第1章 装備を揃えたい
『逸品』
「王よ、我が主よ。あなたの帯びている剣は、魔法の剣だと聞くが?」
「うむ、如何にも。軍団長カマタ。これは正真正銘の魔法の剣である」
「おお、噂は真であったか。魔法の力を帯び、あらゆる物を断ち、折る事も敵わず、常に切れ味を保ち、振り下ろせば雷土を呼び、空にかざせば風を巻き起こす!」
「否。そのような力はあらじ」
「何?」
「この剣は、主以外が触ると、剣先が七万倍の質量を持つ粘り気のある触手が沸き起こって膨らみ、地面や鞘から抜けなくなるという恐るべき魔法が掛かっている物なり」
「キモイ剣であるか」
「いかにも、キモイ剣である」
【完】
『勇者装備』
「――これが伝説の勇者モー・ニングがかつて魔王を屠るのに使用したという」
「空き瓶?」
「毒でございます」
「……しかも使用済み?」
【完】
『子曰わく』
「鍛冶のトウ・ハーツ親方、オレに相応しい武器はないか?」
「ならば、こちらを使われるかな、勇者ヨ・ツーヤ」
「ロングソードか」
「いいや、道具として使うと!」
「ん? 妙な球がぷかぷかと?」
「触ると死にますぞ」
「危ねえ!」
「死の球が湧く、誰が名付けたか『論語ソード』!」
「……本当に、誰が名付けたんだよ?」
「転生者ですな」
【完】
『武器屋』
「む、む? 店主! この剣、古の勇者キョサ・クの剣とは真か?」
「勿論でございます。この剣は、数百年前にこの世界を救った勇者キョサ・クが使ったものでございます」
「おお、素晴らしい! カジノ通いに明け暮れながらも、数々の悪魔を倒し、魔王の鎧を貫き、裏で糸を引いていた造物主をも屠ったという彼の剣とは!」
「買われますか? 金貨二〇万枚でございますが」
「うむ、何とか払えそうだ」
「お買い上げありがとうございます。ここで装備して行かれますか?」
「そうだな」
「ではどうぞ」
「……ん、おい?」
「なんでございますか?」
「何という事もない振り味だが。他の能力が上がってるのか?」
「いいえ」
「分かった! 道具として使うと効果があるんだな!?」
「いいえ。というか、道具として使うって具体的に何をどうするんですか」
「とすると、魔王の特殊な防護フィールドを破るとかにしか使えないのか」
「いいえ」
「ちょっ、待て! それじゃあ、本当にただの中古の鋼の剣じゃあないのか?」
「左様でございます」
「この野郎ウソつきめ! 金返せ!」
「お客様」
「なんだ!」
「……勇者は、この剣で世界を救えたから、勇者なのでございますよ」
【完】
『薬草』
「勇者ヨ・ツーヤ様、傷にはこの薬草が良いですぞ、戦闘中にも使えます」
「道具屋さんよ、ちょっと聞きたいんだが」
「なんです?」
「戦闘中に咄嗟に使って効く薬草ってのは、実際本当にあるものだろうか?」
「本当、というのが何だかは分かりませんが、効くには違いありません」
「そもそもなんだが、この薬草って、草じゃないよな?」
「正確には薬になる植物から抽出した結晶、という事になりますかな」
「ふうむ」
「摂取用のストローはお付けしますか?」
「すりつぶす板も頼む」
【完】
『道具屋にて』
「ええと、薬草百個」
「持ち物がいっぱいみたいですよ」
「うむ、その事なんだが」
「なんです?」
「それはどういう事なのだろう? 例えばフルチンであったとしても、やっぱり持てないし、フル装備であっても持てないのだ。重さの話なら持てても良い筈だし、収納スペースの話ならバッグでも抱えれば良いと思うんだ」
「勇者ヨ・ツーヤ様」
「ん」
「粉末を鼻腔から吸引するだけで傷が治った気がする、この薬草はですね」
「うむ」
「単純所持量に法律によって制限が課せられている事を忘れたんですか?」
「あ……そうだった」
【完】