中流(開けたところにたどり着き)
「あっ、別にいいですよ。」
「ありがとう。じゃあ失礼するね。」
「先輩あのー」
「どうしたの?」
「お名前伺ってもよろしいですか?」
「えっ?」
「いや、あの全然そうゆうことじゃなくて」
「そういう事ってどういう事?」
「下心というか。そのナンパとかじゃないです。」
「可愛い。うーんまだ名前言うのは早いかな?」
「そうですよね。ごめんなさい。」
「もーそんな落ちこまないでよ。私も一つ聞きたいことあるけどいいかな?」
「はい。なんですか?」
「好きな作曲家とかいるの?」
「いやーそれが僕良く分からなくて。ヨハン・セバスティアン・バッハとか好きです。」
「えっ、まじ?同じじゃん。私もバッハ好きだよ。えっ、なんで君はバッハが好きなの?」
「その音楽の事はあまり詳しく言えないですけど。その飾らないところというか。母の影響もあって僕
はバッハが好きなんです。」
「えっ、すごくいいじゃん。私、実はオルガン弾けるようになりたいんだよね。だからバッハの曲よく
練習しているよ。」
「その、先輩は好きな曲とかあるんですか?」
「私?そうねぇ、ヘンデルの(水上の音楽)かな。結構ヘンデル好きなんだよね。ヘンデルの曲を聴く
と元気が出るんだよ。」
「ごめんなさい。」
「うん?どうしたの?」
「ヘンデルって良くわかんないです。」
「確かに急に言われても分かんないよね。後で詳しく教えてあげる。」
「あっ、ありがとうございます。」
「それじゃ私、ちょっと係の仕事あるからまたね。」
「あの、先輩。」
「うん?」
「お話付き合ってくれてありがとうございました。」
「そんなーわざわざ言わなくてもいいよ。じゃあね」
当時の気持ちはとても不思議なものであった。当時、先輩みたいにグイグイ迫られるタイプは正直苦手であった。しかし、先輩との会話をしていて楽しかった。先輩のことを気になり始めた瞬間であった。
午後は見学の補足説明や質疑応答など1時間程度で終了した。私は特段用事がないので早く帰ろうとした。そしたら、先輩に引き留められた。
「あの君、ちょっといいかな。」
「先輩、今日は色々とありがとうございました。」
「こちらこそ、今日は来てくれてありがとね。君に一つ渡したいものがあるんだ。」
「なんですか?」
先輩から封筒が渡された。
「先輩これは?」
「音印高校の定期演奏会のチケットだよ。正直、私演奏できるか分からないけど...でも私演奏できるよ
うに頑張るから来てくれるとすごくうれしい。君も受験頑張ってね。私、君とバッハの演奏すること
をとても楽しみにしてるよ。」
「ありがとうございます。先輩」
「最後に一つだけ私、留美っていうの。入学出来たらよろしくね。」
私は音印高校を後にした。仲の良い女子の先輩と仲良くなれたことは私にとって大きな一歩となった。私はその日以降、音印高校に進学するため受験勉強に励むようになった。留美先輩との約束を果たすために。