DAY 8
真っ白な世界の中で、拳を軽く握りしめた自分自身の肉体の感触を感じて、ここに自分自身が存在していることを理解する。 白い世界の床は硬くもあり柔らかくもあり、傾斜していて水平で、あやふやだ。
歩いている?そうか、歩いてるんだ。
体はある。感覚もある。だけど、俺自身の体なのに俺自身が動かしているわけじゃないようだ。そんな異常な状況の中で、俺が考えているのはリンのことだった。
お隣さんでクラスメイトで幼馴染。人見知りですぐに落ち込む性格で、俺にすぐ頼る癖に俺に何かあれば自分自身の事も顧みずに助けてくれる。
俺には優しい。だからこそ俺が居ない時でもそうなんだと思っていた。特別に扱ってもらえることは知っていたが、それでも他人を憎みあまつさえ排除しようとするとは思っていなかった。俺にだけ優しいのを誰にでも優しいと勘違いしていた。嫉妬するようなことがあることは知っていた。でも、そこまで酷いものだとは思っていなかった。
俺の責任だ。きっと俺がはっきりしないから今のようになってしまった。リンはずっと俺からの言葉を待っていたんだ。
だけど、どうしたら良かったんだ?好きでもないのに好きだとか言えないだろう。好きじゃないわけじゃないが、だからと言って付き合えるわけがない。そういうのは誠実じゃなけりゃいけないものだろう?そりゃ、遊び程度で良いならそれでいいのかもしれないさ。でも、幼馴染だぞ?何年一緒にいると思ってる。好きかもで付き合って、やっぱ違ったなんてことが出来るはずないだろう。それに、何か引っかかるものがあった。リンとは違う誰かのことを、顔も思い出せない誰かのことが答えを出すのを拒ませる。
ふと、気づくと足が止まっていることに気づいた。
目の前には白いテーブルと二つの椅子があり、片方の椅子には誰かが座っていた。座っているのは目を瞑ったミリアちゃんだ。ゴシックロリータの服装に身を包んだ彼女は本当に人形のように見える。
しばらく見つめていると彼女の目がゆっくりと開いた。
「お邪魔しているわよ」
にっこりとほほ笑むミリアちゃんにそう告げられた途端に、体の力が抜けるように倒れそうになり、躓きそうになるが、手をテーブルの上についてなんとか体を支えた。体が自由になったらしい。
「座ったら?」
そういってミリアちゃんが手を前に差し出すと彼女の対面の椅子がひとりでに引かれた。俺は倒れ込むようにその椅子に座る。状況が良くわからずにただ促されるままに動いてしまっている。
「ごめんなさいね。ヒーくんに怖い思いをさせてしまって」
何故ミリアちゃんが謝るのか分からなかった。怖い思いをさせたのは俺の方だ。いや、待ってくれよ。これは俺の夢だろう?そうだよ。それなのに何故ミリアちゃんが謝る。俺がそう願っているということか?
また自己嫌悪。
「謝るのは僕の方だよ。ミリアちゃんに怖い思いをさせたのは元はと言えば僕のせいなんだ。リンだって悪いわけじゃない」
そうだ。俺が悪い。リンとの接し方を間違えてしまった俺の過失だ。俺があの場に居合わせたのは本当に偶然だった。もしも、俺が居なかったとしたらリンはミリアちゃんをどうしていんだろうと考えると鳥肌が立つ。
「違うのよ。それは勘違い。ヒーくんが謝ることなんてないの。私が全部悪いの。ヒーくんはまだ思い出せない?」
思い出す?何をだろうか。何か忘れていることがあるのだろうか?俺とミリアちゃんとリンに接点はない……はずだ。
「ごめんね。僕は覚えていないよ。昔、会ったことあるのかな?」
ミリアちゃんは難しい顔をした。
「その様子だと、この前のことも覚えてはいないのね。どうしたものかしらね……」
ミリアちゃんは指先で髪をいじりながら溜息を吐く。
どうにも分からない。俺の夢のはずなのに何か夢ではないような気もする。だが、これが現実か?と問われればそうではないだろうと言える。ひとりでに動く椅子に真っ白い世界。そんなものが現実にあるはずがない。
「いいわ。一度この話は止めましょう。でも、今度は上手くやったわ。だからヒーくんと私の契りは消えた。一からのスタートになるのね。でも、ちゃんとこれからは私も大人になれるのよね?」
にっこりと笑ってミリアちゃんはそう俺に問いかけてくる。あの魔法のことを言っているんだろう。
「あ、ああ。10年もしたらミリアちゃんも俺と同じぐらい大きくなれるよ」
人は時間が経てば成長したら大きくなれる。そう、良くも悪くも大人にならなければなれない。ロリコンにはつらい現実だ。自分の体感で本当にそうなのかどうかは分からないが、大人になりたいという願いは多いと思う。だが、大人になるとどうしてそんな願いを感じていたのかと後悔する。子供であれば許されたことが多くあったことに気づき、大人になれば自由と一緒に責任がついて回ることを知る。
考えてみれば、大人はずるいものだと思う。好き勝手に振る舞ってまるで大人が良いもののように、子供に羨ましいように見せて、責任や辛さという部分は隠す。
子供には不要だと思っているのだろうが、実際はそういうところをもっともっと見せていかなければいけないのではないだろうか?大人になるということに恐れを感じるように、そして幼女で居たいと願うように!!
まぁ、だからと言って幼女のままで居られるわけじゃない。永遠の幼女なんて存在しないのだからな。
「10年……長いわね」
「そうでもないよ。10年の期間を過ごしている内には長く感じるかもしれないが、10年経ってしまえば早いものだよ」
そう、10年は早い。すぐに過ぎてしまう。そして大人になってしまう!幼女が大人に……なんということだ……。
「ねぇヒーくん。私が大人になったらお願いがあるの」
「何かな?」
ミリアちゃんは顔を真っ赤にして俺の顔をちらちらと見ながら目をそらす。
「私と結婚して!」
なん……だと?
「な、何を言ってるのかなミリアちゃん?」
結婚するなら今だろ!今!何を言ってるんだよ。幼な妻最高!最強!などと心の中で思いつつもそれを隠して疑問の声だけを上げる。
「だって私、ヒーくんのこと大好きなんだもの」
自分自身の心臓の音が聞こえる。ミリアちゃんから告白されてしまった。なんということだ、幼女から告白されるなんて、これは夢か?ああ、夢でした。ただ俺が告白されてーって思ってそうなっただけのことでした。
テーブルに頭を突っ伏して、額をごろごろごろごろとしていると頭をぺちぺちと叩かれて、顔を上げる。
「ヒーくんちゃんと答えて。私が大きくなったら結婚してくれるの?」
いや、もうどっちかというと今のまま結婚したいです!でも、紳士な俺はそんなことを言うわけにはいかない。
「ミリアちゃん。結婚というのはね。大事なものなんだよ。うん、僕もまだ結婚はしたことがないけれど、本当に好きで好きで好きでたまらない人とするものなんだと思う。自分も幸せになれて、相手も幸せになれて、周りも幸せになれて、それではじめて結婚出来るものなんだと思うんだ」
「……うん」
「10年後にミリアちゃんはどうなっているのか分からないだろう?僕のことが好きかどうか分からない。他に好きな子が出来るかもしれない。ずっとずっと同じままでは居られないんだよ」
「……そんなことはないわ。私はずっとずっとヒーくんのことが好きよ。ずっとね。明日も明後日もそうしてずっと10年思い続ければ私はずっとヒーくんのことを好きなままでいられるわ」
呆気にとられてしまった。何故そんなに俺の事を好きでいられる?確かに俺は好かれるように振る舞ってはいる。だが、だからといってそれが上手くいったようなことはないし上手くいくとは思っていない。本心で言えばそうなんだ。
ただ、仲良くなって遊んだりできればそれでいい。それ以上のことを求めてるわけじゃない。だから戸惑う。こういう時になんという言葉をかければいいのかを準備しているわけじゃない。
「ミリアちゃん。その、嬉しいけど、本当に僕でいいのかな?」
「ヒーくんは私のことが嫌いなの?」
「そうじゃない。そうじゃないけど、僕はもうその頃には30歳を過ぎたおじさんだよ?」
「それでもいいわ」
「ミリアちゃんの友達は同年代の子と付き合うのが普通なんだよ」
「関係ないわ」
子供だから意固地になっているんだろう。だけど、その考えは危うい。俺の傍にずっと居る人間が頂いている願望。いや、呪いだ。
「ダメだ。それはいけない」
「どうしてよ?」
「それは……僕はミリアちゃんのことを幸せには出来ないからだ」
「私はヒーくんと一緒に居るだけで幸せよ」
「違うんだ。ずっと10年も俺を好きでいるなんていう言葉は呪いだ」
「の……ろ……い?」
「ああ、だってそうだろう。10年も同じ思いを持ち続けるなんていうことは普通じゃできないことだろう。それを約束と称してずっと強制させるなんて、呪いと変わらない」
ミリアちゃんの顔がみるみる青くなっていく。呪いという言葉が怖かったからだろうか?怖がらせてしまって申し訳ない気持ちになる。
「ごめんね。怖がらせたかったわけじゃないんだ。でも、そうなんだよ。それが自分自身の思いだったとしても思いが願いが呪いに変わる。時が経てばそうなってしまうんだ。純粋だと言う人もいる。だけど、本当はそれは違うよ。心を病ませる呪いだ」
子供にこんなことを言うのは良くないことなんだろう。でも、これは俺の夢だ。ここで俺の言葉で解決しなければいけない問題なんだろう。ミリアちゃんは昔のリンだ。現実で答えを出せない俺は、ここで答えを出して現実をどうにか出来るかもしれない。
「呪いだというのなら、願いを持つことが悪いことだというの?」
「そうは言ってない。だけどね。それが人を悪い方に変えてしまうこともあるんだ」
「私はそんな風にはならないわ。ただヒーくんのことを好きなだけよ」
「ありがとう。嬉しいよ。でも、それは本当にずっと持ち続けた方が良いものなのかな?」
「……どういうこと?」
「もしも、僕に別に好きな人がいたらミリアちゃんはどう思う?」
「そんなの嫌だわ」
「そうだよね。ミリアちゃんはその人のことをどうするんだい?」
「どうするって、それは……」
「分からないかな……。ごめんね。でも、その気持ちを抱いたら、きっと人はそういう風に考えるようになる。そして、きっと居なくなればいいと思うようになる」
「そんなことはないわ。私はただヒーくんが欲しいだけなのよ。他人なんてどうでもいいの」
「そうだよ。他人なんてどうでもいいんだ。でも、嫉妬してしまうんじゃないかな?」
「……どうしてそんな意地悪なことを言うの?」
ミリアちゃんは泣きそうな顔で俺のことを見つめている。心が挫けそうになる。ミリアちゃんが悲しい顔をすると俺も悲しい気持ちになる。だけど、俺はここで止めるわけにはいかない。
「意地悪なことをしたいわけじゃないよ。ただ、俺はミリアちゃんと約束をすることは出来ない」
「どうして?昔はしてくれたじゃない。どうしてダメなの?」
「昔?昔……僕が約束していたとしても、今は出来ない」
「何故?どうして?私のこと好きなんだったら約束してよ」
「それは出来ないよ。僕はミリアちゃんが本当に幸せになれることを願うよ。好きなんだったらその方がいい」
「幸せって何?ヒーくんはどういうことを幸せだって思うの?」
「ミリアちゃんが幸せなら僕も幸せだよ」
「じゃあ私と結婚するって約束して。それが私の幸せなの」
「約束は出来ない」
「意味が分からないわ。それじゃどうしたらいいの?私はヒーくんと結婚したいの。ずっと好きでいたいの。それなのにヒーくんがダメって言うんだったらどうしたらいいの?私の幸せにはなれないよ」
「それは……」
俺は答えを持っているんだろうか?ここまで話をして、それなのに答えが出せないというのは誠実じゃない。でも、ただ思いついたことだけを話していたわけじゃない。俺は好きな相手の幸せを願う。そして相手もそうだと良いなと思う。約束をしないのは、リンのようにならないように、そう願うからだ。
でも、だったらその思いはどうしたらいい?好きだという気持ちをどうしたらいいんだろう。
「言えないの?」
「……」
「本当は私のこと嫌いなんだ。リンのことが好きなんでしょ」
「ミリアちゃんのことが嫌いなわけじゃないよ。好きだよ」
「じゃあリンのことが好きなの?」
「リンのことは……。嫌いじゃない」
「そう……同じなのね」
「同じなわけじゃないよ」
「じゃあどっちが上なの?」
「それは……分からない……」
「じゃあどっちも同じっていうことじゃない」
「いや、そうじゃないよ。同じっていうわけじゃなくて……」
「同じなのよ。ヒーくんは私もリンも同じように見てるの。じゃあ私のどこが好きなの?」
「違うよ。ミリアちゃんが小さいから僕は好きなんだ」
あれ?そうじゃない。小さいから好きなんじゃない。つーか、小さいから好きってなんだよ。そんなの相手が悦ぶわけないだろう。そうだよ。俺がミリアちゃんを好きなのは……。
黙ってしまった俺をミリアちゃんがただじっと見つめてくる。
「ごめん、訂正させてくれ。昔好きだった子に似てるからかな」
言葉が出た。そういえばそうだった。子供の頃に一緒に遊んでいたあの子に似てるんだ。
「ふ~ん」
いや、だめだろ!これもだめだろ!誰かに似てるから好きだとかそっちも最低じゃないか!
「いや、すまん。今のも違う。そうだな。そのなんというか可愛いくて元気だからかな」
だめだぁ!なんかこれただ取り繕ってるだけじゃないか?そうじゃないんだよ。好きなんだけど理由が分からない。小さいから可愛いっていうのはその通りだ。可愛いから好きだというのはその通りなんだが、そうじゃないんだ。ただなんか一緒にいたら楽しいというか、昔のことを思い出すというか、居心地が良いとかそんな感じで……。
「もういいわ」
そう言ったミリアちゃんは苦笑していた。俺が慌てふためいているのが面白かったんだろう。さっきまでの重くなった空気はなくなって脱力する。
「私って自分で思ってるよりも単純みたいね……」
「え?」
「ヒーくんに好きだって言ってもらえるだけで嬉しくなるの。私の幸せってそういうものなのかもしれないわ」
「そ、そうか……」
……なんか俺の方がガキみたいだ。
「今回はそれで許してあげる。どうせヒーくんはまた忘れてるんでしょうけれどね」
そう言ってため息を吐くジト目のミリアちゃんはやっぱり可愛い!とか思ってる自分自身に辟易する。それより忘れるっていうことに突っ込むべきだろう。いや、まぁ夢なんだから忘れてるものか。
「また会いましょう。今度は目の前で好きだって言ってほしいわ」
視界が歪む。白い世界はもっと白くなって、灯りが消えるように暗転した。
目が覚めた。俺の部屋じゃない。でも、俺はここがどこだか知っている。病院だ。俺はまた気絶したらしい。起き上がろうとして、何かが腕に乗っている事に気づいた。
「リン?」
とっさに出てきたのはリンだった。こういう時に傍にいるのはリンだと思ったからだったが、違った。
「若葉か」
若葉は寝息を立てて眠っていた。時間は夕刻。若葉は制服だ。いつから俺は気絶していたんだろう。それも思い出せないとなると学校に行くのも難しいな。などと他人事のように考えながら、若葉の顔にかかった髪を退かす。
なんとも微妙に嫌がる顔をされた。
「寝ててもそれかよ。寝てる時ぐらい可愛い顔しろよな」
「う~ん……」
「おはよう」
「あれ?あの。あ!」
若葉はさっと顔を上げて居住まいを正した。
「寝てませんからね!」
「おい。そこはどう関考えても言い訳出来ねぇよ」
苦渋に満ちた表情で睨まれてしまった……。寝てるのを知られるのはそこまで嫌なことなのか?まぁ無防備な状態だと言えなくはないが、何もしてないぞ。いや、まぁちょっと髪を触ったが、それだけだぞ。
「はぁ……。どうしてまた昨日は倒れていたんですか?」
「あー。まぁなんだろうな。良くわからん」
「大丈夫なんですか?お医者さんに聞いたんですけれど、原因が全く分からないそうなんですよ」
「もしかしたら、そういう病気なのかもしれないなぁ。知らんけど」
「……自分のことなんだからもっとまじめに考えて下さいよ。天崎くん」
「そう言われてもなぁ」
危機感がないわけじゃないが、慣れてしまった感じがする。
「覚えていますか?」
「何をだ?」
「倒れた時のことですよ。天崎くんを見つけたのはリンさんでした」
「……」
「リンさんが見つけて救急車に電話したみたいなんですが、病院にもいないし、家に行っても出てきてくれないんです。何があったのか覚えていませんか?」
覚えていることか、そりゃ覚えてる。リンがミリアちゃんをどうにかしようとしてたってことは覚えてる。そしてミリアちゃんをその後に送って行ったんだ。そうだ、ミリアちゃんは大丈夫だったんだろうか?
「なぁ、若葉。ミリアちゃんのこと聞いてるか?」
「ミリアちゃんですか?いえ、そういえば、あの子の家はあの近くでしたね。でも、どうしてですか?」
「……あー倒れる少し前までミリアちゃんに会ってたんだよ」
「そうなんですか?いえ、何も話は聞いていませんよ」
「そうか……」
ちゃんと俺は家まで送り届けることが出来たんだろうか?はぁ、なんだろうな。記憶が曖昧だというのにこのどうにも落ち着いた感じが納得いかない。もっと俺は焦っていても良いはずじゃないか?
「話は戻りますが、リンさんに何かあったのか知りませんか?」
「知らないな。リンのことだからな。俺を見つけてかけつけたんじゃないのか」
解決法を思いついた。最低で最悪な解決法だ。
俺は記憶が曖昧で、昨日リンが何をしていたのか覚えていない。何があったか覚えていない。
「なぁ若葉。リンは家にいるのか?」
「え?はい。そうですね」
「ちょっくら行ってくるわ」
「……やっぱり何かあったんですね」
「いや、覚えてない」
「はぁ……」
「リンが出てこないんだろう。理由は知らんが、俺が行けば何かわかるかもしれないだろ?」
「そうですね。でも、今日は休んでいて下さい。また倒れたら大変ですよ」
「どこにいても同じだと思うぞ。しかしまぁ、救急車に乗った記憶が全然ないってのがなぁ。一度ぐらいは意識があるうちに乗ってみたいもんだ」
「私は気が気じゃありませんよ」
「なんだ、心配してくれてんのか?」
「にやにやしないで下さい。そうですよ。心配しているんです」
「あ、ああ。そうか、それはありがとうな」
普通に言われると恥ずかしいな。
「了解。明日にするよ。若葉もこんなところで寝ないで、家で寝た方がいいぞ。風邪引くだろ」
「分かってますよ!」
「あたた。あんまり大声出すなよ。迷惑になるだろ?」
「う……。まさか天崎くんに諭されるとは思いませんでした……」
「落ち込むな。俺が落ち込む……」
若葉はまた明日と告げて帰って行った。俺はこれからのことを考える。リンには俺が昨日のことを見てないことにしよう。そうすりゃ大丈夫だろう。
いや、そうなのか?ミリアちゃんにはどうする?何考えてるんだ。被害者はミリアちゃんだ。リンが良ければいいわけない。何考えてんだ俺は。
これじゃ皆納得する形じゃない。リンに何か責任を取らせるか?だが、謝ればそれで何もかも解決するようなものじゃない。
「寝るか」
結局、俺なんてのはこんなもので、上手い解決策も見つけられない冴えない奴なんだろうな。枕にうつ伏せになって目を瞑って考えているうちにいつの間にか眠ってしまっていた。
リンさんの部屋
嫌われるのが嫌だった。私以外の人を好きになるのも嫌だった。ヒロくんは私の大事な人で、私も同じように大事にしてほしくて。だから守ってあげなくちゃいけないんだって考えてた。
でも、本当に私が守りたかったものはヒロくんじゃなかったんだ。
私はヒロくんじゃなくて、ヒロくんとの関係を守りたかっただけなんだ。
知ってたよ。知らなかったんじゃないよ。分かってたんだよ。そうだって知ってた。知ってたけど、だけど、このままで居たいっていうのは悪いことなの?ヒロくんを独り占めしたいの。誰にもヒロくんを渡したくないの。守るんじゃない。ただ一緒に居たいだけなの。私の傍以外には行かないでほしいの。ただそれだけなの。なんでそれがいけないの?どうしてそれをヒロくんは分かってくれないの?どうしてヒロくんは私のことをもっと大事にしてくれないの?
私が考えていた通りじゃない。やっぱりまたあの子のせいでヒロくんは目を覚まさなくなった。私が言った通りにしていたら良かったのに、私の思い通りになればよかったのに。全部、そうだ。
全部全部ヒロくんが悪いんだ。




