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外の子  作者: 山田太郎
3/3

 アパートに到着してから早速ビニール袋から人参を取り出して、洗いもせずにそのままバリバリと食べ始めた。

 部屋の電気はつけなかった。

 真っ暗な部屋の中、金山正夫はまるまる一本の生の人参を平らげた。

 顎関節症らしき症状、顔面や喉の不快感は、なんとなく人参を食べることで和らぐように思えた。緑黄色野菜がその症状に効くように思えた。ニラ、人参、ピーマン、かぼちゃなど。ここ最近は冷蔵庫に人参を欠かすことはせずに、自分が馬になったようにイメージしながらバリバリと人参を食べることが多かった。

 とにかく、野菜を食べた方が良いように思えた。なんとか体調を整えないことには、このピンチを乗り越えられないかも知れない。

 この苦しみ! 不安!

 いい知れぬ恐怖。

 とにかく体調を整えて、体力をつけて、元気を出して、なんとか切り抜けたかった。この苦しい状況を打破したかった。

 人参を食べ終えた金山正夫は大福を五個食べてから、卵などを冷蔵庫にしまった。そして毛布に包まり、闇の中でじっとしていた。

(野生動物だ。野生動物のようになるのだ。野生動物のように、健康で、活力に満ちた。力強い生き物になるのだ。そしてこんな顎関節症みたいなものを吹き飛ばしてしまうのだ)

 そう念じていた。自分が野生のライオンかチーターにでもなったようにイメージした。

 この不快な顔面の違和感も、あっという間に自然治癒で、本来の健康な姿に戻るようにと念じていた。

 なんとなく顔面の鼻の横から唇の端にかけての部分が、ひん曲がってしまっているような感覚であった。

 今まで色々と病院に通った。下顎の親知らずも抜いてみた。スプリントと呼ばれるマウスピースのようなものをつけて眠ったりもした。かみ合わせの治療で歯を削ったりもした。脳神経外科や大学病院でCTやMRIを撮ってもらったりもした。そしてそれをCDにコピーしてもらって、自分の家のパソコンでじっくり見たりなどもした。

 そしてやはり鼻の横のあたりがひん曲がっているように思えた。

 それでも基本的にはどこでも異常なしの診断を受けた。

 耳鼻科にも通った。アレルギー性鼻炎と言われたりした。そして口腔外科や歯医者では顎関節症の治療を受けた。

 色々な病院に通った。勝手に通院をやめたりもした。医者の言動が気に入らなかったり、受付の女性の言動が気に入らなかったりするとすぐに通院をやめた。

 すぐに侮辱を受けたと感じた。無礼だ、失礼だ、ふざけている、舐めている、見下していると、すぐに感じた。

 医者への不信感もあった。医者は自分に対して大事なことをいつも隠しているように勘ぐった。

 他人を信じなかった。自分しか信じられなかった。自分の感触、感覚だけしか信じられなかった。

 だから治療の途中で、勝手に通院をやめてしまったりするわけだ。

 真っ暗な部屋の中、カーテンは開けたままである。部屋は線路のすぐ近くだったので、頻繁に電車の音が鳴り響いた。

 外出の服から部屋着へと着替えて、布団を敷いた。そして布団に潜りこんだ。

 まだ全然眠たくはなかった。

 しかし夜は眠るものである。人間は夜行性ではない。夜寝て、朝起きるものだ。そうやってずっと人間は生きてきた。何億年も生きてきた。

 電気なんかが発明されたからおかしくなったのだ。電気がなければ暗くて何も出来ないから、眠るしかない筈だ。

(野生動物だ。原始人だ。健康になるのだ……

 全然眠くはないのだが……

 でもまあ朝まで考えごとでもしよう。

 目覚ましは必要ない。

 カーテンは開けたまま。

 外が明るくなったら活動を始めればいい。

 それが動物というものだ……)

 そうぼんやりと考えた。

 明日、岡本圭介と会うのが不安だ。億劫だ。面倒だ。

 しかし、そんな自分の精神状態を変えていく必要がある。

(遊び人のようになるのだ。生活が楽しくて仕方がないような人間に。

 遊んでくればいいのだ。昔は出来たことだ。

 孤独な人間の健全な姿は、〝寂しい〟と感じることだ。

 寂しくて、人と会いたい、喋りたい、人と一緒にいたいと思うことだ。

 でも俺はそんな風に全然思えない。

 一人の方がいい。

 人は面倒だ。

 でもそれを変えていくのだ。

 俺もちゃんと寂しいと感じて、そして人と会って、喋ったりしたい、一緒に遊んだりしたいと思えるように、己の精神状態を整えていくのだ。

 遊び人だ。遊び人。

 エンジョイの能力。生活を楽しむ能力だ……)

 金山正夫はそんな風に布団の中であれこれと考えをめぐらせた。やがて考えすぎて頭が疲れてきたので、今度は何も考えないようにした。すると色々な思いが頭の中で勝手に浮かんでは消えた。彼はそれをぼんやりと眺めていた。


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