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外の子  作者: 山田太郎
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 彼は、自分の心を無にしようとしていた。浮かんでくる考えを止めない。あるがままに身を委ねようとしていた。

 ふいにガバリと身を起して、ぼんやりと目の前を見つめた。そして再び身を横たえた。

 その後は頻繁に寝返りを繰りかえした。心配ごとがあまりにも多すぎた。再び、あれこれと悩み始めた。

(大量に借金がある! 考えれば考えるほど返せそうにない!

 税金も払わないといけない。アパートの更新料もだ。

 一体どうすればいいんだ!)

 完全に計算が狂っていた。ITの仕事について高い給料を貰うつもりだった。そのために基本情報技術者の資格も頑張って取得していた。今頃はプログラマになって、月々四十万円くらいは稼いでいるはずだった。そして楽しい日々を送れるようになっているはずだった。

(俺は決して勉強が嫌いじゃない。むしろ好きだ。そして俺はけっこう優秀だ。だから仕事にさえつくことができれば、どんどんスキルアップして優秀なプログラマになって、金持ちになれるはずだった。

 コミュニケーションなんかクソ喰らえだ。スキルで金を稼いで、みんなを見返して、女にもモテて、昔みたいに王様のように、みんなから尊敬されたかった……)

 眠れないままいつまでも布団の中で頻繁な寝返りを打ち続けた挙句、金山正夫はふたたびガバリと上体を起して、歯を食いしばって頭を抱え込んだ。

 彼は小学校の頃はリーダー的存在だった。運動神経が良くて喧嘩では負けたことがなかった。そして小学校の生徒会長でもあった。正義感の強い人気者であった。友達からも尊敬されていた。スポーツは万能で、女子からも結構モテていた。

 だがしかし、中学生になってからは状況が一変した。彼が入った中学は、不良の多い中学だった。そして目立っていた金山正夫は不良の上級生に目を付けられた。そして何度も呼び出され、小突きまわされた。

 中学生の金山は、怯えていた。体の大きな上級生たちが怖くて仕方がなかった。最初から戦意喪失していた。

 そして金山はさんざん虐められ、態度がでかいと言われ続け、やがて卑屈な、怯えた態度の人間になった。いつも下を向いて歩くようになった。

 そして彼の同級生たちも、そんな彼の情けない姿を目の当たりにして、これまでとは打って変わった態度となった。同級生の尊敬の眼差しは、軽蔑の眼差しに変わった。

 虐められて自信を失ってしまった彼は、暴力が怖くて仕方がなかった。小学生たちの暴力でさえも怖くなった。

 人間自体が怖くなった。

 そして、長い間、人の目を見ることができなかった。自分の本心をいつも隠すようになった。

 以前は堂々としていた彼が、臆病でこそこそとした嘘つきになった。

 再び彼は身を横たえ、なんとか眠ろうとした。

(ダメだ。眠れそうにない。申し訳ないけど岡本くんとの約束はすっぽかすことになりそうだ。

 またの機会にしよう。あとで謝罪の電話を入れよう。

 こんな睡眠も取れないのに会いに行っても楽しいわけがない。

 ただ辛いだけだ。

 今回はすっぽかそう。

 ごめんね、岡本くん。ほんとごめん。

 俺は最低だ。

 せっかく約束してくれたのに、平気ですっぽかして。

 ほんとごめん……)

 彼は岡本圭介との約束はすっぽかすことに決めて、ようやく少しリラックスできた。そして眠ることができた。

 目を覚ました。

 時計を見ると、五時だった。ということは二時間くらい眠ったことになる。そして岡本圭介との待ち合わせの時間は七時半だった。

(行ける、行けるぞ!

 今なら行ける!)

 金山正夫は布団から飛び出し、服を勢いよく脱ぎ捨て、全裸になった。そしてシャワーを浴びた。体を拭って、服を着た。ひげをそって、髪を整えた。

(追い風だ。ついてる! これは、今日は岡本くんに会えという、神のお告げだ! 運命だ。神の思し召しだ!

 人間の中に入っていくぞ! 人間の中に!

 俺も人間だ! 仲間だ!)

 外出の決心が消えてなくなることを恐れた金山は、手早く外出の用意を済ませて、ドアの外へと飛び出した。


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