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X回目のイセカイテンセイ 第020話 三人

第二章、最初の話です。

本話より、不定期投稿となります。

念のため、悪しからず。


それではどうぞ。



「はい、お待たせ。この二人がこれから君と共に過ごしてもらう子達だよ」



 戻って来たフードは風雅に向け、先程までとはうってかわって穏やかで優しい声で話しかけた。

 フードの言うように、その傍らには二人の人の影があった。


 フードに連れられて来た二人は、どちらも男であった。

 片方は大柄で眼鏡を掛けた若い男で、もう片方はやや老けた背の低い猫背の男だった。



「こっちの方が、(もり)草太(そうた)君。こっちが薬山(くすやま)鎌作(けんさく)君ね。二人と仲良くしてあげてね」


「あ、はい。ご紹介に与りました、森草太と言います。草壁風雅さん、ですね? よろしくお願いします」


「これはご丁寧に。こちらこそよろしくお願いします」



 フードの紹介を受けてまず真っ先に話しかけてきたのは大柄な男、森草太だった。


 見た目は風雅を細長いオタクとするならば縦にも横にも大きい質量のあるオタクという風体で、ベージュの毛糸の帽子に茶色のセーターそしてジーンズという暖かそうな格好をしており、丸い顔に掛かった眼鏡の奥の瞳には優しい光が宿っていた。

 挨拶を済ませると草太は帽子を取って風雅に近付き、笑顔で握手を求めて風雅に手を差し出した。

 風雅も応じない理由等特に無いため、差し出された草太の大きな手を握り返した。



「おう、俺が鎌作だ。しっかし、男ばっかでムサいなぁ。可愛い姉ちゃんとか居ないのか?」


「どうも、薬山さん。私は草壁風雅と申します。どうぞよろしくお願いします」


「お堅ぇなぁ。ま、見たところ俺が一番年長っぽいしな。よろしく」



 もう一人の背の低い男、薬山鎌作は軽く手を挙げて挨拶するに留まった。


 見た目は安物のカーキ色のジャンパーに無地の黒いティーシャツ、そしてヨレた茶色のズボンを着用しており、色としての派手さはなく普段着のままこちらに来たような印象を周囲に与えた。

 フードと風雅に草太を含めた中で一番背が低く、おまけに猫背でその背は更に小さく見えた。

 人相の悪いその顔は無精髭を生やし疲れたような目をしており、見た目と相まって草臥れた中年男といった表現がぴったりはまるような人物だった。



「んじゃあ、風雅君は進む世界を決めて草太君と鎌作君と仲を深めてね? 進む世界は相談して決めても良いから。それに、これは管理者たる風雅君のチュートリアルでもあるんだから」


「はい、ありがとうございます」



 風雅がフードに礼を言う。


 しかし互いに知らない男三人。

 挨拶くらいは交わせるものの、切っ掛けでもなければ誰も口を開かない。

 故に会話が始まらない。

 フード立ち合いの元に行われた紹介の後には、三人の間にしばし静寂が訪れた。


 互いに向き合うように円形に並んでいる、全体的に細長い草壁風雅に全体的に大きく丸い印象を与える森草太、そして背の低い草臥れた中年の薬山鎌作。

 三者三様の異なる容姿に、初対面という事も相まって互いに緊張しきっていた。



「え、えっと、そのぉ……」



 時間にすれば僅か数秒程度。

 しかし、思いの外重かった静寂の空気を破ったのは草太だった。



「一応、その、フードさんには草壁さんと仲良くしてほしいという事と、しばらくは草壁さんと行動を共にしてほしいとしか言われていなくてですね、えっと……」


「ああ、そうでしたか。それは失礼しました。私から事情を説明すべきですね」


「おう、頼むぜ」



 風雅はそうして草太と鎌作に簡単に事情を説明した。


 自分がある世界の管理者となる事、その上で管理する世界でしばし草太と鎌作と共に過ごすという事を説明した。

 その説明を受けて草太は嬉しそうにうんうんと頷き、鎌作は対照的につまらなそうな顔をした。



「はぁ……男三人、知らぬ土地でぶらり旅ってか。どこまでも華が無ぇよ、華が」


「で、でも僕は良いと思います。ここで会ったのも何かの縁ですし、互いに親睦を深め合いましょうよ!」


「可愛い姉ちゃんがそう言うならしっぽりすんのも吝かじゃねぇけどよ、男三人とか虚無だぜ虚無。せめて紅一点欲しいだろ?」


「そ、そんなぁ……」



 だが、と鎌作は続けた。



「フードさんの言う事なら、まあしょうがねぇな。俺も一肌脱ぐぜ」


「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」


「堅ぇっての。んじゃま、今後の予定をまとめてこうや。なぁ、森に草壁だっけか?」



 鎌作は馴れ馴れしく、二人を呼び捨てにする。

 それに対し草太は少し顔を引き攣らせた。



「い、いきなり呼び捨てですか……」


「おうよ、これから寝食共にする運命共同体だろ? 俺の事も名前でも苗字でも、好きに呼びゃいいんだぜ?」


「では薬山さんと……草壁さんはこの呼び方のままでよろしいですか?」


「……構いませんし、変えていただいても問題ありません。しかし私はあくまでゲストを迎え入れるホスト側なので、森さんに薬山さん、と呼ばせていただきます」


「堅ぇっての……。お前の心は大理石かなんかかよ」



 鎌作がそう吐き捨てた時に、フードは両の手をパンッと打った。

 その音によって、三人はフードへと注目する。



「はい、問題無さそうね! んじゃあ早速君らの向かう世界の方を……僕の方から決めさせてもらおうかなぁ~!」


「あ、あの、そういうのは草壁さんが決めた方が……」


「いいじゃんいいじゃん! 最初の世界くらい……おや?」



 フードは調子良さげに三人が向かう世界を決めると言い、白い空間に浮かぶ白い球体へと近寄る。

 そしてその球体に手を伸ばし、触れる直前に手を止めると小さく首を傾げた。


 その動作に何か気付いたのか、風雅がフードの元へと近寄る。



「……」


「フードさん、これは……」



 風雅も白い球体へと視線を注ぐ。

 球体を挟んだフードと風雅の様子が気になったのか、草太と鎌作もそこに近寄る。



「なんだ? 何かあんのか?」


「フードさんに草壁さんも、固まってどうしたんですか?」



 フードは近寄って来た風雅含む三人の様子を気にすることなく、小さく溜め息を吐いた。

 それは先程までの高いテンションとはうってかわって、酷く呆れた様子であった。



「はぁ……あの子、何やってんだろ。見逃してやったってのに……」


「……」


「まあ、風雅君の手を煩わせるまでもないね」



 フードはそう言うと、止めていた手を白い球体へ近付ける。

 その手が球体に触れる瞬間、横から風雅がその手を掴んで止めた。


 突然の風雅の行動に、フードは驚いたように素っ頓狂な声を上げた。



「風雅君っ!? な、なんだい!?」


「……フードさん」


「えーっと、な、なんでござんしょ?」


「あの、この件に関しては私に任せていただけないでしょうか」


「……」



 風雅の言葉には、やけに強い心が籠っていた。

 それは、有無を言わせぬ気迫と僅かな戸惑いが含まれていた。


 フードは心配するように少し黙った後、他二人に聞こえないよう小さな声で風雅に囁いた。



「あのね、風雅君。あの子は君を殺そうとしていたんだよ? 会ったら……まあ、ロクな事出来ないだろうけど、不快じゃない?」


「……」


「もう君にそういうのは十分なんだって。ね? だから、ね?」



 フードはあくまで風雅の心配をしている様子で、優しく宥めるようにそう言った。

 しかし、その言葉を受けてもなお風雅はフードの手を離さなかった。



「フードさん。私は、柏葉さんがどうしてこんな事をしているのか知りたいんです」


「権力が忘れられないんじゃない? 権力者って大抵利益と利便性ばっか求めて後先考えない奴らだし、その類でしょ」


「こんな事をしても権力は戻らないかと。それに管理者の席は私がいますし。でも気になるんです」


「風雅君……」


「お願いします。柏葉さんがしている事は越権行為である事は分かっています。でもこのままにしておきたくないんです。最初に向かう世界はここにしますし、最終的には私が解決しますから」



 風雅は、必死に食い下がった。

 理由こそ明確でなかったものの、風雅の琴線に触れる何かがあったのだ。

 必死な様子の風雅を見て、フードは渋々手を引き戻した。



「……あの子は、今やその在り方がルールに反しているんだ。もし君に助けを乞われたらすぐにだって消し飛ばせる。また仮に君が手を下さないならば僕がする。それでもいいのかい?」


「……はい」


「ん、分かった」



 風雅は掴んでいたフードの手を離す。

 フードはそのまま少しずつ下がって三人から離れると、小さく手を振った。



「それじゃあ、後は君に任せる事にするよ。草太君も鎌作君も、僕が居なくても頑張ってね!」


「あ、はい」


「……おう」


「それじゃあ、後は仲良くね! バ~イ!」



 フードはそう言うと、ここに現れた時と同じように唐突に消えた。


 三人がフードを見送った後、風雅の元へと草太と鎌作は近寄った。



「管理者かなんかのゴタゴタか? 穏やかな雰囲気じゃねぇみたいだったが」


「あ、あの……何かあったんですか? 話を聞く程度しか出来ませんが……」



 眉を顰める鎌作と、風雅の様子を伺っている草太。

 言葉は違えど、ある程度の心配を向けている二人に風雅は難しそうな顔を向けた。



「いえ、ご迷惑をおかけしました。それよりも向かう世界を決めましたのでそちらの方へ」


「……言いたくないならいいけどよ」


「いえ、後で説明します。ですが長くなりそうですし、一度雰囲気を変えようかと思いまして」


「あ、はい。分かりました」



 風雅は草太と鎌作の返事を聞いた後、ゆっくりと白い球体へ手を置いた。

 フードに説明した通り、風雅はある世界の設定を適用して世界へと反映させる。

 すると風雅の触れた球体に淡い光が宿り、その光が徐々に強さを増していく。



「あ、あの、僕らもその白い球に触った方がいいんですかね?」


「いえ、そのままでお待ちを」



 しばらくすると、光は三人を呑みこみ隠すほど大きく広がり強くなった。

 そして光はしばし空間を満たした後に、それまでとは逆の順序で徐々に弱まっていった。


 光が完全に収まりきった後には、その白い空間には同じく白い球体がただ一つ浮かんでいるだけだった。




神になっちゃった!

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