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ショートショート12月~3回目

出番

作者: たかさば

 ……私の出番が、いつまで経ってもやって来ない。


 子供の頃は「みなこはさわっちゃだめ!アンタはこれ!」と我儘な姉に支配され。

 学生時代は「生徒のくせに生意気を言うな!」と先生から咎められ。

 思春期は「ザコなんだから大人しくしてなよ」とスクールカーストのトップに嘲笑され。

 ナウでヤングな若者があふれる街に繰り出せば「ガキのくせにしゃしゃり出てくんなよ」と追い払われ。

 社会に出てみれば「まだまだ若いな、常識が足りん!出直せ!」と相手にされず。

 子どもを産んでみれば「母親の自覚が足りないのよ、もういいからあんたは引っ込んでなさい」と呆れられ。

 PTAをやってみれば「今まで先輩方が築き上げてきた風習に従うのが後輩の務めです」と押し切られ。

 町内会では「年長者の決定に若輩者が意見を言うな」と叩かれ。

 旦那には「真実の愛に気がついたから君とは暮らせない」と放り出され。

 子どもには「俺は嫁を選ぶよ」と突き放され。

 気が付けば「ババアが若者の活躍する場に出てくんなよw」とか「うわあ、呟きが全部年寄りくさい…」とか「婆さんのくせに若いふりしようとすんなよ見苦しい」とか「老いたら子に従えっていうだろ?そんなことも理解できないくらいぼけたのかよ」ときた。


 ……いったいいつになったら、私の出番はやってくるのだろう。


 主役として脚光を浴びて、やりたいことがやれて、みんなに持て囃される、恍惚の時間。

 いつかやってくる、自分が主役の時代。


 そのうち自分の言葉が聞き入れてもらえるだろうとタカを括っていたら、あっという間に年をとった。

 そのうち自分の希望が通るだろうと思っていたら、あっという間に何かを望む気力が無くなった。

 そのうち誰かに必要とされる日が来るはずと信じていたら、あっという間に周りに人がいなくなった。


 今さら舞台に立ったところで、出演者も観客もいない、一人芝居だ。

 今では昔を思い出して、たった一人で恨み言をつぶやくばかりだ。


 こんなことなら、出番を待つんじゃなくて、舞台に飛び出せば良かった。

 誰かの活躍を、主張を、振る舞いを、羨ましく思いながら、いつか自分もと指をくわえて待っているんじゃなかった。


 思い切って飛び出していたら、舞台の上で脚光を浴びていたかも知れないのに。


 ……私は、ナニをしてきたんだろう。

 ……あぁ、そうか、ナニもしてこなかったんだ。


 流されるまま、周りに従って。

 周りを優先して、自分を押し止めて。


 ……もう今更、ナニもできない。


 老いたし、一人ぼっちだし、お金もないし、やりたいこともない。


 ……いや、そんなことは、ない。


 思い切って飛び出したら、新しい世界に行ける。


 こんなつまらない世界に、いる必要はない。


 私は、初めて……勇気を出した。



「あ、美奈子さん、危ないよ!!」



 ぎゅうっとシワだらけの手を握られて、ぼきぼきと骨が鳴った。



 痛みを訴えても、聞き入れてもらえない。

 気味の悪い笑顔で、すべてを流される。


 ああ……、私は、本当に…何もできない人になってしまった。


 歩くことも、自由に動くことも、できなくなってしまった。


「今日はお外にいきましょうね。よく晴れているから、暖かいですよ~」

「あ、近所の保育園の子どもたち、かわいいですね~」

「ほら見て、飛行機が飛んでますよ〜」


 今日も、行きたくない場所に連れて行かれて。

 明日も、気に入らないものの音を聞かされて。

 明後日も、見えないものを見せられるのだろう。


「あ、眠いですか?お部屋に戻りましょうね〜」


 ……ナニも言わなくても、至れり尽くせりだ。


 演じる必要のない一人舞台。

 誰も見ないつまらない芝居。


 ……舞台?

 ……芝居?


 感動も、感心も、感銘も、何ひとつないのに?


 終わりまで繰り返されるだけの、ただの作業でしかない。


 ……私は、最期まで。



 流れ作業の、一部にしか……なれ  ない   の  だ

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