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X回目のイセカイテンセイ 第023話 起床

眠っている女性。

事案です。


それではどうぞ。


 四角い、真っ白い部屋。

 最初に死んで、初めて来たこの部屋。

 あるのは全方位を囲む白い壁と、私の目の前にある壁のど真ん中に立つ古びた柱時計。


 その古い柱時計を背に、女神は私にこう言った。



「あんたはこれから辛く苦しい事に巻き込まれる」


「死んでも繰り返す。他ならない、私の手によって」


「でも手間だしあんまり無下に扱わないでね。あんたの命はもう、あんただけの物じゃなくなったんだから」



 女神は顔を顰めつつ、私の顔をじっと見つめてそう吐き捨てた。

 ああ、これが始まりだった。




                  ∞




「んぅ……ん?」



 私が目覚めると、目の前に広がっていたのは知らない天井だった。

 どうやらいつの間にか寝ていたようで、寝たまま周囲を軽く見渡すとここは物の乏しい部屋だという事が分かる。

 見える範囲ではフローリングの床に簡素な机と椅子にベッドの上にある窓、後はベッドからそこそこ広い空間を挟んで向かいにあるドアぐらいしか見えない。

 天井には電気を使用するであろう近代的な照明がある。

 照明は今は消えており、天井から下がっている紐のスイッチを下げればすぐにでも点きそうだ。

 そして私が寝かされていたのは白い清潔なシーツの敷かれたベッドであり、ご丁寧に首元まで布団が掛けられていた。



「……? ……っ!? えっ!? ここどこ!?」



 寝起きでぼんやりとした頭でしばし消えている照明を見つめていたが、自分がどうしてここに居るのかを考え始めると急激に脳が覚醒した。

 起き上がって身体を確認するが、異常はない。

 それどころか服についていた泥や血の汚れ、それから擦り傷や打ち身といった小さな傷も綺麗さっぱり無くなっていた。

 いつもと違う。赤い化け物に追われていないし、こんな家知らないし、寝かせられるなんてのも初めてだ。


 そうだ、今までの繰り返しと異なる結果だ。なんでか知らないが、いつもならいない誰かが助けてくれてそして気絶して……



「……って事は?」



 状況を整理していくと、寝かせてくれた人物に心当たりがあった。

 現状考えられるのは私をあの化け物から助けてくれた、鎧の男とおっさんの二人のどちらかしかありえない。多分、鎧を着ていた方だろう。

 そこまで思い至り、少しだけ安堵する。


 部屋内に私以外の人影は無いから、外に居るのだろう。

 一度詳しい話を聞いてみたいところだ。



「にしても、ここはさっきの森の近く? 原住民だとするなら、随分近代的な家のような気がするけど」



 部屋を軽く見渡して、そんな事を独り言ちる。

 物が乏しい事を除けば綺麗で(ほこり)も無く、また部屋そのものもしっかりとした構造のように見える。

 建築に関する知識は無いが、複数種類の建材やその組み合わせから何らかの体系化された建築方法をもって造ったようにしか見えない。


 そういえば化け物に襲われた場に居た二人の内、草臥れたおっさんの方は割と近代的な服装をしていたような気がする。

 意外と高度な文化を持った人達なのか、それとも私が知らないだけである程度大きな国か都市でも近くにあったのだろうか。

 だとするならかなりありがたいが。



「……部屋から出ようかな。近くに居るかもしれないし」



 私がそう思ってベッドの外を見やる。

 すると、ベッドの脇にスリッパが向きを揃えて置かれていた。


 やはりあの二人は話の通じない蛮族などではないのだろう。

 人に気を遣うとかもてなすような文化の影が見えているし、スリッパ自体も近現代で通用しそうなデザインと材質のように見える。

 ある程度の知性と話の通じそうな相手の予感に、私は思わず少し嬉しくなってしまう。



「とりあえず、出入口はアレだよね」



 私はそのスリッパを履くと、ゆっくりとドアへ向かって歩いていった。


 部屋を出るとここはどうやらどこかの一軒家で、少なくとも自分の居る場所は二階以上の場所だと分かる。

 部屋を出てすぐの廊下の窓からは割と近い地面が見える事から、二階だとは思う。

 廊下を渡り終えた先には下り階段があり、上り階段は無かった。




「……はぇー……すっげぇ……」


「本当に……」



 耳を澄ませると、階下より人の話し声が聞こえてくる。

 私にはその声に聞き覚えがあった。間違いない、自分を助けてくれた鎧の男とおっさんの声だ。

 私の居る階に人の気配はなく、恐らく下にしか人は居ないのだろう。


 そう思うと、私は階段をゆっくりと下りていった。



「……変えられる……? 痛く……?」


「はい……ようは……」


「おいおい……とっかえひっかえ……」


「……くださいよ、……」



 階段を下りると、より声がはっきりと聞こえてくる。

 それに加えて、もう一人別の人の声が混じっている事の気付く。

 鎧の男ともおっさんとも違う、第三者の声。聞き覚えの無いその声も男のものであったが、他二人と比べて些か声が小さく聞き取り辛い。


 階段を下りた私は、声を頼りに進んでいく。

 フローリングの床に沿って進むと、日本人にとって慣れ親しんだイグサ特有の匂いのする部屋に出た。

 どうやらこの部屋は、床が畳の和室になっているようだ。

 ……畳? なんで畳があるんだ?



「しっかし、すげぇな。俺も使えるか、それ?」


「そうですね。慣れれば誰でも出来る事かと思います。私が出来たのですから……おや?」



 畳のある部屋から覗くと、部屋の向こうにダイニングテーブルの席に座る三人の人の姿が見える。

 話はそこから聞こえてきていた。


 畳のある部屋から覗く私に、その内の一人が気付いてこちらへと呼びかけてくる。

 まるでアニメから飛び出してきたかのような、鮮やかな緑の髪に緑の目を持つ顔立ちの整った男。

 その男こそ、鎧の男でもおっさんでもない小さな声の持ち主だった。



「目が覚めたようですね。お身体の具合はいかがですか?」


「あん? ……おお、起きたか」


「えっ? あっ! 目が覚めたんですね!」



 男の声を皮切りに、残りの二人がこちらを向く。

 片方は見覚えがある。草臥れた服装の小柄なおっさんだ。

 もう一人は見た目は初めて見たものだったが、声に聞き覚えのある男だった。

 暖かそうな服装をした、黒髪で眼鏡を掛けた太っている男だった。

 恐らくこの男が赤い人型を吹っ飛ばした鎧の男なのだろう。



「あ、はい。えっと、先程までベッドをお借りしていました。ありがとうございます」


「気分が優れないようでしたら、もうしばらく横になっていてもよろしいんですよ?」


「いえ、あの、ありがとうございます」



 緑髪の男はこちらへと優しく微笑む。

 イケメンってどんな仕草でもさまになるんだな、等と思いながら返事をする。


 さて、助けてもらった事は例を言うべきだがそれとは別に聞かなくてはいけない事もある。



「助けてもらって、ありがとうございます。もう少しで危うく死ぬところでした」


「いえ、お礼ならどうぞ森さんと薬山さんへ。私は大した事はしていませんから」


「あ、はい。ありがとうございました、森さんと薬山さん?」


「いえいえ、お礼なんてそんな、人として当然の事をしたまでですから……」


「……ハッ、礼はいらねぇよ」



 私は森と薬山と呼ばれた二人へそれぞれ頭を下げる。

 森と呼ばれた太った男はやや照れたように謙遜し、薬山と呼ばれたおっさんは面白くなさそうな顔で鼻で笑う。

 ……私やっぱりこのおっさん苦手だ。



「それで、貴方は……?」


「……申し遅れました、草壁風雅といいます。そして改めてこちらは森草太さん、こちらは薬山鎌作さんです。以後お見知りおきを」


「私は柏葉唯といいます。よろしくお願いします」



 緑髪の男、風雅は席から立ち上がると小さく礼をし、それに続くように残りの二人もこちらに小さく会釈をする。

 草壁風雅さんに森草太さん、薬山鎌作さんか。よし、覚えた。

 とりあえず今回の繰り返しの中で、味方らしき人物がいるという情報はかなりの収穫だ。

 それも襲われたところの割と近くに居たというのがありがたい。

 次回以降は困った時に頼ってみよう。

 というか、あの化け物に襲われる事になったら真っ先に助けてもらおう。

 私一人じゃどうしようもないし。


 にしても風雅さんに草太さん、鎌作さんか……。

 気のせいじゃないよな、うん。

 明らかに日本人の名前だし、畳のある部屋もあったし。

 異世界の住人がたまたまそういう名前という可能性も否定出来ないし、なんなら過去に私と同じように来た日本人の血を受け継いでいるとか。

 日本人の祖先を持っててそういう名前付けが流行っている可能性も否定は出来ないけど、ひょっとすると私と同じ立場の者である可能性も有る。



「あの、いくつか伺いたい事があるんですけど……」


「ああ、成程。でしたら立って話すのはお辛いでしょうし、どうぞ空いている席にお座りください」



 風雅に言われるまま、私は風雅の隣の席へと腰を下ろした。

 座って一度三人の顔を見渡した後、私は小さく咳払いをして尋ねた。



「えっと、皆さんお聞きしたいんですけど、皆さんは日本からこの訳の分からない世界に来た人なんですか?」



 私が三人へ質問を投げかけると、三人は互いに目配せをしあった後に風雅さんが答えた。



「はい、その通りです。私達は日本からここに来ました」


「どうやって来ましたか? いつからここに? ここは何処なんですか? あの化け物は一体何なんですか?」


「おいおい、そんな矢継ぎ早に聞かれても全部答えらんねぇよ。聖徳太子じゃあるまいしよ」



 私が質問を重ねると、鎌作さんが口を挟んでくる。


 む、確かに質問が多いのは自覚しているけど、今は風雅さんと話しているんだが?

 外野のおっさんは少し黙っていてもらえないだろうか。



「大事な事なんです」


「お前にとっちゃな? でもよ、こういう時は普通自分の事情から説明するもんじゃねぇか? なんであんな化け物に襲われてたか、とかな」


「……今、私は草壁さんとお話してるんですけど」


「おう、だからなんだ? 忖度しろってか? ん?」



 確かに鎌作さんの言葉も一理ある。


 まあ、後で自分の事情は説明しようと思っていたし。

 けど、なんなんだこのおっさん。

 一々突っかかってこないでほしい。

 話す時は順番に、って学校で習わなかったのか?


 内心そんな風に思いつつ私と鎌作さんが火花を散らせていると、草太さんが割って入る。



「薬山さん、なんでそんな喧嘩腰なんですか。柏葉さんもあんな事があったばかりで、きっと凄く不安なんだと思いますよ。少しは思い遣りを持ちましょうよ」


「けっ、優等生かよ」


「すみません、柏葉さん。どうぞお話を続けて下さい」



 草太さんはそう言って話の続きを促す。


 草太さん、顔はブ……良くはないしデ……太ってもいるが、気遣いの出来る人のようだ。

 話していて安心出来る。

 おっさんも、草太さんの爪の垢を煎じて飲むがいいよ。ちょっと脂っぽそうだけど。



「えっと……どこまで話しましたっけ?」


「順番に、ここに来た方法とここに居る期間、そして地名を尋ねられたように思います。記憶違いなら申し訳ありません」


「いえいえ……じゃあ、順番に教えていただけませんか?」



 私が尋ねると、風雅さんはこれ以上なく簡潔に教えてくれた。



「ここに来た方法に関しましては転移かと思われます。ここに居た期間に関しては本当についさっき来たばかりでして。それで、地名に関しましては……」


「あ、やっぱいいです。ごめんなさい」



 風雅さんの返答に、私は途中で答えを遮った。

 ここに来たばかりの人がここがどこかなんて知るわけがない。

 という事は、この人達も私と同じくよく分からない異世界の転移だか転生だかに巻き込まれた可能性がある。

 しかし、そんな中でこんな家を造り上げるなんて一体どうやって……ああ、異世界物にありがちな話だがこっちの世界に来た際に貰えるとかいう特典でもあるのだろうか?

 或いは魔術とか、その他超常的な力の類か?

 うーむ、分からん。



「じゃあ、詳しくは知らないですよね。失礼しました」


「……分かりました」


「それで、その、えっと……」



 風雅さんの顔をちらりと覗く。

 眉をやや八の字に寄せ、困惑したような顔で風雅は私を見る。


 ……さて、本題はここからだ。

 先ずは私の抱える()()について、そして後は出来れば追い出されたくはない。

 外は厳しく危険だろうし、赤い化け物のような存在が他にもいないとは限らない。

 私が出来る事は何でも手伝うつもりだし、なんとかこの家に置いておいてもらえないだろうか。



「こちらへの質問は以上ですか?」


「え? えーっと、はい、今のところは」


「承知しました。また疑問が浮かびましたらいつでもお声掛けください」


「は、はい」



 さて、なんて切り出したものか……。

記憶喪失の女性を助けて、思い出した女性に切り捨てられる。

そんな話をどこかで見たような気がします。

来月は8日、23日に投稿を予定しております。


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