表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロリコンと忌み子と熊と天使 仮題  作者: 残響
出会い
9/22

アホとホラーも使いよう

『合同で書くでござる。』


──開口一番、それである。


アホが電話口で突飛なことを言ってきたのは、ちょうど三年前の十月半ばのことだった。


このアホは、誠に遺憾ながら僕と同じく売れないWebライター、つまり無職だ。


違いを挙げるなら、僕はオカルト担当、アホは非オカルト担当。超常現象を科学的に否定する記事を書いている──まあ、大抵は支離滅裂だが。


共通点は、どちらもオカルトを信じていないことと、やはり無職なところ。


ペンネームは「月」と書いて「ライト」と読ませるらしい。本名は知らないし、知りたくもない。以降の表記はアホで統一する。夜神さんに失礼だからね。


「……で、何を書くんだ?」


アホの相手をしてあげている僕は、ガンジーも顔負けの博愛主義者だと思う。普通なら着信拒否している。


『以前やったコンビ記事だよ。君の記事に最近ついたコメントを見て、ビビッと来たね』


「これはアドバイスなんだけど、他人の記事のコメント欄からネタをパクるのはやめた方がいいよ」


『アドバイスだなんて他人行儀はやめなよ。俺たちはソウルフレンドだろ?』


──時間を無駄にした。アホに言葉は通じない。


『というか、君は見てないでござるか?』


「どの記事?」


『あれだよ、“迷子の子助けて荒れたやつ”』


ああ、あれか……絶対見てないな、あれは。


──一年前、都市伝説系の取材で地方を回っていたとき、たまたま迷子の子どもを見つけて、家まで送り届けたことがある。ちょっといい話だと思って、そのことを記事のついでに書いたらコメント欄がプチ荒。


「ちょっと良いことしたくらいで偉そうにするな」とか、「偽善者無職」「不審者無職」「承認欲求無職」など、散々な言われようだった。図星だったので抗議もできず、その記事は封印した。無職関係ないだろ……。


「お前、僕に黒歴史を再認識させて遊びたいだけじゃないのか?」


『いや、本当に面白いから! 騙されたと思って見てみて。最新のコメントね』


「……しょうがないなぁ」


アホの言葉でも、そこまで言われると少し気になるのも事実だ。該当記事を開き、コメント欄をスクロールする。


──すると、目に飛び込んできたのは:



---


MoonLight1223 : 14 Aug 2018, 12:35

>コイツ絶対無職だろ、草w



---


絶対これじゃない。そして草にwを生やすな。


さらにマウスホイールを回すと、もう一件、新しいコメントが表示された。



---


(account blank error) : 3 Oct 2018, 18:01

>怪談好き?○○○に来て



---


たぶんこっちだな。まるで子供のような文体に、ガッツリ住所が書いてある。ネットリテラシーどうなってるんだ。


『見つけたかい? そこ、航空写真で見たんだけど、とんでもない山奥の集落って感じで、ネットとかなさそうなんだよね』


「“ネット無い”はさすがに言い過ぎだろ」


今どきネットがない場所なんて──……あるのか?


『さらに不思議なことがあってさ、IDがバグってるでござるよ』


言われて確認すると、サイト登録時に必ず表示されるID欄が「ブランクエラー」になっていた。


「このサイトって、登録しないとコメントできない仕様だったよな?」


『その通り。しかもアカウントを削除しても「Account Deleted」って表示される。ソレみたいにはならない!』


つまり──整理すると:


『田舎住みで怪談好き、ネットリテラシー皆無のハッカー小学生ってことでござるな』


「オカルト要素を排除しすぎて、逆にオカルトみたいになってるぞ……」


でも、たしかにライターを直接呼びつける、存在しないアカウント。面白いネタだ。


『君が“オカルト視点”で記事を書く。俺が“非オカルト視点”で否定する。面白くなると思わないでござるか?』


「乗った。」


──だがその前に、確認しなければならないことがある。


「ちなみに、なんで一年前の炎上記事のコメント欄なんて見てたんだ?」


『ハハ、あれ見てると心が安らぐんでござる。自分も捨てたもんじゃないなって』


──いつか絶対に殺して、その記事を僕が書こう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ