熊と取材と痴情のもつれ
30分ほど田園風景の中を歩いていると、第一(いや、第二かも)村人を発見!
「すみません、少しお時間よろしいでしょうか?」
「ん? 別にいいけど、珍しいね。他から来た人だろ?」
「ええ、私こういうもので……」
訝しげに名刺と僕の顔を交互に見比べ、数十秒。何か合点がいったらしく、
「ああ、事故の件ね。不謹慎だねぇ」
「ええ。世間様に胸を張れる仕事ではありませんが、需要はあるもので」
「いいよ、別に嫌いじゃないし」
彼はそう言って笑った。……あれ、思ってた雰囲気と違うぞ? どうなってんだ大将。
「何かご存じありませんか?」
「うーん、噂話くらいしかないけど」
「ええ、どんな話でも構いません」
「じゃあ」と前置きして、彼は語り始めた。
──要約するとこうだ。
事故は夜にしか起きない。
必ず村から出ていく方向で発生している。
1つの例外を除き、事故に遭った車には必ず2人以上乗っていた。
しかも、その2人は男女の関係にあったとされている。
中には不倫関係だったという噂もあるが、こちらの信憑性は不明とのこと。
「まあ、そんなところかな」
「ありがとうございます。……てっきり、この話は皆さん嫌がると聞いていたので驚きました」
「いやいや、基本的にここの人たちは暇だから噂話は大好きだよ。誰に聞いたんだ?」
「ラーメン屋の──」
「ああ、あそこの坊っちゃんか」
村では有名人らしい。やるねぇ大将。
「あいつ、結構変わっててな。女連れて村に戻ってきたと思ったら、こっちで別の女に手を出してさ。狭い村だからそりゃ大騒ぎよ。
でも、いつの間にか最初に連れてきた方の女はいなくなってて、結局その地元の女と二人で暮らしてた」
「……村の女性と結婚したんですか?」
「いんや。その娘も事故に遭って亡くなったよ」
「事故に遭ったのは、基本的に男女のカップルって話でしたよね? じゃあ大将と……?」
「いや、その娘が、さっき話した“例外”ってやつさ」
なるほど。少しずつ話の流れが見えてきた。
「今じゃあいつ、腫れ物扱いで誰も関わろうとしない。でもなぜか村を出ていかないんだよなぁ。プライドが強いんかな?」
「……多分、“出ていけない”んですよ」
「?」
「いえ。お時間ありがとうございました」
取材のお礼に用意していたお菓子を渡して、その場を後にする。
「……割とシンプルな“怨恨”の類みたいね」
「その方が読者受けはいいから」
足りないところは盛ればいい。
「でも、今回は襲われそうになくてよかった。多分、僕たちは対象外だろうし」
「それ、“フラグ”って言うらしいわよ」
天使はニヤつきながら、そう言った。