第3章 勇者の仲間たち
『ナカーマ』
「おい、大丈夫か? 沙漠のど真ん中で」
「ん……なんだ、死んでたのか」
「ああ。乾燥してパリパリになってたお前が、水気を取り戻して生き返ったよ。死に備えの魔法を実際に見たのは初めてだが、大層キモイな」
「ははは、そんなに褒めるなよ」
「でも、俺のサブウェポンも負けちゃいないぜ」
「うぉう! キモイ剣だな!」
「俺さ、キモイものって、人生だと思うんだよ」
「どういう事だ?」
「バカだな、関係ないもの同士を繋ぐと、なんか意味があるみたいに見えるだろ? 午後のダンスは小指のささくれなんだ、とか、月は無慈悲な夜の女王とか」
「なるほど確かに」
「だから俺は、キモイものは無条件にリスペクトしているんだ」
「なるほどなぁ」
『分からんでもないけど』
「な! 何だ、お前、その右手の超キモイの!?」
「ソックスパペット君だが」
「うわ、目の表現とか口の表現とか、異世界の胡麻横町みたいで超キモイ! お前はキモマスターだな!」
『まあ、失礼しちゃう!』
「なんですって、キモマスター!?」
「む、荷車にもう1人? あんたは?」
「行商人のボッターです。キモイものには目がありませんで。どうです、そのキモイソックスパペット、売っては頂けませんか」
「よし、売った!」
『早いな! でも良いわ、ワタクシがいたら、あなた、恋人も出来ないものね』
「ちょっ、何を言ってやがる」
「うわぁ、そういう風に使ってるんですか」
「いや、誤解だ。こいつ、売られたくなくて嘘を言ってるんだ」
「なんだ、キモさが上がるから高く買わせて貰おうと」
「ジョークグッズにもしてます!」
「ははは、愉快なヤツだぜ。沙漠から脱出するまで、ひとまず一緒に行こうぜ!」
「おう、助かる。俺はヨ・ツーヤ! 魔王退治の旅をする者だ!」
「……魔王の居場所って割とはっきりしてないか?」
「正確には、魔王を倒す手が思い浮かばないので、鍛錬がてらウロウロしている者だ」
「なら俺と一緒じゃないか。俺は戦士カマタ。斧使いで、日雇い護衛だ!」
「つまり、うちの仕事が終わったら無職の2人ですね」
「銀河の2人みたいに言うなよ、行商人ボッター」
「照れるぜ」
「心は強いんですね、なんか」
【完】
『職人』
「これが、鍛冶を生業とするこの村で、おいらが先々代の発案から総力を挙げ、全身全霊を込めて打ち上げた、最高の剣『名剣千切り』だ。魔王を倒すのに役立ててくれ、勇者ヨ・ツーヤ様」
「おお、それはありがたい。行商人ボッター、鑑定頼めるか?」
「ふむ。ロングソード+1ですな」
「ぷらすぅううう!?」
「それだと今のとダブるなぁ、戦士カマタ、使う?」
「メインはやっぱり斧だけど、素早い相手と戦う時、投げても良いサブウェポンが心許なかったんだ、助かるよ」
「返せええええええ!」
【完】
『ヒール』
「ぬおっ、喰らった!」
「勇者ヨ・ツーヤ! 回復苺だ!」
「サンキュー! 戦士カマタ! もぐもぐ!」
「喰ってどうする! 潰して傷口に付けるんだ!」
「そうなの!? 今まで、ずっと喰ってたぞ!」
「切り傷がどうして食べ物で治るんだよ!」
「そこは魔法的な力でさ!」
「だったら直で魔法使うだろうし、やっぱり傷口に近いほうが効くわい!」
「おお、ゆうしゃよ、しんでしまうとはなさけない」
「戦闘中だったっけ」
「うむ、そうだった」
【完】
『りっぱなおしごと』
「商人の護衛が終わったら、お前と2人旅になるな、戦士カマタ」
「ああ。勇者ヨ・ツーヤ。でも、死んでばっかりだな。特にトラップでの死亡率が超高い」
「え、そうだったのか」
「お前、死に無頓着になってるぞ」
「フッ、まあ、死が身近でね」
「俺も巻き添えで死んでんだよ。まあ、巻き添えで生き返ってるけど」
「生きていれば勝ちなのさ。ふふん」
「死んでもいるから、プラマイゼロじゃね?」
「でも死ぬのは痛いし辛いし苦しいし、出来れば避けたいなぁ。罠を外せる工兵とかいないかな」
「まあ冒険者のクラスで言えば、盗賊じゃないか」
「急ぎ働きの盗賊とは手を組みたくないぞ。殺さず犯さず困る者から盗らずの三箇条守った本格でないと」
「どこの転生者に当てられたんだ。便宜的にその語句が当てられているが、レンジャーとかスカウトとなんてのも類似のクラスだな」
「じゃあそっちでも良いじゃん」
「まあ、実際に窃盗をする者も多い」
「ダメじゃん」
「まともなヤツも少しはいるって!」
「業界の自浄作用がないと、信用はされないもんだぞ」
「それを言えば、我々のような冒険者は、大体同じ穴の狢扱いだぞ。この世界に狢はいないが、異世界風慣用句として」
「言われてみればそうだな。基本住所不定・連絡方法不明で、軍人並の武装をして、自分の判断でそれを使うしな。迷惑行為をされても、苦情の申し立て先もない」
「ああ、市民にとっては恐怖の対象でしかない」
「ならば仲間内で固まるしかない、か」
「そういう事だ。アウトサイダーはアウトサイダーで結束するしかないのだ」
「何とかまともな盗賊を仲間に引き入れられないかな」
「まあそういう時は」
「冒険者ギルドとか?」
「昔あったらしいが、転生したノブ何とかって言う異世界人の王が『ラクイチラクザ』って政策で解体したらしいぞ。ありゃ所詮は仕事の囲い込みだからな」
「昔の異世界人は、ガチなのがたまにいたからな……」
「仲間捜しなら、市場の掲示板に貼るか、さもなきゃ路地を覗く」
「あ、娘が、2人組のチンピラに絡まれてる」
「ハズレだな。こっちは」
「小さい魔物が子供にいじめられてる」
「これもハズレ」
「あ、身長が半分ぐらいの小男が、イケメン2人とジジイに絡まれてる」
「多分こいつだ!」
「結果的には助けてもらってすまねえ、おいらは盗賊のデョン・ロヴェルト・オフェンヘイメル、通称ドロヴ・Oだ。ちょっと3人組の旅人のジジイの懐から黒いピルケースをスリ取ったら、イケメン2人組の護衛が超怒って」
「そりゃあ大事なピルケースだったんだろうな。何しろ黒くてツルツルだったしな」
「そうだな、大事なピルケースだったんだろう。金色の葵の葉っぱのマークも綺麗で、ふさふさまで付いてたしな」
【完】
『宝箱』
「分析した感じ、罠はないな。よし、開いたぞ、勇者ヨ・ツーヤ」
「サンキュー、盗賊ドロヴ・O。どれどれ……むむむ、こ、これは!」
「なんて事だ、これは!」
「さっき街で買ったばかりの鋼の剣!」
「畜生! 下取り出してもこの損は消えない! 許すまじ、宝箱を設置した魔王!」
「――あんな事言ってますが、魔王様」
「敵に塩を送るぐらいのつもりだったんだけど、あれ?」
【完】
『宝箱2』
「やった! 宝箱だ! 何かな何かな……」
「まてぇええええ、ヨ・ツーヤ!」
「ぶげほぼっ! 何をする盗賊ドロヴ・O!」
「罠が仕掛けてあるぞ、よく見ろ!」
「そんなバカな……むむ、蓋に細いヒモがくっついている!」
「更に壁をよく見ろ!」
「意味ありげな穴がずらりと並んでいる!」
「罠を解除するから待っていろ。ふうむ、デリケートな作りだ。解除の確率は七十パーセントってとこだな。それでも開けるか?」
「っていうか、ドロヴ、ここまで明らさまなんだから、その穴からなにが出ても良いぐらいの距離から、火の魔法かなんか撃ってヒモを切れば良いんじゃ?」
「成功率七十パーセント、どうする?」
【完】
『新しいナカーマ』
「戦士カマタ! 市場に貼り紙をしていたら、応募して来たぜ」
「マジかよ、勇者ヨ・ツーヤ」
「大賢者カ・シコイである。臨死体験に興味があった」
「自分で大賢者って言う人、信用して良いのか、勇者ヨ・ツーヤ」
「そうだぜ、勇者ヨ・ツーヤ」
「戦士カマタ、盗賊ドロヴ・O。自分達の事を棚上げしない事だぞ」
「ようこそ、大賢者カ・シコイ!」
「歓迎するぜ、大賢者カ・シコイ!」
「貴殿ら、アホっぽいけど、実は結構思考力あるな?」
【完】