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18歳の憂鬱(6)

秋風が吹き始めた頃に、私は今まで貯めていたアルバイトの給料の一部を使ってカメラを買った。比較的初心者向けと、その後も数回スタジオで会った蒼波さんに勧められた種類のモノだった。高校時代の記念として、長く使うことのできるモノを購入できて私は満足だった。

 カメラについて教わるのを口実に、私は白夜さんがいる日は夜アルバイト帰りにもスタジオへ寄り、蒼波さんと会話を交わした。白夜さんは私が蒼波さんと二人で話をしていても、特に気にしていないようだった。それでも部屋に蒼波さんと私の二人きりにならないよう、さりげなく細心の注意は払うことにした。

 少し寂しい気配を帯びた花々が咲く頃、やっとそれなりに満足できる写真が撮れるようになった。隣に並ぶことはできないと分かっていても、蒼波さんの世界に少し近づいたような錯覚を覚えて嬉しかった。

 白夜さんはひたすら撮影される側に徹していたが、決して私には自分の写真を撮らせてくれなかった。


 高校最終学年の大イベントが近づいてきた。進路の決定だ。進学するつもりはなかったしそのための勉強も今までしていなかった。でも進学ありきのこの高校で白紙を提出して就職宣言などしたら、親を呼び出されて大変な目に合いそうだ、

「僕は昔からブライダルコンサルタントになる事を目標にしているから。卒業後は専門学校に行くことになると思う。」

 進学する気がなさそうに見えたので相談がてら聞いてみると、白夜さんは意外にも将来のことを具体的に考えていた。

「さてはお前、進路決まっていないな。」

 図星を突かれ、私は首を縦に振るしかない。

「最近は写真に興味を持ってはいますが、それ以外趣味はありませんし。」

「もし何も決まっていないなら、僕と同じところ行くか? 」

 私は軽率にその案に乗った。より長く白夜さんとの友人関係を続ければ、蒼波さんと話せるチャンスがこれからもあるかもしれない。そんな下心もあったのが後ろめたかった。

「そうと決まったらすぐに資料請求して応募しないと。〆切が近いぞ。」

 こうして無気力に漂うように生きていた私は、ブライダルコンサルタントを目指す専門学校生としてこれから生きることとなったのだ。


 寂れた商店街が精一杯の装飾を光らせ始めた冬の日の夜、私はいつものようにアルバイトをしていた。今夜は白夜さんと蒼波さんは少し高級なディナーを食べるために、繁華街へデートに出かけていた。どこかで一泊して帰ると言っていたので、明日白夜さんはきっと学校に遅刻するだろう。

「ロッキーお気に入りのイケメン君、最近来なくなったわね。」

 ポールダンサーがソルティ・ドッグを持ちながら愛用のブーツを履いた脚を組んで呟いた。あのカメラマンは友だちの恋人でした、なんて言えるはずもなく、私は黙って話題を変えた。

「最近パートナーさんとはいかがお過ごしですか? 今日はこちらにいらっしゃらず水いらずに過ごされるのかと思っていました。」

 彼にはもう八年一緒に時を重ねている同性のパートナーがいる。ジュエリーアドバイザーをしているというそのヒトはこのバーには来ないので、人物像は全く知らないのだが。この機会だし彼の口から語られる、恋愛感情について聞いてみようと思った。

「クリスマスイブだから、きっとあのヒト大忙しよ。老若男女がこぞって買い物に来るんだってさ。プレゼントの相手も色々で。親から子へ、子から親へ。夫から妻へ、妻から夫へ。恋人同士。一方でちょっと怪しい関係同士のお客様もいたりして、中々楽しいらしいわよ。お互い忙しいけれど、それでも連絡取り合って。離れている時間が長い分、家で一緒に居られる時はずっとくっ付き合って。つまり、それなりに上手くやっているわよ。年末は今のところ一緒にお休みになりそうだから、同じ炬燵に入ってお蕎麦でもつついて、のんびり鐘の音を聞きたいな。」

 グラスを持つ左手に、鈍く光るゴールドリングが見えた。常連客とは言えこんな話をしてもらうのは初めてだ。

「ごめん、完全に惚気話だよね。」

「こちらから促したので、お気になさらず。もっと聞かせてくださいな。お礼におすすめのカクテルを一杯サービスしますから。」

 ポールダンサーは少し驚いた顔をした後、ミネラルウォーターを一口飲み語り始めた。

「わたしたちの出会いはね、決して自慢はできないモノなの。お互いに一目惚れしたのは、忘れもしないショーのリハーサルの時。けれどもあのヒト側に問題が残っていて、一歩を踏み出せなかった。詳しく話すとロッキーちゃんに良くない印象を持たれそうなのだけれど、ごまかすのも不自然ね。あのヒトにはその時既に付き合っている恋人がいたのよ。でもどうにも諦められなくて。あのヒトはその頃ショーの衣装制作にも携わっていたのだけれど、敢えてわたしは関わりがあるモノに多く出演するようにしたの。少しでも長くあのヒトの目に触れて、同じ空気を吸っていたかったの。今思うと狂気的よね、若かったせいかな。あのヒトも何だかんだわたしを気になっていたようで。経緯はあまり良く知らないけれど、恋人とうまくいかなくなった時だったのかな。偶然二人きりで話す機会があったのよね。それをきっかけに距離が縮まってもうおかしくなるくらいのスピードで展開が早く進んで。あのヒトが恋人と別れる前に告白されて、強引に同棲にまで持ち込まれちゃったのよね。わたしたち二人は幸せの絶頂だったけれど、まあその後は大変だったわ。いわゆる略奪愛をしてしまったわたしは当時いた職場を離れることになったし、あのヒトはそれ以降衣装制作から手を引いたの。経済的には一時的に困窮してしまったけれど、どうにか二人で手を取り合ってここまで歩いてきたかな。わたしの話は以上! 聞いてくれてありがとう。」

 内容は衝撃的な部分も多かったが、そのどれを語る時もポールダンサーが優しい表情をしていたのが印象的だった。同時に話を聞いて、私は少しギクっとした。

 恋を諦めきれないポールダンサーのとった行動が、今の自分の行動と重なるような気がしたのだ。

 でも私が憧れている蒼波さんは白夜さん一筋だし、白夜さんも蒼波さん一筋だし、磁石みたいにくっ付いている二人の間に私が入り込むことなんて、何万分の一の可能性もないだろう。そもそも略奪する勇気なんて持ち合わせていない。

「そんな大恋愛をしたパートナーさんは、夜な夜なこのバーへ飲みに出かける相方を心配しないのですかね? リスクを冒してまで手に入れた相方が自分の知らないところで口説かれて、他人のモノになったら発狂すると思いますが。」

「その辺りは大丈夫なの。だってほら。」

 ポールダンサーはカウンターでグラスを拭いているマスターを指さした。まだ客はそこまで多くない時間帯であった。

「わたしの見張り番がいるからさ。ここ以外へ飲みに出かけるのは禁止なの。わたしもいい歳なのに子供のように行動を監視されていてさ。鬱陶しいけれど嫌じゃないのよね。」

 マスターはパートナーさんの昔ながらの友だちだそうで、飲むお酒の種類も来店時間も帰宅時間も全部連絡されているそうだ。愛情の形は色々なモノがあるのは百も承知だが、ここのカップルも中々束縛が強かった。そこまでプライベートの生活に他人から手を加えられるのが怖い私は、まだまだ恋愛をするには早いのかもしれない。心持ち少な目にしたウォッカに、オレンジとレモンを混ぜ合わせながらそんなことを考えた。それとも本当に好きなヒトから受ける束縛は、悪くないモノなのだろうか。


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