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X回目のイセカイテンセイ 第003話 出発

某ゲームのように、Tipsを付けたかった。

それだけです。


それではどうぞ。


 風雅が向かった先は、魔術協会からやや離れた都市の中心近くにある広場であった。

 そこは中心にある噴水が特徴的な広場となっており、周囲にベンチや露店で物を売っている人の姿が見られるこの場所は都市ボロスにいくつかある憩いの場の一つであった。

 そんな都市の中心付近に来た風雅はしばらく周囲を確認しながら探るように辺りをうろうろしていたが、やがて満足そうに頷くと広場の石畳の上の、風雅にとっては丁度良いらしい位置で立ち止まった。



「……ここで良いですかね? 《風の伝えを(サーチ)》」



 短い詠唱と共に、風雅を中心にして球状の薄い膜のような魔術が広がっていく。

 この魔術は術の範囲にある状況を詳しく知るための魔術であり、風雅の用いたそれは風属性単体で構成された繊細な操作を必要とするものであった。


 当然このような周囲の調査を行う魔術は術の範囲を広げれば広げただけ、またより詳しく範囲内の情報を得ようとすればするほど多くの魔力とより精密な術の操作が必要になる代物である。

 また範囲内を調べた事をその対象や他の魔術に感知されないようにするには、更に慎重な操作を要するものでもある。


 そんな魔術の範囲を風雅は慣れた様子でどんどんと、スムーズに広げていく。

 その球状は範囲内の誰にも知られる事なく都市ボロスを覆い切り、更に広がって最終的に勇者召喚の儀の行われる王都すらも覆ってしまった。


 当たり前ではあるが王都やこの都市ボロスにも内外からの魔術に対して反応、防御する魔術による結界は都市を覆うような半球状のものが張られており、生半可な魔術ならばこの結界に妨害されてその効力を失うか十分に発揮出来なくなってしまうのだ。

 しかし風雅の魔術はその結界を軽々と乗り越え、王都内の誰一人にも一切の感知すらさせないまま網の目をすり抜ける水のように浸透して広がっていった。



「……もう召喚されましたか。これは恐らく安井(やすい)さんですね。()()した時に限って、()()()()事です」



 風雅はそう小さく呟くと、苦し気に眉を顰めた。

 このボロスにて風雅は資金の調達、そして王都で行われた勇者召喚の儀の進行度合いと召喚された勇者がどのような相手かを知ろうとしていたのだ。

 そして無事その両方の目的を十分に果たす事が出来た風雅は、しかし内心全く喜んですらいなかった。


 勇者が召喚された場所の名は、王都グリッダスという。

 この場所は初代国王であるグリッド・フォージスより名付けられたフォージス国の首都で、ボロスよりやや南西にある国の要となる都市である。

 というのも王城や魔術協会本部や王国騎士団本部、そしてフォージス王国の国教たる白聖教の教会本部等の組織の要所が集まる場所であるためだ。

 当然ながら人の行き来が多いために警備やその他多様な施設もある等サービスも充実しており、他都市と比べて人目に触れる場所も多いためか治安もかなり良い所である。

 欠点としては地価と物価が少々高い点だが、これらは王都に居を構えるような金持ち達にとってはなんら問題の無い事であった。

 この国の中で異世界から招かれた勇者が最初に来る場所としては、治安の面でも生活水準の面でも王都はこれ以上ないほどに好条件の場所だろう。


 そんな王都に召喚された勇者は、安井康生(こうせい)という名前の男性である。

 整った顔と引き締まったスタイルから爽やかな印象を受ける青年なのだが性格に難があり、ハーレム願望とやや自己中心的な考え方を持った付き合い方の難しい人物である事を風雅は知っていた。

 魔王や四天王の対処として呼ばれた勇者が安井である事は、自身の目的にとってあまり良い結果を齎さないだろうと風雅は考えていた。



「ならば、急ぐ必要がありますね」



 風雅はそう言うと視線を勇者の居る王都から、やや離れた西の方角へと視線を向ける。

 その視線の先にあるのは、都市アルメロスであった。

 アルメロスは所謂観光都市と呼ばれるもので歓楽街や大きな劇場、賭場や娼館等がある娯楽の多い都市である。

 娯楽と言っても貴族や王族に向けたものというよりは一般向けのものが多く、しかし質そのものは悪くないためにお忍びで身分を隠して来る貴族もそこそこ多い。

 また治安の良い地域と悪い地域の落差が激しい都市でもあるため、商人や立場のある者、金の有る者は護衛として傭兵や冒険者を雇う事が推奨される場所でもある。


 そんな都市を裏から支配しているとされているのが、ロッキオファミリーと呼ばれるならず者達の集団であった。

 この集団をより分かりやすく言うならば、ヤクザやギャングといった非合法な事に手を染める反社会的組織に似ているだろう。

 傭兵稼業に娼館、酒場に賭場を中心に最近は薬物や違法な品物の密輸入等も受け持っているとされている反社会的な組織であり、その勢力は年を経るごとに強まっている。

 また近年に目に見えて勢力を伸ばしているにもかかわらずその勢いが弱まらないのは貴族達の弱みを握っているためであり、治安を乱す者達の動きを止めるストッパーであるはずの騎士団もロッキオファミリーに対してはうまく機能していないのが現状だ。


 そんな都市アルメロスの中心地よりやや外れた場所、アルメロス内での一等地に近いその場所のそれも地下の深くに位置する所に対して、風雅は注意深く意識を集中させていた。



「リラも所定の位置に居ますね」



 風雅の呟いたリラとは、四天王の一人の名前である。

 現状、四天王として広く認知されている存在は「暴竜」ドラギオン、「死毒」メディスン、「狂人」マントンの三人であり、残った一人であるリラの名前は世間では知られていない。

 ()()リラはその在り方から「間諜」の二つ名が与えられる場合もあったようだが、今ここでは関係の無い事である。


 しかし、それは当然の話である。

 リラは表舞台では目立った行動を殆どせず、何かを行う際は何人もの人を介して間接的に行うばかりかその痕跡もおおよそ残さないと非常に徹底しているため、その実態を掴むのはまさしく難行なのだ。

 冒険者や騎士団の一部の頭の切れる者の中には単独で居場所に辿り着いた者も居たようだが、その誰もが帰ってきていない事もまたリラに関する情報が乏しい理由の一つだろう。


 故に四天王という名から名の明かされた三人以外にももう一人以上いるだろうと騎士団の手によって捜索はされているものの、フォージス王国内では居場所はおろか未だ名前すら判明していない存在のはずなのだ。


 風雅は勇者安井康生と四天王リラに関する情報の整理を終えると、早々に広場を立ち去った。




                  ∞


 -Tips-


・勇者召喚の儀

 この国の国教である白聖教における主神である女神ユイより(もたら)されたとされる儀式。

 聖剣や神託、福音と並んで白聖教における女神ユイの力を示すものの一つであり、その存在と加護を裏付けるものの一つでもある。


 この儀式は、異界より聖剣を十全に扱い得る勇者を呼び出すものである。

 人類に未曽有の危機が迫った時に、その戦力として女神ユイの使徒たる勇者を遣わすために女神ユイが王族の祖先に授けたとされるものである。

 早い話が異世界召喚の事である。


 この度は、魔王の復活を目論む四天王への戦力の召喚として行われるに至った


                  ∞




「では、よろしくお願いします」


「……おう」



 風雅は宿屋の主人であるパルエンの、無愛想な返事を受けて外へと向かう。


 風雅は四天王の一人に召喚された勇者、そしてその敵である四天王の確認を終えると一室部屋を取った。

 宿屋の名前は「パルエンの宿屋」。冒険者や旅の者御用達の木賃宿と呼ばれるものの一つで、宿屋の主人とその奥さんに幾人かの従業員で経営している宿屋である。

 比較的安価でありながら悪くないサービスが売りであり、また流通の要であるボロスにある事から常に一定数の宿泊客がおり、金をしっかり払えば誰であれ人を選ぶことなく問題なく泊まれるという主人の方針もあって評判は決して悪くない。

 しかしその利便性故に一部脛に傷を持つ者も利用する事も多いため、上記の好条件の割に人は少なめである。


 風雅はその宿で一週間程の期間の料金を払って要件が済み次第戻ると宿屋の主人に伝えると、早速借り受けた部屋へと入って鍵を掛けた。

 時刻は午後一時程。日も高くなった頃合いで、多くの人が昼食を取っている時間帯。

 しかし風雅は昼食も取らず、部屋の中央にてうろうろと歩きながら何か考え事を始めていた。



「さて……予定では明日に終わり、最低でも明け方までは時間を作らなくてはいけません。危ないですから」



 風雅は壁を見つめながら誰に伝える事もない程に小さな声で呟くと、少し考えるように顎に右手を当てる。

 顎の先を少し親指の腹で撫でた後、風雅はゆっくりと目を閉じた。



「過程や順序、及びその際の時間は自由に組んでも関係はありませんし……ただ、早まっているのが問題です」



 目を開けた風雅は青色に変えた自身の髪をかき上げ、少しだけ渋い顔をする。

 思考の整理のためとはいえ、自分以外誰も居ない部屋の真ん中でブツブツと喋る様は誰から見ても異様であった。

 しかしこの自身のやるべき事をまとめる時間は、風雅にとっては非常に大事な時間であった。


 そのまま風雅は部屋にある窓へと歩み寄り、音を立てないように小さく窓を開けた。

 開けた窓の先からは宿前の道とその近辺の様子、街中で生活を営む市民の姿を覗く事が出来た。



「……とはいえ、先ずは四天王の排除が先ですね。(かなめ)たるマントンは最後に回せばいいわけですし」



 風雅はそう言うと窓を閉じて離れ、部屋に備え付けてあるベッドに腰を掛けた。

 そして自身の顔の前で両手を祈るように握り合わせた。


 すると合わせた両手の隙間から青く弱い光が漏れ始め、しばらくして光が収まり始めたと同時に風雅は両の手を開く。

 開いた手のひらの中からは、青い立方体をした淡い光を放つ物体が浮かび上がった。

 宙へと浮いたその立方体は、しばらく風雅の周りをゆっくりとした速度で飛んでいた。

 立方体は滑らかに高さを変えながら風雅の周りを数周した後、不意にベッドから少し離れた空中でその動きを停止した。


 その後立方体から滲み出るようにして、立方体の周囲により強い光がゆっくりと広がり始める。そうして滲み出た光は次第に形を変えていき、最終的には風雅と寸分狂わない程にそっくりな姿形となった。

 形が安定すると光は身体のパーツごとに色を変えていき、最終的には見た目も大きさも風雅そのものと呼べる程になってしまった。立体映像さながらのその見た目は遠目ならば言わずもがな、ある程度近くに寄って見ても本人とは区別がつかない程の出来であった。


 風雅は自身とよく似た光で出来たそれの周りをゆっくりと一周し、全体をしっかりと確認するように眺めた後で小さく頷いた。



「これならば恐らく三日は大丈夫でしょう。では準備は万端ですし、最初はリラと行きましょうか。……《転移(テレポート)》」



 風雅が納得したようにそう言うのと同時に、風雅の姿は宿の一室から掻き消えていた。




                  ∞


 -Tips-


・詠唱

 魔術を発動するプロセスの一つとされているもの。

 本来術の発動は魔力量と適性にイメージと個人の練度が重要であり、この詠唱はそのイメージを補助するもの。

 詠唱はイメージを無意識下で維持してくれる役目もあるため、詠唱を確立しておけば殆どの場合唱えるだけで使う事が出来る。

 故に人によって殆ど或いは全く同じ種類同じ効果の魔術でも、詠唱が違ったり、或いは詠唱そのものが無かったりする。

 これは人によって術に対するイメージや意識の割き方が異なるためであり、またイメージを確固たるものにしていれば、高度な技術にはなるが無詠唱で魔術を使用する事も出来るのだ。


 魔術とは様々な思想や哲学、概念を学ぶ学問であると同時に、センスが重要視される芸術でもあるのだ。


                  ∞




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