ほんとに、もう! (9)
「ほら、忙しいんだろう、行くぞ。」
また、私の手を引っ張る。
もう、何が何だか、わからなくなった。
耳まで真っ赤になって、
頭がボーっとなっていく。
ただただ足を動かしていくだけだった。
大学のキャンパス、
大講堂の前に着いた、と思う。
このあたりの記憶は、はっきりしないんだ。
入学式が始まった。
『新入生代表挨拶』になった。
私が登壇する。
練習した通り、原稿など見ないで、
淀みなく、かまずに、最後まで言えた、と思う。
ところが全然、なにを話したのか、
今となっては思い出せない。
それでも、会場全体が拍手、
涙ぐんでいる人もいた。
リコさんも駆け寄ってきて、
「感動したぞ。
『友を失い、父も失い、それでも私は生きていく。
それが亡くなってしまった者たちへの手向けである。』
『一人で学んできたとうぬぼれないように、
常に感謝の気持ちを持ちたい。』
それ以外にも、素晴らしい言葉が散りばめられていた。」
そんなに大したものだったかな。
とりあえず、無意識にもそんなスピーチができていたとは。
常に、考えていた言葉は、考えなくても
こみ上げてくるものなのかもしれない。