幸せの光 【月夜譚No.331】
人々の幸せが煌めいている。
山の頂上から地上を眺めていた彼は、ふっと微笑んだ。吹いた風が彼の髪を撫でつけて、長い毛先をふわりと靡かせる。
全人類が同じタイミングで幸せを感じることはまずありえない。それぞれに生活があり、人間関係があって、幸と不幸とが混在するのがこの世界だ。
しかし、やはり幸せの光というものはいつ見ても良いものだ。温かな色をしたそれは、たった一つであったとしても心を和ませてくれる。幸せとは、それだけの力を持っているのだ。
「あ、こんなところにいたんですか! みんな捜してますよ。早く戻ってください、神様!」
山を登ってきた小さな神使に怒られて、彼は苦笑を漏らした。
本当はもう少し眺めていたいところだが、呼ばれてしまっては仕方がない。
後ろ髪を引かれるような思いで振り返った彼は、溜まった仕事を片づけるべく気に入りの場所を後にした。