第7章 真の魔王と対決 または、100万回死んだ勇者
『取引』
「よくぞここまでやって来た、勇者ヨ・ツーヤよ」
「真なる魔王アツァトホ、今日が貴様の命日だ! 今度は他の勇者に横取りされんぞ!」
「その力、気概、ただ殺すには惜しい。どうだ、我と手を組まぬか? 我と貴様が手を組めば、神をも屠る事が出来よう!」
「……いや、そう言われて手を組んで神を倒したけれど、その直後に騙し討ちかまして、力やら何やら全て奪われて放り出されて、仕方がないからまた修行し直して武器も手に入れて神も復活させてようやくここまで辿り着いたんだろうが!」
「まあ聞け、ドラゴンは生まれたばかりの卵を谷に突き落とし、上がって来た者だけを育てるとも言う。正しく今の状況が貴様だ。余の試練に耐え、よくぞここまで力を取り戻した!」
「え? えへへ、そうかな?」
「馬小屋を借りるぞオヤジ!」
「……詐欺ってのは、同じ人が何度もかかるものでございますよ、勇者様?」
【完】
『能力付与』
「フフフ、勇者ヨ・ツーヤよ、何度来たところで同じ事だ」
「ぐふぅ……」
『……か?』
「肉体は甦ろうとも、心が折れる時はもう遠くはないだろう」
「く……またしても……」
『……が……か……』
「またこのまま止めを刺され……クソ長いダンジョンを踏破しなければいけないのか……」
『……力が……か……』
「む? 誰だ、誰の声だ。パペット君! ソックスパペット君なのか? 再発したのか!?」
『力が、ほしいか?』
「む、ヨ・ツーヤ、なんだその光は!」
『くれてやる』
「うおおお、な、なんだこれは!?」
『……貴様に、ほしいかの力を与えた』
「……は?」
『それを使えば、敵は干し烏賊になる!』
「な、なんだって!?」
「おい、何を独りで喋っているのだ、ヨ・ツーヤ。大丈夫か」
『使い方は心が理解している筈だ、存分に魔を討ち滅ぼせ』
「いや、まて、待て待て、干し烏賊はないわー、干し烏賊って、あんた! おかしいって、絶対おかしいって! イカ干したのはスルメでしょ、スルメ! もう、日本語が乱れててこれだから困るわー!」
『いや、意味は一緒だし、そもそもスルメはイカの種類の名前……』
「言い訳は見苦しいですー! 干したイカはスルメ、これ決定! 考えてみ? 考えて? きちんと。もしもイカの干したのがスルメじゃなかったら、あれですか? テレスコを干したのも干しテレスコですか? ステレンキョウの立場は? ねえ? ほら、おかしい。過ちは素直に認めないとダメなんだよ、ママに習わなかったの? もう、最近の若いのはダメだなぁ!」
「おお、ゆうしゃヨ・ツーヤよ、しんでしまうとはなさけない」
「……むしろ、よくガマンしたよね、魔王」
【完】
『魔王攻略』
「おおゆうしゃよ、しんでしまうとはなさけない」
「フフフ、王様、既に魔王は倒しました」
「なに?」
「魔王はオレを倒す度に、腸まで喰らい尽くしていた。そこで! 今回は予め時間差で溶ける毒入りカプセルを飲んでおいたのです! これでオレの胃袋を食べた魔王の毒殺完了、屍拾って来ます!」
「……なんか、むかしのにんじゃまんがみたいだな」
「勇者ヨ・ツーヤよ、まだ懲りずに挑んで来たか!」
「……あれ、なんで?」
「毒消し草って知ってるか?」
【完】
『底知れぬ』
「さあ、トドメだ! 魔王アツォホト!」
「フフフ、なるほど、大した力だ、勇者ヨ・ツーヤよ。だが、余の力がこれだけと思うな」
「なにっ!?」
「これが余の第二形態! 貴様など一捻りだ!」
「ぐあああああっ!」
「わははは! 苦しみ悶えて死ぬが良い! ヨ・ツーヤよ!」
「なんだって? 死ね、と、言ったか?」
「む!?」
「このオレの内なる力を見てから、同じ台詞が言えるか!」
「のああっ!?}
「どっせえええええええい!」
「ごふっ……ふ、ふ、フフフ、貴様も奥の手を隠していたか、ならば見せねばなるまい、余の第三形態を!」
「うがあああっ! なんの、こっちは精霊の力を憑依させてやる!」
「おぐっ! それしき! 第四形態ならば!」
「げふっ! 大地の力を我が手に!」
「ぶはっ! 第五形態!」
「くっ! 次元断層からの力を引き出したぞ!」
「第六形態はひと味違うぞ!」
「眠っていた血が目覚めた!」
「それしき第七形態の敵ではない!」
「――で、結局、どうなったって、勇者ヨ・ツーヤよ?」
「はい、王様。第二百五十六形態で世界が静止して、神様がリセットかけたせいで、半年分ぐらいの進捗がパアになりました」
「案外低スペックだな、この世界」
【完】
『インフレ』
「むむ、勇者ヨ・ツーヤよ、貴様、その力は!?」
「驚くほどのものでもないさ、真の魔王アツォトホ! 次回作の世界からやって来たのだ」
「じ……次回作!? それは、最高レベルの状態をもって一レベルとする恐怖のインフレ世界か!」
「そう。サボっているせいでレベルが下がったパターンとは別の、今までの戦いどんだけショボかっただよという冷め要因の次回作!」
「ぐぬぬ……」
「はい、次回作の最初に出て来る警備兵1」
「ぐあああああああ!」
「次に出て来るバブリースライム」
「ぬごおおおおお! って、そもそも、なんでお前がモンスターを使役する」
「モンスター使い属性が付いた」
「それでは貴様は、まるで魔王ではなか」
「うん、そういうイベントもあったけ、か、け、け」
「ん? どうした、ヨ・ツーヤ? ブロックノイズだらけになって」
「う、うごかかかかかかか」
「ふ、ふふ、ふはは、ザマないな、ヨ・ツーヤ。おかしいと思ったのだ、今作から次回作に行く事は出来ても、逆は普通ない。大方、チートで導入してバグでも発生したのだろう、ハッハッハ! 核撃一発で死ぬ魔法使いの世界とは訳が違うのだ!」
【完】
『くっころ状況』
「どうした、何故剣を収める! 止めを刺さないのか!?」
「殺す程の事はない」
「なんだと、からかってるのか!?」
「命を奪う事が目的ではない。それに、憎しみは連鎖する。流せる血は少ない方が良い」
「……なんと、大きな……分かった。お前の元で戦おう」
「好きにしろ」
「――これだ!」
「魔王アツォトホ様、勇者って、情け掛けても『強制負けイベントかぁ』とか言って、経験詰んで仕返しに来るだけですよ?」
【完】
『アイテムクリエイト』
「ん? なんだこの結晶」
「はい、勇者ヨ・ツーヤ様。これを材料とこう合わせて念じる事によって」
「おう、金属の塊が!?」
「思考によって物を加工する物質。我々ドワーフは『職人の魂』と呼んでおります」
「ほほう、こりゃ面白いな」
「最強装備はこれによってしか作る事が出来ません」
「最強装備って何よ。何をもって最強よ。その時点最強だとして、その後またもっと強いのが出るかも知れない。ははあ、お前もしや、そんなごまかしで大金をせしめようという詐欺野郎だな! この、このっ!」
「……そんな会話をしたような」
「作らないなら作らないなりに、伝説の装備とか手に入れてから魔王に挑みなさいよ! このクソ勇者!」
【完】
『伝説武器』
「それは……」
「魔王殺し、伝説の斧でございます」
「こっちは」
「伝説の鎖鎌でございます」
「だとすると、これは」
「伝説の三節棍でございますね」
「そんじゃこれ」
「伝説の十手ですね」
「これなんかどういうものだ」
「伝説の瓶の割れたのです」
「確か、伝承では古の魔王を倒したのは、軍隊による弩の斉射だったと聞くが?」
「彼らのサブウェポンでございます」
「一つ買ってみたんだが、弱いなこれ」
「色々ツッコミどころはあるが、何故瓶を選ぶ、勇者ヨ・ツーヤ!」
【完】
『必殺技』
「勇者ヨ・ツーヤ、今こそ我の奥義を授けよう」
「おお! ありがとうございます、イー老師!」
「まず、こう構える」
「はい!」
「ダダダッと間合いを詰めて!」
「詰めて!」
「こうこうこうやってこうこうこうを一瞬のうちにこうやって、こうだっ!」
「おお、標的の木人が遙か彼方へ!」
「やってみよ」
「勇者ヨ・ツーヤ、さっきの戦いの技、凄かったな。あれだろ、イー老師から教わったとかいう?」
「うんにゃ、戦士カマタ。結局難しかったから、魔力を八倍注ぎ込んで暴発させる形で吹き飛ばした」
「またまた、全く同じに見えたぞ」
「全然違うが」
「だって、こう構えて、ダダダッと間合いを詰めて、それから次のカットで敵が遙か彼方へ行く、ほら、そっくり」
「……カットってなんだよ」
【完】
『必殺技2』
「勇者ヨ・ツーヤ、今こそ我の奥義を授けよう」
「おお! ありがとうございます、リャン老師!」
「だがこの奥義は、寿命を一〇年はすり減らす危険なものだ。滅多に使わない事だ」
「神の加護で死んでも生き返るから大丈夫です!」
「二百回ばかり練習してみたら、改良できました、リャン老師! 寿命を二〇年減らす代わりに、威力が五割増しです!」
「……なんか色々冒涜されてる気がするな」
【完】
『その後、やっぱり神リセットされた』
「魔王アツォトホ樣、どうなされました!? 玉座の間にナデヌス神の祭壇を設けられるとは!?」
「フフフ、浅薄だな、魔将軍シャエグハ。これは深遠なる勝利への積み重ねなのだ」
「なんですと?」
「勇者ヨ・ツーヤの強さを分析してみたのだが、あれは殺してもすぐに復活する回復力にあるのだ」
「腸食べても戻って来ましたしね」
「回復の魔法は、ナデヌスの慈悲であるから、こちらも回復の魔法を習得すれば良い。その為には、ナデヌスを信奉すれば良いのだ!」
「……やっぱり、というか何というか、勇者と和解しましたね、アツォトホ樣」
「ああ、けれど街の人が! 街の人が怖がるばかりで、我の愛を受け入れてくれない! あああ、どうしたら!」
「チラチラこっち見ないで下さい。青鬼役はご免ですよ」
【完】
『卑劣な作戦』
地平線を覆う程の軍勢、それは確かに脅威であった。
だが、ただの脅威であれば、勇者達はそれほどには動揺しなかったろう。
「くっ、なんて、なんて事を、やりやがった、魔王アツォトホ!」
勇者ヨ・ツーヤは歯ぎしりする。怒りに顔が歪んでいた。
押し寄せる軍勢、その兵士の一人一人の顔は腐敗し、時に頭蓋が露出する。生ける屍の軍隊。
そして、その全ての顔は。
同一だった。
「ふはははは、どうだ勇者ヨ・ツーヤ! 雑に死に戻りとかやっているせいで、貴様の死体は山ほどストックが出来ていたのだ! 自分自身の亡骸に喰らい尽くされるが良い!」
「――で、どうしたって?」
「ああ、盗賊ドロブ・O。五〇〇〇回ぐらい死んだけど、まあどうにか全滅させた。解呪効いたし」
「よく考えたら、お前のそれって上手く使うと、世界の飢えた子供とかを救えるんじゃないかい?」
「……カニバリズムで生き延びる種に、未来はあるのかなぁ」
【完】
『勝敗決す』
「ぐはっ!」
「勝負あったな、勇者ヨ・ツーヤ」
「これが、真なる魔王の力……」
「確かに貴様は強かった。才長け更に鍛錬を怠らず、実戦の中で更に力を伸ばした。我が脅威と認める程にな」
「うう……」
「しかし、それでも届かぬものはある。それが人の限界。貴様が勝とうと思ったならば――」
「人を捨てるべき、だったとでも」
「もう一人仲間を用意すべきだったな」
「ハッ!? 何という悪魔的頭脳!」
「いや、これは魔王とか関係ない程度の発想で」
「それでは負けても仕方がない。千年を行き、老獪狡猾な魔王の卑怯な騙し討ちに抗う術がなかった、これは仕方がない」
「いやいやいや、正々堂々戦ってお前が負けたんじゃん! 騙してはいないじゃん、その要素があったとしてだよ、勝てる方法を先に言わなかっただけじゃん! それ普通じゃん?」
「正々堂々って言いましたねー、でもー、それじゃあー、相手が全力を出せるように気遣うべきだと思いますー!」
「ぐぬぬ」
「おお、ゆうしゃよ、しんでしまうとはなさけない」
「魔王煽り耐性低すぎ……腸喰われるの超痛い」
【完】