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24歳の困惑(2)

「大変なことになりましたね。でも命が助かったと聞いて安心しました。白夜さんのことですがね、あまり本人も公にしたくないだろうと思ったので今まで言いませんでしたが、生まれつき性分化疾患を抱えていて、専門学校に入学する前は男性として過ごしていたのです。本人からは、蒼波さんと自然なカップルになりたいから、同棲生活をするのを機会に、女性として生きることにしたと聞いています。え? 試合? 遠征? 高校時代白夜さんは帰宅部でしたが、中学の時はサッカーをしていたと言っていた気がするので、多分その頃の話なのかな……? ところで朱音さんは大丈夫なのですか? 白夜さんがそんなになるまで頭を打ったということは、多少は怪我をしているでしょう。白夜さんが蒼波さんと過ごしていて、バイクに興味を持たなければ、こんな事故はきっと起こらなかったのかもしれません。何だかごめんなさい。」

 専門学校を玄輝がやめて以来の会話だったが、話を聞いているだけでイライラした。

「アタシは免許を持っていないから運転するのは白夜の役目だったけれど、バイクは二人で共通の趣味だったのよ。だから真っ向から否定するのは止めてね。白夜は玄輝のことすらも覚えていなそうかな、どうも高校時代より過去の世界へ遡ってしまっているみたい。白夜に対して謝罪の言葉なんて今更だからね。アタシは打撲で済んだので安心してね。聞きたいことを聞くことができて良かった。じゃあもう会わないと思うけれど。またね。」

 電話を切ると同時に、アタシは玄輝の番号を着信拒否にしたのだった。


 気持ちが高ぶったまま病室のベッドでぽかんとしている白夜を見たら更にイライラした。ねえ、アタシたちって友だち同士だよね? 少なくともアタシはそう思っていた。腹を割って話し合って、困った時は相談し合って。それなら、白夜の抱える病気も、昔は男性として生きていたことも、全て知っていたかった。でも今の白夜にそれをぶつけても何も解決しない。白夜はアタシのことがわからないのだ。

「白夜。落ち着いて聞いて。今アンタがどの時代まで遡ってしまったのかはわからないけれど、アンタは今二十歳。サッカーをしていた中学時代はとっくに終わって、無事に高校を卒業して、ブライダルコンサルタントを目指して専門学校に入って、優秀な成績を納めて丁度卒業する前の日にバイク事故を起こしてしまった。アンタの目の前にいるアタシは朱音。専門学校時代の友だちで、事故の時に一緒にいた。そしてアンタは今までアタシと一緒に住んでいた。アタシじゃできることに限りがあるから、面識はないけれどこれからアンタの実家と連絡を取って、親御さんに来て頂く。いいね? 」

 アタシがしっかりしないと、白夜を守ってあげないと。もしアタシが白夜の良き友だちであるならば。


 そこからの展開は早かった。

 高校を卒業した時点くらいから白夜は家族と疎遠になっていて、今の状態を話してもあまり協力的になってくれそうになかった。どうにか白夜に今まで専門学校で勉強していたことや、本人の卒業制作など資料を見せつつ病室で説明し、ブライダルコンサルタントとしての知識は詰め込みで学び直してもらった。専門学校時代は女性として暮らしていたことなどは、アタシも理解しきれていない部分があるし、何しろ複雑なので白夜に伝えるのは止めた。

 アタシの手足もすっかり治った頃、白夜は胸と腹に手術痕をつけた状態で、すっかり元気になって退院した。同期より少し遅れて、アタシたちは既に内定を貰っていた式場で社会人生活をスタートさせたのだ。


「いやあ、あのカップルの背が高い男性の方、恰好良すぎるね。今まで僕が会ってきた中で一番タイプだな。しかも職業カメラマン、あれは男女問わずモテたろう。」

 桜の蕾が膨らみ、蒼波と玄輝の式の打ち合わせが進んできた頃、仕事から帰った白夜がスーツの上着をソファに放り投げながら言った。

「これまでさ。衣装合わせ、花束選び、そして今日が曲決めだったのだよ。あのカメラマン、確か名前は由良さんだったかな。ヒトのパートナーに対して言うセリフでないことはわかっているのだけれど。会う度に格好良さが増していくのだよ。」

「ねえ、それ、アンタの彼氏に言いつけてもいいのかな? 」

 働き始めてからの白夜はその儚げな顔立ちが魅力的だからか、年中あらゆるヒトに告白をされ、恋人を絶やしたことがなかった。一度は担当したカップルの片方に言い寄られてしまい、大問題になったほどだ。ちなみにそのカップルは式を挙げる前に破局した。

「別に言ってくれても構わないよ。それで終わるならそれまでの関係だし、逆にそこまで脆い関係のヒトと付き合っていたくないからね。」

 蒼波の後にも、老若男女問わず様々なヒトと付き合った白夜だが、恋人になるヒトの大半がやはり男性で、背の高い、言ってしまえばこの前見た蒼波と似たような容貌であった。ただ前と変わってしまった点として、白夜が自分から好意を相手に伝えることは殆どなく、恋人としての関係に執着しなくなってしまったことが挙げられた。記憶を失ってしまったのが影響しているかはわからないが、白夜はただ流されるように誰かに告白されて付き合って、相手に飽きられ別れた後、同じことを繰り返していくという、感情が抜け落ちたような人間関係しか築けなくなっていた。

「だがしかし、あの檳榔子黒のタキシードを着こなせるヒトがいるとはね。あのタキシードに使われている布地は、ウチと契約を結んでいる繊維会社の折り紙付きの最高級品だ。モノは良いのだけれどその気品に圧倒されてほとんどのヒトが衣装負けしてしまうにも関わらず、由良さんはあの鋭い表情が良いね。似合いすぎて背中から大きな気高い羽が四枚生えている幻を見てしまったよ。そして選ぶ花! お祝いの席では中々使わないし、あまり良くない花言葉があるからやめることになってしまったのだけれど、黒百合が好きだなんて。もうキャラクターにピッタリで、一瞬無理矢理でも花束に入れてやろうかと思ったよ! まあ連れの男性が全然違う花束を選んでいたからよしたけれど。音楽については、僕は全然こだわりがないから、ほぼ要望通りに色々取り入れることにした。連れの男性が持ってきた曲、とても素敵だったのだよ。結局それに決まってさ。後で調べて聞かせるよ。」

「アタシが黙っておればどんどん好き勝手に担当の客について語りやがって。アンタのせいではないけれど、この前の破談騒ぎは大変だったのだからね。式を挙げる前ってみんないつもと違う雰囲気に舞い上がっているから、あんまり親密に話を聞きすぎたりするのも気を付けな。お願いだからアンタがその由良さんだっけ? に言い寄って、本格的な事件を起こすのはやめてね。」

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