がれていると思うと妙に興奮を覚えて鼻息が荒くなる。
それに気づいた若葉はすぐに俺から距離をとった。目には怯えの表情がある。
それでやっと冷静になった。いかんいかん。俺は幼女に嫌われるわけにはいかない。むしろ好かれたいんだ!好かれたいんだったら、紳士にいかなければいけない。熱くなるな、浩。思いが叶ったからといって、安心してはいけない。世界はお前が思っているほど甘くはないんだ。いつだってそうだっただろう。幼女と仲良くなってもその親が、周囲の大人が、社会が俺を許してくれない。世界はお前をいつも裏切ってきたじゃないか。
頭が急速に冷えていく。いや、そうだ。これはそもそも現実じゃなくて夢なんだよ。こんなことがあるはずがないんだからな。その夢の中でどんなにロリンやロリ若葉と戯れたといってどうなる。虚しいだけじゃないか。
「若葉、リン。すまん。とりあえず学校に行こう」
そう夢なんだからな。もしかしたらこの二人だけじゃなくて、クラスメイトの女子たちも幼女になっているかもしれないじゃないか、ただ二人だけでここで満足をして、夢が終わってしまったら勿体ないじゃないか!
「うん。じゃあいこっかヒロくん」
そう言ってロリンは俺に手のひらを向けてくる。なんだろうか、これは俺に手をペロってほしいという合図だろうかと思い、ペロってみるときゃっと可愛い声を出して手を引かれた。どうやら違ったらしいが、少し酸っぱい塩味だったということを心のメモ帳に記載しておこう。
「ヒ、ヒロくん、ダメだよ。こんな往来で……。手を繋いでいこうよ」
ふむ。幼女と手を繋ぐ、か。いいね。それもいい。
「よかろう」
俺はもう一度、はいと言って手の平を向けてきたリンの手を握る。柔らかい感触に漏らしそうになったがなんとか耐えた。俺は紳士だ。
そうしてもう片方の手の平をロリ若葉の方へ向ける。
「なんですか?もしかして手を繋ぎたいんですか、変態」
「何を言っているんだ。転んだら危ないじゃないか?」
そう、転んだら危ないからだ。別に両手に幼女をしたいわけじゃない。チガウヨ?
「……」
ロリ若葉はそっぽを向きながら俺の手の平の上に柔らかい手を預けてきた。ロリンの手よりも温かい。その感触と抱いた感情を数瞬噛みしめてから歩き始める。ロリンは元気そうに俺の手を掴んだ腕を振って、ロリ若葉は俺がロリンに引かれて、手が離れそうになると少し強めに握ってくる。
幸せというのはこういうことを言うのかもしれないな。小説で良く聞く日常は尊いということを表す言葉だが、こういう時にも当てはまるらしい。意外と万能だな。
学校に着いた。俺が考えていた通りの世界がそこにはあった。ここは天国かと思った。幼女たちが楽しそうに話ながら学校に登校している。その数は俺には分からない。10以上を数えることが出来ないぐらいに頭が冷静さを失いつつあった。
ロリコンだと自覚してから、小学生に戻りたいと何度思ったことだろうか?それとは違うが今はまさにそのような状況だ。自然と涙が出てくる。感動に震える俺は立ち止りそうになったが、ロリンとロリ若葉に引かれる手に導かれて校舎の下駄箱へと向かった。
なんということだろうか、下駄箱では手が届かなくて、ぴょんぴょんと跳ねている幼女達がいる。その光景に圧倒されてしまう。ぴょんぴょんと飛び、落ちる度に幼女達のスカートが揺れている。再び俺は感動した。夢でもいい。この光景を見ることが出来たことに感謝しよう。そして、容量が尽きることの無い心のスクショフォルダに保存された写真達は無数に増え続ける。
「決して俺はこの光景を忘れないだろう」
「何言ってるんですか?」
あきれ顔のロリ若葉だがロリ若葉自身もぴょんぴょん跳ねているのだ。俺はふっと吐き出すように笑いながら、何も言わずに自分自身の下駄箱から小さくなった上履きを取り出す。
「とってやろうか?」
「いえ、別にいいです。とれますから、大丈夫です」
ああ、若葉は頑張り屋さんだったな。そうだな。ここは俺が手を出すところじゃないな。と思いリンを見ると俺の方を上目使いで見て、それからこう言った。
「ヒロくん、とって?」
ふふ。オーケーオーケー。俺は真摯だからな。とってやるのはやぶさかじゃないさ。仕方ないなぁ……あれ?何これ、手が届かないんですけどっていうか高すぎない?無理っぽくね?ジャンプして一瞬で開けるの?そんな器用なこと俺出来ないって。
「ヒロくん?」
「はぁはぁ。ちょっと待ってろ。俺が今上履きをとってやるからな……」
うつろな目をしながら体力的にも子供になってしまったらしい俺は何度もジャンプを繰り返して、やっとのことでリンの上履きを取り出し、その場に崩れ落ちた。やり遂げたことに安堵しているとリンが今度は外履きを俺に向けてきた。
「ヒロくん。いれて?」
いれて?何をどこに?いや、わかってるよ!分かってるってば!ええい!そんな風に頼まれたら断れるわけないじゃないか……。ああ、ロリン……。お前は小悪魔だよ……でも、俺はそんなロリンが好きだ。愛してると言ってもいい。
靴箱にリンの外履きをなんとか入れ込む。慣れもあったのだろうが、取り出す時よりも簡単だ。何せ入れてしめるだけなんだからな。
ふうと溜息を吐いて、若葉はもう終わったかなぁと思って見てみると目を逸らされた。逸らされたということは俺の方を見ていたということだ。そして、足元を見ると靴下のままだ。もう一度若葉の顔を見ると何かくやしそうな顔をして目に涙を溜めている。
オーケー、皆まで言うな。もう一度やれってんだろ。分かってるさ。
教室に着く頃には疲れ果てていた。おはようという気力がなくてただ手を上げるだけで、中に入り、そして幼女達がおはようと言っているのに手を上げるだけとはなんたることかと思い直して気力を振り絞り、めいっぱいの笑顔でおはようと言ったのだが、何故か幼女達は引きつったような顔をしていた。どうやら上手く笑えていなかったらしい。いや、もしかしたら幼女を見て笑っていたというよりにやけていたのかもしれない。そんな彼女たちの顔も心のスクショフォルダに収めながら席まで歩く。
疲れていた俺は机に突っ伏して、あ゛~~~~~と声を出して、空気と一緒に疲れを放出しようとする。まぁ気分の問題で、疲労がとれるというわけじゃないんだがな。
先生が入って来て、若葉が号令をかけてからホームルームが始まる。俺は周囲を見ながら心のスクショを着実に増やしつつ、先生やクソガキが入ったところを心の画像編集ソフトで編集していたらすぐに1時限目が始まった。
授業の内容はいつも通りなのだが、先生に当てられて問題を解くために黒板の前までやってきた生徒が答えを書こうとしても手が届かず、先生は無言て幼女の脇に両腕を伸ばして抱えた。
先生、そんな羨ましいことをするなら俺がとガタッと席を立とうとして、そのまま席につく。音が聞こえた周囲は訝しそうに俺の方を見るが、すぐに黒板の方に目を移した。
そうだった。俺は今は子供なんだ。あれが出来ないのかと思うと俺自身は子供ではなく普通で良かったのになぁ。夢なんだからその辺りの融通はきかせてほしいものだと思うが、俺の体が急に大きくなることはない。
授業が終わると先生は珍しく黒板の文字をすべて黒板消しで消していった。普段だったら日直がやる仕事だが、子供には届かないと分かっているからだろう。
昼休みになった。何故か頭が痛い。普段とは違って周囲の幼女達の行動を見逃すまいと目を血走らせてみていたからかもしれない。
「ヒロくんは今日も購買?」
「あ~、なんか食欲がないんだよな。今日の昼は食べないでおくよ」
ロリンとロリ若葉が俺の机の上でお弁当を広げている。本当に食欲はない。夢だからだろうな。朝も食べていないのに昼になってもお腹が減らないというのは変だ。
「少しぐらいは食べてないと辛くなりますよ」
ロリ若葉が心配そうに言ってくる。その顔も心のスク…もういいか。
「ああ、まぁ大丈夫だろう。ありがとうな若葉。その気持ちだけで俺はごはん三杯はいけるよ」
「いや、それなら食べて下さいよ」
「これは一本とられたな。ははは」
「はぁ、まぁ本人が大丈夫だっていうならいいですよ。もう何も言いません」
二人はゆっくりと昼食を食べている。箸ではなくて、スプーンとフォークだ。子供用の箸を使えばいいだろうにと思う一般人とは違う特別な思考回路を持つ俺としては子供用のスプーンとフォークを使っている方が良いと思うんだ。同意は求めない。俺だけが分かればいいんだ。
授業はいつも通り進んでいく。だが、体育の時間は普段はやらないドッジボールだった。久しぶりにやったな。バレーをやろうにも子供の力だとなかなか思い通りの方には飛ばない、バスケもそうだろう。そうなると当たる当たらないという単純明快なドッジボールは子供のやる球技としては良いのだろう。
皆頑張っている。当たって泣いている子もいる。子供になる前もバレーなんかをしている時に当たって泣くような女子もいたが、その時とは違って幼女が泣いていると心を締め付けられるものがある。だから俺が投げたボールが泣いている幼女にボールを当てたクソガキの後頭部に当たった。ざまーみろ。
ふぅ。幼女に囲まれるというのは素晴らしいな。しかし、幼女だというのに落ち着きすぎている部分はいただけない。もっと天真爛漫であったり、人見知りをしたりと言った子供特有のものが無ければどうにも違和感がある。容姿が幼女だったら誰でも良いというわけではないのだよ。まぁ容姿が幼女でなければ見向きもしないがな。
ホームルームが終わり、放課後になり、まるでビー玉の袋に穴が空いたように幼女達は散っていく。あ、あとクソガキ共もだ。俺はロリンとロリ若葉を連れて外に出る。
「リンさんは今日もバイトですか?」
「うん。今日もバイト頑張ってくるね」
なんとまぁ幼女になってもバイトをしているらしい。どんなものだろうと想像する。幼女がエプロンをして、ご注文はなんですか?と言ったり、コーヒーを運んでる途中に転んで、コーヒーミルクを零して……ふんすふんす。
「よし、今日は寄って行こうか。チーズケーキを食べたいからな。チーズケーキを食べたいからだからな」
「何故二回言ったのかは聞きませんけど、私もケーキ食べたいですしいいですよ」
という話になって、ロリンとロリ若葉と手を繋ぎながら駅前の喫茶店へと向かう。もう今ではこれが夢だとは思っていない。何故ってこの柔らかい手の感触が夢だなんて思いたくないからだ。毎日毎日俺が願っていたから、きっと神様が俺の願いを叶えてくれたんだ。俺自身が子供になることはなかったのだが、まぁ仕方ない。きっと神様はうっかり屋さんの幼女なんだろう。
喫茶店に着くと従業員以外立ち入り禁止と書かれたドアを両手で開けて、リンが入っていく。俺たちは身近な席に着く。店内には俺たち以外に客はいない。天井を見るとシーリンファンがくるくると回っている。いつもより天井が高く感じる。
突然、頭に鋭い痛みが走って顔をしかめる。
「どうかしました?」
ロリ若葉がそう言ってくるが、すぐに痛みは遠のいた。授業中にも何度かあったが、どうしたというんだろうか?まぁすぐに治るんだから心配することもないだろう。
「いや、なんでもない」
そもそもロリ若葉やロリンに心配をかけられないしな。幼女に心配をかけるなんてとんでもない!
ロリ若葉は俺の言葉を聞くとじーっと俺の目を見つけてきた。あまりじっと見つめるな。幼女に見つめられておかしくなってしまうじゃないか。ふふっ。
だが、そんな時間はすぐに終わりを告げる。ロリンが注文を取りにきたからだ。体に合うサイズのエプロンが無かったからだろうか、ウサギのプリントがしてある子供用のエプロンをしている。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「それでは君をいただこうか」
「もうヒロくんったら、それは後でね」
頬を赤らめながらそう言うロリンに俺は親指を立てて応えた。ロリ若葉は当然呆れている。注文を終えて、とてとてと歩いて行くロリンの後ろ姿を見て心の奥底から湧き上がる感動に身震いする。
「……気持ち悪いですよ」
ロリ若葉はいつも通りだな。まぁロリンもいつも通りか。容姿じゃない、性格の話だ。でも、そうだ。こいつらは本当は高校生なんだ。高校生なのに幼女というのはおかしな話だ。ロリコンとしてこれは許されるのだろうか?
ちらりとロリ若葉を見る。ロリ若葉は出された水をストローの袋にかけていた。何してんのこいつ、可愛い。
中身が高校生でもいいんです。だって今幸せなんだもの。
何度も気持ち悪いと言われながらもロリ若葉を凝視しながらふんふんと鼻歌交じりで堪能しているとロリンがケーキを持ってきた。
どうやら人がいないので、休んでいても良いと言われたらしく俺の隣に座る。ロリンも俺と同じでチーズケーキを持ってきている。
ケーキを口に含むが味がしない。やはり夢だからだろうなと思いつつ、すぐさま平らげて、ロリンとロリ若葉の皿を見るとまだまだ残っていた。味がするなら俺もゆっくりと堪能するんだが仕方ない。
溜息を吐いた俺を見てもっと食べたいと思ったのだろう、俺の視線を追っていたロリンがチーズケーキをフォークにさして、俺の方へ向ける。
「ヒロくん。あ~んして」
俺は指を額に当てて首を振る。おいおい、全くなんて夢だ。俺が想像すらしなかった幼女があ~んしてなどというシチュエーションまで実現させるとは、俺の深層心理が怖いぜ。
「ヒロくん、いらな……」
「いる」
否定しようとしたロリンの言葉を途中で遮る。
「じゃああ~ん」
「あ~ん」
ぱくり。これを一口で味わってしまうなんてもったいない。口の中のもっとも敏感な舌の上でチーズケーキのねっとり感を堪能する。ああ、幼女の味がする……。
「ヒロくん、もう一口食べる?」
「うん」
何度かそうして食べているうちにロリンのケーキが無くなってしまった。だが、特にロリンは自分自身があまり食べられなかったことを気にしたような風はなく、逆に嬉しそうだ。
「二人とも仲が良いですね」
じと目で見られる。その顔も頂きだぜ!と心のスクショに……以下略。
ロリンがテーブルの上を片付けているうちにお客さんが増えてきたので、退散することにする。ロリンは残念そうな顔をしていたが、お店の迷惑になったらいけないからと言うとしぶしぶ納得していた。
帰りはロリ若葉と二人で歩く。無言で手の平をロリ若葉に向けるとぷいっ顔を背けながら手を握ってきた。可愛い。
しばらくは無言で歩き。慣れてきたのか、諦めたのか、溜息を吐いてロリ若葉は話し始めた。
「天崎くんとリンさんは本当に仲が良くなりましたよね」
「うん?そうか?」
「ええ、あの日。どうしてこうなったのかは知りませんけど。皆が子供になってしまった日から、二人は前よりも仲良くなったように見えます」
「そうか」
俺はその日とやらを覚えていないが、とりあえず相槌を打っておく。
「良かったですよ。リンさんも楽しそうだし、天崎くんも楽しそうです」
ロリ若葉の顔をちらりと見る。少し寂しそうな顔をしていた。
「若葉は楽しくないのか?」
「いいえ。二人が仲良くしていて、私も楽しいですよ」
そう言って笑うが、苦笑いにしか見えない。仲間外れのような気分なっているんだろう。
「俺は若葉のこと好きたぞ」
俺の言葉を聞いて握っているロリ若葉の手がわずかに震えた。
「また、そういうことを言って……。リンさんに怒られますよ」
「ああ、そういう意味じゃないぞ。別に恋愛の話をしてるわけじゃない。リンもきっと若葉の事が好きだ」
「そういう意味ですか。私も二人のこと好きですよ。だから一緒にいて楽しいです」
苦笑い。その表情は若葉が浮かべる表情の中で一番多いものだ。
自分自身の気持ちを隠して、諦めようとする時の顔だ。
「なんかそういうのは好きじゃないな。いつもの若葉らしくないぞ」
「いつもの私ってどんなですか?自分自身じゃ良く分からないです」
苦笑い。どうにも俺はこの顔が嫌いだ。どうしたらそういう顔をさせないでいられるんだろうか?これは夢だ。でも、もしも俺とリンが現実に付き合い始めたとしたら、若葉が浮かべそうな顔でもある。こういう顔をして、いつの間にか疎遠になってしまうんだろうか?
なんだろうか、それは何か嫌だった。
別に若葉は嫉妬しているというわけじゃない。性格的なものだったり、俺とリンが知り合ってからの年数とは違い、短いということもあって、遠慮しているところがある。普段なら俺がリンを遠ざけているから、若葉にも入る隙がある。でも、俺がリンを遠ざけなくなってしまったら、若葉は入る隙もなく、ただその場にいるだけになってしまい、きっと居心地が悪いだろうな。
「ごめんな」
「どうして謝るんですか?私も二人のこと好きですって言ったのに」
「言ったのにって、お前なぁ。まぁそういう話じゃないんだよ」
「そういう話ですよ。私は二人の傍に居たいんです。二人が好きですからね。それだけで十分です」
それだけねぇ……。しかし、結局のところ俺には何も出来ないんだろうと思う。要は気の持ちようなんだ。自分自身の気持ちを変えるのすら難しいというのに他人の気持ちを変えるなんていうことが簡単に出来るはずがない。そして、俺にはその気持ちが本当に変わったのかどうかを確認する方法が無い。
考え方を変えてみる。立ち位置がはっきりとしたら区別されて疎遠に感じる人もいれば、逆に立ち位置がはっきりしたからこそ溶け込める人もいる。
若葉は今、立ち位置があやふやだと感じているから居心地が悪いと考えているのではないだろうか?うむ、きっとそうだ。俺から若葉に立ち位置を教えてやろう。その立ち位置を確立させればきっと若葉も安心するはずだ。
「若葉。俺の妹になってみないか?」
「何言ってるんですか?頭大丈夫ですか?」
「もちろん本気だ!俺の妹になるんだ!さぁ、お兄ちゃんと呼びなさい。おにいたまでもいいぞ!ほれ……ほれ!」
「や、やめて下さい。近づかないで下さい!人を呼びますよ!おまわりさ~……むぐっ」
「悪かった。俺が悪かった冗談だ。冗談だから許してくれ」
じと目でロリ若葉が俺を見てくる。仕方ない。半分本気だったが仕方ない。
「まったくもう……。天崎くんは本当に変態ですね」
「何を言う。俺は変態ではなくロリコンなんだよ。ロリコンだったらお兄ちゃんって幼女に呼んで欲しいものなんだよ。若葉には分からないだろうなぁ」
「わかりたくもありませんよ……」
疲れた顔をしているがさっきまでの重い空気はどこかに飛んでいってしまった。まぁ結局何も出来ないんだからこうしてそんなこと考えなくてもいいぐらい騒がしくしてしまえばいいじゃないか。それぐらいしか俺には出来ないんだからな。
「なぁ若葉。お願いがあるんだがいいか?」
「ダメです」
「まだ言ってないじゃないか?」
「どうせ天崎くんが言うお願いなんてろくなもんじゃないです」
いつも通りに話をしながら帰る。でも、いつもとは違って今日は若葉と手を繋いでいる。家の前までたどり着いて、若葉が今は幼女になっているんだから家まで送ろうと伝えたが、お互い子供になったのだからそういうわけにもいかないと言われた。
ただいまと告げて家に入る。今日は色んなことがあったなぁなどと思いながらベッドに座って、いやこれは夢だろうと自分自身で突っ込む。
苦笑しながらぼーっとしながらこんてんと寝転がり、眠る前に何をしていたんだったかなぁと考え始める。
ずきりと頭痛がした。今度は止まらない。ずきりずきりと痛みは酷くなっていく。
夢なのに痛みがあるなんて反則だろ。
俺は夢の中で気を失った。
??????の倉庫
「おはよう、ヒロくん」
「お、おいリンどうなってるんだ?ここはどこだ?」
「ここは私とヒロくんの家だよ?」
「何言ってるんだリン……。どうしたんだよ!」
「ヒロくん、何か食べたいものある?」
「いや、そんなことはいいから外してくれ!」
「ヒロくん、チーズケーキ食べたい?」
「いや、だから!そんなことはいいから外してくれ!」
「そっかいらないんだね」
「ああ、いらない。とりあえず外してくれないか?」
「ねぇ、ヒロくんキスしよ?」
「は?お前何言ってるんだよ。何考えてるんだ?」
「だって私、ヒロくんとキスしたいの」
「馬鹿じゃないのか。俺はしたくない」
「私がしたいの。ヒロくんとキス」
「俺はしたくない」
「恥ずかしがり屋さんなんだね」
「俺の話聞いてるか?」
「私はいつもヒロくんの話を聞いてるよ」
「聞いてるんだったらまずはこの鎖を外してくれ」
「ダメだよ。だってヒロくんは鎖を外したらここから出ちゃうでしょ」
「当たり前だろ!こんなわけも分からないところにいられるわけないだろ!」
「ほら。だからダメ。ヒロくんは私とずっとずっとずっとずっとここにいるの」
「……やめてくれ。俺が悪かったから、だからもうやめてくれよ」
「ダメ」
「どうしてだよ」
「ミリアちゃんがヒロくんにまた悪いことするからだよ」
「あの子はそんなことしないよ」
「それならそれでもいいよ。私はヒロくんとずっと一緒に居られて幸せだもん」
「俺は幸せじゃない」
「それでもいいよ。私がヒロくんとずっと一緒に居られて幸せなんだもん」
「……」
「ずっと一緒にいようね。大好きだよ。ヒロくん」




