18歳の憂鬱(8)
「玄輝って、ゲイなの? ほら出会って間もない頃に一目惚れしたお客さんがいたって言っていたじゃないか。ここには男性客しか来ないだろう。」
「ゲイバー全てが男性客しか来ないわけではないけれど。少なくともうちは基本男性しか入店しないわね。そしてズバリと聞き過ぎよ、白夜ちゃん。」
「白夜さんに相談した相手は確かに男性でした。でも何しろ経験が少なすぎて、今回たまたま好きになったのが男性だったというだけだと思います。結局片想いで終わってしまいましたけれどね。このバーに勤めている理由も、偶然この辺りを一人で歩いていた時にマスターにスカウトされたのがきっかけでしたし。」
「また次があるわよ、今度は良い関係になれたら良いわね。スカウトしたのは二年前だったかしら。玄輝ちゃん、暇そうに見えたのよ。実際暇だったみたいだし。」
「そういうものなのかな? 」
あまり納得していないような表情の白夜さんだったが、無事にカメラマンの話題は終わってほっとした。
「そういえば玄輝はさ、卒業したら実家を出るの? 」
「専門学校の近くにアパートを借りるつもりです。ここのアルバイトで徐々にお金を貯めていましたので。カメラを買うのと、専門学校の入学金で一度貯金が無くなりましたが。白夜さんのお陰でクラスのヒトからお金を取り上げられることはなくなったので、最初に払う金額くらいはまた貯められました。」
「春休みもシフトたくさん入ってね。もう少ししたらもっと長い時間働くこともできるようになるし。勿論玄輝ちゃんが倒れない程度でお願いしたいけれど。新生活も頑張ってね。改めて二人とも卒業おめでとう。輝かしい未来に乾杯。」
楽しい夜の時間は過ぎて行った。慣れない雰囲気にテンションが高くなった白夜さんが次々とグラスを空けるものだから、私は今まであまり提供する機会がなかったモクテルの種類と作り方にすっかり詳しくなってしまった。シンデレラ、サラトガクーラー、サマーディライト。
自分でやるから良いよと言うマスターを必死に説得して、私はカクテルを作り続けた。シェイカーを振る私を白夜さんは珍しそうに眺める。会話に参加しながらだったので自分の飲み物は作る暇がなく、近くにあったトニックウォーターでひたすら喉を潤した。そして絶対にミッドナイト・サンだけは作らなかった。
「二人とも四月から同じ専門学校に通うと聞いたけれど。ブライダルコンサルタントになるんだっけ? 」
「そう、玄輝と一緒に通う予定。たくさんのカップルの素敵な日を見届けたくてね。最近は結婚してこれから家庭を作っていくカップルも勿論なのだけれど、それが今は許されていないカップル、具体的に言うと男性同士、女性同士のカップルにも、素敵な日を迎えるための何かができないかなとか考えたりしている。専門的なことを勉強し終えたら実現させてみたいな。」
「あら素敵。そうしたら、うちのバーに通っているお客様たちにも、白夜ちゃんを紹介するわね。きっと色々なヒトたちの式に紹介されて、身体がいくつあっても足りないわね。四月からも玄輝ちゃんをよろしくね。」
帰り際、バーの前に植えられていた一本の桜が闇の中で揺られていた。一年前はただひたすら終わるのを待っているだけの人生だったのに、今は高校生活が終わるのを私は惜しく思っていた。




