アタシの、本当の、気持ち(30)
「でもね、律子さんの方は、寡黙な俊作さんが好きだったわ。」
ここで、母さん、紅茶を一口。
「俊作さんは、口八丁手八丁のお父さんとは真逆、
こつこつ努力する技術屋さん。
律子さんは、チャラいお父さんよりも、
実直な俊作さんをよく支えていたと思う。」
「どんな風に? 」
「私には、あんなことはマネできなかった。
お茶やお菓子をさりげなく、研究中の俊作さんに差し出すのは当たり前、
必要な資料や参考文献まですぐ調達するし、
俊作さんの残業にもつき合うし、
とにかく献身的だったの。」
「お父さんは、律子さんの気をひこうとあの手この手だったけど、
ちっともなびかなかったわ。
ただね、俊作さんとはなぜか気が合ったの。」
「ふーん。」
「机に向かっている俊作さんに、
お父さんはいつも、営業でのバカ話や、
こんな製品があるといいな、なんて話をしていたわ。
大体が、テキトーな話が多いんだけど、
俊作さん、何かひらめいたらしくて、
お父さんのバカ話をメモしておいて、
製品化のヒントにしていたの。」
「そうしているうちに、俊作さんの提案による新製品や、
製造工程の改善案が次々と発表されて、
俊作さんは社内でたくさん表彰されたわ。
俊作さんはお父さんに『オマエのおかげだ』と言ってくれたけど、
お父さんはあの通り、物欲も出世欲もない人だったから、
『いいから取っておけ』としか言わなかった。




