熊とヤバい奴?
完食ぅ……
「死、死ぬ……」
「……うっぷ」
こんな貧困人生を歩んでいても、出されたものを残すなんてできない。
天使も似たような育ちだからか、食べ物を粗末にするという考え自体がないんだろう。いい娘だ。
「アハハ、二人ともいい食べっぷりだね。絶対残すと思ってたよ」
最初から言えよアホ店主。そしたらチャーハンは頼まなかった。でも味はよかったので、今回は不問とする。
「大将、少しお時間いいですか? 聞きたいことがありまして」
「時間? 見ての通り、閑古鳥が鳴いてるよ」
「私、こういう仕事をしてる者なんですが……」
そう言って、バシッと名刺を渡す。名刺には ホラー作家:四亜態志 と書かれている。作家じゃないだろって? ギリギリ誇張の範囲だよ。
「ふーん。ってことは、この辺の噂を聞きつけて来たわけだ」
「ええ。車の単独事故が多発していると聞いて。しかも、なぜか“この村から離れる方向”だけで」
「お客さん、運が良かったね」
「?」
「ここの人たち、排他的ってほどじゃないけど、その話になると露骨に嫌がるからさ」
「大将は大丈夫なんですか?」
「ああ、私もいわゆる“よそ者”なんだよ。祖父が亡くなって、店を継ぐ形で戻ってきたけど、父の代ではもう村を出ていたからね」
「皆さんが嫌がるってことは、やっぱり何かあったんですか?」
「詳しくは知らない。でも、発端になった“事件”があったらしいよ」
不自然な事故多発という話で取材に来てみたが、思っていたより面白いことになりそうだ。
「私からできる忠告は一つ。その話を無闇に聞き回らないほうがいい。この村を、私は信用していない」
「ごちそうさまでした」
店を出て、二人で話す。
「天使ちゃん、途中から静かだったね。食べすぎた?」
「……あの人、結構ヤバいかも。事故の話になってから、雰囲気が変わった」
天使のこういう感は当たる。
ということは、大将は何かを隠している可能性がある……?
村の住民にも聞き込みをしてみたほうがよさそうだ。