熊と???
その後も何人かに聞き込みをしたが、特に嫌がられることもなく、みな口を揃えて同じようなことを言った。
「大将、怪しすぎるよね」
「まあ、黒よね」
「十中八九、大将の奥さんの怨霊ってとこかな」
「村を出ていかないのも引っかかるのよな。見えてる側の人間か、それとも――“見せられてる”のかも」
ふたりの間で結論は出た。意思統一もできた。
となれば、やることは一つ――
「帰るか」
「またぁ? 真相を突き止めて、無念を晴らすとかしないの?」
「僕ら、警察でもなんでもないし。聞いた話も全部、憶測でしかないんだよ。何もできないって」
「意気地なし」
「はいはい」
「甲斐性なし」
「それやめて。……甲斐性、関係なくない?」
僕が愛車にまたがると、彼女はブツブツ文句を言いながらも素直に後ろに乗ってきた。そこまで本気で怒っているわけでもなさそうだ。
「いざ、愛の巣へ」
「だから、それやめてって」
帰り道はすでに、夕闇がじわじわと迫っていた。
カーブの先。ガードレールの向こう、田んぼの中。大量の花が供えられたその場所に――“ソイツ”はいた。
「あー……これは予想外。僕にも見えるタイプか」
「見えてるの? あれは……7ってとこね」
彼女と暮らし始めて三年。昔は見えなかったものが、少しずつだけど、見えるようになってきた。
そのことを相談したとき、彼女は笑いながらこう言った。
「ずっと一緒にいるせいじゃない?」
そう言って、見えない水を両手ですくうような仕草を見せた。
「これ、見える?」
「……きれいな手だね」
「ここにいるのよ。弱いけど、悪いものじゃない」
「僕には見えないな。どんな見た目?」
「……ボコボコにされて、顔がパンパンのピクミン」
なにそれ、めっちゃ見たい。
どうやら、僕が具体的に“見えてるもの”を伝えると、中位クラスの霊が見えるようになるらしい。彼女も昔はそうだったとか。
見えるようになる順番は決まっていて――
雑魚は雑魚すぎて視認困難。
上位は上手く隠れていて視認困難。
つまり中位クラスが一番、見えるようになりやすいとのこと。
それ以来、僕が見えてしまった時は、彼女が今みたいに10段階で“ヤバさ”を教えてくれるようになった。
7か……。前は5とかだったのに、着実にステップアップしてるのが実感できてしまう。
田んぼの中にいるのは、巨大な女だった。
エクソシストを代表してます!といったような姿で、ブリッジしながらこっちをじっと見ている。
分かりやすく“敵”って感じなのは、まだありがたい。
「めっちゃ見られてるんだけど……」
「男女関係じゃなければ大丈夫って話でしょ? 無視よ、無視」
「あれを無視するのは、なかなか大変だなぁ……」
恐る恐る横を通り過ぎようとした、その時だった。
“ソイツ”が、動いた。
逆さ向きだから表現が合ってるかは分からないけど――たしかに、首を傾げた。
次の瞬間、僕はアクセルを全開にしていた。
「ちょっ、なんで!? 急すぎ!」
「……見えてるの、バレたわね。下手くそ」
「僕たちの淫らな関係がバレた説は?」
「余裕あるのね……」
もちろん、虚勢を張っているだけで、内心はギリギリである。
「どうすればいい!?」
「に〜げるんだよ〜、ってやつよ。ジョジョね」
「2部、いいよね」
「……結構余裕あるわね」