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第4章 魔王への道

『宝箱3』


「よし、宝箱を見つけたぞ」

「やったな、勇者ヨ・ツーヤ!」

「情報通りだぜ、早速罠を鑑定しよう!」

「慌てるな、盗賊ドロヴ・O。大賢者カ・シコイ、どう見立てる?」

「ふむ。この形状、劣化の程度から言うと、城下で使われているものと大体共通点がありますな。金属部分は、さび止め加工がされているので、劣化はないようです。守っていたモンスターは、操られて配置されていただけのようで、使っていた形跡はないようです」

「よし! じゃあ、みんな! 持って帰るぞ!」

「わっせ! わっせ! わっせ! わっせ!」


「――四谷先生、何ですかこの漫画の展開」

「チェストも家具の一つと考えれば、そこそこ価値のある物という逆転の発想だ」

「……宝箱のアイテム化は、既存の発想です」

「マジで!?」

「テラリアやった事あるでしょーが」

「あ」

【完】




『宝箱4』


「よし、宝箱を見つけたぞ」

「やったな、勇者ヨ・ツーヤ!」

「罠の確認を頼むぜ、盗賊ドロブ・O!」

「近づくのは待たれよ」

「どうした、大賢者カ・シコイ?」

「妙に小綺麗です。恐らくは、擬態能力を持つ魔物の一種」

「そうかな、単に新しいだけの可能性もあるだろ?」

「面倒だぜ、勇者ヨ・ツーヤ、切りつけてみりゃ良いだろう」

「いや、それは最後の手だろ。中にポーションや何か、壊れ物が入っていたらおじゃんだぞ。やっぱりおいらが罠を確認して」

「そうだ! 強酸の毒を持ってたぜ。これをかければ、魔物ならじっとしてはいられまい!」


「おおゆうしゃよ、しんでしまうとはなさけない」

「……硫黄が仕込んであるとは」

「ふむ、魔物ではありませんでしたな」

【完】




『ハクスラ』


「ほほう、ここか、大賢者カ・シコイ」

「はい、勇者ヨ・ツーヤ殿。ここが、ハクスラの塔。入る度に姿を変え、無限にモンスターが現れ、多くの強力なアイテムが眠っているとか」

「危険だけど実入りが大きいのか」

「そうですな」

「入る度に変わるなんて凄いな」

「そうですな」

「何人も挑んで死んだりしてるのかな」

「そうですな」

「じゃ、帰るか」

「挑まないので?」

「生き返るって言っても、わざわざ死にに行く事はないし、こうしている間にも世界は魔王軍に苦しめられてるからな! 稼ぐならもっと安全なところで稼ぐ!」

「まあ正論ではありますな」

【完】




『慈悲』


「勇者ヨ・ツーヤ様、この魔物、如何致しますか?」

「逃がしてやれ、村長。もう何も出来はしない」

「えっ」

「……いい、のか?」

「元はと言えば、村人がお前の集落を壊滅させたからだ。盗みは生きるのに困っての事だし、その後魔王軍分隊として敵対はしたが、消極的な攻撃でこちらに立て直しの隙を作ってくれ、結果的に勝利へ導いてくれた」

「随分お人好しだな、ひょっとしたら、拘束魔法を解いた途端に、寝首を欠くかも知れないんだぜ?」

「その心配はしてない」

「甘いんじゃねえか?」

「お前、さっきの戦いで、腕一本なくしてるだろう」

「まあ」

「じゃあ、次にスポット当たったら死ぬぞ」

「え」

「腕の欠損があったキャラは、完全な義肢を付けるか、死ぬかの二択が世界の法則! これを異世界人は『ユパ様&法粛の法則』と呼んでいた!」

「『ジョジョ第2部の法則』で、両方フォローしておりませんかな?」

「……義手職人いない?」

【完】




『職人気質』


「うちはラーメンに命かけてるんで!」

「うわっ、リスカの痕だらけだ!」

「ええ、失敗の度にやってるんで!」

「傷浅いな。ポーズだろ」

「誤解ですよ、切る時は結構本気なんですよぉ」


「勇者ヨ・ツーヤ様、シチューを残さないで下さいませんか。命かけておりますので」

「……この町の教会の司祭、豪邸に住んでたな」

【完】




『勇者と王女さま』


「おお、姫様! ご無事でしたか!」

「――まあ、近衛騎士ランスロット。私を捕らえていた悪いドラゴンどうされたの?」

「はっ、姫様。この――」

「オレは勇者ヨ・ツーヤ。ドラゴンはそこでくたばってるよ」

「こ、これ! ヨ・ツーヤ殿! 姫様に向かってなんという口の利き方だ!」

「ランスロット、良いのですよ。命の恩人ですし、わたくしにこんな風に話す人なんていませんもの」

「おっ、流石は王女様だ、懐が深いや。おまけに国一番のかわいこちゃんだ」

「ふふふ、ありがとう」

「行こうぜ、王様が待ってる」

「はい」

「ほらよ」

「え? なに? 血まみれの剣?」

「ドラゴンを倒したとは言え、ここは魔物の巣だ。自分の身ぐらいは守ってくれよ」

「う、うん! 分かったわ!」


「――というような経緯を経てだな」

「うん」

「城に戻ったら不敬の罪で追放されたんだが、何が悪かったんだろう? 戦士カマタ?」

「馴れ馴れしい奴って、一瞬だけは良いけど、時間が経てば経つほど、ウザさが増すからなぁ」

「ええっ、ウザかったかなぁ! アッチャー! シッパイ、シッパイ!」

「その『失敗』がカタカナのとことかな」

「アッチョンブリケ!」

「一番まずいのは、お前が無理をしているのが伝わる事だよ」

「む、むむ、無理なんてしてねえよ! オレは、ただ、王女様にも気さくに接する事で、『むむむ、わらわにこんな風に接する者は初めてだ、無礼さに腹が立つかと思ったのにそんなに嫌ではない。本当のわらわを見てくれるのはこの者だけかも知れない』からの、いただきますごちそうさまで、国家予算がザックザク程度の事しか!」

「あと、近衛騎士と出来てたしな」

「NTRか!」

「もう、なんか、姫様に見る目があるとしか言えん」

【完】




『アンラッキー』


「なあ戦士カマタ」

「どうした勇者ヨ・ツーヤ、酷く深刻そうな顔して。ご飯の水加減でも失敗したか?」

「そこまでではないんだが……あの、ラッキースケベってあるだろ」

「ああ。結城家伝統の」

「ならば、アンラッキースケベとは一体何に当たるのだろう? それを考えると、夜も眠れないのだ!」

「本当は眠れてるんだな?」

「ああ、一体、どういう事なんだ! 幸運にもスケベに遭遇する、それは分かる。だが、不幸にしてスケベに遭遇する、どういう事だ、スケベに遭遇するのは幸運ではないのか! 一体どういう事だ!?」

「ヨ・ツーヤ落ち着け。落ち着いてよく考えてみろ」

「何をどう考えるってんだ」

「スケベに遭遇して幸運でない者、それは、スケベを提供している主体ではないか?」

「……え」

「成る程周囲はラッキーだ。だが、その姿を曝す側は、羞恥に身がすくむ思いだろう。それは間違いなくアンラッキーではないのか」

「そうか、そうだったのか! 物事には二面性がある。成る程、心で理解した!」


「――そのせいかな、火の一族と水の一族の諍いを命を危険にさらしてまで止めようとしたのは」

「本当は火の一族の穏健派の巫女さんのおっぱいが大きかったからじゃないのか?」

「何を言うか。おっぱいは大きさじゃない! その上に付いている顔の善し悪しだ!」

「……身も蓋もないな」

【完】




『ループしている』


「畜生、一体この森の道はどこまで続くんだ!」

「勇者ヨ・ツーヤよ、だから最初にエルフの迷いの森と言ったではないか」

「いや、大賢者カ・シコイ、そういうのって、ほら、なんか上手い法則性で歩いたら抜けられるもんだろ。更に、ここに来る前に、エルフの子供を助けて、お礼に貰った指輪も着けているだろ」

「あの子、迷いの森を抜ける為のアイテムだとは言っておらんかったろう。そもそもその指輪、町のおもちゃ屋で売っているものだし」

「な、なんだって!?」

「見れば分かるのではないか? なんの細工もなければ魔力もこもっていない、針金を輪にしただけの物だって事は」

「どうするんだよ、これじゃ、帰れないよ、マジ迷ってるよ!」


「――ほお、あのエルフの森から帰って来られたのですか。人間は決して生きて戻って来られぬと言われているのに」

「まあ生きて戻らなかったのは確かですが」

【完】




『異世界より』


「ついに異世界とのトンネルを作ったぞ!」

「やりましたね、博士!」

「早速、エルフを連れて来た!」

「ども」

「おお、出渕耳!」

「非破壊検査をいくつか行った結果、一つの結論に達した!」

「どんな発見が!?」

「こいつ、ただの人間だ!」

「ええー?」

「DNA全く一緒。考えてみれば、ハーフエルフとか普通に安定して作れるんだから、当たり前なんだよな」

「いやいや、こう、科学では分からない魔力的な何かで区別が付いてるんじゃないですか?」

「そうかも知れんが、生物学的にはただの人間。計測不能領域についても、ハーフ○○が概ね特性が人間に寄る事からして、劣勢遺伝的性質があるものと考えられる」

「となると、交通が発達して混血が進んで行くと」

「という事でエルフ君」

「はあ」

「君の種族、交配が進むと消えるぞ」


「ここはエルフの里、下等な人間が近づいて良い場所ではない。これは族長の命令である」

「やっぱりエルフは排他的ですな、勇者ヨ・ツーヤ殿」

「そうだな、大賢者カ・シコイ。魔王が世界を滅ぼしたら、自分たちの種族もなくなるってのになぁ……」

【完】




『魔法の効能』


「――この村には、忘れられた古代魔法の一つが伝承されているという事だが?」

「ええ、ございますよ、勇者ヨ・ツーヤ様、大賢者カ・シコイ様。使い方はこの拓本をごらんになればお分かりになるかと思います」

「ほう」

「随分あっさりですな」

「威力はどんなもんなんだ?」

「威力……というか、これが効いている間は、剣で切っても槍で突いても魔法で焼いても傷一つしません」

「おお、凄い」

「絶対防御……効果はそれだけではありませんな?」

「ええ、まあ。攻撃というんでしょうか、相手を殺そうとか傷つけようとかしても、何も出来ません」

「……って、それ意味ないじゃん!」

「いやいや、勇者ヨ・ツーヤ殿、時間制限のある魔法をかわしたり、相手を疲れさせたり、使いようですぞ」

「いえ……その、村人全員使えるので、魔物の襲撃を何度あきらめさせたか知れません」

「ああ」

「そう、でしたな」

「他に、味が足りない時に旨味を増やす魔法と、綿埃程度を吹き飛ばす風の精霊を呼び出す魔法、麺類が茹でてる時に固まらないように鍋の中の水をゆっくりかき回せ続ける魔法などが」


「アレかな、オレ達、戦いが終わった後、社会に適応出来なかったりするのかな」

「日常性を保つ必要ありますなぁ」

【完】




『隠れ里にて』


「ウッヒョー、ここが隠れ里か! 落ち着いた感じの美人がいっぱいだぜ!」

「勇者ヨ・ツーヤ殿、無理筋なキャラ付けは心を病みますぞ」

「そうだぞ」

「そうだぜ」

『そうだよ』

「ほら、ソックスパペットが復活している」

「何故それを!?」

「大賢者は伊達ではありません。あなたの靴下を洗う時に、ソックスパペットの片鱗を見ました。ソックスパペット症の典型的なものですな」

「流石だぜ……で、ここは何が出来るんだ?」

「ナデヌス神界と近しいこの地には、神の巫女の魔力を受け継ぐ者がいるとか。様々な魔法を使い、また、人の魔力を見極める事も出来るそうです」

「あー、ステータス見れなくなったもんな。人に頼らなきゃいけないって、面倒だよな」

「治療は基本進んでいるようで、結構結構」

【完】




『属性的能力』


「勇者ヨ・ツーヤあなたの魔法属性は」

「属性は!?」

「炒め物です」

「炒め物!?」

「炎属性と植物属性に加えて、金属性と重力属性、空気属性までもが加わった史上最強の属性です。これならば、魔王にも勝てるかも知れません」

「……なんで融合させたの。バラバラじゃ駄目なの。それってどういう魔法になるの? 肉はないの、野菜だけなの? そもそもこの設定引っ張るの、今回限りなの? ねえ、ちょっと!」

「その属性が力を持つか否かは、あなた自身がの決める事……」

「なんか良さそうな事言って、その実全然意味ねえ! おいこら、責任とってけ!」

「それを見極める為、私の娘、巫女見習いのチハ・ヤを同行させましょう」

「どうも、あたしがチハ・ヤです」

「初めまして! オレは勇者ヨ・ツーヤ! チャーハン喰う?」

「喰いません」

【完】




『炒め物範囲魔法:グラップ・ストマックス ※胃袋掴み』


「魔力属性をきちんと理解した上で、チャーハンを作ってみたぞ」

「うおおおお、うめええええ、流石は勇者!」

「大したものですな、勇者殿!」

「すげえぜ、勇者ヨ・ツーヤ!」

「そんな大げさな」

「まあ、折角作ったんだから、味見てくれよ、巫女チハ・ヤ」

「食べないとは言ってな……な、何コレ、うまあああああああい!」

「良い食べっぷり、見ていて気持ちが良いぐらいですな」

「ち、ちょっと、お腹が空いてただけなんだから!」

「じゃあ、今度はそれほどお腹が空いてなくてもおいしく食べられるような炒め物を作るぜ!」

「……ま、まあ、腹が減っては冒険は出来ないし」

「おやおや」

「おやおやおや?」


「魔王様、勇者達の結束が固まったようです」

「捨て置け。後、あのパーティ、盗賊いなかったっけ?」

「馬車の中でございますな」

「食事にも呼ばないなら、酒場にでも預けてやれよ……」

「なんで酒場で人の預かりするんですか? 昆布屋ならともかく」

「……異世界の記憶か」

【完】




『ワープ』


「ふぅ、魔力も尽きて来た事だし、このダンジョンから一時退却するか、巫女チハ・ヤ?」

「分かったわ、勇者ヨ・ツーヤ。準備して」

「……おう」


「いつも気になってるんだけど、チハ・ヤさん?」

「なに?」

「その透明になる魔法って、オレにかけられないの?」

「敬虔なナデヌスの信徒にしか使えないものですから」

「うん、分かるよ、分かるんだけど、ほら、死体、ゾンビ、蘇生って、結構辛いんだよね」

「魔物に襲われずに出られるんだから、良いじゃありませんか」

「せめてワープとか、そういうのないの?」

「過程がそれほど問題ですか?」

【完】




『特殊効果付き』


「鍛冶のトウ・ハーツ親方、今回の新作はどんなんだ?」

「はい、勇者ヨ・ツーヤ様。こちらです」

「ほう、槍か」

「ドラゴンスレイヤーでございます。ドラゴンに対してダメージ二倍」

「どういう仕組みなの?」

「どういう仕組み、と、仰られますと?」

「普通の槍で突き刺した時と、何がどう違ってドラゴンだけピンポイントに二倍になるんだ?」

「ああ、それは、この中にほら」

「むむむ、液体が」

「これは、ドラゴンに効くウイルスでございます」

「って事は、別のウイルスを入れると……」

「別のスレイヤーになりますな。まあ、混ぜると効果が変じてしまうものもありますが」

「一番色々乗せられるのって、どれぐらいだ?」

「こちら、五種混合ですな。名付けて『スレイヤーズ!』」

「『!』1つで配慮したつもりか?」

「……今どうやって発音したんですか?」


「――で、それが魔王軍に渡って、ワクチンが作られた、と」

「お陰で鍛冶屋組合からつるし上げ喰らってさぁ」

「格好つけて伝説の邪竜アヌンツァの死体に槍を残したりするからですぞ。高い買い物なのに」

「だってあれ、結構目詰まりしたし……」

【完】




『両手持ち』


「えーと、この盾と曲刀!」

「勇者ヨ・ツーヤ様、こちらの曲刀は両手武器でございますので、盾との併用は出来ません」

「そうなの? でも、軽くて片手で結構行けそうだと思うんだけど。腕力18になってるし」

「その18というのが何なのかは分かりませんが、両手用は両手で使う事を想定していますので」

「いや、多少威力が下がっても良いよ。それよりも、盾を使いたいんだよ。この後討伐する魔物、毒を吐き散らすらしいし。この店の片手武器、切れ味の悪そうなショートソードしかないし」

「それでも、曲刀は両手武器なんです!」

「別に負けたって文句言う訳じゃないし」

「帰って下さい! ウチは武器一つ一つに命をかけてるんだ! 半端な気持ちで使って欲しくないね!」


「で、結局、元装備で戦ったら2度ばかり死んだところだよ」

「それは災難でしたね、勇者ヨ・ツーヤ様」

「変なこだわりを持ってる店は嫌だねぇ」

「はい、建民麺お待たせしました。まずはスープからお召し上がり下さい。高菜から喰ったら致死魔法かかりますからね!」

「困ったもんだよ、本当」

 ずずずっ。

【完】




『剣』


「何してるんだ? 勇者ヨ・ツーヤ?」

「ああ、戦士カマタ。剣の手入れをな」

「ん? その剣、伝説の邪竜アヌンツァと戦ってから、切れ味落ちなくなってたんじゃ?」

「ああ。邪竜の血を吸い、竜の鱗も易々と切り裂くんだが……ちょっと嗅いでみ?」

「うっ!?」

「魔力はきちんと残っているんだが、物質としての血液はゆっくり腐敗しているので、超臭くなるのだ。だから、香油が欠かせないのさ!」

「何かの呪いじゃないのか、それ……」

【完】




『命がけ』


「フフフ、ついに完成した。この私、ウラ・チュボースの命をかけて! このスープを! 濃厚にして芳醇、鮮烈でありながら憧憬を誘う、素晴らしいスープだ! これを丼一杯で三百円の予算で作り上げる、これならば売れる、天下を取れる!」


「何故だ、何故売れないんだ! うちのスープ屋の何が悪いんだ!?」

「――ちょほおいと待ちなは」

「誰だ、あんたは?」

「通りすがりの再建屋サイ・ケンとはこの俺の事だ!」

「再建? このスープに、一体何を再建する余地があるというのだ!」

「それは、これさ!」


「何故だ、何故売れた!? ひと玉銅貨二十枚の麺を入れただけで、一体、何故今までまるきり売れなかったスープが売れた!?」

「スープだけを飲みに来る客などいない。ラーメンの体裁を取って初めて興味を持たれる。これすなわち、『旅館の朝食でごはん炊き忘れましたとなったら、多分暴動』の法則!」

「分からない、分からない、こんな、こんな麺などを入れて味を濁らせたスープの方が売れるなど、売れるなど! 認めぬ、こんな客達は認めぬ、そうだ、スープだけで満足出来る、人々がそうなれば良い、そうなれば良いのだ!」


「――というような経緯を経て人の身を捨てこの地域を統べる魔族の族長となった彼は、最強暗黒宇宙無敵将軍に上り詰め、人間と現行の魔族を滅ぼして、自らの眷属とそっくり入れ替えようとしているのです、勇者ヨ・ツーヤ様」

「争いのきっかけとは、得てして些細なものだな」

「それで済ませるレベルですかな?」

【完】




『ヒーロー』


「勇者ヨ・ツーヤ様……今なら間に合います、最強暗黒宇宙無敵将軍の追撃を」

「神官オッペン殿、君を医者の元に連れていく方が先だ」

「最強暗黒宇宙無敵将軍が力を取り戻しては、元も子も、ないでは……ありません、か」

「好ましく思う娘一人守れない勇者なんかに、世界を守れるワケがないだろう」

「いや、その理屈はどうかと」

「え?」

「私を守る事と世界を守る事、それは全然関係がないですよね。今、怪我をした私を救う為には、医者に連れて行くか、医術を施す必要があるワケです。そして、世界を守るというのは、もう少し具体的に言うと、人間社会や魔界の瘴気の中で生きられない動植物を守るというのは、最強暗黒宇宙無敵将軍を殺害する事です。この時に必要とされるのは、純然たる武力です。前者の能力について、あなたはさっぱり持ち合わせていませんが、後者についてはこの世界で最大級のものを持っています。能力のない部分にかまけて、本当に必要とされている部分で力を発揮しないというのは、どれだけ愚かな行為でしょう」


「……で、最強暗黒宇宙無敵将軍を追撃したけど、間に合わずに討ち洩らし、彼女の方は通りがかりの兵士に助けられてフラグが立ってしまった、と?」

「よく考えたら、言った事は間違ってなかったさ、ウフ、フフフ……」

【完】




『かまわず撃て』


「勇者ヨ・ツーヤ、何故、ただの村人である私を助ける為に残った? もろともに滅殺陣を放っていれば、最強暗黒宇宙無敵将軍を屠れたものを」

「ああ、それね、前にやったら、世界滅んだんで、神の奇跡で時間の巻き戻しやってんだよ。これで七回目」

「……苦労してるんだな」

「いや、そこは大丈夫。死ぬ度にメンタルもリセットされるから、元気なもんさ!」

「その元気な表情の中にも、諦念という絶望が……」

「自分と違う生き方の人を、必ず可哀想な人扱いとかして、あくまで自分の立ち位置を高く持とうとするのが、お前ら常識人の常套手段だよな! それ楽しい? すっごい権力者とかの伝記を見てから『でも、本当の幸せはなかったんですね』とかしたり顔で言って楽しい? 逆言えば、お前らは本当の幸せとやらに辿り着いたの? お前浮気して奥さん2人目だよね? それで本当の幸せなの!?」

「……あ、え……なんかゴメンなさい」

【完】




『力を合わせて』


「くっ……最強暗黒宇宙無敵将軍ウラ・チュボースから、逃げる事しか出来なかったとは……畜生、ちくしょおお!」

「諦めるな、勇者ヨ・ツーヤ!」

「戦士カマタ……だけじゃない、今まで出会ったみんな、なんでここに!?」

「この俺の魔力を貴様の剣に宿そう!」

「カマタばっかりに良い格好はさせられませんね。わたくしの法力で悪霊共を抑えましょう」

「ボクの速力で攪乱するよ!」

「ほっほっほ、わたしの財力で援軍を雇いますかな」

「おれの遠心力でハンマーをぶちこんでやろう」

「私のプレゼン力で王の協力を取り付けましょう」

「ワシの老人力で肩の力を抜けさせよう」

「オラの鈍感力で、負けてもへこたれないぞ」

「ワタシの女子力でカレシのハートもがっちりよ!」


 まものがなかまにくわわった!


「……元は魔物なんて、信用出来ねえな」

「こういう時にごねるヤツは、ろくな目に合わないぜ、勇者ヨ・ツーヤ! 信じずに心を閉ざすより、信じて裏切られた方がまだマシだ!」

「言われてみればそうだぜ、盗賊ドロブ・O!」


「寝首を一撃か」

「抵抗した様子がまるでない」

「どれぐらいで復活するかの」

【完】




『極端に分岐後が短いマルチエンドは、ゲームオーバーと見分けが付かない』


「む……寝返った最強暗黒宇宙無敵将軍ウラ・チュボースが実は寝返ってなくて、隙を突かれて首を落とされたと思ったが」

「勇者ヨ・ツーヤよ」

「誰だお前は?」

「私は創造主のもたらした希望の魔人ヒツェルジュセ。願いを言え、なんでも三つだけ叶えてやろう」

「だったらオレの前に立ち塞がるあの妙に強い中ボスを斃してくれ」

「創造主の力を超えた願いは叶えられない。あの将軍に直接干渉するようなものは駄目だ」

「……どこの竜珠だよ」

「さあ、願いを言え」

「だったら最強の能力を付けて貰おうか」

「だから具体的なの言えってのに」

「ええと、だったら……そうだ、時間を停める力! これでどうだ! 制限時間なしで何時間でも停められるヤツ!」

「それ元々……いや、まあ良かろう、その方が楽だし」


「このウソつき魔人、時間なんか止まらなかったぞ!」

「いや、二〇〇億年程停めていて、いい加減動かした方が良いかなと思ったから動かしたのだが」

「ってオレも止まってたのかよ! それじゃ意味ないよ! オレは動けてって事だよ!」

「良かろう」


「死ぬかと思ったぞ!」

「時間を動かす合図を思念系にしておいて良かったな」

「空気とかまで停めるなよ! 時間が止まる時点でファンタジーなんだから、半端にSF入れるなよ! 呼吸できないよ、死ぬよ!」

「我が儘なヤツだ」

「空気の要求がワガママだったら、ツンデレタカビーキャラはワガママ神だよ!」

「さあ、最後の願いだ」

「お前、本当に世界を救いたいって思ってんのか? こんな上げ足取りばっかりで魔王が倒せるのか!」

「我はあくまで希望を繋ぐもの。人の可能性が云々かんぬん」

「……神の性格は何となく分かってるから良いよもう! ともかく効果的な願いをなんか考えるさ! ええと、ええと……」


「ねえおばあちゃん、それから勇者ヨ・ツーヤはどうなったの?」

「鼻の頭に1オーヌのソーセージをぶら下げたままレベルを上げて、物理で魔王を斃したんだよ」

「願い、どうやってふやしたの!?」

【完】




『決着』


「おおおお、こ、この我が、魔神であるこの我が……」

「最後だ、魔神イグォ・サトス。このオレ、勇者ヨ・ツーヤの名を記憶に刻んで消え失せろ」

「何故だ、予言の通りに脅威となる勇者はその力の小さい内に皆殺しにしたというのに、お前は、一体」

「フフッ、運命は己の手で切り拓くもの。予言などに縛られた者に負ける道理はない」

『そうです。この者の血筋は確かに予言の勇者の要素をこれっぽっちも持っていない、ザコ野郎でした』

「神、言い方」

『別の言い方をすると、正式な候補は全部無力化されたから、ヤケクソで適当にばらまいた不老と復活の契約だけ結んだだけの凡人です。そのせいで、予言であれば勇者が十七歳の時にあなたが討伐されていたところ、十二万の候補者を使い数十年もかかった訳ですが、まあ結果オーライというものでしょう』

「本当の敵が誰だか分からなくなってくる話だな」

「……うむ」

【完】




『その後』


『勇者ヨ・ツーヤよ、よくぞ魔神を倒しました』

「いやー、それほどでもあるけどな!」

『後は、ただ強いだけで別に悪い事をしている訳ではない、別の宇宙から観光に来たぐらいの存在がいるけど、殺す?』

「……やりこみ要素とか、それほど興味ないんで。町の人のリアクションも変わらないだろうし」

【完】




『伝説』


「はあ勇者様。この地方の魔物は一千年前に旅の神官様が封印されまして」

「その前は?」

「その二百年程前には、竜が墜ちた時の毒を旅の聖女が浄化したとの話があります」

「じゃ、その前は」

「一万年ほど前に、悪しき支配者が神の力で石にされたとか」

「……お前らの民族は、独立心とか必要じゃないか?」

「そんな事言わず助けて下さい! このままでは村の経済がこれでは破綻するのです、村長様の馬小屋の入り口のドアが、ドアが!」

【完】




『ほっほっほ、面白いヤツじゃ』


「よう南の王様、久し振りだな。元気そうで何よりだぜ!」

「なんたる口の利き方、無礼者を成敗せよ!」


「おお、ゆうしゃよ、しんでしまうとはなさけない」

「んー、前はあんなに意気投合したのになんでだろ。戦士カマタ?」

「……場所が娼館で、王様がお忍びだったからじゃねーかな?」

【完】




『レア素材』


「すみませーんご主人、ドラゴン肉手に入ったんで、ステーキにしてもらって良いですか」

「そいつは凄い。あんた、ハンターさんかい?」

「勇者をやってるヨ・ツーヤと愉快な仲間達ですが」

「誰が愉快か、戦士カマタだ」

「不愉快よ、巫女チハ・ヤよ」

「大賢者カ・シコイ。まあ別に覚えんでも良いが」

「よし、これだけのレア食材だ、腕によりをかけてステーキを作らせてもらわぁ!」


「まっっずーーーー!」

「……高級品の筈なんだが」

「滋養が付くんだろうけど」

「腕によりをかけなければ、まともに喰うことも出来ない、そういう事でしょうな」

【完】




『乗っ取られ』


『ふふふ、勇者ヨ・ツーヤ、巫女チハ・ヤの身体は、この冥界王ユウ・レイが乗っ取った。さあ、仲間を攻撃する事が出来るかな?』

「なんと卑怯な!」

『貴様が色々なつまらぬ理由で行えない戦術を、余は行えた、それだけの事』

「くっ!」

『死ねええええ!』


「で、実際に殺された後に復活して、今度は対策をしておいて乗っ取り回避して、直接戦って勝った、と」

「うむ。戻り復活は、ちょっと時間戻ってる感じだからな」

「……復活ある我らには、こういう手は全然無意味だよな」

「そういう意味では、大概の手は無意味かも知れないけどね」

「なのにまだ魔王を倒せてないとか」

「タチ悪いのぉ」

「おいおい、事態を切り抜けた勇者に賞賛の言葉とかはないのかィ?」

【完】




『毒手』


「うおおおおお、一! 二! 三! 四!」「何をなさっているのです、勇者ヨ・ツーヤ様!? 毒の沼に手を突っ込んで!?」

「止めるな傭兵司祭クルー・ルー! 毒に手を漬ける事で手を毒そのものとし、敵の命を絶つ! これぞ、古来より伝わる毒手の製法!」

「ヨ・ツーヤ様! 最近の魔王は大体状態異常無効です!」

「そうであるなどと、一体誰が確かめた!」

「暗殺部隊が何度も行って失敗してます!」

「小さな針に毒を塗るのと訳が違うのだ! 毒手ならば効くやも知れんのだ! そうれ五! 六!」

「でも……」

「なんだ! まだ何かあるのか、オレは忙しいんだ!」

「死んだらやり直しですよ?」

「……毒、残らないの?」

「結局、ただの『状態異常:毒』ですし」

「んー、まあ、アレだよね、魔王とは、正々堂々と戦おうかな! そして止めは、このいつの間にか手にしていた無駄に喋る不思議な剣リンガを心臓に突き立ててやる事にするよ!」

『それがいいだ。魔王の命を吸えば、オラは世界だって破壊出来る魔剣になれるだ』

「その呪いの剣もどうにかした方が良いと思いますけど……まあ、とりあえずはその方向で」

【完】




『対策』


「魔王の城、来たなぁ、大賢者カ・シコイ」

「感慨深いですな、勇者ヨ・ツーヤ殿」

「これ、火攻めにしたらどうだろうな」

「無理でしょうな。城だし」

「だよなー。なんかそういう、大量破壊兵器系、異世界から流れ着いたりしてないっけ?」

「いくらかはありますが、魔法で片付いてしまうせいで、一定水準を超えた機械加工技術というのがすっぽ抜けてますから、再現困難ですな」

「だったよなぁ。火薬は?」

「城一つ吹き飛ばせる量を、的確に城に運搬、命中させるのは難しいですな」

「転移の魔法は?」

「術士が移動しなければなりませんからな。持って行ける重量は、せいぜいが馬車二つぐらいで、しかも、行った先で爆死ですからな。他に聖水を大量にぶちまけるとかやってみたようですが、結局術士を死なせただけのようです」

「んー、やっぱり忍び込んで暗殺しかないのか」

「言う程忍んでもおりませんがなぁ」

「まあいいや、どんなに大量に魔物がいたって、殺せば死ぬ!」

「逆に我々は生き返りますしなぁ。という事で、はい、恐怖を感じなくなる薬」

「よおし、いっくぞー!」


「――という風にして攻略した」

「その薬って」

「大丈夫、死んでるから蓄積しないよ! でも、何となく口寂しい時には欲しくなるけどな」

「精神的な依存がヤバい……」

【完】




『VS魔王』


「……我は魔王の中の魔王、魔王シュヴァート。我の眠りを醒ますのは誰だ」

「観念しろ魔王シュヴァート! 放浪の勇者ヨ・ツーヤが貴様を斃す、分かりやすく言うとSATSUGAIする!」

「何だと? 我が何をしたというのだ。我はただ、この森で穏やかに暮らしていただけだ」

「問答無用、魔法の剣リンガの一撃を受けてみよ!」

『魂をよごずだああああああああ!』

「ぐああああ!」


「……いや、あの、一撃で戦闘不能って、どうなんだ?」

「言ってるじゃんか、この森で暮らしてるだけだって」

「でも悪い事したとか何とか聞いたし」

「それってアレでしょ? この前の話でしょ? 嵐の夜道を旅人の親子が通った時の」

「具体的には聞いてないけど」

「我の娘と一緒に、子供の方を誘ったんだけど、結局、オヤジが強烈に拒否ってさ。大分気温低かったから、あの子大丈夫だったかな……」

「うわ、そのタイプの魔王か……」

『たましい、たましいを早く喰わせるだ!』

「この魔剣の方がよっぽど邪悪だな」

【完】


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