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四月 出会い、急発進!
夢を見ていた。ありきたりで、思い出すことも出来ない程度の夢だ。しかしどこか暖かく、それは今の俺が忘れてしまったなにかなのだろうと勝手に想像するのであった。忘れたものを思い出すのは用意ではないのだ。
「ん…朝だ」
俺の朝にむにゃむにゃなんて可愛いらしい余韻はない。小鳥のさえずりや部屋に差し込む朝日を一身に受けたところで特に感想はない。
もう少し些細なことに感動してもいい年頃なのだろうが、いかんせんコレが俺である。
階段を下り、居間に顔を出すと父と母がすでにテーブルについて朝食を食べていた。
「おはよう、時間ギリギリじゃないの?いつものようにおにぎりつくってあるから」
「ん」
朝に弱い俺は、呑気に朝食なんぞを一家団欒で囲んでしまうと完璧遅刻してしまう。
なので朝食は母がおにぎりをつくり、それを学校までの間で食べるのである。
スッ
これが身支度を終えて玄関から外へと境界線を跨いだ男の効果音である。
いつからか俺は行って来ますも言わない無愛想になっていた。