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X回目のイセカイテンセイ 第022話 権能

眠った女性を持ち帰る男性三人。

事案です。


それではどうぞ。


 緩やかな傾斜のある、川の(ほとり)

 森の近くの、辺りに草原が広がるその土地に二階建ての一軒家が建っていた。

 木材と石材を中心に用いられたその家は、洋風の大きな家だった。



「すっげぇ……。錬金術ってこんな簡単に家が建つのか」


「確かに凄いですね……」


「私の転生先の建築工法や設計をコピーしただけです。内装は少し自由にさせてもらいましたが元々は有名な建築士の方が造られたものですし、ここは土地もしっかりしているので大丈夫なはずですよ」


「耐震性とか考えてあんのか?」


「現代日本の建築技術は知り得ませんでしたし、地震に関しては日本じゃないですから問題ないですよ。この辺りは地震も殆ど起きませんし……現代日本の家屋よりは耐震性が低いとは思いますが」


「……それ信憑性のある情報かぁ?」


「一応、私はこの世界の管理者ですよ。……基礎も家屋自体も魔術による強化がしてありますから見た目よりも結構頑丈でしなやかですよ」



 ひとしきり話すと、風雅が先頭に立って玄関を開ける。

 広い玄関の前には階段があり、その奥には更にいくつかの部屋が見えた。

 中は複数人、具体的には五、六人の人が余裕で住めそうな空間の広さがあった。二階の部屋も含めれば、詰めれば最大十人は宿泊可能な程だった。



「うわぁ……広いですね。それに、新築特有の臭いが……しない?」


「あくまでコピーですから。必要最低限の家具は揃えましたし、二階には四部屋の空き部屋があります。どの部屋にもベッドを備え付けておきましたから、好きな場所に柏葉さんを寝かせてあげて下さい」


「あ、すみません。では早速……」



 草太は唯を背負ったまま、階段を駆け上がっていく。

 風雅と鎌作はそれを見送ると、互いに顔を見合わせた。



「左手がリビング、その奥がダイニングキッチンです。階段下にはトイレとお風呂で一応別にはしてあります。後はその奥が物置で……」


「おう、お宅訪問じゃねぇんだ。適当な部屋に案内してくれよ」


「ではすぐですし、左手のリビングか和室にでも」


「んじゃあ和室だな。いい加減腰下ろしてぇしな」



 風雅に案内され、鎌作はリビング横の和室に来た。

 洋風の建物に似つかわしくない畳の敷かれた部屋で、風雅一行が全員ごろ寝しても余裕がある広さに加えて中央にはちゃぶ台があり、部屋の隅には積み上げられた座布団とそのすぐ近くに押入れがあった。



「どっこいせっと……んじゃあ、本題は森が戻ってきてからにすっか」


「そうですね」


「しっかし、錬金術ってすげぇな。こう、漫画みてぇに両手パンッてすんのかと思ってたけどよ、家ぐらい建てちまえるんだなぁ?」


「……その漫画は存じ上げませんが、私の知っている錬金術とは違いますね。私からすれば権能の使い方の方に驚きました。まさか姿形が変わるとは……」



 風雅の頭に浮かんでいたのは、唯を救出した際の二人の変化だった。

 草太は丸っこい印象の暗い橄欖石の色をした鎧のような、鎌作はどこぞのアメコミにでも出てきそうな黒コートに身を包んだ緑色の炎を噴き出す骸骨のような姿。

 明らかに元の容貌とはかけ離れているその姿は権能に由来する変化だと、風雅は道中で草太と鎌作に聞いたのだ。


 風雅の持ちだした話題に興味を持ったのか、鎌作はちゃぶ台に肘をつきニヤニヤ笑う。



「権能使ってねぇのか? 便利だぜ? まさしくチートってな感じでな。フードさんに使えるようにしてもらってから、俺はずっと使ってんな」


「魔術はよく使用していましたが、権能の方はあまり……」


「あー、あるある。魔術ね。権能は魔力使わない魔術みたいなもんだと思っとけばいい。結構使いやすいしリソースも考えなくてもいいんだが、なんだ? 縛りプレイでもしていたのか?」



 鎌作は少しだけ不思議そうに風雅を見つめる。

 鎌作の視線を受けて風雅は難しそうな顔をした。


 権能はそれを持つ者にとって非常に便利かつ強力なツールであり、それは異世界だろうと異世界に来た者達の元居た世界だろうと、場所が変わってもその有用性と優位性は変わらない。

 鎌作にとって便利なものは使う事が当たり前であり、使用に際し基本的な使い方やその応用や工夫こそすれど使わない事はあまり無い。

 だからこそ、風雅が態々権能を使わない理由が思いつかなかったのだ。



「……意図的に使わないようにしていましたので。ご教授いただけるのでしたら、是非お願いしたいです」


「堅ぇっての。俺らが聞いた説明じゃ、姿形が変わるのは権能の使用に適した形になるってだけらしい。出力が大きく変わるわけじゃねぇが、なんかこう権能使う時の引っ掛かりみたいなんが無くなる」


「そう、なのですか?」


「おう。変わった姿はそいつの権能やら魂やらを表してるらしいから、双子でも全く同じ見た目ってのにはならないらしいぜ。お前も権能使っていけば何となく感覚で分かるはずだ」


「成程、ありがとうございます。ではまた時間の許す限り訓練してみる事にします」



 風雅はそう言うと、自分の手のひらを見つめてぐっと握り込む。


 風雅が持つ権能は二つ。

 己が身に宿る、フードの手により使用可能となった「停滞」の権能。

 そしてフードより特典として与えられた「存在」の権能。


 風雅はふと、鎌作もフードと接触したのならば自身と同じように権能を複数使用出来るのではと考え鎌作へと再び話しかけた。



「唐突で恐縮なのですが、鎌作さんの使用していた権能は何という権能でしょうか? ひょっとしてフードさんから頂いた方の権能なのでしょうか?」


「頂いた方? ……あー、お前も一緒か? てっきり俺だけかと思ってたし、争いの種になると思って黙ってたんだが。お前も自分の権能とは別に『存在』を貰ったのか」


「はい。そちらとは違うのですか?」



 鎌作は自分だけがもう一つ権能を貰ったと思い、その情報を隠していたようだ。

 しかし風雅の質問からどうやら違うと理解し、鎌作はバツが悪そうに頭を掻いた。


 風雅からの質問、使用していた権能は「存在」なのか。

 その返答をする際、鎌作は少し言いにくそうに顔を顰めていた。



「違ぇよ。使ってたのは元々持っていた方だ。……俺の権能は『嫉妬』の権能っていうらしい」


「嫉妬、ですか……」


「ああ。フードさん曰く『自分を認め、相手を認め、その上で相手を否定する』権能、らしい。……まあ、ぶっちゃけあんま関係ないみたいだけどな。炎とか出せるし」


「確かに、緑色の炎を出されていましたね」



 風雅は唯に襲い掛かった赤い化け物を燃やし尽くした、鎌作の放った緑の炎を思い浮かべる。

 先ほど鎌作の話した権能の詳細と炎という現象、一見すると関連性は無いに等しい。



「まあ、権能は大体何でも出来るって話だからな。人によって得意不得意とか向き不向きはあっても、文字通り何でも出来るんだろうよ」


「……難しいですね」


「気楽に捉えろよ。やれる事から伸ばしてけばいい」



 鎌作はそう言ってさっさと話しを切り上げ、後ろに手を付く。

 それとほぼ同時に、二階から降りてきた草太が風雅と鎌作の二人の居る和室へとやって来た。



「お待たせしました」


「おう、遅かったじゃねぇか。二階でお楽しみだったかぁ?」


「……何を想像してるか知りませんけど、柏葉さんには何もしていませんよ」


「本当かぁ? 口では言えないような事でも……」


「いい加減怒りますよ」



 鎌作の勘繰りに対し、呆れたように溜め息を吐く草太。

 ちゃぶ台を囲うように、草太は空いていたスペースへと腰を下ろす。

 正座で座る草太を見て、さてと鎌作は切り出した。



「さて、と。んじゃあ森も来たところで話してもらうぜ? あの柏葉って嬢ちゃんの事をな?」


「そうですね。ではどこから話したものか……」



 風雅は少し難しそうな顔をして考え込んだ後、掻い摘んで唯と自分の関係性の話を始めた。




                  ∞


 -Tips-


・嫉妬

 自分より優れた存在に対して抱く、羨んだり妬む気持ち。

 権能としてはもう少し異なった意味を持つ。


 嫉妬とは、自身の状態や境遇を正しく把握したうえで相手と比較し、その上で生じる理不尽な感情である。

 少なくとも、自身の出来る出来ない程度は把握していないと起こり得ないものだ。

 そんな嫉妬の権能は、よく出る形としては自身へのバフ、相手へのデバフが主である。


 権能とは本来万能であり、どの権能でもその世界において人類が思い描く大抵の事は実現出来る。

 故に権能を分ける意味合いはその効果には無く、影響度程度のものである。

 影響度とはその権能の優先順位や大雑把な威力のようなものの総称で、これが大きいほど強い権能という事になる。

 しかし■■■■■■でもない者が使用すると権能そのものは万能であっても、使う場や使用者によって制限が掛けられているため権能がその権能の特徴や使用者のイメージ等に引っ張られ、疑似的に限定的なものと成ってしまう事が多い。


 故に「燃えるような激情」等の感情のイメージから、嫉妬の権能で炎を出せるようになる事も不思議ではない。

 本来は、大抵の事は出来るのだから。


                  ∞




「……んじゃ、整理するぞ。間違ってたら言えよ?」


「はい、分かりました」


「あーその柏葉って嬢ちゃんは草壁の転生先の、管理者だったと」


「はい、間違いありません」


「んで溜まりに溜まったヘマから追放、からの草壁に管理者交代。そっからは俺らの知ってる通りで引き継いだ世界に今度は人間として嬢ちゃんは転生していた、と」


「はい、その理解で合っています」



 風雅は説明を終えて、鎌作と認識の擦り合わせを行っていた。

 しかし説明の際、風雅は嘘は吐かなかったが言っていない事があった。

 その一つが柏葉が風雅に行った所業についてだ。


 柏葉のフードに対するある種偏執的な恨みから来る八つ当たり染みた世界の設定の変更、そしてそれに巻き込まれた風雅の不条理な苦痛の数々、そしてそれを乗り越えようと膨大な数繰り返した努力とその(ことごと)くの敗北等、風雅自身の異世界転生に関する内容は一切口には出さなかった。

 当然かつて風雅が異世界転生した先の世界が風雅の元居た世界を作り変えたものである事、元居た世界の時から管理者が柏葉であった事、そして元居た世界で過去に受けた所業についても風雅は話さなかった。


 理由として風雅は折角保護した柏葉の印象を悪くする必要は無いと考えていたからであり、故に風雅にとっては至極当然の行いであった。

 あくまで伝えたのは転生先の異世界の管理者であった事と風雅自身との交代の件、そして引き継いだ世界に転生していたという事だけである。



「ってすると、こっち来る前にフードさんがやろうとした事ってのはなんだ? ほら、お前が説得して止めてたやつ」


「……多分、この世界から柏葉さんを消そうとしたのではないかと思います。フードさんは柏葉さんの事を好ましく思っていないようでしたから」


「はぁ~。んじゃあ、ひょっとするとあの嬢ちゃんって結構厄介な案件だったってわけか?」


「難しいところですが、柏葉さんに関しては世界の管理と同様に私に一任してもらいましたので余程の事が無い限りは問題ないかと思われます」


「マジで何やらかしたんだ、あの嬢ちゃん。あーくわばらくわばら」



 鎌作は厄介事はごめんと言わんばかりに心底面倒臭そうに目を伏せ、首を横に振る。


 一度話が切れたタイミングで、それまで風雅と鎌作の話を黙って聞いていた草太が風雅へおずおずといった様子で尋ねる。



「あ、あの、ではその……柏葉さんは、どうされるつもりなんですか?」


「あ、それ俺も気になるわ。この後どうすんだ?」



 草太と鎌作の視線を受けて、風雅は少し考えこんだ。

 答えは変わらないが、その伝え方を工夫するためだ。


 とはいえ、今回のそれは結論も過程も内容が単純故に長くなりようがなかった。

 それに気づいた風雅は、すぐに二人へと返答する。



「……現状何も問題が無いようでしたら、柏葉さんは保護するつもりですが」


「! そ、そうですか! なら良かったです」


「まあ、そうなるわな。子供放り出して死なれでもしたら寝覚め悪ぃし、何も無けりゃ反対はしねぇ」



 草太は嬉々として、鎌作は渋々といった様子で風雅の意見に賛成する。

 風雅は草太と鎌作の二人の様子を見て、言葉を続けた。



「部屋は沢山ありますし……それに屋根裏にある魔力タンクを用いて電気等も使えるようにしてあるので、四人が暮らす分には問題無いと思います」


「マジでか? なんで電力引いてないのにコンセントとかあるんだって思ってたが、マジで使えるのかこれ? インテリアとかじゃないのか?」


「限度はあります。まあ、その都度魔力タンクへ魔力の補充を行えば良いだけです。補充は私が行いますから、普通に使う分には切れる事はまずないと思います。また食料や水に関しても錬金術である程度はどうにかなります。こちらもまた私が行いますので」


「へぇ~! そりゃ便利な事で! 一家に一台、草壁の時代だな」


「草壁さんは物じゃありませんよ……」



 風雅を揶揄う鎌作に対し、草太は鎌作を窘めた。

 だがしかし風雅は言われた事を気にする様子もなく、二階を見上げた。



「……後は、柏葉さん次第になりますね」




錬金術と言うと、大鍋か、両手を合わせるか、短剣からビームを出すぐらいしか思い浮かびません。

知識不足ですね。

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