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30歳の幸福(3)

俺達の前を、メジャーと待ち針を片手に白夜があっちこっちへと駆け回る。

「お召しになるタキシードの色をお揃いにするのも素敵ですけれど。背が高くていらっしゃるから、この青みがかった黒のタキシードがとてもお似合いだと思います! 中々似合う方がいらっしゃらないのですが、お客様がお召しになると、花畑に突如現れて君臨する烏揚羽の王様のようで。お連れ様はこの白いタキシードがお似合いですね。まるで平和を告げる鳩のよう。緑を差し色に入れても良いかもしれませんね。」

 褒めてくれているのはわかる、わかるが表現の癖が強すぎて一歩間違えると悪口だ。


「衣装どうします? 何だか合わせてみたら別に色を揃えなくても良い気がしてきました。」 

 夜のベッドが俺たちの、式に向けての打ち合わせの場と化していた。

「俺も。式は二人でこれから支えあって生きていくことの象徴だけれど、別に俺たち双子になるわけではないし。」

「あはは! 双子! 生まれた時から一緒であれば、私は貴方ともっと早く会うことができていただろうし、来世はそれでも良いかもしれません。」

「それだと来世は今のような関係性にはなれないし、結婚なんて絶対無理になってしまうな。」

「それは嫌ですね。……ところで白夜さんのことですが、やはり記憶はもう戻っているのではないでしょうか? 」

「どうして? 俺は全くそう感じなかった。」

「貴方にはお客様、私にはお連れ様という表現を使ったでしょう。それに私は鳩みたいと言われてしまいましたし。緑が差し色って、完全にオリーブの葉をくわえた鳩をイメージされていますよね。三歩歩けば全てのことを忘れるのかと。それは深読みをしすぎだとしても、衣装合わせの時には貴方の身体にやたら触れていたように見えました。」

「予約を俺の名前でしたし、プロフィールを書いた時に玄輝は俺の六歳年下とばれているからその表現だったのでないかな? 衣装についての表現は、白夜はもう少し学ぶべきだと思った。俺なんて昆虫だぞ。三歩歩いて忘れるのは鶏だ。身体については玄輝も負けないくらい触られていた。採寸目的なのだから大目に見てやろうよ。」

「そうですね。蒼波さんが烏揚羽で私が鳩。自然界だったら私が蒼波さんを食べちゃいますねきっと。」

「馬鹿なことを言っていないで。どの衣装の玄輝も俺にとっては輝いて見えたよ。好きなのを選びな。お休みなさい。」


 俺たちの前に、大量のカタログを抱えた白夜がよたよたと迫って来る。

「お花はどうしますか? 衣装に合わせて選ぶ方も多いですが、花言葉を参考にするのも楽しいですよ。」

 花言葉以前にページを彩る花の名前がわからない。

「この花束とかどう思いますか? 赤い葉がアクセントになっていて素敵……」

「申し訳ございませんが、ポインセチアは十二月に式を挙げられる方のみ、ご準備可能となりまして。」

 俺よりも植物の知識がない奴が隣にいた。

「こちらの黄色ベースの花束など如何でしょう。男性にも黄色は人気ですよ。」

「いえ、こっちのパステルピンクをベースにしたものにしたいです。貴方はどう思います? 」

「俺はカタログにはないけれど、そこの壁に飾ってある絵の一番大きな花が素敵だと思うな。」

「お客様、黒の百合は色々な意味で止めた方が良いと思います。確かに恰好の良いお花ですが、お祝いの席でもあるので。」

 とりあえず玄輝の意見が今回は通った。


「ちょっと! 黒百合って! 貴方は何を考えているのですか? 」

 夜の打ち合わせの場で、俺はブランケットの下の足を蹴り飛ばされた。

「いや、俺は黒が好きなのだよ。何と言っても恋人の名前は玄輝だし。」

「何だか甘い言葉をくださっていますがね、黒百合の花言葉をきちんと調べてから言ってくださいね! ……ところで白夜さんのことですが、やはり記憶は戻っているのではないでしょうか? 」 

「今度は何だ? 」

「勧められた花束、黄色の百合が入っていたのです。」

「その様子だと、黄色の百合にも何か印象の良くない花言葉があるのかな? でも全てが良い花言葉のもので固められた花束を見つけるなんて、中々難しいものかもしれないよ。 まあポインセチアなんて季節外れの植物を最初に選んだ玄輝も同じようなことをしているのではないか? 一生懸命咲いているのに、花言葉で切り捨てられては植物も可哀想だ。玄輝の白い衣装にパステルピンクの花束はきっと映えると思うよ。お休みなさい。」

「赤のポインセチアには素敵な意味があるから、駄目元で私は聞いたのですよ……」


 俺たちの前で、少し困ったように白夜はパソコンを操作する。

「式で使う曲、どうされますか? 定番のクラシック音楽を選ばれる方もいらっしゃいますが、最近はお互いの好きな曲を組み合わせる方も多いですよ。ポップでも、ロックでも、ヘビーメタルでも。僕はあまり音楽に詳しい方でないのが申し訳ないのですが。」

 お互い持ち込んだ数々の曲。多感な時期に聞いた音楽がいつまで経っても好きなのは誰でも同じようで、俺と玄輝の選んだ曲には丁度六年分くらいのジェネレーションギャップがあった。

「どれも素敵な曲ですね。お客様の選んだこの曲は確か、運動会でかかっていたな。何だか懐かしい気分になります。お連れ様の選んだギター伴奏が印象的なこの曲も、初めて聞きましたが素朴な歌声の中に純粋な気持ちが込められていて、涙が出そうになりました。」

 玄輝が選んだその曲は、数年前どこに行っても流れていて、いくつかの賞を受賞したとても有名な曲であった。

「この曲ご存じないのですか? 今でも音楽番組で取り上げられるくらいに有名な、ベストヒットだった曲ですよ。現役で活躍されているシンガーソングライターのデビュー曲なのもあるかもしれませんが。あまりテレビは見ませんか? 学生時代は海外でお過ごしだったとか? 」

「そうなのですね! 僕の不勉強で、申し訳ございません。実は事故で頭を打ってしまいましてね、学生時代の頃の記憶が多少飛んでしまっているのですよ。残念ながらこの曲もその中に含まれていたのかもしれません。テレビを見るのは少し苦手で。話題についていくには便利だと知っているのですが。」 

 皆が気に入ったその名曲は、俺たちの式の入場曲に決まった。


「やっぱり覚えていないのですね。」

 玄輝が枕を抱えながら呟いた。

「心配するなと言っただろう。それよりヘビーメタルを使う奴もいるのか。個性的な式を挙げる奴もいるものだな。」

 ケラケラと玄輝が笑い声をあげた。

「例えで言っただけでしょう。使う曲を絞るのは大変でしたね。あの曲、実は高校生の白夜さんも好きだったのです。記憶が飛んでも好みは変わらないものなのですね。」


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