熊と親切な側転
「なんで原付なのよ……」
そんな天使のボヤきからも分かるように――僕たちは、原付と田舎の整備されていない道に、お尻を虐待されている真っ最中だ。
「普通、こういうのって新幹線とかじゃないの?」
「そんな金は無い!」
あと二人で公共交通機関はまずい……
「甲斐性なし……」
甲斐性なしは事実なので、普通に効く。
そうだ、NGワードにしよう。フィルタリングで伏字にするのだ。「※※性なし」とか。
「どこまで行くのよ、これ」
「さくっと、4時間程度」
「……」
天使が黙ってしまった。ミラーで確認すると、ムスッとしている。かわいい。
と、そのとき。
天使がふと何かに気づいたように、何もない田んぼのあぜ道をじっと見つめ始めた。
「ヤバい? ふーん」
「……善さそうな神様とかいる?」
「なるほど、ありがとね」
僕があまりにも○○○なしなので、ついにイマジナリーフレンドとの会話を始めてしまった。オヨヨ。
「この先、ヤバいってさ」
どうも、僕たちの行き先はヤバいらしい。
「例のやつ?」
「そう。3くらいの霊のやつ。かなり語彙力の怪しい子だった」
「“ヤバい”って意訳じゃなくて、本当にそう言ってたんだ……」
ちょっと待て。僕たち、ずっと移動してたよね?
原付とはいえ、30kmは出てたぞ。信号のない田舎道だし。
「並走してたってこと?」
「側転してた」
思ったより愉快な移動方法だった。友達になれそう。
……それにしても、ヤバいかぁ。嫌な予感しかしないなぁ。
「行くの、やめとかない?」
「大丈夫。アドバイスもらったから」
「……ちょっと、お金残しておいてね」
「?」
まぁ、天使がそう言うなら――それが必要なことなんだろう。