第6章 真の魔王への道
『偽物』
「なあ、大賢者カ・シコイ――ぐふっ!」
「ふぅ」
「き、貴様、何故、この私が、勇者ヨ・ツーヤではないと見破った」
「上から下まで違わぁ。勇者ヨ・ツーヤは上から九十五、百十、九十七ですぞ」
「……え、このひと、こわい」
【完】
『偽物2』
「なあ、戦士カマタ――げふっ!」
「うおら、どっせいぇえええ!」
「き、貴様、何故、この私が、勇者ヨ・ツーヤではない事を見破った」
「前に同じ手を使ったヤツがいたって、大賢者カ・シコイから聞いて」
「……しまったあああああ!」
【完】
『偽物3』
「なあ、巫女チハ・ヤ――ぐおっ!」
「……くつるるの御手、連撃」
「き、貴様、何故この私が、勇者ヨ・ツーヤではないと」
「この前やった守りの指輪、付けてなかったからムカついただけ」
「……なんかラブコメ次元のヤツいるぞ」
【完】
『偽物4』
「るーららー」
「うおっ、本物!?」
「ん? なんでこんなところに鏡が? ほい」
「ほい」
「どれ」
「どれ」
「がちょーん」
「がちょーん」
「べろべろべろ」
「べろべろべろ」
「ちゅっ」
「おげええええ!」
「どうであった、ミミックィー吉野?」
「はっ……魔王アツォトホ様。潜入は困難でございました、奴らの結束はちょっとキモいレベルになっておりまして」
「つか、な?」
「はい?」
「お前、一回成功して、あいつら全滅させたじゃん?」
「はい、小癪にも復活しましたので、もう一度屠ろうと」
「お前やっぱりこういうの向いてないわ」
【完】
『偽物5』
「ねえ、巫女チハ・ヤ……さん?」
「なに、勇者ヨ・ツーヤ?」
「オレ、何度か偽物と間違えて殺されてるんだけどさ」
「うん、それが?」
「復活できるし、偽物にみんながやられるよりはずっと良いんだけど……その、ええと、痛くないようにしてくれないかな? 眠る魔法とかかけてから、とか」
「何が化けてるか分かんないんだから、全力で行くしかないでしょ」
「まあまあ、勇者ヨ・ツーヤ殿、察してあげなされ」
「どういう事だ大賢者カ・シコイ?」
「巫女チハ・ヤ殿は、偽物かも、と思った時点で勇者殿の身の危険を想像し、それで頭が一杯になってしま……と、ととと、暴力反対、偽物ではないです、偽物ではないです、偽物ではないです」
「我々は殺す事に慣れてしまってはいけないと思うんだ。簡単に復活はするけど、お金は減る訳だし」
「そう、そうじゃぞ、巫女チハ・ヤ殿! 良いではないですか、ラブコメ、私は好きですぞ、ラブコメ展開」
「そういうのじゃないから! 全然違うから!」
【完】
『強さ基準』
「むむむ、お前は、小さい頃に世界チャンピオンだった私の父を倒したヤツ! 強くなったこのオレ、勇者ヨ・ツーヤの攻撃を食らえ」
「うわぁ」
「ふふふ、ヨ・ツーヤよ、まだまだだな、世界は広い。それに比べてお前の父は強かった。世界チャンピオンだしな」
「そうなのか!」
「坊主、まあまあやるが、まだまだだ。何しろ俺は世界チャンピオンの愛弟子だからな。まあ、世界チャンピオンは結局超えられてはいないが」
「ちょっと待て、強さの基準がおかしいんじゃないか! 父は、お前より弱いヤツに殺されていたぞ! それをオレは倒しているし」
「バカだな、強いからと言って必ず勝てるとは限らないだろう。巨人だって負ける、西武だって負けるんだぞ」
「ああ……そうか」
「言うなれば俺はロッテ! そしてお前の父はダイエーなのだ!」
「畜生、分かったような分からないようなだ」
「世界は広い、旅を続けろ、ヨ!」
「そのヨは語尾? それともオレの名前?」
「名前ネタは自作自演と同義だぞ」
【完】
『伝説の秘宝』
「おお、勇者セン・ダイ様、そのネックレスは伝説の秘宝ですよ!」
「そりゃ良いことを教えてくれた、武闘商団長クルー! それで幾らで売れるんだ?」
「そうですな、伝説の秘宝マニアの間では、大体これぐらい」
「うおおおお、そいつは凄い!」
『――で、結局路銀の八割を補ってくれた、正に魔王討伐の原動力だったという事なんだが』
「そこしっかり吟遊詩人に伝えておけよ! 必須アイテムかと思って世界三周ぐらいしたんだぞ! 残留思念に言ってもだけどさ!」
『ちょっと考えれば分かるじゃん。技術は進歩するんだから、昔のアイテムが実用品じゃない事ぐらいさ。頭は使うものだぞ』
「レールに乗って魔王討伐なんかしてるのに、こういう時だけ判断求められても知らんわ!」
【完】
『必殺技』
「勇者ヨ・ツーヤよ。今こそ我が奥義曇り斬りを伝授しよう」
「ふうむ、これは凄い技だ。これなら真なる魔王アツォトホを倒すのに役立つだろう」
「いや、魔王アツォトホは多次元外皮を持つので、曇り斬りは無効化される。だが、鉱山地帯のモンスターが効率良く狩れて、鉱石を集めやすく、お金が貯まるので、旅が楽になって魔王を倒す日が近付くのだ!」
「えー……」
【完】
『忌まわしき生まれ』
「なあ、占い婆さん」
「なんじゃい、勇者ヨ・ツーヤよ」
「オレの人生は、忌まわしき血が影響を与えてるって言ったな」
「うむ。運命鑑定士フトギの名にかけて。もしも違ったらナニをかけてもよろしい」
「残念だったな! 四回前に死んだ時、すっかり灰になったから血は一滴も残っていないのさ!」
「そういうものではない」
「む? 復活魔法では戻ってしまうのか?」
「造血細胞が同じように復活する限り、血は変わらんのだ。フフフ、この世界で骨髄移植を行える医療技術はない、さあ、呪われた生を恨みながら戦うが良い!」
「くそぅ、骨髄移植術、骨髄移植術さえあれば!」
「フフフ、仮に出来たとしても、免疫抑制剤がなければどのみち身体に定着はせんがなぁああ!」
「畜生! 所詮は運命の神の掌の上かぁあ!」
【完】
『高位種族』
「我々は人間よりもずっと寿命が長く、精神的にも優れた大いなる種族。魔王だのなんだの、俗世の物事には興味がない。外界との関わりは今まで断って来たし、これからも変わらぬ。立ち去られよ」
「大賢者カ・シコイこれでいくつめだっけ、高位種族の里?」
「七つめですな。外見的特徴から考えて、やや生物的に言うとやや魔物寄りでしょうが、多分無害ですな」
「一応、モンスターズ図鑑のカエルリストの方に載っけておいてくれ」
「カエル? カエルってなんです?」
「瞬間移動のマーカーだけしとくか」
「それが良いですな」
「ねえ、カエルってなんです?」
【完】
『ふっかつ』
「むむ、魔神将カンボゾーラ! お前は確かに倒した筈!」
「貴様への恨みがあるうちは、死んでも死に切れんのだ!」
「まさか! お前なのか!?」
「一度ならず二度までもしかし、三度目はない、思い知れ!」
「バカな! お前がまた、立ちはだかって来るなんて!」
「地獄を見てパワーアップした俺を止められるか!」
「な、なにぃ!? お前がどうしているんだ……」
「貴様がいる限り、俺は何度でも戦いを挑む!」
「魔神将カンボゾーラ、これでようやく終わった……」
「――ねえ、勇者エゴー様」
「なんだい、竜神子ソフィーナ?」
「止めは刺さないの?」
「もう死んでいる者の死体を辱める事もないよ。それに、仮に生きていたとしても、立ち上がる力もないだろうさ」
「いや、そう言って、何度も復活させてますよね」
「また立ちはだかる事があれば、その時はまた倒すまでだよ!」
「いや、あんたはそれで良いけど、こいつの趣味って、若い女の腸の躍り食いよね。それで復活する度に、村が二つづつぐらい滅んでるわよね? なんか好敵手っぽいそれに憧れてるかなんか知らないけど、人類にとって何一つ同情を得られない生物よね? っていうか、今、この部屋の中にも、食べカスが山ほどあるわよね?」
「それでも、好敵手の首を落とすなんて事は、勇者のやる事じゃあないさ、アッハッハ!」
「……魔王と相打ちが、まあ一番良い結末なんだろうなぁ、こいつは」
【完】
『蘇生薬』
「これはなんだ、天の巫女テケ・リリ殿?」
「はい、勇者ヨ・ツーヤ様。この薬は、肉体すら失われた者を甦らせる事の出来る、神の雫でございます」
「生き返る薬、か」
「どなたを生き返らせますか?」
「そうだな……」
「金貨二億枚になった!」
「……勇者様! オープンワールド系は、イベントアイテムも売れたりするんですよ!」
【完】
『透明薬屋』
「いらっしゃいませ、透明薬屋へようこそ」
「どうも。どんな透明薬があるんですか?」
「テレビまんが風、SF風、寓話風など、各種取り揃えております」
「テレビまんが風ってのは?」
「飲むと、服ごと自分の姿が消えます」
「いいね。それは便利だ」
「但し、点線で自分の姿が常に表示されます」
「それ透明じゃないじゃないか!」
「完全に透明にしたら視聴者に分からない」
「分かられないのが透明なんだろう。他のはどうだ? すっかり消えるヤツだ」
「それならば、民話風ですね」
「粉薬なんだな? これをのむのか」
「いいえ、これは塗るものです」
「ファンデーションみたいな感じか」
「水で濡れるとすぐに落ちる分、ファンデーションの方がマシですね」
「雨一つで姿が見えるのも嫌だな」
「唇を舐めるクセがあると、口がすぐに見えるようになります」
「嫌だよ、そんなの。他は?」
「でしたら、SF風ですね。自分の肉体が透明になり、濡れたぐらいじゃどうって事ありません」
「そうそう、そういうので良いんだ。これで、ぬふふ……」
「服用時には、盲導犬か白杖の使用が認められます」
「網膜か!? 網膜が透明だから、目が見えないってアレか!」
「お気に召しませんか」
「召すと思うのか。もう少し実用性のあるのはないのか。透明薬なんてのは、こっそりと異性やら何やらにあれやこれや出来る人類の夢だろう!」
「ふうむ、だとしたら、十八禁型透明薬でしょうか」
「それだよそれ!」
「実際には、相手には見えてますよ? よく見たら目で追ってたりしますよ? 所詮棒演技ですよ?」
「良いんだよ。それで良いんだよ」
「まあそれでよろしければ……金貨二億枚になります」
「はいよっ」
「お買上ありがとうございます」
「うひょひょう! これで、むふふ、世話になったな! ありがとうっ!」
「……そういうお店にでも行けば、もっと安く上がるのに、勇者ってのは分からないなぁ」
【完】
『邪神』
「ふぅ、強かったな、こいつ」
「そうですな、勇者ヨ・ツーヤ殿」
「なんだっけ、異世界の神とか言ったよな、大賢者カ・シコイ?」
「ヨ殿、人の話は聞いておいて下さい。異世界の神であるところの、テヌケィという存在です。戦う前に話したではありませんか」
「でもその後二〇回ぐらい死んでるし」
「まあそうですが」
「こいつ、こんなに苦労するなら、放っておいても良かったんじゃないか?」
「いやいや、この邪神は、放っておくと全てをひっくり返して、この世界はビデオゲームだったオチにする、恐ろしい代物ですぞ」
「あれ? この前、デスゲームオチってのを殺さなかったか?」
「あれはゲームとは言っても、ちょっと違うタイプになりますからな」
「ふうん。でも異世界には、もっと色々どうしようもないのが巣くっているんだろうな?」
「今まであれやこれやで倒した、雑なオチ邪神は七十五柱。我々の戦いはこれからですぞ」
「ん? なんか、別の邪神、出て来てないか?」
【完】
『ぼうぎょ』
「よし、防御してダメージが半分!」
「なあ、勇者ヨ・ツーヤ」
「なんだ、戦士カマタ?」
「割とがっちり盾で受け止めたみたいだけど、やっぱり半分は喰らうの?」
「うん。ほら、盾の表面で受けても、裏側に伝わった衝撃が裏面の構造材を粉砕し、顔とかに刺さるのだ!」
「……普通に斬られた方がマシなレベルになってないか」
【完】
『起死回生』
「強い、まるで攻撃が当たらん、どうにかならないか! 大賢者カ・シコイ!」
「難しいです、勇者ヨ・ツーヤ殿! 時の精霊の加護を付けても、せいぜいが二百五十六回に一回当たるかどうかですな!」
「ゼロでないなら! やってやる!」
「結局何回死んだっけ?」
「二〇〇回から後は忘れましたな」
「後の方は、どうせ死ぬんでしょ感出て最悪な雰囲気だったなぁ」
「神の加護で精神が強化されていなければ、パーティー崩壊でしたなぁ」
「で、この『触手の種』っての、あの時に使えば良かったんじゃあないかな」
「こういう事があるから、踏破後のダンジョンはそっとしておいた方が良いんですぞ、勇者ヨ・ツーヤ殿」
【完】
『数値化してみる』
「フフフ、勇者ヨ・ツーヤよ、貴様の力が見える、見えるにゃ」
「なんだと? どういう事だ、魔軍師ミヌーキ!?」
「貴様の渉世値は二七〇。一万を超える魔王アツォトホ様の足元にも及ばぬ」
「なんだと! ならばこれでどうだ!」
「む、二刀流で五二〇?」
「更にいつもの二倍の回転!」
「うおう、一〇〇〇を超えた!」
「そして一〇倍になる薬を脊髄に注射!」
「こ、これは、アツォトホ様に匹敵する!?」
「仕上げにベルトをぎゅっと締めると、二五六倍に!」
「……せめて何週か引っぱるべきだにゃ」
【完】
『パワーアップ』
「魔王十二神将の一人、テサホグアをよく倒せたな、戦士カマタ?」
「ああ、勇者ヨ・ツーヤ。親友のお前が殺されたのを見て、完全にブチキレたと思ったら、俺の中に眠る古代人類の血が目覚めて、古代の集合知が憑依し、潜在的魔力を含めた全てのリソースを爆発させる形で、通常の二〇〇〇パーセントの攻撃が出来たんだ」
「それは凄いな」
「俺も驚いた」
「でさ」
「ん?」
「オレ、割と止め刺される前に時間あったじゃん? なんで殺されるまでは出なかったの?」
「人間、その瞬間が訪れるまで、現実感というのは持たないものだろう。なくしてから分かる大切さ、そういう事かな」
「どうも釈然としない……」
「それから、自分も含めて何度も死んでるから、それ自体はあんまりだし」
「……上位アンデッド系が、妙にニヒリスティックになる構造が、少し見えた気がするな」
【完】
『不死の王』
「我こそはヴァンパイア・ロード! 悠久の時を生きる不死の王なり」
「我こそは勇者ヨ・ツーヤ! 神の使命を帯びて、復活の力を与えられたが、戦闘力には加護がないので、随分時間がかかっている者なり!」
「……大変だな、それも」
「不死身のままで生きてると、どの辺りから嫌になる?」
「――という訳で、意気投合してパーティー入りする事になった、ヴァンパイア・ロードのルハン・ワラキアさんだ」
「人間に紛れる時は、死霊術使いアヤ・ツルと名乗っている、よろしく」
「……良いんですかな、これ。ラストバトル後に裏切ったりしませんかな? 勇者ヨ・ツーヤ殿?」
「大丈夫だろ大賢者カ・シコイ。人気が出れば裏切りイベントは封印になるものだ」
「……人気?」
【完】
『超兵器』
「勇者ヨ・ツーヤ様、今まさに超古代兵器『裁きの火』は蘇りました。魔王の軍勢はおろか、魔王自身を灰にも出来ましょう!」
「……うむ」
「どうされました、表情が優れませぬが?」
「この力、本当に使うべきなのだろうか」
「何を仰います?」
「魔王は確かに我らに仇成す者。しかし、それは彼らが生き延びる為だ。力によって打ち倒したとして、より大きな力に遭えば打ち倒される。このような手段を用いた勝利は果たして正しいのか」
「ヨ・ツーヤ様、ご安心下さい」
「しかし」
「広域破壊兵器は、雑魚しか倒せないのがセオリーでございます。結局負け戦のフラグに過ぎないので、これを使うとか使わないとかは関係ないのでございます」
【完】