世界で一番の前
「宇野原さん」
急に前の仲原さんに話し掛けられた。
「柚希でいいよ、えっと……」
近くになったことがないから、下の名前が分かんな
い。
「なつき」
あ、なつきちゃんか。
ごめんごめん。
「これからよろしく……」
「放送部入んない?」
…………は?
急に言い出すから、驚いた。
「どうしたの?急に」
「柚希ちゃん、声いいよね」
…………はい?
「そんな全然……」
何言ってるの。
好きな人に話せない自分が、
もっと大勢の前で話せるわけないじゃん。
「でも、話すのは苦手……でしょ?」
…………………え?
なんでわかるの?
「う、うん……」
「でも、話したい」
「うん」
本当だ。
話すのは苦手だ。
でも、昔から話すのは好きだ。
「週3、5時まで、疲れない…最高でしょ」
急にさそわれた部活。
放送なんてやったことない。
部活なら、一人とぼとぼ帰らなくていい。
遼君のことを考えなくてもいい。
高校では、いいやと思ってた部活だけど、
やってみようかな。
少しでも自分が変わるんなら。
「やっ!やってみるよ!」
「ほ、ほんとに?!
うちは激しく首を縦に振った。
「ありがとう」
なつきちゃんが、言ってきた。
いや、ありがとうはこっちだよ。
「ありがとうね」