ほんとに、もう! (8)
「4月になったら、もうウチに来ないの? 」
この問いに、「今にわかる」というだけで、
きちんと答えてくれない、リコさん。
3月の最後の土曜も、
ウチに来て、
ルーズリーフのまとめ方をチェックしてもらって、
3人でお昼を食べて、
一緒にコピーしに行って、
帰ってきて、ルーズリーフに貼って、
私のオッパイ揉んで、
帰っちゃった。
なんなのか、わからない。
「楽しみに待て」って言われたけど、不安だ。
心配性は、母さん似だ。
4月、大学の入学式だ。
教育学部は、小山駅の西側。
歩くのが遅い私だと、
頑張っても20分はかかってしまう。
あのスーツを着て、
早めに家を出る。
ちよっと、早めに出なきゃならない理由が、ある。
古河駅までバスに乗って、
JR宇都宮線下りで3駅目、
小山駅で下車。
それにしても人が多いな。
大学の入学式だからかな。
原因はそれだけではなかった。
改札の向こうに、
見慣れたサングラス、
黒髪ロング、
古典的なヴィクトリアンメイド姿の
すらっとした美形が、
銀のジュラルミンケースを持って、
立っていた。
「リコさん、何でいるのよ? 」
「事情は歩きながら話す。」強引に、手を引っ張られた。
まあ、しょうがないな。
写メをとる者、
声を掛けてくる男たち、
この場は大混乱となっている。
早く、脱出しなくちゃ。
私の右手を引っ張って、
リコさんはずんずん歩いていく。
「ちょっと、もう少しゆっくり。
これから私、入学式なの。
忙しいんだから。」
「そうか。」
「新入生代表挨拶も、することになっているの。」
「そうか。」
「だから、どういうことか、
説明しなさいよ。」
「アタシも、新入生だ。」
「どこの? 」
「白鷗大学、教育学部、英語教育専攻。」
立ち止まって、ジュラルミンケースから、学生証を見せた。
「あんた、筑波大学を卒業したんでしょ? 」
「3月づけで卒業した。
4月からは、白鷗の学生だ。
大学に、入りなおした。」
「なんでよ、もう大卒、しかも超一流でしょ? 」
そしたらコイツ、しれっと言いやがった。
「キミと一緒の大学に通いたかったんだ。」