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隠滅の森  作者: 箕宝郷
中学校生活と川の流れ
9/22

BWV645(目覚めよと呼ぶ声あり)

「和尚さんその提案って何ですか?」

鷹鳴(たかなり)地区はコンサートホールが近くにないんじゃ、そこで私は梢子さんにバイオリンの演奏をこの盤杉寺でやって見ないか?としかし、梢子さんは寺でバイオリンを弾くことに少し抵抗を感じていたようで」


「それは、なぜですか?」


「お寺で西洋の楽器であるバイオリンを演奏するのは場違いだと梢子さんは思っていたのでしょう。しかし、私の先代が(三味線もバイオリンも元をたどれば同じ楽器だ)と言ってくれたんじゃ。その言葉に救われたのか梢子さんは嬉しそうにしながら(是非、やらせてください。)と元気よく返事してくれたんじゃ。」


「姉貴らしいな。」


「その年の秋に演奏会が開かれたんじゃ。梢子さんはバイオリンの曲を演奏したり、歌ったり、この手回しオルガンを演奏してお客さんを魅了したんじゃ。中でも最後に演奏したバッハの(作品番号140の目覚めよと呼ぶ声があり)と言う曲が皆の心を惹いたのじゃ。演奏会終わった後、浩太君が生まれることを発表してその場は歓喜に包まれたんじゃ。」


「演奏会後は、子供たちが手回しオルガンに興味を持ってな。梢子さんと一緒にハンドルを回しておった。」


「先代は寺がこんなに人でにぎわったのは久し振りだと言っていた。わしも含めて梢子さんには感謝していた。

梢子さんの噂は広まって定期的に子供達とこのお寺で音楽会を開く事になった。その時はこのお寺にも音色が常に響いておった。

 先代も普段集まらなかった寺が子供達で賑わうようになって活気が湧いていたんだ。

 お寺でオルガンの不思議な音色が聞ける噂は上鷹鳴以外の地域でも広まり、音楽会意外の日でもオルガンの音色を聞きにお客さんが訪れるようになった。

最初は音楽会に来てください。と言ってお断りしていたのだが、遠方から来てくださる方も多くいらして、私は心苦しくなっていた。

 そこで私は失礼を承知で梢子さんに頼み込んで手回しオルガンを譲ってくれないかと頼んだのじゃ。

わしは金ならいくらでも払うと言ったのだが、梢子さんは「「活躍する場が増えるのであればこんなに嬉しいことはありません。この手回しオルガンをこのお寺に預けます。」」と言い、寄贈してくださった。

 オルガンを譲り受ける時、私は梢子さんから使い方をと手入れの仕方を教わり、このオルガンは盤杉寺に預けられて今ここにあるんじゃ。

 その後、梢子さんは演奏会になると時々、新しい冊子をくれた。クラシック音楽のみならず様々なジャンルの曲を送ってくれたんじゃ。(BWV645 目覚めよと呼ぶ声あり)と言う曲じゃ。」

「あぁ、演奏会で最後に演奏した曲の」


「そうじゃ。」


 和尚は冊子を取りだしては曲を流し始めた。私はこの曲を聞き不思議な気持になった。それまで、母の顔を鮮明に思い出すことが出来なかったのにこの曲を聞いた瞬間。母の笑顔が頭の中で思い浮かばせることが出来た。「音楽って実に不思議な力がある。」そう、バッハが教えてくれたのかもしれない。

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