四亜態志の走馬灯兼プロローグ
僕の名前は四亜態志。しがないホラー系のWEBライターだ。
広義では、無職と言っても差し支えない。
普段は地方のちょっとした噂話や都市伝説に、面白おかしく尾ひれや翼や角をつけてネットに流し、日銭を稼いでいる。
良く言えば鯉を龍に変える芸術家。悪く言えば、詐欺師。
ホラーを専門に扱っているとは言っても、霊感なんてなかったし、もちろん“ホンモノ”に出会ったこともなかった。
幽霊も宇宙人も未確認生物も、これまでは信じていなかった。
……なんだか流行りの漫画みたいでいいね。僕たちも男女二人組だし、けっこういい線いってるかも。
相違点を挙げるなら――担当分けが下手くそなところと、年の差か。
オカルト全否定の中年と、オカルト全肯定の幼女。
「うーん、流行らない。片方ただのオッサンなのが減点。ラブコメやろうものならコンプラギリギリだし」
「なんの話かわからないけど、えらく余裕ね」
「信じてなかった」――そう、過去形だ。
逆オカルン(仮称)だったのも三年ほど前までの話。
今はまあ、そういうこともあるよなと思ってる。というか、現在進行形で思わされてる。
“ホンモノ”を目の前にして「信じない」と言えるほど、僕は筋の通った男じゃないんだよ。
……さて、何を話せばよかったっけ?
ああ、モモちゃん(仮)の紹介を忘れていたね。
彼女は天使。
特殊な環境で育ったせいで本当の名前がない。だから、僕はそう呼んでいる。
それから彼女は十四歳。結婚適齢期だと、いま僕の中で話題になっている。
「天使ちゃん、生きて帰れたら結婚しよう!」
「ロリコン。それ帰れないやつだし、現行法的にも不可能よ」
後ろを振り返って微笑みながら求婚すると、ジト目で呆れかえられた。かわいい。
「法律を変えればいい!」
「変態は大志を抱くな。あと、ちゃんと前見て運転しろ」
初めて会ったときは、あんなに気弱だったのに。
こんなに強くなってくれて、僕は嬉しいよ。
僕たちの馴れ初めは……まあ、それは今度でいいか。
結論。何が言いたいかというと――
「このままだと、プロローグがエピローグになる!」
「ほんとになんの話よ?」
「走馬灯兼プロローグを脳内でまとめていたところ」
「はあ……もっと真剣になったほうがいいんじゃない? あれ、ちゃんと殺しに来る系のやつみたいだし」
「なにかの間違いで、すごーく足が速くて、顔のこわーい普通のお姉さんだったりしない?」
ミラーで確認したマイエンジェルは、処置なしとばかりに首を振っていた。
「変態の常識的に、普通のお姉さんはブリッジで原付に追い縋れるのね。ならロリコンになるのも頷けるわ」
――そんなわけがない。
僕たちは、いつものごとく、推定怪異に襲われている。